
現在、3,000億円を越える規模で急成長しているTCG(トレーディングカードゲーム)市場。その開発のようすを覗いてみたら興味深いプロセスがありました。
2026年7月22日から24日までパシフィコ横浜ノースで開催された、ゲーム開発者向けの国内最大級のカンファレンス「CEDEC2026」。
「トレーディングカードゲームの開発プロセス - Xross Starsの実例より学ぶマイルストーン管理とプロトタイピング」と題するセッションで語られたのは、アナログ媒体ならではの開発プロセスと、ゲーム開発全般で役立つ「マイルストーン管理」でした。

登壇者は、フリーランスでTCGを手がけるゲームデザイナーの「吉田賢志」氏。本セッションでは2025年8月に第1弾がリリースされたTCG『Xross Stars』の開発実例をもとに講演が行われました。
◆VTuberやストリーマーらしさを表現するシステムを構築する
TCG『Xross Stars』とは、VTuber、ストリーマー、e-sports選手など、おもにゲーム分野におけるタレントが登場するカードゲームのこと。これまで「ぶいすぽっ!」「Neo-Porte」などのグループはもちろん個人活動のタレントまで、幅広くラインナップに加わりました。現在は国内シェア10位前後となっており、一定の支持を集めています。
その開発工程で肝となるのが「マイルストーン管理」でした。こちらは、開発期間をフェイズで区切る管理方法のこと。
フェイズごとに目標を設定し、成果物を検証したうえで次のフェイズに移行するかどうかを判断していくわけです。これにより専念すべきテーマが浮き彫りになり、大幅な手戻りを事前に防いだり、各目標を達成するためのチーム内の連携を取りやすくしたりするメリットが得られます。
それではこのマイルストーン管理を用いて、どのように『Xross Stars』は生まれたのでしょうか。TCGでは開発工程が大きく2つに別れており、一方がルールなどを作る「ゲームメカニクス」、もう一方がビジュアルなどを作成する「ビジュアル・シナリオ」となっています。
本講演ではそのふたつから「ゲームメカニクス」について解説。まずはコンセプトの策定例から紹介しました。

コンセプトの策定では、要件や要望を加味した上で、大まかな開発計画や方向性を決めていきます。ステークホルダーやチーム内で、方向の認識を合わせておくことも重要です。最初の一歩でそれぞれが別々の方向を向いていては、たちまち現場が崩壊してしまいます。

タレントが登場する本作では、「大会や配信など、実際の活動をベースにしたカードを作る」ことがコンセプトとなりました。その際、タレント間で大きな差が出ないようカードの強さを調整することや、タレントのファンに買ってもらうことを想定しTCG初心者が参入しやすくすることもポイントです。同時に従来のTCGプレイヤーのために新奇性も担保することなどが話し合われます。
なおキックオフミーティングに参加し、上記要件を決めたのは、プロデューサー、ゲームディレクター(吉田氏)、リードゲームデザイナー、2名のスタッフの計5名とのこと。
それでは実際、上記要件をどのようなコンセプトに落とし込んだのか? 鍵となったのが、タレント本人ではなく、その「活動」や「出来事」をゲームとして表現することでした。通常のTCGではキャラクターカードがメインとなりますが、今回は「出来事」をモチーフにした使い捨てのカードでバトルする方式が良いとの結論に至りました。
TCG初心者が始めやすいゲームにするという要件については、「カードだけでは何が起こっているか分かり辛い」というデメリットに着目し、1ラウンドにかかる時間を短縮する方向性になりました。勝利の喜びや楽しさを感じやすいよう、ゲーム自体を分かりやすくするわけです。
また、細かくラウンドを分けることで、普段、VTuberやストリーマーがプレイしているだろう競技タイトル(FPSや対戦格闘ゲーム)と同じ感覚でプレイしてもらうことも意識したと言います。

◆「楽しい」を言語化して大枠を決定するプロトフェイズ
続いては、プロトタイプを制作する「プロトフェイズ」です。
ここではゲームの大枠を決めるという目標のもと、簡易的なデッキとルールを作成し、実際にプレイしながら「コンセプトに合致しているか」「楽しいか」「分かりやすくなっているか」「拡張性あるゲームになっているか」を判断基準に全体の土台を構築しました。
そのためこの段階では、カードのビジュアルにはこだわりません。むしろ“それっぽい”と、それだけで完成したような錯覚に陥るため、なるべくチープにすることが重要です。

このようにしてプロトタイプの制作を繰り返し、形が見えたらチーム外の人物にもプレイしてもらいフィードバックを得ます。時にはステークホルダーの承認を得るという意味でプレイしてもらうケースもあります。
なお「楽しい」の判断基準は感情的なものだけであってはいけません。「どう楽しいのか」を言語化することで、「バトルに勝利するなどの有能感」「デッキを組む楽しさ・戦略と戦術を考える自律性の担保」「対人バトルならではの関係性」の3点を満たし、発展させるための手がかりとなるヒントを洗い出します。

「分かりやすさ」は結果的にゲーム人口の増加につながる大事な要素です。そのためルールをシンプルにするなど、初心者に対するハードルを下げる必要があります。
「拡張性」はカードのバリエーションなどを考えられる余地があること。TCGはカード自体が商品で、第2弾、第3弾とリリースすることで収益をあげます。カードのバリエーションが増えればゲームにも厚みが出てきますから、ルールを検討する段階でそれがイメージできるような設計にする必要があります。
このようにプロトタイプの制作と試遊を繰り返し、4つの案からひとつに絞り込む形でゲームの大枠を決定しました。


◆魅力的なカードを制作する
次に取り組む「αフェイズ」では、カードイラストが発注できるよう、拡張性を考慮しつつカードタイプを決定したり、プロトタイプの問題点を解消したりするなどのブラッシュアップをおこないました。具体的には、新たなプロトタイプを作成・試遊して改良を重ね、カードのバリエーションを拡張します。どのようなカードタイプが作れるのか、カードの効果にはどのような種類があるのか……。

結果、約2カ月の取り組みで、以下の4つのカードタイプが決定しました。
試合開始時に場に出しておくカード
山札に含まれる「攻撃」カード
山札に含まれる「攻撃強化」カード
ラウンドの合間に供給される、山札外の特殊なカード
このうち「ラウンドの合間に供給される、山札外の特殊なカード」が本作に新奇性をもたらす要件です。各カードタイプではさまざまな効果が取捨選択され、それらが拡張性を伴う要素として採用されました。




さて、「αフェイズ」を完了したことで、どのようなカードを何種類作れるかの見通しが立ちました。続く「カードモチーフの選定」では、ビジュアル・シナリオチームと連携し、ビジュアルのモチーフやカードの名称などを決定します。特筆すべきは「メモリア」のビジュアルです。実際の活動からモチーフを選んでビジュアルに落とし込むことになります。

次の段階は「βフェイズ」。実際の商品に近いカードセットを作る工程です。かかった期間は約3カ月で、ビジュアル・シナリオチームがビジュアルを制作するのと並行して、ゲームメカニクスのチームがカードテキストの制作やパラメーターの設定などをおこないました。ただし詳細なゲームバランスの調整は次のフェイズで実行するため、こちらでは主にルールにゲームバランスの問題がないか等、下準備のようなイメージで作業をおこないます。
この段階では実践的なプレイテストを通じてブラッシュアップするため常設のテストチームが合流し、その都度、レポートを提出してもらったと言います。大まかとは言え、ほぼリリース用のカードセットを仮作成した上でのシミュレーションを重ねていくイメージです。


このように、「βフェイズ」までにほぼ完成形を開発し、続く「マスターフェイズ」でいよいよ仕上げをします。
◆ついに完成!
「マスターフェイズ」はその名の通り、バランス調整をし、カードを入稿可能な状態にする仕上げのフェイズです。これまで蓄積したデータをもとに改善を行い、約3か月で作業を完了させました。

ゲームバランスの調整では、先攻または後攻で勝率が偏らないこと、各カードの強さに極端な格差がないこと、戦略の選択肢が多いことなどが挙げられます。実際、テスト段階で先攻の勝率が高いことが判明し、ルールにわずかな変更を加えました。
また「βフェイズ」では、テストプレイを重ねるうちに、特定の手順が頻発する問題が発生したそうです。それはルールそのものに関わる大きな問題でしたが、問題を生じさせている要素を削除することで大幅な変更を施すことなく解消へ。結果、ルールはさらにシンプルになり、要素を追加するよりもそぎ落とすことで解決するという知見も得られました。

フェイズごとに目標を明確化することが大事だと語った吉田氏。まとめとして、マイルストーン管理の重要性を繰り返しつつ、市場を拡大しているTCGの良さをクリエイターに訴えてセッション「トレーディングカードゲームの開発プロセス - Xross Starsの実例より学ぶマイルストーン管理とプロトタイピング」を終えました。








