ゲームは「アイデア」だけで面白くなるわけがない。インディーゲーム『スペルトナエル』を開発したおまど氏が怒りを持って忠告するゲームを面白く仕上げるポイント【CEDEC2026】 | GameBusiness.jp

ゲームは「アイデア」だけで面白くなるわけがない。インディーゲーム『スペルトナエル』を開発したおまど氏が怒りを持って忠告するゲームを面白く仕上げるポイント【CEDEC2026】

ゲームを面白くしているのは、 本当に“アイデア”だけなのでしょうか? 高い評価を得た呪文詠唱インディーゲーム『スペルトナエル』を開発したおまど氏が、自らの開発経験から警鐘を鳴らします。

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ゲームは「アイデア」だけで面白くなるわけがない。インディーゲーム『スペルトナエル』を開発したおまど氏が怒りを持って忠告するゲームを面白く仕上げるポイント【CEDEC2026】
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ビデオゲームを評するとき、しばしば「このゲームは面白いアイデアのおかげで良くなったよね」というような判断を下してしまうことは数多いです。とりわけ大企業では企画が通らないようなゲームデザインのタイトルが、インディーゲームでは少なくなく見受けられるため、ユーザーレビューからSNSなどでは「面白さ」のポイントでアイデアのみを評価するケースは枚挙にいとまがありません。

しかし「面白いアイデアのおかげで良くなったよね」という評は、果たして正しいのでしょうか?開発の過程で、もっと他の要素を磨くことで本当の面白さが生まれたのではないでしょうか。そんな違和感に向き合ったのが、CEDEC 2026のインディーゲームクリエイターのおまど氏による講演「『スペルトナエル』ヒット作の"文字盤"という原点は面白かったのか?」です。

会社員として働く傍ら、インディーゲーム制作を行うおまど氏は、自らを専門教育を受けていない素人と語ったうえで、「今日は怒りに来た」と切り出しました。それこそまさに「ゲームはアイデアだけで面白くなるのか」という問題に対し、自身が開発したインディーゲーム『スペルトナエル』を題材に、完成した作品の面白さがどこに宿っていたのかを、実際の開発の変遷をたどりながら解き明かしていきました。

同じアイデアからでも、まったく別のゲームになり得る

まず『スペルトナエル』は、タイトル通り文字盤から文字を拾い、呪文を完成させて戦うゲームです。呪文を唱えるのも簡単ではなく、敵の弾幕を避けながら文字を拾いに行くところなどにゲームの手ごたえが生まれています。開発期間は5ヶ月、基本的に一人での開発で、コストは数万円程度。画像やBGMは知人への依頼やフリー素材、AI生成を組み合わせて抑えているといいます。

リリースから1年半で売上本数は3万本を突破し、Steamのレビューは97%好評。日本ゲーム大賞デザイナーズ大賞部門でも最終選考まで残る実績を上げています。本作はインディーゲームファンの有識者が高い評価を残していることも多く、かかったコストから考えればビジネスとしても評価としても大成功の部類に入ると言っていいでしょう。

(参考までに、最近は3年間の開発期間で初動が77本しか販売できなかったというケースが話題になりました。こうしたケースは珍しくなく、インディーゲームでは初動で1000本も販売することが難しいです)

そんな大成功を収めた本作ですが、おまど氏がよく言われたことが、「文字盤というアイデアが良かったんだね」という感想です。しかし、おまど氏自身は「それが本当にそうなのか」と疑問を抱いていました。おまど氏が実際に開発してきた過程では、もちろん文字盤という根幹のアイデアが重要でも、本当にゲームを面白く仕上げていったのは別の要素の存在も大きかったからです。

まず紹介されたのが開発初日に書いた企画メモです。すでに文字盤のアイデア自体が出ていることがうかがえますが、当初は呪文が4つ書かれ、下に五十音表が添えられただけの簡素なものでした。

おまど氏はここで、「文字盤を動き回る」というアイデアから、来場者に「どんなゲームが作れそうか?」と問いかけます。おまど氏は試験的に生成AIのGeminiにこのアイデアからゲームを考えさせた結果を提示。そこでは、「お題の文字を入力する」、「盤面の文字を書き換えられるスキルがある」など、実際の『スペルトナエル』とはかなり異なるゲーム案が出てきたといいます。

ここでおまど氏が注目したいことはこうです。同じアイデアからでも、まったく別のゲームになり得る。つまり文字盤というアイデアから現在の『スペルトナエル』が自動的に生まれたわけではないということです。

続けて紹介されたのが、RPGなどでおなじみの「名前入力画面」の例です。『スペルトナエル』のバトル画面と名前入力画面は、実は同じ五十音の文字盤UIを使っています。同じ操作対象でありながら、一方は誰も楽しまず、もう一方はゲームとして成立している。この違いこそが、本作の開発の核心へとつながっていきます。

「文字盤」をゲームにした7つの工夫

ここからおまど氏は、実際の開発をたどる形で、文字盤に加えていった工夫を7つに整理して紹介しました。まず着手したのは「感触」の改善です。カーソルが文字から文字へ不連続に飛ぶ操作から、自機を自由に連続移動させ触れるだけで文字を拾える仕組みに変更。操作の摩擦を減らすことで、面白さを乗せるための土台を整えたといいます。

次に加えたのが「意味」です。ただ「こんにちは」と打つだけでは作業でしかないとし、これを「呪文」に置き換え、プレイヤーを魔法使い、対面を敵として設定。文字入力という行為に、詠唱・攻撃という文脈を接続していきました。

3つ目が「緊張」です。敵が何もしてこない状態では作業感が拭えないとして、弾幕を避けながら文字を拾う仕様と、フロアごとの時間制限を導入。空間的な緊張と時間的なテンポの両方を作り出したといいます。

4つ目は「報酬」です。難易度が上がった分の見返りとして、ステータスを永続的・積算的に、しかも上限なく成長させる大胆な設計を採用。「時間をかけて入力した呪文の結果が、数十秒後に消えてしまうのは寂しい」という考えから、成長を資産として積み上げる形にしたといいます。あわせて、魔法発動時の派手な演出や巨大なダメージ表示など、視覚的な気持ちよさも重視されました。

5つ目が「習熟」です。死んだら最初からやり直しになるローグライク構造を採用し、プレイヤー自身の上達がそのままゲームの進行に反映される設計にしたといいます。あえて味方キャラクターが文字盤の一部を隠してしまう仕様や、画面全体を反転させる魔法も、「文字盤に慣れることで乗り越えられる」学習の余地として意図的に組み込まれました。

6つ目は「選択」です。当初は提示された文字をそのまま入力するだけでしたが、これに「魔導書」という仕組みを導入。4つの呪文をデッキとして持たせ、どの呪文をどの順で唱えるかをプレイヤー自身が選べるようにしたことで、戦略性が生まれたといいます。おまど氏はこの選択の導入を、個人的なターニングポイントだったと振り返りました。

最後の7つ目が「挑戦」です。物語や謎を示すメッセージなどを配置し、プレイヤーに次の挑戦への動機づけを作ったといいます。あわせて、難易度をぎりぎりまで高く設定していることにも触れ、「文字盤は退屈で面倒なものだと思っている。簡単ならそれは作業と同じ」という考えを明かしました。実際、育成済みの強力な魔法を持ち込めるモードを繰り返し使うと、同じ弾幕・同じ敵であっても「作業的だった」という感想が多く寄せられるといい、緊張感や選択こそが文字盤を支えていたのではないかとの考察も語られています。

7つの工夫を整理したうえで、おまど氏は「この分析自体、講演のために事後的に組み立てたものであり、開発当時にここまで体系立てて考えていたわけではない」というのです。「これで説明がついた」と思うのは後知恵バイアスの一種かもしれないと述べ、完成した作品を見て「最初からそういうゲームだった」と思い込んでしまう危うさに改めて注意を促しました。この注意も、「ゲームが思いついた一つのアイデアから最終完成形まで決まっているもの」と思われることを避ける意図があるのでしょう。

実際、企画メモを書いた当日の夜の試作と、2週間後の試作を見比べると、コアループ自体は驚くほど早い段階でほぼ完成していたことが明かされています。それでも実際のリリースまでは5ヶ月を要しており、その大半は体験を磨くための調整に費やされたといいます。

おまど氏は、ヒット作を見て「アイデアが良かったから売れた」と結論づけてしまうことへの違和感が講演の出発点にあった感情と語りました。「大木を見て、種が良かったんだねとは言わない」という例えを用い、完成形の面白さがすべて原点のアイデアに内包されていたわけではないと結び、講演を締めくくりました。

質疑応答では、育成済みの強い魔法を持ち込めるモードについて、「作業的になる」というフィードバックがありながらも製品版に残した意図が問われました。おまど氏は、その強さがなければクリアできないプレイヤー層が一定数いることを踏まえ、誰でもクリアできる難易度の選択肢として用意したと説明。実際に多くのプレイヤーはこのモードを楽しんでいるとも述べています。

ゲームの目標日数を「20日」に設定した経緯については、当初参考にしていた別作品に合わせて30日で試作していたものの、インフレの速さや所要時間を踏まえて調整を重ねた結果、20日に落ち着いたと明かされました。

また、開発中に文字盤というアイデア自体を疑い、別の方向性を試したことがあったかという質問には、着想から2週間ほどでコアループがほぼ完成してしまったため、そうした葛藤の機会自体がなかったと答えています。無敵状態を示す演出の追加など、細部の調整についても、プレイ中に気づいた分かりにくさを都度直していった結果であり、体系立てたテストプレイの成果というより、個人の試行錯誤の積み重ねだったことも語られました。

会場からは、実際にプレイして20日目のクリアまで到達した聴講者から、このゲームを「魔法の知識を深めて魔法使いになっていくゲーム」だと捉えていたという感想も寄せられました。文字盤という操作の仕組みが先にあり、そこに魔法使いという設定を組み合わせたのか、あるいは魔法使いになる体験が先にあったのかという問いに対し、おまど氏は明確に「文字盤が先」だと答え、講演で語られた工夫の積み重ねが、結果としてそう感じさせる体験を生み出していたことを裏づける場面となりました。


ともかくゲームにおける「アイデア」とは、まず発想した時点でゲームを開発してみようと思える非常に大きなきっかけなのは違いありません。しかし、ワンアイデアだけで本当にゲームとして仕上がるわけではないという、忘れがちでありながら至極当然なことがあります。

本当にゲームを面白くするために、インタラクションの気持ちよさからゲームプレイの難易度の作り方など、開発しては作り直すトライ&エラーを繰り返しながら、確かなゲームデザインの答えにたどり着くものです。アイデアは大事ですが、アイデアだけで面白い体験作りには到達しません。泥臭く何度も磨き上げていくしかないという、ゲーム開発の大事なプロセスについてあらためて考えさせられる講演になりました。

そしてメディア側としても、ゲームをレビューしたりするときに安易に「アイデアが面白い」だけで終わらせることがあってはならず、アイデアを中心に何の要素がゲームを面白くしているかを分析しなくては、クリエイターにも読者にも刺さることのない批評になってしまうことも思い知らされる講演でもあったと思います。おまど氏のような「怒り」は、企業でもインディーゲームのクリエイターでも同じようにもっている方は少なくないでしょう。ゲームについて語る側にとっても、襟を正されるセッションとなったのも間違いありません。

《葛西 祝》

ジャンル複合ライティング 葛西 祝

ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や格闘技などなどを横断したテキストをさまざまなメディアで企画・執筆。Game*SparkやInsideでは、シリアスなインタビューからIQを捨てたようなバカ企画まで横断した記事を制作している。

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