
スマートフォン向けゲームのように長期間サービスが継続する作品は、新規キャラクターの設定、既存キャラクターの新情報などが運営期間と共に膨大に蓄積されていき、全てを把握するのが困難となっていきます。それらを踏まえて執筆をおこなうシナリオライターの負担を軽減できないだろうか? Cygamesが開発したAI支援ツールは、そのような思いで開発が始まりました。
2026年7月22日から24日までパシフィコ横浜ノースで開催された、ゲーム開発者向けの国内最大級のカンファレンス「CEDEC2026」。そのセッションのひとつ「ゲームシナリオライターを支援するAIツール開発の実践 ― 設計とプロンプトの工夫 ―」では、用途の異なる4つのAIツールについて、その開発プロセスやプロンプトの工夫などが紹介されました。

登壇者は株式会社Cygamesで開発運営支援をする立福 寛氏です。
◆キャラ設定とシナリオの矛盾点を検出する
Cygamesでは以前より、「こえぼん」と呼ばれるシナリオ執筆・監修・台本作成ツールを運用しており、各プロジェクトで使用されてきました。

今回のセッションでは、従来の「こえぼん」でカバーできない問題に、機能改善やAIの導入などで対応したといいます。使用したツールは「Dify」。採用理由は、立福氏自身が使い慣れていたためとのことです。今回の取り組みでは、用途の異なる4つのツールが組み立てられました。
シナリオがキャラ設定と矛盾していないかどうかを検出するツール
セリフ作成支援ツール
方言監修ツール
誤字検出ツール
初めに語られたのは「シナリオがキャラ設定と矛盾していないかどうかを検出するツール」の開発事例について。
これに取り組んだきっかけは「アナログな方法ではひとつひとつ確認するのが大変だから自動化できないか?」と相談されたことでした。シナリオ執筆ツールで管理しているシナリオを、シナリオIDを入れるだけで違和感があるところをAIが自動検出してくれるというものです。
開発の基本的な考え方は、「シナリオとキャラ設定をプロンプトとして入力することで、AIがその矛盾点を洗い出してくれる」というもの。シナリオとキャラ設定はそれぞれシナリオ執筆ツールと連動し、両方の要素をプロンプトにして入力します。
しかし浮上した問題点は、キャラ設定がConfluenceにまとめられHTML形式になっていることでした。各キャラの各項目には膨大な参考情報が記載されており、これをそのまま入力することも可能ではありますが、それだと処理に時間がかかるうえ、入力する文章量が増えるとAIの利用料金も膨らむのでなるべく簡潔にしたいところです。また、雑多な情報が含まれていると、それだけ検出の精度も落ちてしまいます。


そこで、まずはキャラ設定の必要な部分だけをAIで抽出することにしました。HTMLのページを保存した後、HTMLタグをPythonのBeautifulSoupで削除。それからGPT-4oに入力して、JSONフォーマット経由で必要な項目のみを抽出します。なお、各キャラの設定ページはフォーマット化されているため、抽出時のプロンプトは他キャラクターでも共通のものが使用できます。


実際の運用では、適切なプロンプトを入力することで上記の処理が行われるよう仕組みを整えました。シナリオには複数のキャラクターが登場しますが、今回の取り組みでは、最大10キャラクター分の設定をプロンプトに含める構成となっています。
プロトタイプについて、シナリオライターからは精度の高さが報告されたといいます。ただし厳格に指摘されるので、その通りにするとシナリオが成立しないケースも発生します。その点は、ライター側で判断する必要もあります。しかし、プロジェクトによってキャラ設定の管理方法が異なるなど、根本的な部分での実装が難しく、現時点では本格的な運用には至っていません。まだ研究の余地があるとのことです。

◆クセの強いキャラクターのセリフや方言をサポートする
続いて「セリフ作成支援ツール」の開発事例です。キャラクターの中には「雨」を「天空の涙」、「自宅」を「忘却の彼方」と表現するなど、独特の置き換えでセリフを発する人物がおり、そのキャラクターのセリフの作成が難しいことから開発がスタートしました。
ここでシナリオライター側が求めていたのは「セリフそのものの作成」ではなく、「独自の表現の候補をリストアップして欲しい」というもの。そこでConfluenceにまとめられている1000語にも及ぶ単語リストを利用し、ライターが入力したセリフに合わせ、表現したい単語に近いものをデータベースから5つリストアップするツールを開発することになりました。


ツールの設計では、まず過去のセリフと単語のリストをプロンプトとして使用し、キャラクターがどのように単語を使用するのかAIに参照させます。そのうえで候補をリストアップさせることをめざしました。具体的には、どのような処理をさせるか、作成したいセリフ、過去のセリフ100行分と単語リスト1000語を4層構造にしてプロンプトにします。


その結果、この方法で望む出力が得られたといいます。そして現在は随時アップデートしながら運用をおこなっていると述べられました。

続いては「方言監修ツール」です。方言については方言に詳しいシナリオライターが監修を行っているのですが、頻繁に監修をおこなう必要が発生していたことから、負担軽減をめざして開発が始まりました。
「方言監修ツール」は前述した「セリフ作成支援ツール」を応用すれば対応可能ということで、まずはGPT-4oでどの程度方言の生成が可能かリサーチしました。結果、関西弁などのメジャーな方言から、特定の地域の方言まで可能ということが判明。そのうえでキャラクター性に合った方言監修ができるツールを目指すことになります。
ひと言に「方言」と言っても、キャラクターによって口調はさまざま。そこでシナリオライターがキャラクターの特徴とセリフを入力すると、方言に関する説明と使用例が出力される方式を目指すことになりました。

キャラクターごとに異なる方言監修をするため、ツールの設計では監修済みの過去シナリオを参考データとして利用することに。プロンプトの構成は、まず指示があり、作成したいセリフ、過去のセリフ200行と、キャラ設定を入れる4層設計になりました。

こうして完成したツールは、「セリフ作成支援ツール」と同様、改善点はありつつも、すでに運用が始められています。

◆AIではまだ難しい漢字読みの領域も……
続いて「誤字検出ツール」です。本ツールは「CEDEC 2022」で発表されていますが、既存の機能が古くなったということで、現在のAI基準で作り直すことに。その際、一般的な誤字はもちろん、「ら」抜き言葉、補助動詞の漢字表記、常用漢字表にはない読み方の検出など、検出対象を整理することにしました。
ツールの設計では、正確性を上げるために各項目を一括ではなく個別に実行することにしました。それぞれでプロンプトを用意して実行する形です。また、キャラクター性を踏まえた特殊なセリフも存在することから、その部分をカバーする形で過去のセリフもプロンプトに含むことになりました。

本番運用ではシナリオ執筆ツールから各要素を呼び出す形で使用。結果、漢字ならではのさまざまな表現、ライター独自の装飾的表現など、AIの一般的な漢字能力では対応できない範囲も判明したとのこと。まだその点では人間の判断に頼る部分があると、校正担当者のフィードバックもあったと明かされました。

最後に「Dify」でツールを開発する際に直面した制約と、その回避方法の解説が行われます。
たとえば方言の監修ツールでは、過去のセリフを取得し、それを参照して作業する仕組みにしました。しかしDifyでは、今回求めていた形でワークフローからテキストを参照することが難しかったといいます。加えて、キーワード検索のAPIに不具合があったほか、構築したナレッジを別のDify環境へ移行しづらいなどの課題がありました。
そのため、アプリの配布も難しくなります。別のサービスに切り替える場合も、現在の環境を大きく変更する必要が生じます。可能ならこのままDifyを使いたいところ。そこで、参照したい文章をPythonのコードに埋め込むという方法を採用しました。

今回紹介したツールではほぼこの方法を使用しており、同様の開発環境を利用するなら有用な補足知識となるでしょう。

今回のツール開発では、ツールそのものはもちろん、無駄のないプロンプトの構築もひとつの課題となり、結果としてそのノウハウも得ることができました。まだ改善の余地がある部分もありつつ、AIツールの設計と実装に関する知見が得られる講演となりました。






