さらなる表現多様化ツールへ
――2004年に発売された『XP』では、新たに「スクリプト編集機能」が追加されました。この機能で変わったものについて教えてください。
野口氏:私が最初にPCで本格的に触ったのが『XP』でした。スクリプトは本当に革命的なもので、これまでコードもプログラミングも必要なく、命令や素材を組み合わせてゲームを作れるものだった「RPGツクールシリーズ」が本作で大きく変わったんです。
『XP』では、オブジェクト指向スクリプト言語「Ruby」をベースにした独自言語「RGSS」を採用しています。RGSSは『VX』『VX Ace』でもアップデートして採用されています。
『XP』を購入した当時はプログラミングを勉強したことがなくて、マニュアルに載っていたRGSS講座を1つ1つ読み込んでいきました。その頃に、私の中に作ってみたい壮大な構想があって、それを実現するためにこの機能を使ってやろうと決意しました。何度もエラーが出て、それでも少しずつ進めて動くようになっていきました。
これまでのノーコードでゲームを作る行為だけじゃなく、そこに自分でスクリプトを併用することで、簡単に色々なジャンルのゲームも作れます。『2000』の時代にもやっている人はいますが、それは一部の高度なユーザーによる職人芸の世界です。ユーザーが1から設定して、作り上げる必要があった。
スクリプトはあくまでテキストで書かれたプログラムなので、文章で簡単に共有できるんですよ。配布してくれる人もいて、プログラミングを理解していなくても自分のゲームに取り組めるというのは、本当に革新的だったと思います。

――また違ったコミュニティの共有文化が生まれたんですね。
野口氏:スクリプト共有文化が生まれたのがこの時代です。スクリプトの導入で作れるものの表現の幅が爆発的に広がりました。『2000』『2003』では基本的に難しかった、オンライン要素なんかもできるようになったんですね。
『XP』の時代では『青鬼』『魔王物語物語』など、数々の素晴らしいゲームが作り出されました。工夫次第で、どんなゲームでも作れるようになったと思います。
一之瀬氏:『XP』でスクリプト編集機能を導入するというのは、当時の開発チームの中では葛藤があったと聞いています。それは「プログラム知識が不要」という、ツクールのコンセプトに矛盾していたからです。
採用されたことで、スクリプトは後のシリーズ作品にも受け継がれるものになったので、ここが大きな転換点だと思います。ツクールってイベントコマンドが100以上あるんですけど、どうしてもプログラムが肥大化していくんですよ。そこをスクリプトに任せることは、正しい方法だと思っています。
導入された機能では、2.5頭身のキャラクター、マップのレイヤー強化なんかもありますね。『XP』は最初に海外で大きく評価されたシリーズ作品で、ここから『To the Moon』のようなエポックメイキングな作品も生まれています。

――スクリプト機能だけでなく、元来のツクールとしても進化しているんですね。
野口氏:これは自分の思い出話にもなるんですが、以前翻訳系のお仕事を受けた時に「古いテキストと新しいテキストを比較してマージしてほしい」という依頼をいただいて。これが数万行もあるし納期も短いというもので、普通にやっていたらとてもじゃないけど間に合わない。
そこでRubyでスクリプトを組んで比較するツールを作ることにしました。作ったツールは処理が遅かったんですが、それでも納期にはギリギリ間に合ったんですよ。あくまで趣味としてゲームを作るために覚えたことが、仕事や生活に活かせたのは本当に思い出深いですね。
スクリプトの導入はやっぱりユーザー間でも賛否があって、当時私はいちユーザーとして色々なフォーラムで議論されているのを見ていました。使いこなすのは簡単ではないけれど、うまく導入できれば表現力は広がるよ、という形で最終的に受け入れられていったと思います。
ツクールのシステムって、ブラックボックス的なところがあるんですね。例えば戦闘システムは、基本的にユーザーはタッチできないから、オリジナルの戦闘を作るには自分でピクチャを用意したり、変数を弄ったりしなければならない。
中上級者向けの話になりますが、『XP』からはRubyを読み解く知識さえあれば、スクリプトからシステムを理解できるし弄ることもできたんです。これは画期的な変化だったと思います。
――『XP』以降のツクールで作られたゲームを実際に遊んで、変化を実感できた部分はありますか?
野口氏:まずはUIがすごく綺麗になったと思いました。『2000』の頃から自作メニューを作る人はいましたが、技術やテクニックが必要でした。スクリプト導入からは、素材として配布されているものを使えば誰でも自分のゲームに取り入れることができます。
例えば、「エネミー図鑑」のようなものってRPGだとよくありますけれど、これはツクールの標準機能では用意されていません。これも『XP』からは、他の人が作ったスクリプトでも簡単に実現できる。UIやレイアウトに関しては、本当にこだわった作品が増えたのを実感していますね。
一之瀬氏:後は実験的なことをする人が増えたのを感じますね。例えば3Dダンジョンだったり、完全な3Dシステムなんかを実行しようとするスクリプトなんかもあります。ゲームとして完成させるだけじゃなく、スクリプトで色々試して遊ぶユーザーも多いと思います。
野口が言うように、スクリプトなら元の構造が見えているので、勉強していく中で理解できるようになります。その意味でも、やっぱりユーザーの表現力を拡げる要因になっていると思います。
――ツクール側がスクリプトを導入したことは、作り手にとっても大きな転換点になったんですね。
一之瀬氏:スクリプトの導入はとても画期的でした。一方でこの頃から、ゲームを作ることが少し難しくなっていったのかもしれないとも思います。
こういう機能を入れてほしい、あのゲームみたいな表現を取り入れたい、といった要望を取り入れていくと、どうしても機能は必然的に複雑になっていきます。その複雑さと、元々のコンセプトである作りやすさのバランス取りが「RPGツクールシリーズ」には重要なんです。
UnityやUnreal Engine、Godotとも違う、独自の立ち位置であるのが「RPGツクールシリーズ」として大切なことだと考えています。その意味でも、作りやすさと色々な機能のバランスというのは、今後も課題になっていくかなと。

――前回のインタビューでも仰られていましたが、ツクールはやはり“扱いやすさ”が重要なコンセプトなんですね。
一之瀬氏:「RPGツクールシリーズ」の文脈という意味で、“扱いやすさ”は本当に重要だし面白い立ち位置なんだと思っています。他にも色々なゲームエンジンはありますけれど、ゲームに興味を持った人が入って来やすい「窓口」という側面を残しておくべきだと思います。
自由度を高めようとすれば、いくらでも高めることができると思います。でも、「RPGツクールシリーズ」にとっては、その自由度と扱いやすさ、作りやすさのバランスを見極めることが、なによりも重要なポイントになってくるんだろうな、と感じています。
野口氏:その意味で『XP』は少し尖った作品で、それ以前のイベントコマンドを少し削っているんですよね。作品の方向性として、複雑なことをやりたかったらスクリプトに任せようという感じで、イベントコマンドは最小限度の提供になっているイメージです。
しかし、それはやっぱりユーザーにとってゲーム制作のハードルが上がってしまった印象もあります。そういったフィードバックを受けて、次の『VX』ではイベントコマンドを大量に復活させるなど、より作りやすくなるような機能を入れていますね。
続編の『VX Ace』は、そのバランスを突き詰めた形になっています。色々な表現やシステムをノーコードで使えるようになるのは、後の『MV』『MZ』にも繋がっていると思います。

――『VX Ace』では、新たにキャラクター生成などの機能が導入され、マップやデータに関しても機能が拡張されています。
野口氏:これまでのツクールだと、どうしても標準の素材を使うとオリジナリティを出しづらかったですよね。自作しようと思えば絵心も必要になってしまいます。そういった意味で、キャラクター素材に関しては表現手段が限られている部分もあったと思います。
キャラクター生成機能は、パーツを組み合わせて簡単にオリジナルキャラクターを作れるようになったので、表現面での進化は大きかったんじゃないでしょうか。戦闘面でも、これまでの攻撃や防御といったパラメーターだけでなく、属性やクリティカルなどの面で個性を出しやすくなっています。
必殺技の要素も『VX Ace』から導入されていますね。「TP(テンションポイント)」を貯めることで必殺技を出せるのですが、これは市販されているRPGではお馴染みの機能でした。それをツクールにもデフォルト機能として導入したんです。
もちろんデフォルト機能だけでなく、スクリプトを使えばさらに表現できることは増えていきます。その辺のバランスも取れていたと思いますし、ユーザーからも好評だったと思いますね。当時、1ユーザーだった私も扱いやすさを感じました。
――RPGツクールも、歴史とともに進化していっているのを感じます。
野口氏:『VX』が出た頃(2007年)にはPS3をはじめとした色々なゲームハードも発売されていて、出ているゲームが驚くほど多種多様になっていました。ツクールユーザーも、個人で作るものとは言え、少しでも市販ゲームに近づけていきたいと考えていたんじゃないですかね。
そういった願望を実現したのが、少し先に出た『VX Ace』だったんじゃないかと思います。







