ゲームのローカライズにおいて、AI利用によるLQAはどれだけ効率化に貢献するか。『モンスト』グローバル版『STRIKE WORLD』のLQA事例から解説【CEDEC2026】 | GameBusiness.jp

ゲームのローカライズにおいて、AI利用によるLQAはどれだけ効率化に貢献するか。『モンスト』グローバル版『STRIKE WORLD』のLQA事例から解説【CEDEC2026】

ゲームの多言語展開が当たり前である時代。グローバルで運営されるタイトルで、LQAの工数を減らすために行ったさまざまな施策を紹介。世界展開するための、大事な環境構築について語っています。

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ゲームのローカライズにおいて、AI利用によるLQAはどれだけ効率化に貢献するか。『モンスト』グローバル版『STRIKE WORLD』のLQA事例から解説【CEDEC2026】
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現在のゲームは日本だけにとどまらず、英語圏や中国語圏をはじめとした多言語展開が当たり前になっています。しかし、グローバル展開するためのローカライズ作業のプロセスで、LQA(言語品質保証)の工数増大や人手依存に頭を悩ませている担当者は多いのではないでしょうか。

Wovn Technologies株式会社と株式会社MIXIによる講演「AIローカライズ:MIXIが提供する「モンスターストライク」グローバル版『STRIKE WORLD』のLQAを支えたWOVN.games」では、まさにそんなローカライズ作業を円滑に進めるヒントがあります。

本講演は実際のグローバル運営タイトルを題材に、「従来LQA→スクショLQA→AI LQA」というLQA手法の変化と課題を具体的な検証データとともに紹介しています。

登壇したのは、Wovn Technologies WOVN.gamesのプロダクトオーナーの藤村弘也氏、シニアエンジニアの田所洋氏、そしてMIXIビジネスサポート室グローバルブリッジグループのマネージャーの入口香那子氏です。

操作性はそのままに、現地向けのUIや成長システムに最適化

本講演の中心となる『STRIKE WORLD』とは、日本のモバイルゲーム『モンスターストライク』のグローバル版です。現在はインド市場を中心に、操作性はそのままに現地向けのUIや成長システムを最適化して展開されています。今回、海外市場でのタイトル展開を支えたローカライズの手法を明かしています。

講演ではまず、これまでのLQAがいかに煩雑なプロセスで進められていたかという課題の確認から始まりました。

従来の実機テストによるLQAは、テスターが実機でバグを見つけてスクリーンショットを撮り、バグチケットを作成し、LQAマネージャーが担当者にアサインし、修正後に確認用ビルドで再確認する、というループで進みます。

この過程はテスト・報告・確認がそれぞれ別環境で行われるため、コミュニケーションコストが膨らみ、情報が分散して検索や確認に時間が奪われ、手作業によるミスや管理コストも増加しやすいという課題があったといいます。

この課題への解決策として導入されたのが、スクリーンショット上でLQA作業を完結させる「スクショLQA」です。

これは誰かが事前にプレイした際のスクリーンショットをサーバー上に蓄積していく手法です。これにより、テスターは確認したいストリングIDを指定するだけですぐに実機のスクリーンショットを確認でき、実機での画面再現にかかっていた時間が不要になったといいます。

バグ報告についても、指摘したい画面やストリングID、テキスト情報があらかじめ準備された状態でチケットを作成できるようになり、報告作業の手間が大幅に減ったとのことです。

スクショLQAの効果は数値でも示されました。別プロジェクトでの導入事例では、テスト進捗が従来比2.5倍、LQAのリードタイムは60%削減されたといいます。『STRIKE WORLD』でも対応コストの大幅な削減が確認できる手法となりました。

しかし一方で、運用上の課題としては、事前にスクリーンショットを蓄積するための撮影リソースを別途確保する必要があること、ゲームの仕様によっては一部の画面のスクリーンショットが取得しきれないケースがあることが挙げられました。

スクショLQAによってプロセスは大幅に効率化されたものの、それでも超えられない根本的な課題として「人の限界」が3点、指摘されました。

1つ目は人依存の品質で、テスターの経験値によってバグの優先度判断にばらつきが出たり、長時間の作業による疲労で見落としが発生したりすることです。

2つ目はスケールの限界で、言語数やテキスト・スクリーンショットの物理的な増加にはどうしても対応時間がかかる点です。

3つ目はテスト領域の制約で、ツールがどれだけ進化しても、人が画面のテキストを目視で確認する必要性自体はなくならないため、ヒューマンリソースという物理的な限界を超えられないことです。

AIによるバグ検知を自動化する「WOVN AI LQA」

この課題に対応するため、AIによるバグ検知の自動化に取り組んだのが「WOVN AI LQA」です。

AIを導入した目的は人間による実機確認をAIに置き換えることではありません。AIには主に大量のバグ探索と報告を任せ、人間は品質判断やゲーム体験を踏まえたクリエイティブなレビューに集中するという役割分担にあるといいます。

つまり、バグ発見のような煩雑かつ正確性が求められるようなプロセスをAIに作業させることで、人間側がローカライズの確認にかかるコストを抑え、より品質判断に注力できる環境の構築を目的としているのです。これにより、LQAは「テストする人」から「品質を判断・管理する人」へと、人間の役割そのものがシフトしていくとされました。

WOVN AI LQAがどれだけ現場で活用できるかも検証されました。ここでは、ストリングIDや日本語・英語テキストといった「コンテキストデータ」、プロンプトという「制御データ」、ゲーム画面のスクリーンショットという「視覚データ」をAIに送り、スピード・正確性・有効性の3項目が検証されています。

まずスピードについては、1900のストリングIDを対象としたテスト報告を約3分で完了できたといいます。従来のLQAでは1日あたり4,000文字程度のペースが目安とされ、同規模であれば17日ほどかかる計算になるため、圧倒的な処理速度の違いが示された形です。

正確性については、英語テキスト40ID程度に絞り、プロジェクトの翻訳・LQA担当者とともに内容を検証しました。AIが挙げるバグ報告は、指摘コメント・優先度・修正案という3つの要素で構成されており、このうち指摘コメントは9割程度が修正判断の参考にできる内容であったこと、優先度の仕分け(重大なバグか軽微なバグか、あるいは問題なしか)も概ね適切であったことが確認されています。

一方で、修正案として提示された翻訳テキストの代替案については、そのほとんどが不適用だったといいます。

これは、そのプロジェクト特有の翻訳テキストの表示スタイルや、スマートフォン特有の表示スペースを意識した意訳を、AIがバグとして誤って報告してしまうことが原因だと分析されました。

担当者側からも、AIによる出力の速さ自体は人間には到底真似できない水準だとしつつ、全てのIDに対して何かしらの出力が返ってくるため、その内容の妥当性を精査・整理する作業にはまだ課題があるとのコメントが挙げられ、普段の翻訳作業で使うスタイルガイドやLQAのルールをAIに読み込ませることで、精度がどこまで向上するか引き続き検証していく方針が語られました。

有効性については、プロンプトとして送ったスクリーンショットが実際に参照されているかどうかを検証。表記スタイルの不一致を画像内の他項目と比較して指摘するコメントなど、スクリーンショットを参照したことが裏付けられる報告が確認され、一定の有効性が示されたといいます。

一方で、AI LQAの検証を通じて新たな課題も明らかになりました。全てのIDに対して何らかの報告が上がってしまう「過剰な報告」、問題のない箇所についても「ノーイシュー」として報告してしまう「ノイズの発生」、ゲームの意図的な仕様をバグとして誤認してしまう「仕様の誤認」の3つです。

これらへの対応として、報告内容の精査コストが必要になることが説明されました。ただ、この精査作業自体は目新しい工程ではなく、従来のLQAでもベンダーやLQAチーム内部でテストリードやプロジェクトマネージャーが担ってきたプロセスでした。いわば「見えない工程」だったといいます。

WOVN AI LQAでは、この見えなかった品質管理プロセスの課題に技術的に取り組むものとして、3つのアプローチが紹介されました。

プロンプトを細かく分割してそれぞれの効果を定量的に判断できるようにする「プロンプトの多段実行」、そのゲームらしい翻訳表現をAIが誤って指摘しないようにする「スタイルガイドの活用」、そしてスクリーンショットに加えて用語集や過去の翻訳も参照させることで表現のブレを抑える「文脈の参照」です。

最後に、プロジェクトごとの世界観や品質基準、運用フローに合わせて、ユーザー自身がAIへのプロンプトを柔軟に最適化できる機能・UIの開発を進めていく方針が示されました。

ゲームローカライズの知見とAIを融合し、あらゆるプロジェクトでより高品質かつ効率的なLQAを実現するプラットフォームを目指すという展望が語られ、講演は締めくくられました。


ゲームタイトルのグローバル展開のために、ローカライズの品質を高めながら効率よく進めることはビジネスの成果を上げるためにも重要な時代です。これは企業による大~中規模タイトルのみならず、個人や小さなチームのインディーゲームタイトルでもローカライズが大切になってくるため、さらに効率化された作業環境構築は必須になっていくと思わせられる講演となりました。

《葛西 祝》

ジャンル複合ライティング 葛西 祝

ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や格闘技などなどを横断したテキストをさまざまなメディアで企画・執筆。Game*SparkやInsideでは、シリアスなインタビューからIQを捨てたようなバカ企画まで横断した記事を制作している。

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