
スクウェア・エニックスは高品質かつ膨大な数の3Dアセットを所有しつつも、それらは各作品世界観に合わせたようなデザインになっていることなどから、なかなか異なる用途で使用する機会がありません。
そこでアセットを有効活用するために独自に生成AIを開発することになり、画像から3Dアセットを生成する生成AIモデルが誕生しました。同時に、同社の開発環境に合わせ、必要な機能を備えた生成AIモデルとして当時求められていたリトポロジ専用AIも併せて開発。画像から3Dを生成するAIとリトポロジ用AIの2つを研究し、その成果として生まれたのが独自のAIモデル「ATOGiS」です。
2026年7月22日から24日までパシフィコ横浜ノースで開催された、ゲーム開発者向けの国内最大級のカンファレンス「CEDEC2026」では、「フルスクラッチ3D生成AI ~自社アセットのみを用いたゼロからのAI学習~」と題したセッションで、その研究開発の過程と成果が紹介されました。

登壇者はスクウェア・エニックスでAI&エンジン開発ディビジョンに所属する荒木武人氏。現段階の研究結果としてその歩みを振り返ると共に、今後の展望を語りました。
◆目的を絞って選定した学習データセット
スクウェア・エニックスが開発したAIモデル「ATOGiS」は、画像から3DCGを生成した後にリトポロジを行うことができるものです。そのため生成AIも「画像から3Dを生成するAI(ジオメトリ生成AI)」と「メッシュを整えてくれるリトポロジ用のAI(リトポAI)」の2種を開発。その両方を合わせたものが「ATOGiS」です。


特徴はスクウェア・エニックス内製の3Dアセットを学習に使用していること。権利的な問題を抱える学習部分の教材を自社アセットに限定することでクリアしました。
それでは実際の開発はどのようにおこなわれたのでしょう。開発の第一歩は、学習用データセットの選定からはじまりました。その数、武器・背景アセットを中心に約6万個。すべてスクウェア・エニックス内製のアセットです。注意すべきところとして、内製のアセットとは言え使用できないものもあったと語られます。
今回はメッシュの再現が主目的ということで、まずは複雑な構造のアセットとテクスチャを除外し、ローポリのメッシュのみを使用しました。複雑な構造のメッシュやキャラクターは学習にかかる時間が膨大ですし、実際の研究でも再現難易度が高い部分です。そのためGPUの負荷なども考慮し、複雑な構造のアセットとテクスチャを除外しました。具体的にはポリゴン数1万以上が除外対象です。
また外部ライセンスが含まれるアセットも一部あるため、それらを担当者などに確認しながら除外し、まずは各カテゴリで分類しました。当初はフォルダのサムネイルで整理したそうですが、それでは整理しきれないということで、Blender上で並べる管理方法に変更。この方式が意外とうまくいったと話していました。

◆リトポロジ用の独自アーキテクチャを開発する
ジオメトリ生成AIとリトポロジAIの2つの生成AIを開発した今回のプロジェクト。ジオメトリ用の生成AIは既存のアーキテクチャをカスタマイズしたもの、リトポロジAIは独自開発のアーキテクチャとなっており、まずは独自アーキテクチャの研究の詳細から語られました。
AI学習においてメッシュは相性が悪く、AIが理解できるような形で情報を整理しないと、正確性を欠いたり学習時間が途方もないものになったりするとのこと。メッシュとは頂点と頂点を辺でつなぎ、囲われた面で構成されるオブジェクトです。そのため、頂点の3次元分布と、辺や面の関係性の、2つの情報を同時に学習させる必要があるのです。
そこで「ATOGiS」のリトポロジAIでは、まず頂点を学習、次に辺を学習させ、最後に面を学習させるという段階的な学習方法が採用されました。
実際の方法としては、まずはメッシュを入力するとAIはその頂点を予測します。その認識をやりやすくするため、例えば椅子のメッシュを入力すると、メッシュの頂点分布をボクセル表現に変えて、離散的なグリッド状にするわけです。さらに頂点分布をぼかした情報も併用し、正解の範囲を拡大することでAIが学習をしやすくします。これが結果的に正確性を高めることにつながるのです。



続いて辺の学習の工夫です。すでに頂点を推定している状態なので、ここではどの頂点とどの頂点が結ばれるかを、マトリックスを用いてガイド化。こちらも頂点と同様、正解の範囲を広げることで正確性を高めました。



最後は面の学習。頂点と辺ではAIを使用しましたが、ここではすでに頂点と辺のデータが揃っているので、通常のアルゴリズムで面を張りました。ただし採取しきれなかったデータもあって形状が崩れるので、その際は頂点や辺を追加して修正していく必要があるとのこと。このようにして、独自のアーキテクチャは開発されました。


一方、ジオメトリ生成AIでは「TRELLIS.2」のアーキテクチャをカスタマイズして使用。「TRELLIS.2」を選定した理由は、独自アーキテクチャと異なり前処理が必要なかったことがおもな理由となります。
カスタマイズのポイントは「入力画像のノーマルマップ変換」と「法線ロスの導入」。RGBの画像を読み込んだ後、ノーマルマップに変換するのは、単純にジオメトリの学習に特化するため。なるべく情報量を抑えて学習を容易にします。
また「ジオメトリ法線ロス」の導入では、学習速度の向上やGPUリソースを軽減することを目的に、ジオメトリ上で正解メッシュとAI予測メッシュを比較するほうへとカスタマイズし、品質を犠牲にすることで軽量化を果たしました。


◆AI学習で壁となったポイントは?
学習の準備段階で気を付けるべき点は、メッシュのカテゴリごと角度を揃えることでした。例えばカップのメッシュを使用する際は、持ち手の部分が必ず左右のどちらかに完全に見える位置に配置します。これがバラバラだと持ち手の認識が曖昧になり、持ち手が2つあるカップが生成されかねません。また学習時間にも影響を及ぼします。この部分でも、なるべくAIが認識や判断しやすい条件づくりが必要でした。

大規模学習で難しいと感じたのは、学習に数日かかってしまい極端に効率が落ちることでした。つまり学習するデータ量が多く、一度失敗したら数日分が無駄になります。そこで事前に3つのテストをすることにしました。
まず「学習表現テスト」。こちらは一旦、AIが学習しやすいよう変換したデータを元に戻し、使用している表現が正しいかどうかテストします。試行錯誤を繰り返すうちに元に戻せない表現になっている場合もあり、それを事前に突き止めることで大規模学習の成功率を上げます。

2つ目は「単体過学習テスト」。まずはデータひとつだけでテストして、AIのアーキテクチャが正解を出力することができるかどうかを試します。本番の前の軽い準備運動と言えるものです。

3つ目は「カテゴリ学習テスト」。例えば「椅子データセット」のように、ひとつのカテゴリでテストをするという「単体過学習テスト」からさらに一歩踏み込んだテストとなります。これらのテストできちんと大規模学習が可能かどうかを見極めます。

こうしていよいよ本番となる大規模学習へ。GPUはH100を8台使用。モデルサイズはすべて300M程度です。ジオメトリ生成AIは、ボクセルの生成に約4日、形状生成で約6日の合計10日。リトポロジーAIは頂点生成で約4日、エッジ生成で約2日の合計6日かかったとのこと。

この結果学べたこととして、まず段階を追うタイプの学習はAIモデルごとに難易度が変わるため、最初にひと通りの学習をするべきだったと言います。そしてモデルが小さいとその分、失敗の確率が高まるため、なるべく大きなサイズのモデルから始めるべきだったと振り返りました。なおモデルサイズの大小に関わらず、学習時間に変わりはなかったようです。
完成した生成AIデータについては、社内モデラーの評価によると、再現が足りないモデルはありつつもテクスチャなどでカバーできる部分もあって概ね成功と言えるクオリティーでした。今後は品質を改良しつつ実用性を上げて研究を進められればと展望を語って、荒木氏はセッション「フルスクラッチ3D生成AI ~自社アセットのみを用いたゼロからのAI学習~」を終えました。






