長期入院患者だからできたゲーム開発と、生成AIによる効率化がもたらした「もっとゲームを作りたい」という“生きがい”【CEDEC2026 セッションレポート】 | GameBusiness.jp

長期入院患者だからできたゲーム開発と、生成AIによる効率化がもたらした「もっとゲームを作りたい」という“生きがい”【CEDEC2026 セッションレポート】

長期入院患者が開発し、自主運営Webサイト「みんなのゲームラボ」にアップしたホビーゲームは、なんとセッション当日時点で78タイトルにも及びます。

ゲーム開発 人工知能(AI)
長期入院患者だからできたゲーム開発と、生成AIによる効率化がもたらした「もっとゲームを作りたい」という“生きがい”【CEDEC2026 セッションレポート】
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「パソコンがあればゲームが作れる」対話から始まったゲーム制作への挑戦

北海道医療センターの神経筋/生育センターでは多くの長期入院患者が生活しています。普段、電動車椅子を使いながら仕事をする方もいますが、ほとんどの患者さんは指先が少し動く程度で、なかなか自由が利きません。

コントローラーが扱えないという状況でゲームをすること自体を諦めてしまう中、独自にコントローラーを改造するなど、これまで病院側が対応してきました。しかし近年は特別なコントローラーを作ってみたり、視線入力を導入したりして環境の改善をおこなってきました。

そんな中、本セッションにも登壇する中村司氏が提案する形でスタートしたのが、北海道医療センターで実施している「患者主体のゲーム制作支援プロジェクト」です。

2026年7月22日から24日までパシフィコ横浜ノースで開催された、ゲーム開発者向けの国内最大級のカンファレンス「CEDEC2026」では、「遊ぶ側から創る側へ:長期入院患者のためのゲーム制作環境と生成AI活用の実践」と題したセッションを実施。

企画の発案者であり筋ジストロフィー患者の中村司氏、それを医学療法の立場で支援する北海道医療センターの作業療法士である田中栄一氏、そしてゲーム開発のアドバイザーとして参加した東京国際工科専門職大学の小野憲史氏が登壇。

近年の取り組みの中から、最近のトピックである「AIを取り入れたことで変化した開発環境」について講演しました。

ホビーゲーム制作への転換と、78タイトルを生み出したチームの力

高校生の頃から入院していた中村氏がゲーム作りを決心したのは、作業療法士の田中氏との対話の中で、「パソコンがあればゲームが作れる」ことに気付かされたのがきっかけでした。

しかし独学で身に着けたゲーム開発の知識だけでは満足いくものが作れず、Unityのオンライン講座や、小野氏のサポートを受けるなどして、一歩ずつ歩みを進めていくことで新たな可能性を見出したといいます。転機となったのは、小野氏との対話のなかで、「人に求められているゲーム作りをしてはどうか」と提案されたことでした。

それまで中村氏は作りたいゲームを形にしようともがいていましたが、結局、作りきれず躓くことに。いきなり高い理想を追い求めるのではなく、地域社会で楽しんでもらえるような、子供向けイベント用のホビーゲームを作るようアドバイスを受けたことで異なる視点を持つことができました。

結果としてホビーゲームは子供たちに大好評で、中村氏のモチベーションも上がり、現在に至るまでゲーム開発に没頭することになります。それが2023年のことで、以降、中村氏を含む入院患者4名がチームを組み、2週間に1回ほどのペースでミーティングをして新たなゲームを次々と完成させていきました。

なお完成させたゲームはセッション当日時点で78タイトルほど。それらを中村氏が運営するWebサイト「みんなのゲームラボ」にアップして誰でも遊べるようにしています。

1998年当時は、ゲームをプレイするのも困難な状況でした。
近年は長期入院患者が扱いやすいコントローラーを導入したり、視線入力でテキストを作成したりすることが可能になりました。それでも個別の環境によっては使いづらさもあります。

「失敗できることへの安心感」生成AIの導入がもたらした劇的な変化

78タイトルのゲームを完成させた中村氏のチームですが、実はAIを導入する2025年10月までは、1年に1本を仕上げるので精一杯でした。それが小野氏の紹介で「Google Gemini Canvas」と「GitHub」を使うようになってからは制作期間が大幅に短縮され、早ければ1か月かからずに完成させられるようになりました。

生成AI導入以前は地道に1本ずつ制作していました。作るゲームを地域イベント向けのものに限定。Webサイトを立ち上げ、そこに作品を投稿するとともに運営も中村氏がおこないました。
生成AI導入後は大幅に開発期間を短縮。もっとも大きなポイントは、結果的に失敗が許される環境が整ったことでした。

現在では、中村氏が生成AIにまつわる勉強会を、隣接する養護学校で開催するほどの知見を持つほどに。結果として、プログラミングを習ったこともないような当事者や保護者が50音のひらがなボードを制作するなどして、思わぬ広がりを見せるようになりました。

なにしろ人によって扱いやすいインターフェースが異なります。身体の動きでカーソルを操作する人もいれば、視線入力でゲームを動かす人、まばたきを使う人。そのインターフェース開発を当事者が行えるようになったのは大きな一歩であり、田中氏ら支援者にとっても驚くべき成果でした。そこで生み出されたものが、他の長期入院患者の助けになれば……と、田中氏も希望を覗かせていました。

スイッチひとつで激しい動きが楽しめるテニスゲームを独自に開発。
アプリ制作は保護者や支援者にも広がりました。
ひとりひとりに合わせた教材アプリも作れるようになりました。
もちろんゲームだけでなく仕事にも活かせます。

田中氏によると、長期入院患者は文字を打つのにも時間がかかるため、どうしても慎重にならざるを得ません。しかしAIならすぐに修正もできますから、これまで以上に積極的に社会に参加できるようになりました。

「失敗できることへの安心感」

それが、AIがもたらした意外な収穫です。

現在、ビデオゲームといえばAAAタイトルやインディーゲームに注目が集まりがちですが、実は地域のゲームイベントで盛り上がれるようなホビーゲームにも大きな価値があります。今回、そこに着目してゲームを作り切るところまで到達し、「ユーザーの喜び」という成功体験を経て、中村氏はモチベーションを上げることになりました。

また当事者、支援者(医療従事者)、サポート(研究者・知見者)が一緒になっていくことで、当事者が積極的にゲーム開発に取り組む環境ができあがります。

これまで当事者は、一緒に体育の授業に出たり、遊びに行ったりすることができずにいました。しかしゲーム開発に希望を見出してからはそれが生きがいになりました。

ぜひゲーム開発者にも参加してもらい、この取り組みが広がれば……そう展望を語り、本日のセッションを終えました。

《気賀沢 昌志》

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