ゲームのグローバル展開において、各国の法規制、税務、そして多様な決済文化への対応は、開発者が直面する大きな課題です。
2025年7月23日(水)に開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2025」にて、Xsolla Japanの丁珍(ジョン・ジン)氏が登壇。「日本から世界へ『収益を最大化するためのグローバル決済戦略』」と題したセッションで、これらの課題を包括的に解決する“Merchant of Record (MoR)”モデルの重要性を解説しました。本稿では、開発者が本来のゲーム開発に集中しつつ、世界市場での収益を最大化するための具体的なアプローチについてレポートします。
ゲームの海外展開、その裏側に潜む複雑な課題
ゲームを世界中のユーザーに届けるグローバル展開は、大きなビジネスチャンスであると同時に、多くの障壁が伴います。特に、国や地域ごとに異なる決済手段、複雑な税制、法規制への準拠、そして巧妙化する不正決済への対策は、開発スタジオにとって大きな負担となり得ます。
本セッションで登壇したXsolla Japanのジョン・ジン氏は、これらの課題を解決する鍵として、同社が提供する“Merchant of Record (MoR)”モデルを紹介しました。MoRとは、開発者に代わって「公式な販売主(売主)」となり、決済処理から税務、法務、さらにはカスタマーサポートに至るまで、販売に関わるあらゆる責任と実務を代行する事業社を指します。

ジョン氏は、「開発者の皆様が複雑な責任から解放され、ゲーム開発そのものに集中できる環境を整えることがMoRの最大の価値である」と述べ、包括的なパートナーシップの重要性を強調しました。
成功の鍵は「ローカル決済」への深い理解と対応
グローバル市場と一括りに言っても、ユーザーの決済習慣は国によって大きく異なります。ジョン氏が提示したデータによると、世界の主要市場ではユーザーの50%以上がクレジットカード以外のローカル決済手段を希望しているといいます。
日本: コンビニ決済、キャリア決済、「PayPay」などのQRコード決済が主流。
韓国: 「カカオペイ」や「トスペイ」といった独自の決済サービスが広く普及。
中国: 「アリペイ」や「WeChat Pay」が決済インフラの中心を担う。
ジョン氏は「これらのローカル決済に対応しないだけで、大半のユーザーを取りこぼすことになる」と指摘。Xsollaでは1,000種類以上の決済手段に対応し、言語や通貨、UIの最適化まで含めたローカライズされた決済体験を提供していると説明しました。さらに、ユーザーの行動パターンから最適な決済手段を自動で上位表示する「PayRank」アルゴリズムの導入により、コンバージョン率の向上に貢献している事例も紹介されました。

不正決済とチャージバックのリスクから開発者を守る
オンライン決済において、不正利用やチャージバック(支払い拒否)は避けられないリスクです。これらは直接的な金銭的損失だけでなく、対応に多大なリソースを割かれるという問題も引き起こします。
エクソーラでは、不正取引を99.9%防ぐシステムを構築しており、その対策は以下の「三本柱」で構成されているとジョン氏は説明します。
プロトコルの最適化: 取引プロセス自体を最適化し、不正が介在しにくい仕組みを構築します。
AI検知と人的審査の組み合わせ: AIによるリアルタイムの不正検知に加え、専門スタッフが人の目で最終確認を行うハイブリッドな審査体制を敷いています。
不正ユーザー情報の共有: 過去の不正利用者のデータをデータベース化し、新たな取引の際に照合することで、再発を未然に防ぎます。

ジョン氏は、これらの多層的なアプローチによって、巧妙化する不正手口から開発者を守っていると強調しました。万が一チャージバックが発生した場合も、開発者に代わって異議申し立てなどの対応を行い、66%という業界でも高い勝率を維持しているとのことです。これにより、開発者は煩雑な手続きから解放され、安心してビジネスを継続できます。
Appleの外部リンク解禁がもたらす新たな収益機会
セッションでは、近年の大きなトピックである「Apple対Epic Games」の裁判結果にも言及されました。2025年4月の米国での判決により、iOSアプリ内から外部決済ページへのリンク設置が正式に認められたことは、業界に大きな変化をもたらしました 。
ジョン氏は、この変更により、開発者は最大30%に設定されているプラットフォーム手数料を、最大25%削減できる可能性があると分析。自社のWebショップへ直接ユーザーを誘導することで、収益性を大幅に改善し、その利益をさらなるゲーム開発に再投資するという好循環を生み出せると述べました。MoRモデルを活用すれば、この新たな収益機会を、コンプライアンスを遵守しつつ安全に最大化できると強調しました。
まとめ
本セッションは、ゲームのグローバル展開が単に面白いゲームを作るだけでは成功できない現実と、その解決策を明確に提示するものでした。決済、税務、法規制、不正対策といった、専門性が高く煩雑な業務を“Merchant of Record (MoR)”というパートナーに委託することで、開発者は本来の創造的な活動にリソースを集中できます。
ローカル決済へのきめ細やかな対応や、Appleの規約変更といった新たなビジネスチャンスを的確に捉えることが、今後のグローバル市場での収益最大化に不可欠となるでしょう。海外展開を検討、あるいは課題を抱えるデベロッパーにとって、決済戦略の重要性を再認識させられる示唆に富んだ講演でした。