東京ゲームショウで日本でも初お目見えとなったハイエンドモデルPlayStation 4 Pro(以下、PS4 Pro)と、コンパクトな新型PlayStation 4(以下、PS4)。新型PS4が9月15日、PlayStation VR(以下、PS VR)が10月13日、PS4 Proが11月10日、と発売が続きます。これらに内制ソフトを供給する開発責任者が、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオの吉田修平氏。発売を前に合同インタビューが行われました。◆PS VRとPS4 Proの組み合わせでVR体験がよりリッチに――ついにPS4 Proが発表されました。4Kテレビに出力されたHDR映像を拝見して、SDRとの違いに驚きました。吉田:PS4のタイトル群に対してHDR(ハイダイナミックレンジ)とSDRの映像をその場で切り替えるデモをメディア向けにお見せしました。4Kにもなると、SDRだけでも綺麗だなと感じられると思いますが、HDRになると急にディティールの深みが増して、ビックリします。それまで脳内補完してたのかというくらいです。――発表されて間もありませんが、PS4 Proと新型PS4の手応えはいかがですか?吉田:新型PS4は価格が安くなって小さくなりました。違いがわかりやすいですよね。「待っていました」というお客様も多いと思います。特に日本はこれからソフトウェアのラインアップが充実してきます。ソフトラインアップの増強とハードのリフレッシュが同時におきるという、非常に良い形です。ライセンシー様のおかげで、これが実現できたのは、とてもありがたいですね。PS4 Proは先日ニューヨークで開催したイベント「PlayStation Meeting」に来ていただいた方であれば、さまざまなデモを通して、違いをご理解いただけたのではないかと思います。ただ、ライブストリームでご覧になられた方だと、デバイスの画面がまちまちなので、違いがよくわからなかったのではないでしょうか。ここは伝えることの難しさを感じています。――4Kテレビの購入者層はまだまだ少ないのでは?吉田:実は4Kテレビでなくても、タイトルによって、かなりビジュアルに違いが出てくるんです。特にPS VRとPS4 Proの組み合わせがオススメです。もともとPS VRのスペックはPS4に最適化しています。その上でPS4 ProはGPUだと2倍以上のパワーがありますから、レンダリング解像度を上げたり、追加のグラフィックエフェクトを入れたりと、さまざまな工夫をゲーム開発者が進めています。そうすると、同じPS VRでもさらに綺麗に見えるんです。そのためPS VRをよりい高品質で楽しみたい方は、PS4 Proとあわせて購入される、あるいはすでにPS4をお持ちであれば買い増しされることをオススメします。――なるほど。特に日本は家が狭いですから、PS4 ProはPS VR用途で購入される方が多いかもしれませんね。吉田:VR用途で開発したわけではありませんが、私も実際にビックリしていますよ。――その一方で、いよいよPS VRも来月発売ですね。今月末に追加の予約ができるということですが、初速の反響は如何ですか?吉田:予約をとると世界中ですぐに掃けてしまうので、ちょっと需要に対して追いついていない感じです。ただ、予約方法はお店によって異なりますが、すべての台数を予約に回されるわけではないと思いますので、発売日当日に購入できるお店もあるのではないでしょうか。発売後も製造数を増やす努力をしていますので、できるだけ早く需要に追いつきたいですね。タイトルもすごく充実していて、社内でも「これはすごい」「あれはすごい」と、盛り上がっています。――ローンチタイトルはどれくらいの数ですか?吉田:E3の時は年内50タイトルなどと言っていましたが、最終的にはまだ調整中です。弊社タイトルは予定通りに出せそうですが、ライセンシー様のタイトルもありますので。また国内以外に欧米タイトルでも、いっぱい良いものが出てきます。中にはローカライズや、日本でのパブリッシャーが決まってないものもありますので、海外から遅れて発売されるものもあるかと思います。◆パノラマビデオに期待する点とは――ゲーム以外のコンテンツも増えましたね。吉田:360度動画が楽しめる、いわゆるパノラマビデオなどですね。もともとビデオコンテンツはVRにおいても、すごく重要だと思っていました。VRの楽しさにはリアルタイムでインタラクションができることもありますが、パノラマビデオでもある程度、そこにいる感覚は得られますし、制作コストも抑えられます。映像であればライブストリームもできますので、ゲームよりライブ感やスピード感もありますからね。――タイトルの増加が期待できると。吉田:そのとおりです。PS VRをゲーム用途で買われたお客様でも、毎日VRを楽しみたい。または家族の他の方も楽しみたい。そういった動機づけにビデオコンテンツはなると思います。実際、パノラマビデオを配信されているサービスがアメリカを中心に増えていますし、そういったところにはクライアントソフトをPS VR向けにも作っていただけるように働きかけています。PS VRだと同じコンテンツでも120フレーム/秒で綺麗に見られるといった具合にしていきたいですね。――なるほど。吉田:私もそれまで知らなかったんですが、世界にはパノラマビデオでオーロラの映像を現地からライブ配信したり、ゲームIPにもとづいたパノラマビデオを作成している会社さんもあります。世の中でさまざまな企業がパノラマビデオを用いたコンテンツやプロモーションに投資されてきていますね。――映像作品に対するサポートもされていますか?吉田:技術的なサポートは積極的にやっています。PS VRに最適化するために、どのようなステッチングをするか、などです。CEDECなどで弊社の秋山賢成が積極的に発表をしていますが、パノラマビデオの撮影や編集にはさまざまな技術があり、日進月歩で進化しています。できるだけそういったところと情報共有を進めて、サービスプロバイダを増やしていく方針です。それによって全体的なクオリティが上がり、コストも下がるのではないかと思います。我々自身が投資してパノラマビデオを制作しているわけではありませんが、そうした産業が盛り上がるために技術支援をしています。――パノラマビデオでは個人的に癒されるようなものを期待しています。吉田:ええ、VRで綺麗な映像を見てリラックスするという用途は確実にありますね。実際に医療現場でも痛みを伴う手術の後にVRの綺麗な映像を見てもらい、癒やし効果を提供するなどの取り組みが始まっています。実は『The London Heist』の最終版のコンテンツではパブのシーンがあり、葉巻をくゆらせながらクラシックの音楽が楽しめるんです。私も周りに人がいるのを忘れて、オフィスですっかりリラックスしてしまいました。◆VRゲームはボードゲームにも最適――その一方で発売間近ということもあり、「ゲームらしいゲーム」も増えてきました。中でもボードゲーム風味の『V!勇者のくせになまいきだR』は驚きました。吉田:最初にアクワイアさんが持ってこられたデモをみて、すぐに「これをやりましょう!」ということになりました。弊社プロデューサーの山本正美としても、『勇者のくせになまいきだ』シリーズをしばらく作っていなかったこともあり、いろいろ企画を練っていたんですよ。残念ながら良い機会がありませんでしたが、本作については一瞬で「これだ!」と思いました。――そうだったんですか。実際、VRでテーブルトップゲームを遊ぶと、これはこれでおもしろいんですよ。そこに『ゆうなま』シリーズのダンジョン内の生態系であったり、複数の場所でちょこまかとキャラクターたちが動く様を当てはめてみると、ぴったりで。ラインアップ的にもこれまでにない内容でしたし、我々もなんとかしてフランチャイズを復活させたかったので、渡りに船でした。発売はまだ先なので、もっとゲームとして深いモノになればいいなと、私も期待しています。――PS Moveは10月13日に改めて発売されますが、何か改良はありますか?吉田:いえ、ほとんどないですね。PS4に接続して充電できるように、USBケーブルが同梱されるだけです。逆に仕様を変えてしまうと互換性の点で問題が出てきますので。すでに発売済みのPS Moveをそのまま使うこともできます。――『FarPoint(仮)』のエイムコントローラーは日本でも発売されますか?吉田:積極的に検討中です。『FarPoint(仮)』は私もお気に入りです。DUALSHOCK 4でも楽しめますが、PlayStation VR Aim Controllerで遊ぶと、実際にライフルを持っている感覚がすごくて、もりあがりますよね。一人でも多くの人に体験して欲しいです。――楽しみです。吉田:もっともPS VRの秘密兵器は、実はDUALSHOCK 4かなと思っています。――どういうことですか?吉田:DUALSHOCK 4はPS4側から場所がトラッキングできて、画面上にコントローラーも表示できます。そうするとVR空間に入った時の不安感を抑えるのに役立ちますし、コントローラーでどんな操作がされているか、目で見て確認することもできます。ゲームによっては世界観にあわせて、画面上でコントローラーの形状を自由に変えられますし、タッチパッドをタッチスクリーンのような外見に変えても良いでしょうし。『V!勇者のくせになまいきだR』でも活用しています。――たしかに、『V!勇者のくせになまいきだR』ではタッチパッドによる操作が印象的でした。配下のキャラクターがカードになっていて、タッチパッド上で操作して確認できました。吉田:あれはPS VRならではの強みですね。◆PS4 Proで『トリコ』がさらに美麗になる――PlayStationCameraの形状も新しくなりましたね。小さくなって、少し丸みをおびた形状になりました。PlayStationCamera同梱のPS VRには、新旧どちらのバージョンが入っているのでしょうか?吉田:新しいモデルだろうと想定していますが、確認します。新旧どちらも性能は同じですが、スタンドがついて使いやすくなりました。 ――PS4のシェア機能はPS VRでも使えますか?吉田:PS4ゲームと同じように”SHARE”ボタンを使って配信できます。配信される映像は、ソーシャルスクリーン機能でテレビ画面に表示されるものと同じです。――市販のUSBカメラをPS4に接続して、PS VRを遊んでいるプレイヤーの姿もあわせてシェアできると、さらに盛り上がりそうです。吉田:うーん、それは確かに楽しそうですね。実際にそうした質問をいただくこともあります。ただ、我々からはなんともいえません。――話は変わりますが『人喰いの大鷲トリコ』の発売が延期されたのは残念でした。吉田:これについては申し訳ありません。実際にE3の段階では、予定通り出せると思っていました。しかし、最後の最後でバグが想定通りに減少させられず、お時間をいただくことになりました。――PS4 Proで『トリコ』を遊ぶと、何らかの違いがありますか?吉田:はい、PS4 Proで遊んでいただくと、より美麗なグラフィックスで『トリコ』が楽しめます。ただ、具体的にビジュアルがどう変わるかについては、まだ公表していません。――今後「PS4 Pro対応」といった表記は、各ソフトになされるのでしょうか?吉田:海外では「ENHANCED」というマークがパッケージにつきます。日本ではこれからご案内します。――体験会などは考えていらっしゃいますか? 「ENHANCE」の効き具合だったり、PS VRとPS4 Proを一緒に使うと、どの程度ビジュアルが綺麗になるのかといったことを、実際に知りたい人も多いと思います。吉田:それは個人的に、やったほうがいいと思っています。ただ、それがなぜできないのかというと、まさにゲームや対応パッチを作っている最中だからです。PS4 Proは11月10日発売ですので、それ以前にリリースされたタイトルについては、パッチを配信するなどの検討をしています。まだ少し時間がありますし、研究開発を進めれば進めるほど、いろいろなことがわかってくるので、ギリギリまでやろうとする方が多いんですよ。――では、11月10日の段階でPS4 Proの恩恵にあずかれるタイトルはどのくらいありますか?吉田:タイトルによって状況が変わるので、まだはっきり公表できません。ただ、PS4 Proの発売日から4KとHDRにフル対応するタイトルもありますし、その前提でマスターアップされているタイトルもあります。PS4ではなく、PS VRの話になってしまいますが、同梱のダウンロードタイトル『THE PLAYROOM VR』や、先ほど話に出た『FarPoint(仮)』もその一つです。◆VRゲームでは「狭くて深いものを作る」のも有効 ――再びPS VRの話に戻りますが、ゲーム開発者に話を聞くと、日々さまざまな「発明・発見」があり、VRゲームを作るのが楽しくて仕方がないそうです。まるで『スペースインベーダー』の頃に戻ったみたいだと、よく耳にします。吉田:はい、まさしくそのとおりですね。――そうした「発明・発見」のネタについて、少し教えてもらえませんか?吉田:意外に気づかれていないかもしれませんが、みなさん『サマーレッスン』がすごいと言われるじゃないですか。そこには先方の開発チームのすばらしい力量があるわけですが、その中でも特に、キャラクターが自分の方を見ていて、自分の動きに反応してくれる点があります。それだけで、ものすごいインパクトがあるんですよ。――わかります。吉田:ただ、このやり方はキャラクターコミュニケーション中心のゲーム以外でも使えると思うんです。PS VRではユーザーの頭がどこにあって、どちらを向いているか、常にモニタリングされています。そのためゲーム側でプレイヤーが画面のどのあたりを見ているかについても、想像がつくわけです。この特性をうまく使ってゲームに組み込むと、ものすごく効果があると思います。――なるほど。吉田:あとはNPC同士が会話をしているシーンがありますよね。普通のゲームだと素通りしちゃうような場面でも、VRだと実際にそこに人がいるように感じられるので、どんな話をしているのか、聞き耳をたてたくなるんですよ。――それはおもしろいですね。吉田:こんなふうに、VRゲームは作り込めば作り込むほど、じっくり楽しめるものになります。そのため一般のゲームでは世界や人の数を広げていきがちですが、VRゲームでは狭くても良いから密度を上げていくのも、一つの方法だと思います。――『シーマン』を思い出しました。吉田:そうですね。『シーマン』のようなゲームはVRゲームに向いた題材だと思います。私も『サマーレッスン』のようなキャラクターと、女子高生AI「りんな」のようなものが融合して、永久に会話し続けられるような世界が来ると、おもしろいと思います。「りんな」の会話は、まだその場限りの印象がありますが、自分が過去に話したことを覚えておいてくれて、次の日に会ったら「昨日はどうだった?」みたいな話をしてもらえたら、うれしいですよね。――はい、うれしいですね。◆VRゲームの発展のために業界ができること――今の話に限らず、VRは新しいメディアなので、さまざまな可能性があります。ただ、可能性が広がるがゆえに、否定的な見解を持つ人がいることも事実です。吉田:「子供がVRにハマりすぎる、みたいなことはないんでしょうか」とVRの問題点についてのコメントを求められることはこれまでもありました。ただ、一般の方がそう懸念されるのもわかります。特に親御さんは心配ですよね。結局VRは新しい道具にすぎないので我々が一緒にVRについて学びながら、VRを良いことに使って、その良さを享受できる世の中にしていくことが必要です。少なくとも一方的に「絶対に大丈夫」「絶対に危険」というようなものではないと思います。――そうですね。吉田:ただし、我々VRにたずさわっている業界の人間が、はっきりわかっていることがあります。VRは何年か経てば普通の人がいろいろな機会で、自然に使う技術になるので、避けては通れないということです。だからこそ、さまざまな懸念点に対して、心配を克服していただけるように、業界としても取り組んでいかないといけません。また、理解を深められるように、体験会などを設けたりする必要があると思います。――ありがとうございました。
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