
現状のゲーム開発でどのようにIPをプロデュースすればいいかは、誰しも頭を悩ませるところでしょう。そんな中、長らく休止していた「SILENT HILL」IPの復活と躍進は、IPのプロデュースにおいて非常に興味深いケースではないでしょうか。
最後のタイトルから時間が空いてしまったIPの人気を盛り返すというのは、やはり並大抵のことではありません。IPを復活させようと新作を出しても、評価も芳しくなく、往年のファンやその他のゲーマーにも訴求できないまま、再び休眠してしまう苦いケースは数え切れません。
そんな中で「SILENT HILL」シリーズがここまで盛り返したのは決して偶然ではなく、背景には周到な現状分析と戦略が存在していました。それらがどんなものだったかが、CEDEC2026の講演「SILENT HILLのプロデュース術 「推し」の時代に推されるゲームをめざすには? ユーザーの熱量を重視するプロデュース方針と海外開発を軸にしたグローバルゲーム開発進行」にて明らかにされました。
登壇したのは、コナミデジタルエンタテインメント第1制作部の統括プロデューサー・岡本基氏、アシスタントプロデューサー・松尾泰樹氏、プランナー・杉本絢音氏の3名。本講演では、『SILENT HILL 2』『SILENT HILL f』の開発を中心に、シリーズ復活に至る戦略から、海外スタジオとの協業の実態、そして「推し」文化を意識したファンダム形成までが語られました。現代のIPのプロデュースに関して数多くのヒントが詰め込まれた内容でした。
岡本氏が語る「SILENT HILL」再始動について

今日の「SILENT HILL」IPを再生させた立役者として、特にプロデューサーの岡本氏による取り組みは注目に値するものです。
岡本氏はまず「SILENT HILL」チームの体制を紹介。本シリーズは25年以上続くシリーズながら、現在のチームメンバーの半数以上は20代となっています。過去にシリーズへ関わったベテランはコナミ社内にはいるものの、岡本氏のチームには在籍していません。つまり「私がコナミに入社してから、ゼロからメンバーを集めていった」と、新規事業の立ち上げに近い形でチームを拡大してきた経緯を明かしており、実はゼロに近い地点からのスタートだったことがうかがえます。

「SILENT HILL」のIP再始動後の特徴として、開発パートナーのほぼすべてが海外スタジオであることが挙げられます。まず台湾のNeoBards Entertainmentが『SILENT HILL f』を担当。ポーランドのBloober Teamが『SILENT HILL 2』をリメイク。そして今年発売の新作『SILENT HILL: Townfall』にはアメリカのAnnapurna InteractiveとスコットランドのScreen Burnが参加しています。
このように、「SILENT HILL」シリーズ再始動後は欧米やアジアの外部スタジオとの協業が大きな特徴となっています。シリーズの主要タイトルの多くを海外スタジオが担当するというケースは、「SILENT HILL」のように大きなIPを考えるといささか珍しいのも確かでしょう。
一方、海外スタジオと連携した開発で壁になりそうなのは、やはり言語の問題です。実際、社内の「SILENT HILL」チームの8割は英語を話せないとのこと。
しかし岡本氏は「一番大事なのって、言語じゃなくて、ゲームがちゃんと作れるかどうか」だと語ります。欧米スタジオとは通訳を介した英語でのミーティングを行い、テキストコミュニケーションは機械翻訳を活用。「日本語ができるかどうかより、面白いゲームを作れるスタジオかどうかで選んだほうがいい」という考え方が、開発パートナー選定の軸になったといいます。

続いて、「SILENT HILL」シリーズの成り立ちが振り返られました。岡本氏は「1999年の第一作のリリース以来、キャラクターの心理描写が具現化した世界を描く “サイコロジカルホラー”というジャンルを確立してきたシリーズ」と分析。しかし、2013年以降は約10年の空白期間がありました。

岡本氏が2019年に着手した当時、市場には「SILENT HILL」シリーズにインスパイアされたインディーホラーが多数存在していました。「単純にリメイクすればいいんじゃなくて、やっぱりアイデンティティを尖らしていくっていうことが必要」と考え、サイコロジカルホラーとしての完成度が最も高い『SILENT HILL 2』からリメイクに着手。世界5カ国でのユーザー調査をもとに、シリーズの定義を社内で「バイブル」化しました。

復活にあたっては、リメイク単独ではなく、リメイクと新作を含む3本を同時発表するという戦略についても解説されています。新作も並行して開発した理由について、岡本氏は「シリーズがいけるか様子見のリメイクと見られてしまうと、作る方の本気度が生煮えに見えてしまう」からだと説明しました。ゆえに開発で企業側の本気度を示すことがユーザーの信頼回復につながると判断したとのことです。

続いて松尾氏が、ポーランドのBloober Teamとの協業を例に、海外スタジオとの開発について解説しました。海外スタジオでは開発プロセスの標準化が進んでおり、早期にGDDでコア要素を固め、バーティカルスライスを通じて、初期段階からクオリティラインを両者で合意する手法が徹底されていたといいます。
コミュニケーションはチャットツールが主軸となり、リメイク特有の課題として、オリジナル版のクリエイター陣とのやり取りの交通整理をコナミ側が担いました。海外開発では品質要件の一つとして重視されるアクセシビリティ対応(ハイコントラストモードやディスレクシック向けフォントの提供など)も、日本側にとって新たな知見になったといいます。
一方、初回のマスター提出基準の認識が両者で食い違い、Day1パッチの扱いをめぐるトラブルも発生しました。「開発の初期段階で初回のマスター提出の基準を明確化する必要がある」という反省点は、以降のタイトルに引き継がれています。松尾氏は最後に、「相手へのリスペクトをもって伝えることは失礼ではありません」と述べ、日本的な遠回しな依頼よりも簡潔でストレートな伝達を重視すべきだと総括しました。
『SILENT HILL f』で再定義したシリーズの方向性

再び岡本氏に交代し、『SILENT HILL f』の企画意図が語られました。旧シリーズが失速した要因を「舞台もストーリーもゲームプレイも同じような体験になってしまった」ことだと分析した岡本氏は、「SILENT HILL」を街の名前ではなく“現象”として再定義。アジアの中でも日本を舞台に選び、小説家・ゲームシナリオライターの竜騎士07氏をシナリオに起用しました。
「シナリオライターが日本人で、開発スタジオが台湾。普通に考えたらうまくいかないんですよね」と岡本氏は率直に語ります。空中分解を避けるため、シナリオライターにイラストレーター、そしてコンセプトアート会社と開発スタジオ、コナミで集まってコンセプトを固めるフェーズを設け、コナミ側がディレクター的に関与したといいます。
本作のコンセプトは「結婚をホラーとして描く」ことでした。古い価値観に基づく結婚観を女性の視点で描く方針のもと、クリーチャーデザインは仕様にとらわれず自由にスケッチを重ね、その中から生まれた要素が本編にも活かされたといいます。またシリーズの「振れ幅」を作るため、従来のウォーキングホラー路線に対し、『SILENT HILL f』はアクション性を強めることも決定。「ストレスと解放のバランス」を重視したテンションマップを用いて、緊張と安堵の緩急を設計したことも紹介されました。

続いて杉本氏が、実際の開発シーンを紹介しました。マルチエンディング化に伴いシナリオボリュームが大幅に増加し、アクション性とシナリオの質を両立させるための調整に約半年を要したといいます。街のレイアウトも、台湾スタジオとの「日本らしさ」の共通認識を得るため、実際の場所の画像を集めてコンセンサスを取りながら進めました。

小道具の日本らしさについても細かくディレクションが行われ、昭和期の資料写真をもとに、箸の代わりにスプーンが置かれているといった違和感を一つずつ修正していったといいます。俳優は開発途中で決定し、フェイススキャン・フェイシャルキャプチャ・モーションキャプチャ・ボイスレコーディングを分けて実施。「顔と演技、そして声は同一人物であることにこだわった」といい、モーションキャプチャ初挑戦の俳優陣を実写経験のある監督と専門アドバイザーがフォローする体制を敷きました。舞台のモデルとなった岐阜県の実在地域には、事前に挨拶回りも行われています。

再び岡本氏が、開発後半のレビュー体制について解説しました。国内チューニング企業によるテストプレイ、北米での初心者モニターという複数のテストを組み合わせ、企画段階での思い込みを検証していくといいます。
そんなテストのなかでも興味深いのは、「外部コンサル企業によるメタスコアの模擬レビューをもらう」というものでした。少なくとも筆者は初耳であり、毀誉褒貶のメタスコアでも、結局は後のビジネスとしていまだに存在感が強いことを感じさせました。
岡本氏はこれらのテストを重ねることについて「プロデューサーの思い込みだけで最後まで走らないってことが大事」だと述べています。大事なのは「直感による企画発案と、それを裏付ける検証」を両輪で回す姿勢だと強調しました。

最後のテーマは、考察とファンダムの広がりです。「批評から考察へ」と言われる近年のトレンドを踏まえ、竜騎士07氏の作風と親和性の高い「考察を意識した情報出し」を戦略的に展開。トレーラーを段階的に公開し、周回プレイで真相が見えてくる構造にしたことで、発売後も数十本規模の考察コンテンツが生まれたといいます。
作中キャラクター「狐面の男」が女性ファンから高い人気を集めたことについては、質疑応答で「狙ったというよりは、割と上手くいったな、当たったって感じ」と率直な回答があった一方、キャラクターを立てることに長けた竜騎士07氏を起用した時点で手応えはあったとも語られました。ファンアートの投稿や誕生日イラストの公開など、ファンダムに継続的に「燃料を投下」する取り組みも紹介されています。
質疑応答では、開発会社ごとに作成する「バイブル」の内容についても言及がありました。Bloober Teamはキャラクターを精神分析的に読み解くレポート形式、別のスタジオは場所が象徴する意味を掘り下げるロケーションアート中心の形式と、スタジオごとにアプローチは異なるものの、根本的な共通項は似た結論に収束するといいます。またポーランドスタジオ特有の「開発終了ギリギリまで修正を重ねる文化」への対応については、必要な時間を現場に与えて任せるほかなかったとの率直な振り返りもありました。
休眠していたIPだからこそ、それを復活させるのは容易ではありません。今回の講演には多くのヒントがあります。復活の為にそもそものIPがもつ本質的な魅力とはなんだったかを分析すること、そして分析から見出した本質を磨くために、どんな開発体制を敷くべきかということ。そしてゲーマーたちを盛り上げ、注目を引いていくために何ができるのか。そうした総合的な戦略をいかに組み立てるか、そのヒントが詰まっています。
筆者の個人的な感想としては、それらの戦略を実行する根底には岡本氏の批評力と分析力があり、その一端が垣間見える講演だったと思います。






