イスラエルに本社を構え、独自の分散コンピューティング技術で開発プロセスを劇的に高速化するプラットフォーム、Incredibuild(インクレディビルド)。世界のトップゲーム企業を顧客に持ち、ビルドやコンパイルといった"待ち時間"を削減することで、クリエイターの生産性向上とビジネス成長を支援しています。

ゲームコンテンツの大規模化、マルチプラットフォーム対応、そして度重なるアップデート。開発サイクルの短縮が至上命題となる一方、現場では日々発生する待ち時間が開発生産性の大きな足かせとなっています。この根深い課題に対し、世界のトップスタジオはどのように向き合っているのでしょうか。
今回、2025年3月に新たにIncredibuild本社のCEOに就任したShimon Hason氏に独占インタビューを実施。日本のトップゲーム企業の6割が導入するその理由、2025年6月に発表された待望のUnity連携、そして生成AIがもたらす未来の開発環境まで、ゲーム開発の今と未来について話を伺いました。

新CEO就任の背景とIncredibuildのポテンシャル
ーーまず、CEOご就任おめでとうございます。Hason様はこれまで様々なグローバルソフトウェア企業の成長を牽引されてきたと伺っています。自己紹介を兼ねて、Incredibuildがどのような事業を行う会社で、なぜCEOとしてそのポテンシャルに惹かれたのか、お聞かせください。
Shimon Hason氏(以下、Hason)皆さん、はじめまして。Shimon Hason氏と申します。私は10歳か11歳の頃、コンピューターゲームで遊び始めたのと同じ時期に開発も始めました。ソフトウェアが好きで、ソフトウェアエンジニアからプロダクトマネージャーへとキャリアを重ね、いくつかの会社を共同設立し、CEOも務めました。そのうちの1社をDatadogに売却し、数年間在籍した後、2025年3月にIncredibuildに加わりました。
Incredibuildのことは以前から知っており、リーダーシップの交代の話があった時、その理由に興味を持ちました。会社や業界、そしてそのポテンシャルについて学ぶうちに、ゲームパブリッシャーやデベロッパーと協力し、Incredibuildの製品がもたらす価値をさらに高めていくことに非常に興奮を覚えたのです。
開発者がより速く作業し、創造性を維持し、より良い協力関係を築けるように支援することに情熱を感じています。特にゲーム業界では、ゲームの大規模化、アセットの増大、複雑化が進んでいます。さらにAIがソフトウェア開発の力学を変え始めており、ビルドだけでなく、PRレビューやテストといった開発パイプライン全体の可視性がこれまで以上に重要になっています。
ユーザーからのシグナルを素早くゲーム改善に繋げる。このループを可能な限り高速に回し、限られた時間と予算の中で最高のゲームを開発できるよう支援すること、それが私がここにいる理由です。
ゲーム開発のトレンドと新たな課題
ーーIncredibuildの核となる「分散コンピューティング技術」が、ゲーム開発の現場が抱える「ビルドが遅い」「シェーダーコンパイルが終わらない」といった根深い課題を、どのように解決するのか。改めてご説明いただけますか。
Hason我々のコアテクノロジーは、まさしく「分散処理」から始まります。これは基本的に、シェーダーコンパイルやGPUでのトレーニングや推論、テストといったあらゆるタスクを受け取り、それを小さな断片に分割し、ネットワーク上の異なるコンピューティングリソースに処理を分散させ、そして再び一つにまとめてタスクを完了させる、というものです。これがテクノロジーの核となる部分です。

その後、私たちは「ビルドキャッシュ」を追加しました。これは、もしコードに変更がなければ、再コンパイルする必要はない、という考え方です。分散処理技術がコンパイル自体を高速化するのに対し、この技術は一部のコンパイルを完全に回避することを可能にし、ビルド時間をさらに短縮します。

そして今、私たちは開発者を足止めしている他の領域にも目を向けています。開発者は他に何を待っているのでしょうか?開発環境、インフラ、コンテナ、テスト結果、あるいはセキュリティスキャンです。あるお客様の例では、セキュリティスキャンだけで24時間もかかっていました。
私たちは今、コードからビルド、テスト、デプロイに至るソフトウェア開発ライフサイクル全体を包括的に捉え、我々のテクノロジーとデータを活用してこれらのプロセスをいかに最適化し、加速できるかを追求しています。
ーー現在のゲーム開発が直面しているトレンドについてお伺いします。ゲームのハイエンド化や大規模化は、開発現場の「待ち時間」をますます深刻にしています。現在のトレンドをどのように捉え、Incredibuildにとってどのような事業機会があるとお考えですか?
Hasonまず、このトレンドは今後も続くと考えています。ユーザーの期待は高まる一方で、複雑性、競争、そして多様なプラットフォームが常に限界を押し広げているからです。アセットはさらに重くなり、機能はより複雑になります。ユーザーとのインタラクションも進化するでしょう。
もう一つの大きなトレンドはAIです。AIツールによって、コードの最初のバージョンを書くスピードは格段に速くなりました。しかし、そのコードを“実際に動作させる”ために、開発者は多くの時間を費やす必要があります。今や開発者は、コードを書くだけでなく、AIが生成したコードをレビューし、AIが生成したコードを実用的なものに仕上げなければなりません。
そこで我々の出番です。我々は、開発者がより速く意思決定を行えるよう、ビルドインテリジェンス情報を提供します。例えば、これまで1日に2つだったPR(プルリクエスト)を10個に増やすことができるかもしれません。我々は、ビルドシステムからより多くのインテリジェンスを引き出し、変更を承認または却下するための“自信”を開発者に与えます。単なる時間短縮だけでなく、品質と自信も提供するのです。
ーー従来得意としていたUnreal Engineでの高速化に続き、2025年6月にはUnityにも対応されました。やはりUnity開発者からも、コンパイル時間に関する課題が多く寄せられていたのでしょうか?
Hasonはい。我々はUnityでのゲーム開発において、シェーダーコンパイルやIL2CPPが原因でビルド時間が長くなっていることを知りました。そこで、彼らもサポートすることを決定したのです。これは我々のプラットフォームの基本サポートの一部であり、特別な設定は必要ありません。
私たちは、Unityユーザーの声に耳を傾け、さらなる高速化のために何ができるかを探っています。単なる分散処理によるシェーダーコンパイルやIL2CPPの高速化だけでなく、ビルドプロセスからどのようなインサイトを引き出し、彼らのコードを最適化できるかを考えています。
私たちの目標は、Unityデベロッパーが迅速に作業し、品質を向上させる力を与えることです。彼らは市場の他のプラットフォームとの激しい競争に直面しています。Unityはゲーム開発だけでなく、シミュレーションを多用する他の産業でも広く使われています。私たちの目標は、彼らがより速く、より良く作業できるように支援し、他のプラットフォームがIncredibuildから得ている利益を享受できるようにすることです。
ーー在宅勤務と出社のハイブリッドワークが普及したことで生まれた、開発環境特有の課題があれば教えてください。
Hasonフルリモートやハイブリッドワークを採用するスタジオや企業がますます増えています。これは、開発者がインターネット経由で作業することを意味します。ネットワーク越しに作業する場合、ローカルビルドと集中型ビルドのプロセスをどのように高速化できるか。この課題に対応するため、我々はクラウドへのコンピュート・バースティング機能や、ネットワーク状態への対応、コンテナ環境での実行など、新たなソリューションを導入しました。
開発者がどこにいようとも、オフィスにいるのと同等の速さで作業できる必要があります。その期待に応えるため、我々のテクノロジーも進化しているのです。

【導入事例】バンダイナムコスタジオが物語る、Incredibuildの価値
Incredibuildの技術力がもたらす価値を証明するのが、日本のゲームスタジオであるバンダイナムコスタジオでの成功事例です。同社では10年以上前からIncredibuildを導入しており、開発プロセスにおける待ち時間の課題解決に取り組んできました。

同社の開発環境では、PCのスペックが限られていた当時、1日経ってもビルドが終わらないという状況が頻繁に発生していたといいます。この課題に対し、ネットワーク上の空きリソースを活用して処理を分散させるIncredibuildのソリューションは、劇的な時間短縮を実現。ある事例では、開発時間が66%も短縮されるという成果を上げました。
この時間短縮は、単に待ち時間を減らすだけでなく、クリエイターが本来注力すべきクリエイティブな作業に多くの時間を割くことを可能にしました。ビルドを待つストレスから解放され、より高品質でクリエイティブなゲームタイトルを生み出すための時間を創出する。この好循環こそが、バンダイナムコスタジオが「Incredibuildなしでは仕事はできない」と評価する理由なのでしょう。
※IncredibuildのHPより抜粋:https://www.incredibuild.com/case-studies/bandai-namco-studios
未来戦略とビジョン-Incredibuildはどこへ向かうのか
ーーここからは、Hason様がCEOとして描くIncredibuildの未来についてお伺いします。CEOとして掲げる短期・中長期の戦略的目標についてお聞かせください。
HasonIncredibuildは成長企業であり、私たちの目標はこの成長を継続させることです。私が成し遂げたいのは、私たちの製品が、世界中にいる何百ものロイヤルカスタマーの皆様に対して、現在提供しているよりもはるかに大きな価値を提供できる状態にすることです。「ゲーム開発をより速く、より良く、高品質に」。そしてコストをコントロールし、セキュリティを確保する。そのための新しい製品として、ビルドからセキュリティレポートを取得できる機能もまもなく導入します。別のベンダーを追加することなく、既存のシステムでセキュリティを確保できるのです。
私たちは常にお客様と対話し、「何が一番つらいのか?」「どうすれば助けになれるか?」と問い続けています。この対話を通じて、彼らの仕事がどう進化しているかを学び、我々の既存アセットからさらなる価値を提供する方法を共に考えるのです。数年後、Incredibuildの顧客が「Incredibuildは以前よりもさらに良くなった」と語ってくれること、それが私の目標です。
ーー生成AIが普及した開発環境で、Incredibuildはどのような役割を果たしていきたいですか。
Hason生成AIの普及により、「ゲーム開発が簡単になったから自分でも作れる」と考える人が増えるでしょう。実際、従来のゲーム開発やパブリッシングのプロセスを飛び越えて市場で大ヒットしたゲームもあります。
ですから、もしゲーム開発者がAIを十分に活用しなければ、新しいAIネイティブなゲーム開発者やプラットフォームとの競争に直面することになるでしょう。
もちろん、既存の大手ゲーム開発者がすでにAIをどう使い始めているのかにも注目しています。中にはCopilotやその他のLLMによるコード開発を活用している、という声も聞きます。こうした動きはますます広がりつつありますが、まだプロセスとしては初期段階で、実験的な段階にあります。
ただ、大手スタジオの外に目を向けると、市場ではAIを素早く、そして徹底的に取り入れることを恐れない新しいプレイヤーたちが現れているのです。では、どうバランスを取るのか?どうすれば、ブランドやリスク、安全性を重視する既存の大手ゲーム開発者たちが、自らのブランド価値や市場での立ち位置を損なうことなく、AIを活用できるようにできるのか?それが今、私たちが考えている大きなテーマなのです。
ーー今後の日本市場での展開については、どのような成長戦略を描いていますか?
Hason私たちは日本に投資しています。日本に法人とチームがあり、ウェブサイトも用意し、専任の営業、サポート、マーケティング担当者がいます。リモート販売も可能ですが、あえてローカルに投資しているのは、日本のお客様に最高のサービスを提供するためです。これは「お客様のためにできることはすべてやる」という私たちの姿勢の一例です。
日本のお客様との対話を通じて、私たちは多くのことを学んでいますし、彼らは私たちをより高い基準へと導いてくれます。ドキュメント、製品の機能、テクノロジー、サポートプロセスなど、常にフィードバックをいただいており、それに心から感謝しています。
まとめ
ーー最後に、東京ゲームショウ2025(TGS2025)への出展も控えていらっしゃいます。今年の出展内容やブースの見どころ、そして日本のゲーム企業の担当者様へのメッセージをお願いします。
HasonTGSでお会いできることを楽しみにしています。ユーザー、デベロッパー、パートナーの皆様とお会いし、我々の製品をお見せするだけでなく、新しい機能を発表する機会もあります。PRレビューの支援、テストの高速化、セキュリティの強化と高速化、そしてゲーム開発を加速させるためのAIの活用などです。
ぜひブースにお立ち寄りいただき、直接お会いして、我々が提供できる新しい価値についてお話しできれば幸いです。
ーーありがとうございました!
同社の日本法人であるインクレディビルドジャパンは、幕張メッセで2025年9月26日(木)から開催される東京ゲームショウ2025にて、ホール9「ビジネスソリューションコーナー」にブースを出展予定です。残念ながらHason氏自身は会場に来られないそうですが、Hason氏が語る開発の未来像と、それを実現するソリューションの現在地を、実際にその目で確かめてみてはいかがでしょうか。
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