
2026年、『ポケットモンスター』は30周年という節目を迎え、世界中で様々なイベントや商品展開が計画されています。世界中で人気のコンテンツですが、インドにおけるポケモンの知名度がどれほどか、ご存じでしょうか。
結論から言うと、知名度はそれなりにあります。ストリートチルドレンや貧困層もポケモンの絵を道に描いていたりするほど、浸透しているといえるでしょう。
2026年1月にリリースされたアーシャド・カーン(Arshad Khan)というアーティストの新曲、その名も「Peekachu(ピーカチュウ)」は、ミュージックビデオに怪しげな偽ピカチュウが映り込んでいるし、インドでもピカチュウの綴りは、英語圏と共通した“Pikachu”ですから、明らかに許可をとっておらず、タイトルからしてごまかしてありますが、誰がどう見ても、これはピカチュウです。ただ、それだけではなく、インドでは、ポケモンのアニメ主題歌やオリジナルラップ動画などが溢れていて、2016年にもシマー・ギリ(Simar Gill)によって、「Pokemon」というバングラ・ソング(パンジャブ語の歌)がリリースされています。
テレビアニメ自体はケーブルテレビを通して、2014年から放送されており、近年ではインターネットが圧倒的に普及したことで、ポケモン関連の動画を観て知っているという人も珍しくありません。世界に向けた子供向けYouTubeチャンネル「Pokemon Kids TV」でもヒンディー語対応の動画がいくつか配信されています。
ところが、それはゲームというよりもキャラクターとしての人気です。
今や日本のコンテンツは配信サービスを通じて、爆発的人気となっており、路面店でもフィギュアが普通に売られているほど。
2011年から始まったデリー・コミコンは、当初はハリウッド映画やアメコミなどの展示物が多かったのですが、今ではジャンプ系作品や「進撃の巨人」、「葬送のフレーレン」といったアニメの展示物やグッズ販売ブースが急速に増え、ほかの開催地、ベンガルール、プネー、チェンナイ、ジャイブール・コミコンにおいても、同様の現象が起きています。
配信サービスが普及する以前から、日本のアニメはケーブルテレビで放送されたこともあり、知名度自体はありました。「ドラえもん」や「キテレツ大百科」、「21エモン」も放送されており、「忍者ハットリくん」にいたっては、人気すぎて2012年にインドオリジナル続編「NINJA ハットリくん リターンズ」が制作されたほどで、今は「おぼっちゃまくん」のオリジナル続編が制作されています。
言ってしまえば、2010年代前半までは、テレビ局の業務提携やバイヤーの匙加減で輸入されてくるコンテンツは限られていました。稀にそのなかで「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のような、日本ならではのネタが詰まった、海外ウケが絶望的な作品がインドで人気を博すといったレアケースもあったわけですが……。
ところが近年は、NetflixやAmazonといった大手から、日本の出版社やアニメ制作会社が立ち上げた独自の配信サービス等の普及で、ユーザー側が自由に選べて、しかもタイムラグもほとんど無い状態で、日本のアニメを視聴できるようになりました。
「クレヨンしんちゃん」の映画「クレヨンしんちゃん 超華麗! 灼熱のカスカベダンサーズ」が制作されたのは、スタッフが「RRR」(2022)にハマったことがきっかけではありますが、インド国内で拡大公開されたのは、配信サービスの影響で日本のアニメ自体の需要が高まり、その映画版が劇場で上映される環境とサイクルが、コロナ禍以降のシネコンで拡大していったからです。
今では「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来」や「チェンソーマン レゼ篇」といった世界的に大ヒットした作品も安定して配給されるようになりました。2025年には「クレヨンしんちゃん」、「鬼滅の刃」、「チェンソーマン」の3作品が同時期に公開されたことから、インドのシネコンで日本のアニメばかり上映されている現象になったほどだそう。さらに「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ」(2022)や「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE」(2023)などのような通好みの作品も上映されています。
つまり、今のインドは、日本のコンテンツを流行らせるには、これ以上ない環境下にあるといえますし、これからこの市場はさらに拡大していくでしょう。
そこで株式会社ポケモンは、本格的にポケモンをインドに進出させようと、2023年に「インドマーケティング室」が発足しました。今まで通り、キャラクターとしての認知度を高めるのは大前提としながら、『ポケモンGO』などのアプリ展開強化、ポケモンカード含むグッズ販売、タイアップ、イベントの開催など、積極的なアプローチを行うことにしたのです。
2024年には、アニメの新シリーズが放送されるタイミングで、インドのユーザー向けに、「PATHAAN/パターン」(2023)や「WAR ウォー!!」(2019)など、日本公開された作品の楽曲も多く手掛けており、インド映画界ではトップレベルの知名度を誇る、ヴィシャール・ダッドラニとシェーカル・ラヴジアーニーによる、ユニット“ヴィシャール=シェーカル(Vishal Shekhar)”によって、インドオリジナル・テーマソングが制作されました。さらにアルマーン・マリク(Armaan Malik)と、女優としても活躍する親日家のシャーリー・サティア(Shirley Setia)という有名アーティストが参加したことからも、本気度が伝わってきます。
言語の問題はあるにしても、アニメのように、誰もが観れるものとして、ポケモンを浸透させるのは、それほど難しいことではないのは、インドユーザーたちの反応からも伝わってきますし、誰もがスマートフォンを持っている時代なので、『ポケモンGO』が人気になるのも必然といえます。実際に大規模なイベントを行っても、多くの人を集めています。
ちなみに『ポケモンユナイト』のアジア頂上決戦「Pokemon UNITE Asia Champions League 2026 FINALS」には、複数のインドチームが参加しています。
ほかにもショッピングモールのイベントやクリケットチームとのコラボ、ヤクルトやマクドナルドといった企業タイアップなど、様々なメディアや媒体を通して、ポケモンというものが目に触れる機会は確実に増えています。
そして2025年1月、さらにポケモン事業を活性化させようと、インド・ヒップホップ界の帝王バードシャー(Badshah)と、映画の主題歌から独立曲まで、大注目の若手シンガーのシャーヴィ・ヤダフ(Sharvi Yadav)によるキックオフ・ラップソング「Imma Be Your Pokemon」がリリースされました。
ピカチュウやプリン、リザードン、ミュウといったお馴染みのキャラクターから、おそらく孔雀っぽいという理由でのウェーニバルやヨガパワーを持っているチャーレム、神の使いとされている猿をモチーフとしたサルノリのように、インドに生息していそうなポケモンも登場させているのが特徴的です。
シンプルにラップソングとしてのクオリティが高いのですが、気になるのは、冒頭でバードシャーがスイッチでゲームをプレイしていることです。この頃、インドではスイッチは、手に入らないわけではなかったのですが、正式に流通していませんでした。
筆者がこのMVを観たとき、インドでもスイッチ2の販売開始に合わせて正式展開させる暗示だと思っていたました。実際に2025年6月頃からインド市場に出始め、今まで以上にゲームショップなどでも見かけるようになっていて、多く出回っているようです。
ただ、これも任天堂直通というわけではなく、輸入業者を通して、イギリスや中国経由で仕入れているため、スイッチ2が10~11万円程度で販売されていたりと、かなり高額なゲーム機になっています。それならば、PS5やXboxを購入しようという人が圧倒的多数ということもあり、普及に歯止めがかかっています。
ただ、将来的に流通の問題が解決できれば、ポケモン以外にも『スーパーマリオ』シリーズや『ゼルダの伝説』シリーズなどのように、多くのキラーコンテンツもあるわけですから、一気に普及する未来は、それほど遠くないようにも感じられますし、そのために、ポケモンで市場基盤作りをしていると考えると、任天堂のインド市場も背負っているといえます。
グッズ展開という側面から、例えばインドにおけるポケモンカード市場を見てみると、日本のように転売が原因ではなく、関税の問題で高額になり過ぎてしまい、一般的普及が難しい現状に立たされていることがわかります。
そもそもカードにお金をかけられるのは、富裕層か中間層ぐらいで、カードゲーム自体が普及しておらず、「遊戯王」や「マジック:ザ・ギャザリング」といったものもインドでの知名度は限定的。何かのおまけで付いてくるものを集めることはあったとしても、カード自体にお金をかけて集めるというのは、かなり少数派です。
良いこととは言いづらいのですが、そんな環境のなかでも、ポケモンカードに関しては安価な偽物が出回っていて、Amazonなどのネット通販でも普通に売られています。つまりニーズ自体は多少あるものの、爆発的なブームは、現状として難しいかもしれません。都会に限っては流通の仕方にもよりますが、インド全土でヒットさせるのは地方の経済発展がもう少し進まない限り、不可能に近いです。
株式会社ポケモンとしては、向こう10年のスパンで考えているようですが、知名度の構築はすでに出来上がってきています。しかしグッズ展開に関しては、それとは比例しない部分もいくつかあり、ハードルが多いのも納得できます。
ただでさえ日本アニメのグッズが溢れ出している状況下で、ポケモンが抜きんでるには何をしていくべきなのかは、もっと入念に計画していく必要があるでしょう。一般的な物価に合わせたインドオリジナルのポケモンカード展開や、例えばアメリカ市場向けに制作された「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ 光のピラミッド」(2004)のように、インドオリジナルのアニメ映画を制作するというのも、ひとつの方法かもしれません。
ポケモンのアニメ映画は「ポケットモンスター ココ」(2020)以来、制作されていないこともあり、世界的にもそれなりのインパクトになるはずです。
まだまだ未知数な部分は多いですが、これからおもしろい動きがあるような予感もしています。今後のポケモンの動向から目が離せません!!
※UPDATE:記事中の年号を修正しました。







