
「来年、Xsollaが会社として最もフォーカスするのは日本市場です」
1年前、東京ゲームショウの会場でそう言い切った人がいます。ゲーム向けコマース基盤Xsolla(エクソラ)のアジア太平洋(APAC)地域統括責任者、イ・ジュヨン氏です。その力強い宣言は、果たされたのでしょうか。
「東京ゲームショウ2026」(TGS2026)、黒とシアンに彩られたXsollaブースの商談席で再会した同氏は、開口一番「非常に順調でした」と振り返りました。ただ、その理由は「日本に注力したから」という単純な話ではありません。各国で一斉に動いた規制、海外で再燃した日本IPの人気、そして「ゲームの寿命が延びた」というプレイヤー行動の変化……。この1年、APACの現場を走り続けた同氏の目に、アジアのゲームコマースはどう映ったのでしょうか。
「いまは、ローンチ戦略に最初からWeb Shopを組み込む時代です」。取材の途中で飛び出したこの言葉は、海外展開を考えるすべての事業責任者への問いかけでもあります。規制の変化がパートナーを動かした背景から、東南アジア・インドといった成長市場の実像、値引きに頼らないWeb Shopの設計思想、そして日本のパブリッシャーへの率直なメッセージまで、たっぷりと語ってもらいました。
なお、日本市場の現在地と、攻略メディア「Game8」との協業の狙いは、Xsolla Head of Japanの國分英孝氏とゲームエイトへのインタビュー記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
「規制の変化が、パートナーのモチベーションになった」―この1年の総括
――昨年に続いてのインタビューになります。まず、この1年を振り返っていかがでしたか。
イ・ジュヨン氏(以下、敬称略):全体として非常に順調に進んだ1年でした。特に日本の事業が大きく成長しており、日本オフィスの責任者も新たに配属されました。その組織を率いているのが、國分英孝です。
――昨年は「日本市場に注力する」と宣言されていました。それが実際にうまくいった要因は何だったのでしょうか。
イ・ジュヨン:私たちなりに分析してみると、最初は時間がかかったものの、日本のパートナー各社が非常に積極的に取り組んでくださったことが大きいと思います。その結果、想定よりも早く盛り上がりを作ることができました。

背景にあるのは規制の変化です。ここ数年で各国の規制が大きく動き、私たちが提供できるサービスの幅が広がりました。それを知って、パートナーの側から「こういうことはできないか」と相談してくださったり、私たちを探して来てくださったりするケースが増えています。規制の変化が、確実にパートナーのモチベーションにつながっているといえるでしょう。
もうひとつ、日本のIPが海外のユーザーから改めて高い人気を集めていることも要因です。日本のIPを使ったゲームは海外で強く、そこにWeb Shopを組み合わせると成果が出る。ひとつのタイトルで成功事例ができると「別のタイトルでもやりたい」「海外でうまくいっているのだから、もっと使おう」という話がどんどん広がっていきました。
「ゲームの寿命が延びた」―APACのユーザー行動の変化と、東南アジアの実像
――昨年は日本以外にも、東南アジアやラテンアメリカ、中東といった新興市場やD2Cの強化を挙げられていました。この1年での変化はありましたか。
イ・ジュヨン:実はWeb Shopは、もともとクレジットカードの利用率が高くない国でこそうまくいっていた仕組みです。カード以外の多様な決済手段を用意できることが、こうした市場では最初から強みでした。そこに各国の規制の変化が重なり、Web Shopを使うパートナーとユーザーの両方が増え続けている、というのがこの1年の実感です。
――ユーザー側の行動には、地域ごとにどんな違いがありますか。
イ・ジュヨン:APAC全体で共通しているのは「ゲームの寿命が延びた」ことです。以前のモバイルゲームは1~2年で次のタイトルに移るのが普通でしたが、いまは同じゲームを長く遊び続け、課金し続けるユーザーが増えています。
そのうえで地域差を見ると、日本・韓国・中国は比較的似ていて、競い合いながら課金するユーザーが多い市場です。一方、東南アジアは人口が多い分、ユーザー1人あたりの課金額はまだ小さい。ただし、ユーザー数も課金額も明確に伸びています。かつてはハードウェアが高価でPCやオンラインゲームがあまり普及していなかった地域ですが、モバイルの普及によってゲーム人口が一気に増えました。年齢層が若く、プレイヤーの層が厚いので、1人あたりの課金額は小さくても、全体の売上としてはしっかり積み上がる市場です。
「値引きではなく、Web Shopならではの価値を設計する」―地域別に気をつけるべきこと
――日本のパブリッシャーがWeb Shopやアプリ外決済を始めるとき、地域ごとに何に気をつけるべきでしょうか。
イ・ジュヨン:最大の注意点は、規制がほぼリアルタイムで変わり、しかも国ごとにまったく違うことです。「この国では可能」「この国では不可」という線引きが頻繁に動きます。私たちはもちろんサポートしますが、法的に「必ずこうすべきだ」と断言できる立場ではありません。パートナー側でも、変化を継続的にチェックする体制は持っておいたほうがいいでしょう。

もうひとつは、ユーザーの動きです。ユーザーは自分にとって少しでも有利な場所に集まり、そこで決済します。ですから、他の購入経路と比べて「ここで買うほうが得だ」と感じてもらえる差別化は欠かせません。ただし、単純に「何%安い」と打ち出すやり方はお勧めしていません。Web Shopでしか手に入らない特典をパッケージ化するなど、ゲーム本体の価格体系には手を入れずに、Web Shopならではの価値として見せる設計が重要です。
Xsolla特集ページはこちら!「コンプライアンスはXsollaが、意思決定はパートナーが」―MoRとガイドラインの役割分担
――各国の規制に個別対応するのは大変です。Xsollaを使っている企業は自社で対応しているのでしょうか。それとも、マーチャント・オブ・レコード(MoR)としてXsollaに任せきりにしているのでしょうか。
イ・ジュヨン:私たちはガイドラインを提供し、規制の影響をできるだけ受けにくいサービスの形をお勧めしています。ただ、最終的な決定権はあくまでパートナーにあります。「どうしてもこのサービスを提供したい」という意向があれば、その判断に沿って必要な情報を共有します。
整理すると、決済や私たちが提供するサービスに関するコンプライアンスはXsollaが担います。一方で「どんなサービスを、どう提供するか」を決めるのはパートナーです。私たちは規制が変わるたびにガイドラインを更新し、判断材料を提供し続ける、という役割分担です。
――パートナーの規模によって、支援の仕方は変わりますか。
イ・ジュヨン:複雑なサービスを展開する大手には、最初から戦略的なプランを一緒に立て、規制のアップデートを随時共有しています。一方で小規模なパートナーには、パブリッシャーアカウント上で情報を更新し、ご自身で状況を把握できるようにしています。最近はサービスの中にAIを組み込み、各パートナーに合った機能や打ち手を推奨する仕組みも進めているところです。
「年末までにWeb Shop比率を上げる」がパートナー共通の目標に
――アプリ外、つまりWeb Shopで購入するユーザーは、実際に増えているのでしょうか。
イ・ジュヨン:私たちの基準で見る限り、Web Shop経由の決済比率はかなり上がっています。もちろん、パートナーの売上全体を私たちがすべて把握できるわけではないので「市場全体でどうか」までは言えません。ただ、私たちと一緒に取り組んでいるパートナーは、ガイドラインに沿って運用することで売上を大きく伸ばしています。
重要なのは、アプリの中だけで完結する売り方から、ユーザーが外でも買える状態をつくることです。実際、「2026年末までにWeb Shopでの決済比率を上げる」ことを今年の目標に掲げているパートナーが非常に多くなっています。

――成果が出ている具体的な取り組みがあれば教えてください。
イ・ジュヨン:たとえば米国では、日本よりも早くアプリ内決済への依存が下がっているため、Web Shopから発生する売上が大手プラットフォームを上回るタイトルも出ています。すべてのタイトルで順調に成果が出ている印象です。日本でも、一部のタイトルだけで試すのではなく、全タイトルでWeb Shopを使えるようにして全体の売上を底上げしたパートナーがいます。
ローンチ戦略に、最初からWeb Shopを組み込む
――取り組み方そのものに変化はありますか。
イ・ジュヨン:大きく変わりました。以前は、プラットフォームでゲームをローンチすること自体が目的で、リリース後に私たちのところへ来て「次は何をすればいいですか」と相談されるのが一般的でした。いまは、ローンチの段階からWeb Shopを戦略に組み込むパートナーが増えています。「ゲームを出す」と「Web Shopを立ち上げる」を別々に考えるのではなく、ローンチ戦略の一部として最初から設計するのです。
――リリースと同時にWeb Shopも立ち上げる、という形が理想でしょうか。
イ・ジュヨン:同時に立ち上げられれば一番よく、私たちもできるだけ早くと推奨しています。ただ、現実にはゲーム本体のローンチが最優先で、時期を合わせきれないケースも少なくありません。ゲームがうまく立ち上がって初めてWeb Shopの売上も生まれるので、少し間を空けてローンチ後にWeb Shopを立ち上げるパターンがいまは最も多いですね。
インド市場は「簡単ではないが、確実に大きくなっている」
――日本でもインド市場への関心が高まっています。インドを攻略したい企業にアドバイスはありますか。
イ・ジュヨン:私自身、来月またインドへ行きます。決して簡単な市場ではありませんが、市場そのものは着実に拡大しており、大手企業との事業の話も増えています。
攻略の鍵は、現地パートナーの選び方です。規制が多い地域なので、現地の当局や商習慣をきちんと理解している信頼できる大手を選ぶこと。そして、すでにインド市場に入り込んでサポートできる会社を活用することです。Xsollaはインドに進出して4~5年になり、ありがたいことに現地パートナーと多くの仕事をしています。現地との直接の連携も準備中で、パートナーが自社のリソースをすべて投入して単独で乗り込むのではなく、私たちのような会社を通じて戦略的に入っていける形を整えているところです。
「小さなタイトルでいい。まず一度、海外を試してほしい」
――最後に、これから海外展開を考える日本のパブリッシャーへ、メッセージをお願いします。
イ・ジュヨン:日本は国内である程度成功できてしまう市場なので、海外に対する"免疫"がまだ高くない企業が多いと感じます。でも不思議なもので、一度やってみると前向きに進めていく方が本当に多い。ですから、まだ日本市場だけで戦っている方には、まずは挑戦してみることをお勧めします。

最初から大きく構える必要はありません。小さなタイトルで構わないので、私たちのような会社と組んで、生のデータを重ねながら粘り強くチャレンジしていただければと思います。日本のユーザーさんは真面目で、実績も豊富です。必ず世界で受け入れられるゲームを提供されているので、まずは私たちのようなパートナーと一緒に海外へ出て、慣れてきたらご自身で直接展開すればきっと新しい世界が見えるはずです。
イ・ジュヨン氏の話を聞き終えて残ったのは「日本がうまくいった」という安堵よりも、次の1年への問いです。規制は今日も動き続け、パートナーの目標は「年末までにWeb Shop比率を上げる」に置き換わり、ローンチの計画にはWeb Shopが最初から組み込まれるようになった。海外展開を「いつか」と後回しにしてきた日本のパブリッシャーにとって、その「いつか」は思っているよりずっと近くまで来ているのかもしれません。
「小さなタイトルでいい。まず一度、海外を試してほしい」。取材の最後に同氏が残したこの言葉は、日本のゲームを世界で"当たり前に"売るための、いちばん現実的な第一歩の示し方だったように思います。次にジュヨン氏と会うとき、この記事を読んだ誰かのタイトルが、その一歩を踏み出した事例として語られていることを期待したいところです。
日本市場における取り組みと、攻略メディア「Game8」との協業の狙いは、Xsolla Head of Japan 國分英孝氏×ゲームエイトのインタビューをあわせてご覧ください。(後日掲載予定)
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