
アメリカの大手ゲームメーカー、エレクトロニック・アーツ(以下、EA)が8.2兆円で買収される見込みとなりました。
LBOと呼ばれる借入金を活用した買収においては、過去最大規模のもので、2027年会計年度に完了する見込みです。買い手はサウジアラビア政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンドや、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏が率いる投資会社アフィニティ・パートナーズ、同じくアメリカの投資会社シルバー・レイクが共同で行います。
近年のEAの業績はやや弱含んでおり、株価の低迷も目立っていました。巨額買収であることから、数年後の再上場が視野に入っているでしょう。
なぜ買収主体者がサウジアラビアの政府系ファンドなのか?
サウジアラビアはゲームやアニメなどのエンタメ産業へと投資を加速していました。
巨大プロジェクトの一つである「ギディヤ」は、2023年に複合施設「ギディヤ・シティ」の中に「ゲーミング&eスポーツ地区」を建設すると発表。eスポーツアリーナとして、5,300席を収容する世界トップクラスのeスポーツ会場を含む、4つの大会専用会場を設けるという途方もない計画でした。

※ギディヤ・インベストメント・カンパニーのプレスリリースより
大型eスポーツ大会開催時の最大収容員数は地区全体で7,300人になると言います。世界トップクラスのeスポーツチームを受け入れ、最大25のチームがトレーニングや競技をしながら生活する環境を提供するともしていました。
「ギディヤ」は「サウジ・ビジョン2030」の主要な構成要素であり、活力ある社会と経済の繁栄を象徴する国家プロジェクト。街全体で30万人以上の雇用を創出するという壮大な計画です。
サウジアラビアは石油依存からの脱却を進めており、ゲームを第2の石油に位置づける考え。
イスラム教の二大聖地があるサウジアラビアは、映画館の新設さえも長年認められていませんでした。しかし、ムハンマド皇太子が方針を転換。映画館を新設するなどエンタメ産業が活性化しました。ムハンマド皇太子はアニメやゲーム好きとして知られています。
EA買収の主体者であるパブリック・インベストメント・ファンドは、過去にeスポーツ関連企業であるESL FACEITを15億ドルで買収。世界最大規模のeスポーツ大会「Gamers8」の開催などを行ってきました。
また、パブリック・インベストメント・ファンドは任天堂、ネクソン、カプコン、コーエーテクモホールディングスなどの株式を取得。その他、中国のテンセント・ホールディングス、マイクロソフトが買収したアクティビジョン・ブリザードに出資した過去もあります。
このような動きを見ていくと、パブリック・インベストメント・ファンドがEAの買収を計画したとしても、決して不思議ではありません。しかも、運用資産は6,200億ドル(約93兆円)と巨額。8兆円規模のM&Aも十分カバーできる余力があるのです。
アメリカの投資会社と共同出資した意味合いは?
今回のM&Aは、アフィニティ・パートナーズが一枚噛んでいることもポイントであるように見えます。