なぜゲームAI開発の知見は受け継がれにくいのか? 東京藝大・三宅陽一郎氏らが語る、体系化されたAI教育カリキュラム【CEDEC 2026】 | GameBusiness.jp

なぜゲームAI開発の知見は受け継がれにくいのか? 東京藝大・三宅陽一郎氏らが語る、体系化されたAI教育カリキュラム【CEDEC 2026】

本講演ではゲームAI教育の全体像と実践例を紹介。ハイブリッドAIの活用、産学連携の動向を解説します。

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なぜゲームAI開発の知見は受け継がれにくいのか? 東京藝大・三宅陽一郎氏らが語る、体系化されたAI教育カリキュラム【CEDEC 2026】
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いま、ビデオゲームにはNPCやエネミーの行動から、果てはゲームの難易度なども動的に変化させる「ゲームAI」というものが重要になっています。特に物量や規模、そして要求されている体験の水準をクリアするために必要な分野でもあります。

そんなゲームAIなのですが、知見を次世代にどう継承していくか、悩んでいる開発者や教育関係者は多いのではないでしょうか。ゲーム産業の中でさえ、AIを実際に構築した経験のある開発者は限られており、体系立てて教える土壌そのものが不足しているのが現状です。

そうした課題に向き合ってきた東京藝術大学大学院の三宅陽一郎氏と、立教大学大学院の桑原周氏によるCEDEC 2026の講演「ゲームAI教育カリキュラム・ゲームAI研究指導のこれまでとこれから」では、大学における研究指導の実例と、体系化されたゲームAI教育カリキュラムの全体像が語られました。

本講演では、立教大学大学院人工知能科学研究科での指導実績、修士研究として行われた強化学習の具体的な成果、そしてゲームAI教育カリキュラムの全体構造が紹介。後進へゲームAIを技術的に伝える方法についてを明かしています。

「ゲームAI研究の土壌不足」と、立教大学大学院の挑戦

三宅氏はまず、「大学では囲碁や将棋を研究する研究室は多数あるものの、デジタルゲームのAIを研究できる研究室は非常に少ない」という現状を指摘しました。

その原因として、ゲーム産業内でさえAIを実際に構築した経験を持つ開発者や教員が少ないこと、デジタルゲームの研究自体が軽視されてきた歴史があること、そしてソースコードやビルド環境を含めて中身をいじれるゲームが少ないことの3点を挙げています。

こうした状況の中、2020年4月に設立されたのが立教大学大学院人工知能科学研究科です。同研究科では「特別研究」という制度のもと、毎年数名がゲームAIをテーマに研究を行っています。本講演にて三宅氏と共演している桑原氏は、まさに同大学の研究科に所属し、ゲームAIを研究している大学院生というわけです。

紹介された研究テーマは多岐にわたります。ユーザーのスキルに合わせて難易度を調整するメタAI、サッカーゲームの戦略を高次元から低次元に埋め込んで表現する研究、スマートシティにおけるサービス制御などが挙げられました。

このほか、毎回マップが変わるローグライクダンジョンを攻略するAI、広大なゲーム空間を効率よく探索するAI、3Dモデルや3次元地形の自動生成、強化学習を用いた空間レイアウトの自動生成など、幅広いテーマが扱われているといいます。

指導体制については、基本的に一対一で行われ、最初の半年でUnityやUnrealを使ってゲームを自作するスキルを身につけたうえでAI研究に進む流れが取られています。

学生主体のUnity/Unrealゼミを週1回開催するほか、月1回はキャンパスに集まってのリアルミーティングも実施しているといいます。

三宅氏が大学におけるゲームAI教育がどのように行われているのか具体例を示したのち、続いて桑原氏が自身の修士研究について紹介。ここでは、「大学におけるゲームAI研究とはどんなことをするのか?」という、ひとつのロールモデルとなる内容となっています。

桑原氏が選んだテーマは、「強化学習を用いてドラゴンを3D空間上で飛行させる」というものです。研究のポイントの一つは、通常であれば複数の挙動(まっすぐ飛ぶ、ローリングしながら飛ぶなど)を学習させるには複数の報酬関数が必要になるところを、単一の報酬関数のパラメータを変えるだけで実現できないかという試みでした。

桑原氏は、ドラゴンにかかる「荷重倍数」に応じて報酬を与える設計を採用。ジェットコースターが直進しているときは1G、急旋回時にはより高いGがかかることになぞらえ、目標とする荷重倍数を報酬関数に組み込むことで、まっすぐ飛ぶ挙動とダイナミックに旋回する挙動を、単一の報酬関数から使い分けて学習させることに成功したと語りました。

強化学習の本質的な価値についても言及がありました。ペンを台の上に立てて倒れないようバランスを取らせるデモを例に、従来の制御手法(LQR)の方が数値上の性能は高い一方、強化学習は「ぐらつきながらも人間っぽい動きでバランスを取る」という特徴があり、これこそがゲームにおいて重要だと桑原氏は述べます。

「強化学習を使うとうれしいというのは、すごく強いAIが作れるということではなくて、すごく人間っぽいリアルな動きのAIが作れるということ」だといいます。

一方で、強化学習の産業導入が進んでいない要因として、ゲーム開発では馴染みのない専門用語の多さ、タスクごとに異なる報酬関数の設計の難しさ、そしてハイパーパラメータ調整に要する膨大な時間が挙げられました。

それでも桑原氏は、物理演算されたキャラクターの自然な動きや、長期的な戦略を踏まえた意思決定など、強化学習ならではの価値は大きいとし、ゲーム開発者にとって学ぶ意義のある技術だと締めくくりました。

後半は三宅氏が、ゲームAI技術の潮流と教育カリキュラムの全体像を解説しました。人工知能には「記号主義(シンボリックAI)」と「コネクショニズム(ニューラルネット)」という2つの流れが長らく独立して存在してきましたが、近年この2つが融合しつつあるといいます。

記号主義はルールベースやステートマシンなど、プログラムとして書くことで拡張性とカスタマイズ性に優れる一方、複雑になるほど記述量が膨れ上がるという欠点があります。

対してニューラルネットは多様な挙動を生み出せる反面、内部がブラックボックスでカスタマイズが難しいという課題があります。三宅氏は、ゲーム開発の現場では「制御できないものを持ち込むことができない」とし、両者の利点を組み合わせた「ハイブリッドアーキテクチャ」の重要性を強調しました。

実例として、ステートマシンの各状態に個別のニューラルネットワークを割り当てる手法や、ビヘイビアツリーとディープニューラルネットワークの組み合わせなどが紹介されています。

また、2016年前後を境に、ディープラーニングを学んだ世代とそれ以前の世代との間に大きな知識のギャップ(「ディープギャップ」)が生じていると指摘。両者は互いに補完関係にあり、双方を使いこなせる人材こそが今後求められると述べました。

三宅氏は、ニューラルネットワークのゲーム産業への応用事例をまとめた年表も示しました。1996年、イギリスのCreaturesが強化学習をゲームに組み込んだ事例を皮切りに、大きな転換点となったのが2013年前後のDQN(Deep Q-Network)です。

もともとAtariの複数のゲームをテストベッドとして開発されたDQNの登場以降、ディープニューラルネットワークを用いた強化学習の事例が急増し、多くが国際的なAI会議に論文として発表されるようになったといいます。これは、大学でディープラーニングを学んだ人材が産業界に流入してきたことの表れでもあると三宅氏は分析しました。

またディープギャップについては、三宅氏と桑原氏の対話を通じても語られました。記号主義は「対象となる状態や行動を、人間が全て把握した上で書く必要がある」ため制御しやすい一方、コネクショニズムは膨大な状態空間をニューラルネットワークが自動的に分類してくれる反面、人間側からは内部で何が起きているかを具体的に列挙するのがほぼ不可能だといいます。

両氏は、ゲーム開発の現場でニューラルネットワークが「ブラックボックスだから」と長らく採用を避けられてきた歴史があったことを振り返りつつ、拡張性・多様性・カスタマイズ性という3要素をいかに両立させるかが、今後のゲームAI技術に求められる視点だと結論づけました。

三宅氏はこうした認識をもとに設計した、ゲームAI教育のカリキュラム案を紹介しました。

カリキュラムは全14回で構成されています。主にゲームAIの歴史とアーキテクチャの全体像を扱ったのち、AIの意思決定アルゴリズムの学習や強化学習などを扱っています。よりビデオゲームへの活用が目された空間AI(ナビゲーションや戦略ゲームへの応用)や、ゲーム全体を制御する「メタAI」をカリキュラムの中盤以降に取り上げていく構成を取っています。

カリキュラム終盤ではニューラルネットワークの基礎からディープニューラルネットワークの応用や、キャラクターアニメーションへの応用、そしてプロシージャルコンテンツ生成などを扱っていったとのこと。さらに対話・テキスト生成、建築やロボティクスなどゲームAI以外の分野への応用など、教育する対象は多岐に渡っています。

三宅氏は、この構成が学生・ベテラン双方に向けたリカレント教育としても機能するよう意図していると説明。参考資料として、人工知能学会のリンク集や、ゲームAI教育用の講義資料も公開されていることが紹介されました。

講演の締めくくりとして、人工知能学会内に新設された「デジタルゲームAI研究会」についても紹介がありました。AI開発の規模が拡大し一社だけでは知見をカバーしきれなくなる中、産業とアカデミアが対等な立場で知見を持ち寄り、議論できる場を目指しているといいます。

このほか、強化学習によるキャラクターアニメーション生成についても触れられました。近年は敵対的学習(GAN)の枠組みを使い、強化学習で得られた挙動をアニメーターが用意したリファレンスアニメーションに近づけていく手法も実用化が進んでいるといいます。

プロシージャルコンテンツ生成の分野でも、地形やレイアウトの自動生成にディープラーニングを組み合わせた「PCGRL」といった技術が発展してきていることが紹介され、機械学習がゲーム開発のさまざまな領域で応用範囲を広げつつある現状が共有されました。ゲームAI技術を伝えるための活動は、このように活発に広がっていることがわかる講演となりました。

《葛西 祝》

ジャンル複合ライティング 葛西 祝

ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や格闘技などなどを横断したテキストをさまざまなメディアで企画・執筆。Game*SparkやInsideでは、シリアスなインタビューからIQを捨てたようなバカ企画まで横断した記事を制作している。

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