ゲームの海外展開と、現場を変えるAI活用――KLab・ネクストニンジャが語るグローバル運営の実践知 | GameBusiness.jp

ゲームの海外展開と、現場を変えるAI活用――KLab・ネクストニンジャが語るグローバル運営の実践知

2026年6月3日開催のGAME FUTURE SUMMIT 2026で、KLabの藤好俊氏とNext Ninjaの山岸聖幸氏が登壇。Next NinjaはCS業務の86%をAIで自動化し、アカウント復旧を平均5日間から5分に短縮した事例を紹介しました。KLabは経営層の意思決定ロジックをAIに学習させる上流工程での活用を明かしています。

ゲーム開発 人工知能(AI)
GAME FUTURE SUMMIT 2026のパネルディスカッションの様子。左からHARS GLOBAL森下明氏、KLab藤好俊氏、Next Ninja山岸聖幸氏
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2026年6月3日、渋谷ベルサールガーデンにて、ゲームビジネスイベント「GAME FUTURE SUMMIT 2026」が開催されました。

本イベントにて「グローバルヒットを導いたプロデューサーが語る海外マーケティングの真実 ~海外のユーザ理解、ユーザコミュニケーションの実践ノウハウ共有とAI利活用の最新事情~」と題し、HARS GLOBAL Founder and CEOの森下明氏、KLab執行役員(Chief gaming Architect)の藤好俊氏、Next Ninja CEOの山岸聖幸氏の鼎談が行われましたので、その模様をお届けします。

国内モバイルゲーム市場の飽和が叫ばれて久しい現在、ゲームデベロッパーにとって「海外市場への進出」と「AIテクノロジーの活用」は、生き残りをかけた重要戦略となっています。本鼎談では、独自の海外マーケティング手法から、カスタマーサポート(CS)の業務を86パーセント自動化し、対応時間を5日間から5分へと劇的に短縮したAI運用の最前線まで、ゲーム業界の未来を占う熱い議論が繰り広げられました。

アジア・欧州・中東を狙った世界同時配信と、泥臭い「コミュニティ運営」の重要性

海外展開において多くの企業が北米市場を第一のターゲットに据える中、KLabが手がけるゲーム『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』はアジア、ヨーロッパ、そして中東市場において極めて高い売上比率を誇るという、独自の強みを持っています。2017年の配信開始当初から世界同時(サイマル)配信の体制を整え、当時はまだゲーム市場としてのデータが少なかった中東地域に対しても、徹底的なローカライズを行ってきました。

プレスリリース「高橋陽一先生原案の新ストーリー『NEXT DREAM』、本日より新章が『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』で配信スタート!」より引用

そのグローバルマーケティングを支えてきたのは、驚くほど地道な「ユーザーとのコミュニケーション」です。

藤好氏は、海外展開の初期段階からDiscordを用いた密なコミュニティ構築に着手。さらに、コロナ禍前には世界各地を回るオフラインの世界大会ツアーを自社で開催し、現地のユーザーと直接顔を合わせる場を作ってきました。また、e-sportという概念がまだ浸透していない2017年のキャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~ のリリースタイミングからゲーム主催の世界大会を構想し、2019年から世界大会を開催、現在まで大会運営を行っている点も注目すべき点です。Next Ninjaの山岸氏もこの意見に同意し、スタッフを連れて現地に赴き、海外のユーザーと直接食事会を開いて意見を交わすなど、国境を超えたファンとのエンゲージメントを高めることが、長寿タイトルの海外運営において最大のブラックボックス対策になると強調しました。

また、IPの活用においても原作者・高橋陽一先生が原案を手掛ける「未来進行シリーズ」をゲーム内で配信しているという稀有な体験を語りました。この高いクオリティとリスペクトが、世界中のコアファンを惹きつけ続ける要因となっています。

CS業務を86パーセント自動化~5日間かかっていたアカウント復旧をわずか5分に変えたAI活用

セッションの後半では、ゲーム開発・運用における「AI活用の現在地」へと議論が移りました。スマートフォンの登場が市場をリセットしたように、AIは今、ゲーム運営の現場を劇的に変革し始めています。

ネクストニンジャの現場では、「クリエイティブな判断は人間が行い、単純な作業はAIに代替させる」という役割分担が徹底されています。お知らせ、仕様書、マスターデータの自動生成や、過去の膨大な仕様書データを学習させたAIエージェントによる業務自動化、プロトタイプ生成など、開発の上流から下流までAIが組み込まれています。

中でも劇的な成果をもたらしたのが、カスタマーサポート(CS)におけるAIエージェントの導入です。現在、1次対応の約86パーセントがAIによって自動化されています。

従来、ユーザーからの問い合わせで最も手間のかかった「アカウントの復旧作業」では、人間のスタッフがメールでやり取りを行うため、復旧までに平均5日間を要していました。

しかし現在では、ゲームのデータベースと直結したAIエージェントが、ユーザーからの最初の問い合わせに対して即座に自動返信で「課金レシートの提出」を要求。送られてきたレシート画像を自動で照合・確認し、わずか5分でアカウントを復旧させるシステムが稼働しています。人間が手作業で行うことで発生しがちだった誤送信などの人為的ミスもゼロになり、劇的なコスト圧縮とユーザー満足度の向上を同時に達成しています。

「人間の意思決定のコピー」としてのAI~チーム内の心理的ストレスを減らす効果も

一方、KLabの藤好氏は、経営者やマネジメント層である自身の「意思決定そのものをAIに学習させる」という、より上流工程でのアプローチを紹介しました。ゲーム開発の本質は意思決定の連続であり、自身の思考ロジックをエージェント化することで、ゲーム内のキャラクターのバランス調整などの複雑な判断をAIにサポートさせているといいます。

さらに、大人数のプロジェクトにおいて発生しやすい「人間同士の伝言ゲームによるコミュニケーションコストの肥大化」に対してもAIが効果を発揮すると語りました。例えば、仕様書データベースと連携したAIを社内チャットに導入することで、スタッフはいつでも気軽に正確な仕様を確認できるようになるといいます。

「人間相手だとこれくらい自分で調べてよと思ってしまうような細かい確認でも、AIであれば心理的ハードルなく何度でも繰り返し質問できる。AIは常にきつくない丁寧な表現で返答してくれるため、チーム内の不要な人間関係のストレスが大幅に軽減され、結果として業務の質が向上した」と、精神的な側面におけるAI導入のメリットを語りました。

最後にMCの森下氏は、ここまで説明した藤好氏、山岸氏の事例はいずれも既に各社の現場で実装されているファクト(事実)であることを強調しました。それはつまり、ゲーム開発やマーケティングの一部業務、更には意思決定や社内のマネジメントなど抽象度の高い領域にまでAIが実装されており、成果を出していることを意味します。これを踏まえて、ゲームの開発、運営、マーケティングに関わる人間として、今後必要とされる人材の定義そのものが根本的に変わることを示唆しました。

効率化の裏に潜むリスク~AI時代だからこそ必要な「人間の学習機会の設計」

セッションの締めくくりとして、両氏はAIがもたらす未来のゲーム業界のあり方について、警鐘を交えた深い洞察を示しました。

藤好氏は「業界内ではAIに対して不安を感じているクリエイターも多いが、AIは人間から単純作業を奪ってくれる存在。自分の構造化できるスキルをAIに預けることで、人間はより付加価値の高いクリエイティブに集中できるようになり、仕事はもっとワクワクするものになる」と前向きな展望を語りました。

その一方で、山岸氏はAIがもたらす「人間の退化」というリスクを指摘します。

「様々な成功/失敗経験を有したベテランの意思決定をAIが代替してくれるようになると、若い世代が自ら悩み、失敗し、決断して得られる判断の手触り感や身体知を積む学習の機会そのものが失われてしまう。結果的に、様々な意思決定を行うにあたっての手触り感や身体知がない状態で意思決定を行うことになり、意思決定の空洞化が起こることが示唆されます。ですので、AIを活用して徹底的に業務を効率化する一方で、あえて人間が泥臭く失敗して学ぶための非AIトレーニングの場を意図的に残していく設計が必要だ」

テクノロジーをただのコスト削減ツールとして捉えるのではなく、人間のクリエイティビティを最大化させ、次世代を育てるためのパートナーとしていかに共生していくか。セッションを通じて、AIとの向き合い方に対する具体的な論点が提示されました。

《GameBusiness.jp》

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