『たろうくんはいってきました』は、失踪した配信者「タロー」が残した動画をめぐるメタホラーゲームです。
プレイヤーが目にするのは、アングラな動画サイトに残されたタローの映像。しかし、その動画をただ眺めるだけでは最後まで再生することはできません。映像の中で気になった情報をWeb上で調べ、そこで得た手がかりをもとに再び動画を見る……。映像と検索を行き来しながら、失踪したタローに何が起きたのかを追っていきます。
本作を開発するのはBeforeHomeWorks。そしてパブリッシングを手掛けるのは、ホラー領域でさまざまな企画を展開してきた株式会社闇が立ち上げたゲームレーベル「YAMI GAMES」です。
本記事では、『たろうくんはいってきました』のデモ版をプレイしたうえで、BeforeHomeWorksの松明氏、T氏、YAMI GAMESの藤田翼氏にインタビューを実施。本作が生まれた経緯や「メタホラー」というジャンルに込めた狙い、開発中に行われた大幅な作り直しについて聞きました。
さらに後半では、株式会社闇がなぜゲーム事業へ乗り出したのか、YAMI GAMESがクリエイターの作家性とどのように向き合っているのかなど、レーベルの今後についても伺っています。
――まず、『たろうくんはいってきました』という作品が生まれた経緯について教えてください。
松明氏:もともとは僕たちがプライベートで作っていたゲームで、3~4年くらい前から制作を始めていました。
その頃から「洞窟を脱出する弱小配信者が主人公」という部分と、「動画投稿サイトに投稿された動画を再生していく」というコンセプトはあって、それをもとにプロトタイプを作っていました。
しばらく制作を続けたあとに、株式会社闇さんがゲーム企画の公募をされていたので、そこへ応募しました。そこから闇さんとお話する機会をいただいて、一緒にブラッシュアップしながら企画を作っていきました。
――本作では、一人称視点で進んでいくホラーゲーム部分だけでなく、Web上に散らばった情報を調べるようなパートもあります。こうした二軸のゲームシステムにした狙いを教えてください。
松明:一番最後にやりたかった「オチ」があるんですが、そのオチだけをいきなり出してしまうと、普通の一人称視点のホラーゲームとして遊んでいた場合には、少し唐突に感じてしまうと思ったんです。プレイヤーとしても、納得感があまりないだろうと。
そこで、まず「プレイヤーが動画を見ている」という構造にして、その動画の合間にWebを検索するシステムを入れました。
そうすることで、最後の展開に対しても違和感なく、すんなり納得できるようにしたいと思って、この2つの要素を組み合わせた形になります。
――本作は公式に「メタホラー」とジャンル付けされています。制作チームが考える「メタホラー」とは、どのようなものなのでしょうか。
藤田氏:「メタホラー」と決めたのは僕なんですけど、メタフィクション的な部分ですね。ゲーム内で起きている出来事だけではなく、よりゲームを遊んでいるプレイヤー自身を脅かしに来るような演出やギミックがあります。
タローくんの様子を見て怖がるというのは、言ってしまえばひとつの段階でしかありません。ゲームを進めていくと、もっと自分自身を怖がらせに来るようなゲーム性になっている。
なので、今回はあえて「メタフィクションホラー」という意味合いで、「メタホラー」とジャンル付けしました。
――そういった意味では、公式サイトもこちら側へ干渉してくるというか、タローが利用していた動画サイトのような作りになっています。本編の外側にあるWebサイトなども含めて、ひとつのホラー体験として設計しているのでしょうか。
藤田氏:ゲームを開発していく中で、「『たろうくんはいってきました』って、こういうコンセプトのゲームなんだろうな」というものがある程度見えた段階で、僕の方でWebサイトを用意することになりました。
そこで、ゲーム本編に近い体験を、Webサイトから簡単にできたらいいなと思ったんです。YouTubeのような動画サイトを模したページから実際のWebサイトへ飛んで、そこから少しずつPCがおかしくなっていくようなものを用意しました。
――では、本編外のWebサイトはゲームの謎そのものに絡んでくるわけではなく、プロモーションとして用意されたものなのでしょうか。
藤田氏:そうですね。本作のコンセプトをお伝えするためのもの、という位置付けです。
――実際に映像を見る、一人称視点でゲームを進める時間と、Web上で情報を探していく時間では、恐怖の方向性がかなり違うと感じました。この2つを行き来させるうえで意識していることはありますか。
松明:映像を見ている瞬間は、わりと視覚的な恐怖を意識しています。一方でWebページの方では、「意味が分かると怖い」とか、「考えてみると怖い」という方向を意識しています。
ただ、そこで2つのパートを完全に別物にするのではなくて、映像で見た情報が検索パートで分かったり、逆に検索パートで見た情報が映像の中で分かったりするような相互作用を入れています。
動画と検索パートが独立したものではないと感じてもらえるように、2つの繋がりを意識することで、緊張感を切らさないようにしています。
T氏:検索パートでは動画内のたろうくんとしてプレイしているわけではなく、画面の前の視聴者自身が調べている体なので、現実の検索エンジンに近い操作感や見た目を再現し、より現実的な検索体験となるようにして現実とゲームの境界が曖昧になるよう意識しています。


――デモ版の公開後、プレイヤーから特に印象的だった反応や、開発側が予想していなかった反応はありましたか。
松明:タローくんが意外と受け入れられたことですね。
僕たちとしては、もっと「うざい」と思われるようなキャラクターを想定していて、プレイヤーから多少反発されるのかなと思っていたんです(笑)。それが意外と受け入れられていて、そこは驚きました。
あとは、ゲーム内のテキストをちゃんと読んでくださる方が多かったです。「ここまでちゃんと読んでもらえるんだな」と思ったので、そのあたりもちゃんと作り込まなければいけないなと感じました。
――タローが思った以上に受け入れられたというお話がありましたが、それは開発側として嬉しかったのでしょうか。それとも、もう少しヘイトを集めるキャラクターにしたかったのでしょうか。
松明:もともと、ひどい目には遭ってほしかったんですよね(笑)。なので、愛着を持たれると「ひどい目に遭わせすぎたらいけないかな」と思う部分もありました。
ただ、それも含めて受け入れてもらえたこと自体は嬉しかったですし、その方が何か起きた時に余計ショックを受けてもらえるのかなとも思います。なので、結果的には良かったと思っています。

――本作の開発において、特に大きな障壁になったことや、難しかった部分はありますか。
松明:プロトタイプから考えると、ゲームデザインがかなり変わっています。ほぼ作り直しに近いことをしていたので、単純な作業量もそうですし、スケジュール感という意味でもかなり大変だったところですね。
T氏:そうですね。作り直しだったり、新しく追加する要素に対して「どういうシステムを組んでいくのか」という部分は、やっぱり大変だったかなと思います。
――プロトタイプから変わった点について、もう少し詳しく教えてください。
松明:ほぼ全部ですね。コンセプトとして、「動画を見て再生して、主人公のタローくんを洞窟から脱出させる」というところ自体は一緒です。
ただ、現在ある「検索パート」は、そもそもプロトタイプの時点では存在していませんでした。洞窟自体も作り直しています。半年くらいかけて作っていたものを、10日くらいで作り直すということもやっていたので、本当にかなり違うものになっています。

――それは、最初におっしゃっていた「オチ」を軸にして、そこへ自然に繋がるようブラッシュアップしていったのでしょうか。
松明:そうですね。そのオチ自体がプロトタイプを作ったあとにできたものだったので、「そこへ違和感なく持っていくためにはどうすればいいだろう」と考えた結果、大幅に変えていった形になります。
――DEMO版をプレイしていて、映像の内容が見る人によって変わっているように感じる演出もありました。これはプレイヤーごとにルートが変化するような仕組みなのでしょうか。
松明:ゲームとして、プレイヤーごとに大きく内容が変わるということは特にありません。
あくまで設定上、「映像で詰まったところを検索して解決する」というシステムを成立させるために使っているものです。ただ、多少の演出として「何かがいたり、いなかったり」という違いがプレイヤーごとに発生することはあります。それくらいですね。
株式会社闇はなぜゲームへ?「自社IPをちゃんと作っていかないといけない」
――ここからはYAMI GAMESについて伺います。株式会社闇はこれまでWebや映像、イベントなど、さまざまな形でホラーを手掛けてきました。その中で、改めてゲーム専門レーベル「YAMI GAMES」を立ち上げた理由を教えてください。
藤田氏:「恐怖心展」だったり「行方不明展」だったり、そういった企画がある程度ヒットしていく中で、「自社のIPみたいなものを、ちゃんと作っていかないといけないよね」というのが会社全体の流れとして出てきました。
ホラーといっても、イベントやお化け屋敷のようなリアルなものだけではありません。ホラー映画にもちゃんとマーケットがありますし、ゲームにも当然マーケットがあります。
そこにもきちんと手を伸ばして、事業として作っていきたいという話があって。僕自身もゲーム方面のキャリアを持っていたので、「まずはインディーのような小さなところから何かできないかな」と考えて立ち上げた、というのが経緯ですね。
――2018年にMBSグループへ入った際にも、ゲームや映画などへの事業拡大が展望として示されていました。ゲーム事業は以前から構想されていたのでしょうか。
藤田氏:そこに関しては創業者自身が「ホラテク」を掲げていることもあり、以前からゲーム事業には強い興味を持っていました。実際、これまでもアプリゲームのシナリオ作成や、コンシューマーゲームにおけるホラー演出などを手がけてきた経緯がありますので、こういうデジタルなホラーコンテンツもやりたかったと思っています。
だんだんと、そうした挑戦ができる環境が整ってきた。弊社でいうとゲームだけではなくて、ホラー映画だったり、創業者自身が引っ張っているAI事業だったりもあります。今の株式会社闇はそうやって、いろいろな「種」をどんどん作っていこうというフェーズに入っています。
――『たろうくんはいってきました』はBeforeHomeWorks、『報連喪症候群』はウィザードトータスゲームスと、現在発表されている作品はいずれも外部の開発会社が制作しています。YAMI GAMESでは、自社開発よりもクリエイターと組んで作品を送り出す形を重視しているのでしょうか。
藤田氏:「外部と組むことを重視している」というよりは、その時々の状況や作品に合わせて座組を考えて、適切な形でゲームを作って送り出していこうと思っています。
そもそも僕たちは、ゲーム専門の制作会社ではありません。それに、インディーゲームって、すごく商業的に整っているものよりも、作家個人の思想が反映されているような作品の方を「面白い」と言ってもらえる環境でもあると思うんです。
だったら、ものすごく莫大な予算を使うという話ではなく、面白いことを考えているクリエイターさんや作家さんと手を組んでゲームを作った方が、面白いものができるんじゃないかなと。まずはそういうやり方でやってみようと思って、現在進めています。


――『たろうくんはいってきました』では、BeforeHomeWorksとYAMI GAMESはそれぞれどのような部分を担当しているのでしょうか。
藤田氏:僕は主にパブリッシャーとして、販売や宣伝などのパブリッシング業務と、それに付随するさまざまな業務を担当しています。それに加えて、恐怖演出の部分だったり、ゲームを商品として見た時に適切な方向へ軌道修正できるようなアドバイスもしています。
――株式会社闇には、イベントやWeb、映像などで培ってきたホラー演出のノウハウがあると思います。そうした知見もゲーム開発へフィードバックされているのでしょうか。
藤田氏:「怖いものをどう作るか」というところで伝えられるものは伝えていると思います。
ただ、イベントでの作り方とゲームでは、当然できること・できないことが違います。なので僕としては、開発チームが「こういうことをしたい」「こういう怖がらせ方をしたい」と考えているものを、より良くする方向でアドバイスするようにしています。
「闇流のノウハウとして、これをやってください」と押し付けているわけではありません。あくまで作家さんがやりたいことを重視しながら、それがもっと怖くなったり、もっと気持ち悪くなったりするように伝える、というやり方ですね。
――つまり、「YAMI GAMESらしさ」を前面に出すというより、クリエイターの作家性を優先しているのでしょうか。
藤田氏:基本的にはそうですし、YAMI GAMESらしさは作品数が増えた時、これから生まれていくものです。ただ、やっぱりゲームとして、商品として見た時に「もう少しここはこうしないといけない」というところはあります。
そういった部分については正直ベースでお二人にお伝えしていますし、それを開発側で噛み砕いていただいて、最終的にゲームとしてのクオリティを完成まで持ってきていただいていると思っています。
――現在はSteam向けのタイトルが発表されていますが、今後コンソールやスマートフォンなど、Steam以外のプラットフォームへの展開は想定されていますか。
藤田氏:そこは、やっぱり何かがヒットしないと難しいところかなと思います。ただ、今はSteamを使えば世界中にゲームを届けられる時代になっていると思うので、まずはSteamでの販売を先にやっていくことになるかなと思います。
――最後に、株式会社闇にとって、映画や展覧会ではなく「ゲームだからこそ作れる恐怖」とはどのようなものだと考えていますか。
藤田氏:やっぱり「インタラクティブ性」じゃないですかね。自分の操作によってゲームの展開が変わったりするというのは、ホラー映画とは違うゲームならではの部分だと思います。
そういったインタラクティブな部分をどう怖くしていくのか。ゲームでホラーを作るうえでは、そこを意識していくことになるんじゃないかなと思っています。
株式会社闇が、自社IPを生み出すための新たな領域として踏み出したゲーム事業。その一方で、YAMI GAMESは「闇らしさ」を一方的に作品へ持ち込むのではなく、クリエイターそれぞれの思想や作家性を尊重する姿勢を取っています。
『たろうくんはいってきました』は、そんなYAMI GAMESの方向性を知るうえでも興味深い一本と言えそうです。ゲームならではのインタラクティブ性を使って、次はどのような恐怖を生み出すのか。今後のYAMI GAMESの展開にも期待したいところです。
「たろうくんはいってきました」
Steam: https://store.steampowered.com/app/4595220/
公式サイト: https://gotaroukun.games.yami.net/
YAMI GAMES
公式X: https://x.com/YAMI_GamesDeath
©株式会社闇 YAMIGAMES







