ゲームの広告や、店内のポップといった「販促ツール」の歴史。宣伝物から振り返るゲーム文化の深みについて【CEDEC2026】 | GameBusiness.jp

ゲームの広告や、店内のポップといった「販促ツール」の歴史。宣伝物から振り返るゲーム文化の深みについて【CEDEC2026】

ビデオゲームを彩る文化はゲームハードやソフト、クリエイターだけではありません。開発したゲームをユーザーに広めるための、宣伝物もまた文化を作ったもののひとつです。スクウェア・エニックスのゲーム保存プロジェクトの過程から、その歴史を振り返ります。

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ゲームの広告や、店内のポップといった「販促ツール」の歴史。宣伝物から振り返るゲーム文化の深みについて【CEDEC2026】
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ゲームソフトが店頭に並ぶまでには、企画書や実装データだけでなく、売り場を彩るポスターやポップといった販促物も欠かせない工程として存在しています。しかし、こうした販促ツールがゲーム産業のサプライチェーンの一部として、また貴重な歴史資料としてどう扱われてきたかを知る機会は、これまでほとんどありませんでした。

そんな販促ツールについてを正面から扱う貴重な講演となったのが、CEDEC 2026「販促ツールの活用実例の歴史とこれから ―パッケージ販売の現場から見たゲームを売ること―」です。

本講演には株式会社スクウェア・エニックスの井上敏行氏が登壇。井上氏は現在、同社クリエイティブサポートセンターのSAVEプロジェクトでゲーム開発資料保存リサーチャーを務める立場から、倉庫に保管された大量の販促ツールに見える歴史と種類、そして資料保存への展望が語られました。

ゲーム会社が開発資料、そして販促ツールを保存しておく意義

井上氏はゲーム産業で40年近いキャリアを積んできた人物であり、日本におけるゲームの歴史のほとんどを体験してきた人物でもあります。

1987年にバンダイ系列の企業に入社し、ボードゲームの企画・制作を担当。1989年にスクウェアへ入社してからはマップ制作を担当する企画開発職を経て、1994年に宣伝部門へ異動し、各種プロモーションや大規模イベントの運営に携わったといいます。

2015年には営業部門へ異動し、法人対応や店舗での販促ツール展開を担当。2024年からは現職のゲーム保存運動である「SAVEプロジェクト」に携わっています。SAVEプロジェクトは2019年夏に始動した資料保存活動で、社内や倉庫に眠る開発資料をアーカイブ化し、社内で誰でも活用できるデータベースを構築する取り組みです。このプロジェクトについては過去のCEDECでも紹介されており、ここ数年の間ではさまざまなイベントでのアーカイブ展示を通して「ゲーム会社が開発資料を保存しておく意義」を伝えることを目的としています。

井上氏は「こうした資料はリマスターや新規アイデアの創出に生かせるだけでなく、企業の歴史を社外に公開することで企業価値そのものを高めることにもつながる」と述べています。

井上氏は、販促ツールを単なる販促物ではなく「ゲーム開発中間成果物」の一つとして位置づけている点も強調しました。企画書や実装データといった開発工程の成果物だけでなく、宣伝・販売に至るまでに制作される広告やPRサイト、店頭の販促ツールまでを含めて、ユーザーが実際に遊ぶまでに生み出されたあらゆる制作物を中間成果物と捉えるべきだという考え方です。

そこで「販促ツールは、開発とユーザーをつなぐゲーム産業のサプライチェーンの一部として、他の開発資料と同様に保存・活用していく価値がある」と位置づけられています。

販促ツールとは、ゲームソフトの発売前後に店舗で予約や購入を促すために展開されるポスターやPRポップなどを指します。社内での通称であり、社外では「拡販ツール」「PRツール」とも呼ばれるといいます。制作は営業部門が担い、種類の選定からデザイン、印刷を経て地域ごとにまとめられ、全国の販売店舗へ配送される流れが説明されました。

こうした販促ツールも、ゲーム産業が勃興してから今に至るまで活用され続け、歴史を構成しています。1980年代前半まで、ゲームソフトの告知ではパソコン雑誌の広告が主流でした。1983年にファミリーコンピュータが登場して以降、家電量販店などにゲーム売り場が設置されるようになり、ポスターやチラシ、フリーペーパーが告知手段として使われるようになったといいます。

1980年代後半には店頭にPR用のテレビモニターが導入され、プロモーション映像の上映とともに、モニター周辺を彩る販促ツールが登場し始めました。大きな転機となったのが2002年のCERO発足です。その後、年齢区分の導入にともない、条例への対応などからZ区分ソフトの売り場を明確に分ける必要が生じ、同社でも過度にセンシティブな見え方を避けつつ「大人のゲーム」として理解されやすい専用の販促ツールを制作したといいます。

スライドでは実際にスクウェア・エニックスが制作してきた販促ツールが数多く紹介。映画館でおなじみのB2サイズのポスターはメインビジュアルを大きく見せる定番の展開方法で、店舗の壁面やモニター周辺に貼られます。その2枚分の大きさとなるB1サイズはよりインパクトがある一方、貼れる場所が限られるといいます。主要キャラクターを紹介するための「短冊」ポスターは、B2サイズの4分の1というコンパクトさを生かし、狭いスペースにも展開できるといいます。

キャラクターやゲーム説明を切り抜いて使う「カットアウト」、実際の商品パッケージを模した「ダミージャケット」も紹介されました。ダミージャケットには、発売日や予約受付中の情報を印刷した予約用と、バーコード以外はほぼ商品と同じ体裁の商品ダミーとの2種類があるといいます。

陳列面を広く取り詳細な説明を掲載できる「BOX POP」、多層構造でより臨場感を演出する「立体ポップ」、商品棚上部の空間を横断的に使う「トップボード」、棚のレール部分に差し込む帯状の「レールポップ」、風で揺れることで視認性を高める「スイングポップ」など、売り場のあらゆる隙間を活用する工夫が凝らされてきたことが紹介されています。

このほか、持ち帰り用のチラシや小冊子、SNSでの入手報告などが話題化するシール、150~180センチほどの等身大パネルにあたる「スタンディーポップ」、より安価に量産できる「生スタンド」、キャラクターが多い際に活用される小型の「キャラクタースタンドポップ」、商品棚のブックエンドのように使う「セパレーター」、天井から吊り下げる「フラッグ」、床面を活用する「フロアステッカー」まで、実に幅広い種類の販促ツールが解説されました。

井上氏は、実物ならではの空間的演出と実在感こそが販促ツールの価値だとまとめました。等身大パネルやテレビモニターを彩ることで物理的なサイズと迫力によってゲームの世界観を店内に構築できる点、認知・理解・予約・購入という一連の顧客誘導をツールごとの役割分担でスムーズに設計できる点、そして小売・エンタメ・イベント関連など幅広い業種で応用できる点を、販促ツールのビジネス的価値として挙げています。

デジタルサイネージやスマートフォンを活用した「電子ポップ」の広がりにも言及しつつ、店舗販売が続く限り、ポスターやダミージャケット、ボックスポップといった定番の印刷物としての販促ツールも活用され続けるだろうという見通しが示されました。

質疑応答では過去の販促ツールの保存状況について質問がありました。井上氏は、ファミコン・スーパーファミコン期のものはあまり現存しておらず、プレイステーション以降のものはポスターを含めある程度確認できているといいます。倉庫にある販促ツールについては、将来的に一般公開できる展示会形式での活用を目指しているとのことです。

ディスク生産の将来的な縮小に伴う販促ツールの役割については、デジタル化が先行した出版・コミックス業界でも紙の本とポップ展開が併存している例を挙げ、ゲームでも同様に売り場と販促ツールの重要性は残り続けるだろうとの個人的な見解が示されました。

店舗への配送方法については、全国の店舗すべてを営業担当者が回りきれないため、意図した展開方法とともに販促ツールを送って店舗側に一任するケースと、担当者が直接店舗に赴いて展開場所を相談しながら進めるケースの両方があるといいます。

海外展開についても質問があり、井上氏はタワー型のボックス構成やフラッグ状のツールは見かけるものの、通路にせり出す形やモニター周辺を飾る手法はあまり見ない印象だとし、パッケージデザインと同様、地域ごとにデザインの傾向が大きく異なる点を指摘しました。電子ポップとの違いについては、サイネージがモニターの前まで行かないと見えないのに対し、実物の販促ツールはあちこちに設置して回遊動線を作れる点を挙げています。

このほか、東京ゲームショウなど大型イベント用の壁面装飾も一部倉庫に保管されていること、店舗での展開記録写真は営業担当者としての10年間だけでも1000枚以上残っていること、無名タイトルも含めあらゆるタイトルの販促ツールが現存する一方、倉庫移転の際に古いものから処分されてきた経緯があることなども語られました。

費用対効果が高い販促ツールを問われた井上氏は、型があり展開しやすいポスター・カットアウト・ボックスポップを挙げています。また、スーパーファミコン期と現在の販促手法の違いについては、当時はキャラクター中心のビジュアルが多かったのに対し、現在はゲームそのものの世界観を重視しつつキャラクターを前面に出す傾向があると振り返りました。

定型に当てはまらない事例として、キャラクターやモンスターが載る舞台をジオラマ風に再現した大型ポップなど、タイトルごとに世界観を強く打ち出す単発的な制作物があったことも紹介されながら、講演「販促ツールの活用実例の歴史とこれから ―パッケージ販売の現場から見たゲームを売ること―」は締めくくられました。

《葛西 祝》

ジャンル複合ライティング 葛西 祝

ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や格闘技などなどを横断したテキストをさまざまなメディアで企画・執筆。Game*SparkやInsideでは、シリアスなインタビューからIQを捨てたようなバカ企画まで横断した記事を制作している。

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