
2025年12月11日(木)にベルサール汐留で開催された、ゲームクリエイター、エンジニア、アーティスト向けのUnity公式技術カンファレンス「U/Day Tokyo 2025」。
そのオフラインイベントに人気モバイルゲーム『BLEACH Brave Souls』のクリエイターが登壇。「モバイルだけでなく、さらなる市場拡大をめざしたい」または「モバイルから家庭用ゲーム機に参入したいが、まず何をしたら良いかわからない」。そう考えるゲーム企業の担当者向けに、モバイル主体で運用してきた『BLEACH Brave Souls』をPCまたは家庭用ゲーム機向けに展開した際のマルチプラットフォーム化の成功例を講演してくれました。
講演タイトルは「最少変更でPC/CS版リリース! モバイル専用タイトルだった『BLEACH Brave Souls』のマルチプラットフォーム事例」。
登壇者はKLabでクロスプラットフォーム開発リード・パイプラインエンジニアを務める常深健太氏とそしてエンジニアの鈴木隼平氏。
ルールや文化が異なることから発生した数々のハードルをクリアし、開発・運用を成功させたことでプラットフォームを拡大し更なるユーザーの獲得につなげた本作。その実例について講演ではどのようなノウハウが語られたのか? 本稿ではその内容をレポートします。
マルチプラットフォーム化構想で浮上した懸念点
『BLEACH Brave Souls』とは、2026年にアニメ最終章が放送される予定の人気作品『BLEACH』のゲーム化作品です。2015年にiOS/Android用3Dアクションゲームとしてサービスをスタート。2020年よりPCおよび家庭用ゲーム機にプラットフォームを拡大させました。
特徴は全プラットフォームでクロスプレイができること。モバイルユーザーでもPCユーザーでも家庭用ゲーム機のユーザーでも同じフィールドで遊べます。運用型のタイトルではありますが、各キャンペーンやコンテンツは全プラットフォームで同時配信しており、横並びでサービスを提供中です。
それではなぜプラットフォームを拡大しようとしたのか? 理由は冒頭の問いかけと同様、長期運用により新規ユーザーが伸び悩んだり、周年イベントでも話題性が乏しかったりしたことが挙げられます。

不安だったのは、家庭用ゲーム機の市場がどれほどの規模か分からないこと、モバイルユーザーとプレイヤー層が重複しているのではないかという懸念、そしてモバイル版のグラフィックがPC版や家庭用ゲーム機版に劣っているのではないかという強迫観念です。
しかし、それらは市場動向を見てすぐに解消されたといいます。実際、家庭用ゲーム機の市場は、「ファミ通ゲーム白書2024」によると2017年より右肩上がりになっており、モバイルと家庭用ゲーム機のユーザー層の重複についても「問題なさそう」との結論に達しました。
グラフィック面について、そもそも『BLEACH』のゲーム自体、マルチプラットフォーム化を検討していた当時の段階で10年ほどの空白期間があります。10年ぶりの家庭用ゲーム機ともなればモバイルのグラフィックでも十分すぎるほど戦えますし、そもそも飢餓感からの需要も見込めるので懸念点をカバーするには十分な状況がありました。
それら懸念点が払拭されたことで、いよいよマルチプラットフォーム展開がスタートすることとなったのです。

システム関連の対応について
マルチプラットフォーム化にあたってはコストをなるべく抑えたいということで、モバイル版のグラフィックやサウンドをそのまま使いつつ、必要な追加機能に絞って開発をすることになりました。ただしコントローラーのみでもプレイできるシステム作りは必須です。
作業期間はおよそ1年。モバイル運用をしながらの並行作業であるため、少ない人員をやりくりしつつ、事前検証で1か月から2か月、開発とテストで8か月から12か月、審査で1か月から2か月というスケジュールで完了させました。

それでは実際にはどのような追加要件があったのでしょうか?
CPUとRAMはモバイルと比べてスペックに余裕があり、3DCGの揺れものなどを過剰に増やしたりしなければ問題ありません。むしろRAMは余ることも想定されるので、その際はアクセス頻度が高いファイルをキャッシュなどに回すことも考えられます。
GPU等のグラフィックについては、まずシェーダーのビルドタイミングがプラットフォームや描画API別で異なるので、その際はプロファイラを使い確認しました。
また特定のプラットフォームでは依存関係の都合上、シェーダーのキャッシュがうまく行かずモデルの初回描画でフレームレートが落ちることがあります。その際はAssetBundleごと、重複したシェーダーが毎回コンパイルされないよう依存関係を見直したり、依存関係が適切でも初回描画時のコンパイルが頻繁に発生してしまったりする事があるので、ゲーム開始時など適切なタイミングでシェーダーのWarmUpなどをする必要がありました。
またUnityのWarmUpでは、ShaderWarmup APIやShaderVariantCollectionのWarmUpなどのAPIをグラフィックの世代別に使い分けることで対応可能でした。
ストレージに関しては、ターゲットとなるハードがHDDを搭載している場合、モバイルよりもアクセス速度が遅くなる場合があります。今世代機は問題ありませんが、まとまったデータを読み込ませたり、読み込み回数を削減したりするなど、ケースバイケースの対応が必要です。
外部ストレージについては、モバイルではゲーム起動後にアセットを別途ダウンロードしており、プラットフォームによってはダウンロードの容量に制限がかかるなど、家庭用ゲーム機と比べて窮屈な環境となっています。その部分ではビルドフローを一部変更する必要がありました。その点について詳細は後述します。







