株式会社サイバーエージェントの業績が好調です。
8月8日に通期業績の上方修正を発表。売上高を期初予想比3.7%増の8,500億円、営業利益を同57.1%増の660億円に修正しました。メディア&IP事業(以下メディア事業)が3四半期連続の黒字となった他、4月16日にリリースしたゲーム「SDガンダム ジージェネレーション エターナル」が600万ダウンロードを超えてヒット。利益を押し上げました。
一方、主力事業であるインターネット広告事業は弱含んでおり、収益構造が変化する兆しも見えてきます。
営業会社から完全脱皮したサイバーエージェント
2025年9月期第3四半期累計期間(2024年10月1日~2025年6月30日)の売上高は前年同期間比5.8%増の6,319億円、営業利益は同40.1%増の487億円でした。前期(2024年9月期)は、新作ゲーム「GRANBLUE FANTASY: Relink」などがヒットし、広告事業のAI活用が進んだ影響で通期の営業利益は前期の1.7倍に膨らんでいました。
今期は第3四半期の段階で営業利益は1.4倍、通期で1.6倍に拡大する見込み。
利益貢献が大きい事業がメディア。第3四半期累計期間の営業利益は70億円で、800万円だった前期の実に875倍に膨らんでいます。

※補足資料より筆者作成
メディア事業は投資を抑えている様子はありません。ABEMAの恋愛リアリティ番組「今日、好きになりました。ハロン編」は初回456万視聴を突破、同じく恋愛リアリティ番組の「シャッフルアイランド Season6」は初回230万視聴を超えています。バラエティ番組「愛のハイエナ4」は2話が321万、子育てのリアルや本音をのぞき見するというコンセプトの番組「秘密のママ園」は初回312万視聴を獲得しました。
ABEMAはサッカーワールドカップの配信で瞬間的に視聴数を稼いだ過去がありますが、現在はコンテンツ力で中期的に視聴者を引き付けています。
アニメ放送にも積極的。共同幹事作品の「光が死んだ夏」はABEMAで週間視聴ランキング1位、Netflixで2位を獲得しました。主幹事を務めた「アポカリプスホテル」は大ヒットとはいかなかったものの、アニメファンからは良作だったとの声が多く聞こえてきます。サイバーエージェントがコンテンツの作り手として頭角を現してきたのは間違いありません。
創業者の藤田晋氏は一流の営業マンとして名を馳せました。その遺伝子を受け継いだサイバージェントは、長らく営業会社としての性格が強いイメージがありました。メディア事業の黒字転換に成功させた今期からは、そのイメージからの脱皮を強く印象づけています。
「ウマ娘」は育成ゲーム文化がないアメリカ圏でも人気に
ゲーム事業も好調です。
バンダイナムコエンターテインメントと共同開発した「SDガンダム ジージェネレーション エターナル」と「学園アイドルマスター」がヒットしている他、2025年6月にリリースした「Shadowverse: Worlds Beyond(シャドウバース ワールズビヨンド)」は累計で200万ダウンロードを突破しました。
「ウマ娘 プリティーダービー」のSteam版はアメリカ、ヨーロッパ各国でセールスランキング1位を獲得しています。アメリカでは育成ゲームが文化としてあまり根づいてはいません。しかし、ユーザーが「ウマ娘」のゲーム配信に力を入れるなど、一部の熱狂的なファンを生み出しました。この動きはサイバーエージェントにとっても意外だったのではないでしょうか。アメリカやヨーロッパのゲーム文化に新たな地平を切り開くことができるのか、注目すべき潮流と言えるでしょう。
日本では「ウマ娘」が強力なIPに育ちつつあります。2024年5月に公開した「劇場版 ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」は興行収入14億円を突破。一般的に10億円を超えるとヒット作だと言われます。また、2025年4月に放送を開始したテレビアニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」はすでに2期の放送が決定しました。
モバイルゲーム開発を手がける多くの企業がオリジナルIPタイトルから手を引く中、サイバーエージェントは「Project Awakening」や「GARNET ARENA: Mages of Magicary」などの自社オリジナルの大作ゲーム開発に力を入れています。
「ウマ娘」が示しているように、IPの創出にゲームは欠かすことのできない存在。メディア事業を成功させた今、ゲームでヒット作を出す意味合いは大きいでしょう。
インターネット広告事業の利益率は1.7ポイントも低い3.3%に
ただし、インターネット広告は不調でした。
3Q単体(2025年4月1日~2025年6月30日)の売上高は前年同期間比0.4%減の1,113億円、営業利益は同35.6%減の36億円。大型クライアントの離脱を受けて減収、そこに人件費などのコスト増が加わって大幅な営業減益となりました。3Q単体の営業利益率は3.3%で、2020年9月期から振り返っても最低の水準。
サイバーエージェントは2023年春の新卒入社の初任給を42万円に引き上げましたが、強気の人材獲得強化が思わぬ減益材料となりました。

※補足資料より筆者作成
インターネット広告事業は、AIによる効率化を進めていました。広告効果の予測からデザイン、キャッチコピー、人物像の自動生成まで広告制作の全工程にAIを導入しています。導入後、制作効率は従来の5倍以上に向上。生産性を上げていました。
インターネット広告は主力事業であり、収益を支える基幹事業。即座に人員をカットするとは考えづらく、足元では顧客獲得に向けた営業強化に動くのではないでしょうか。ただし、成長性に一服感が出たことで、AIの更なる活用など緩やかにコスト削減を図る可能性もあります。
サイバーエージェントは新たな局面を迎えようとしています。