環境変化が起きたインディーゲーム業界、開発者の進路は―SIE WWS・吉田修平氏インタビュー【BitSummit 7 Spirits】 | GameBusiness.jp

環境変化が起きたインディーゲーム業界、開発者の進路は―SIE WWS・吉田修平氏インタビュー【BitSummit 7 Spirits】

7度目を迎えたインディーゲームの祭典BitSummitにて、SIE吉田修平氏に現在のインディーゲームの状況についてお話をうかがいました。

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環境変化が起きたインディーゲーム業界、開発者の進路は―SIE WWS・吉田修平氏インタビュー【BitSummit 7 Spirits】
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2019年6月1日から6月2日までの2日間、京都・みやこめっせにて「BitSummit 7 Spirits」が開催されました。今回はインディーゲームを愛してやまない、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏に、現代のインディーゲームの状況についてお話をうかがいました。

様変わりしたインディーゲームの環境


――今はSIEを始め任天堂もインディーゲームを支援しており、大手企業が大きく関わる時代になりました。一昔前と比べると、インディーゲームを取り巻く環境が大きく変わっています。

吉田修平氏(以下、吉田氏)そうですね。BitSummitの歩みと並行するように、日本でインディーゲームの認知度も上がってきました。メディアの皆さんも、海外のいいインディーゲームを取り上げていますし、お店で販売されているパッケージのゲームと同じように、レビューや紹介をされているのも大きいです。

――インディーゲームも、PlayStation 4用パッケージ版がリリースされることが多くなりましたね。

吉田氏それはやっぱり、メディアの皆さんも私と同じで「こんなに面白いインディーゲームがあるんだ」ということを強く感じているからだと思うんですよね。ビジネスどうこうもあるかもしれないですが、まず先に「このゲームが面白いから、みんなに伝えたい!」という思いがあります。

最近では、インディーゲームのパブリッシャーがたくさん生まれています。ローカライズだけを行っていた会社がパブリッシングまで手がけるようになりましたし、海外の優れたインディーゲームが日本に紹介されることも多くなりました。

以前は日本での発売時期が遅れることもよくありましたが、今では「世界同時発売」も増えて、日本語ローカライズも整備されているなど、日本のユーザーさんにとってもインディーゲームを楽しむ環境が良くなっているんですね。

――近年では『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』のヒットが印象深いですね。ベネズエラのデベロッパーが、日本のアドベンチャーゲームやビジュアルノベルらしいゲームを作って、高い評価を受けています。

吉田氏 カッコいいゲームですよね(笑)。少人数のクリエイターで目立つゲームを作れて、そのゲームが世界中で紹介されるという良さが、インディーゲームにはありますね。逆に日本の若者でも、もっぴんさんが『Downwell』を世界中に配信され、賞も獲得して評価されました。そういうことが起こるのが、インディーゲームシーンの楽しさですよね。

吉田氏がイチ押しするインディーゲーム


――吉田さんが最近注目されているインディーゲームのクリエイターやデベロッパーについてお聞かせください。

吉田氏先ほどもお話したように、これまでは欧米のデベロッパーがインディーゲームシーンで主流だったんですけど、最近では中南米のクリエイターがポッと面白いものを作り出しているのが興味深いです(笑)。


6月は文化庁メディア芸術祭でアワードがありますよね。そこに『Pixel Ripped 1989』という、海外のPlayStation VRでリリースされている、ものすごく面白いゲームが出展しているんですよ。1989年を舞台に、授業中に先生の気をそらしながら、隠れて携帯ゲームを遊ぶゲームです。

――学生の頃を思い出すような仕掛けのゲームですね(笑)。

吉田氏思い出しますね(笑)。VRの世界の中で、もうひとつゲームをプレイするというゲームデザインが私は画期的だと思っていて、機会があるたびにプロモーションしているんです。

『Pixel Ripped 1989』はブラジルのデベロッパーが開発しているんです。日本のPlayStation VR向けにはこれから発売していく予定です。Steamでリリースされていたので、賞の対象となり、エンターテイメント部門で新人賞を獲得されているんですよ。ブラジルのデベロッパーのゲームが、日本の芸術祭で表彰されるということがあったんです(笑)。

私はE3やGDCでそのデベロッパーとも会っていまして、フレンドリーな関係なんです。彼らはメディア芸術祭受賞にあわせてブラジルから日本に呼ばれていて、それをすごく喜んでいましたね。

――VRのインディーゲームも面白いタイトルが揃っていますよね。

吉田氏VRってまだまだ面白いものがいくらでも発見できるので、特にインディーデベロッパーにとっては狙い目だと思いますね。資金面の話をすると、市場がこれから伸びていく段階なので、あんまりお金をかけた開発は難しいかもしれませんが。しかしアイデアがあれば、シンプルなグラフィックスでもインパクトのあるゲームを作れる状況だと思っています。

アジアのゲーム業界の成長と課題


――今年のBitSummit 7 Spiritsで、気になった点はありますか。

吉田氏BitSummitは以前から国際的な雰囲気が強かったのですが、最近はアジア各国からのインディーゲームが増えています。今年は台湾のブースであったり、中国のWeGameのブースであったり、特にゲームが個別に出展されるだけではなく、アジア各国でクオリティの高いインディーゲームを組織的に紹介したいという動きが見られます。

我々のPlayStationブースでも、今年度はアジアから出てくるゲームを特にプッシュしています。今後伸びていく市場だったり、デベロッパーだったりが、アジアから増えてきている感覚があります。

――アジアでの展開についてはどのように考えられていますか。

吉田氏アジアでのPlayStationの販売は以前から取り組んでいますが、もう一段階先に市場を伸ばすためには、やはりアジア各国でのクリエイターとの連携が大事ですね。その国ごとのセンシティビティを持ったクリエイターが、ゲームを開発して、PlayStationでゲームを出していただくことがすごく重要なことだと思うんです。

――“センシティビティ”とは中国や台湾の特徴を反映した、という意味で大丈夫でしょうか。

吉田氏そうですね。クリエイターが狙っていなくても、自然と出てくる特徴ということです。たとえば中国のゲームを見ていると、剣で闘うゲームが多かったり、背景などで墨絵のようなものを使っていたり、独特なものがあります。

面白いと思ったのは、SFを描いていても、未来の荒廃した上海が舞台になったりするとか(笑)。中国のデベロッパーならではの視点が出ていて、それは他の国のデベロッパーからはなかなか出てこない、面白い部分だと思います。

レッドオーシャン化したインディーゲーム市場、どう対応する?



――インディーゲームの環境がよくなったと言われる一方、インディーゲーム市場のレッドオーシャン化も起きています。英語圏では“indiepocalypse”とも呼ばれており、関係者がどう対応すべきかを策を練っています。吉田さんはどうお考えでしょうか。

吉田氏本当に大きな問題で、市場が大きくなるとごく自然に起こることです。モバイルゲームもそうですよね。リリースが簡単なため、iOSやAndroidのストアに出る数がものすごく多くなってしまい、いいゲームを作っても目立たない。

特にモバイルゲームの場合、ヒットしているのはサービスベースの作品です。何年間も長く遊ばれるので、市場の中で目立ったり、あるいはプロモーションしたりするのが非常に敷居が上がっている、という状況がありますね。

PCやコンソールはそうでもなかったのですが、最近はSteamがリリースの敷居を下げて、より幅広いタイトルを受け入れるようになったので、ここ2年ぐらいでリリースされるタイトル数がものすごく増えましたよね。

――Steamでリリースしたものの、レビューがひとつもつかないタイトルも珍しくなくなっています。こうした状況下で、インディーゲームを広めていくヒントなどありますでしょうか。

吉田氏そうなんですよね。Steamの市場も、モバイルゲーム市場に近い意味で、いいゲームを作っても目立つことや、ユーザーに知られることが難しくなってきている状況ですよね。

インディーゲームにおいては、個人でも少人数でも時間をかければ、いいものを作れると思います。それを幅広く告知することや、いろんなメディアとコンタクトを取り、タイミングよく必要な資料を出すことなどが必要になります。

そういった活動は、それなりのプロフェッショナリズムがないと上手くいかないので、そこでインディーゲームパブリッシャーさんの大きな価値が生まれると思います。

――たしかに、インディーゲームはパブリッシャーの有無でゲームの注目度も大きく変わってきていますね。

吉田氏インディーゲームのクリエイターは、BitSummitやPAX Westといったイベントに出展して、まずはパブリッシャーを見つけることを大事にするといいと思います。自分のゲームを高く評価してくれて、自分たちが生み出した作品のようなゲームを扱うのが上手なパブリッシャーさんを見つけて、契約することが重要だと考えています。

インディーゲームパブリッシャーも、こういったイベントに積極的に参加していますよね。ひとつの目的は契約したゲームのプロモーションですけども、もうひとつの目的は新しいゲームの発掘です。パブリッシャーの方が会場で、いろんなゲームに触れていると思うので、そういう意味でもこういうイベントって大事な場になりますね。

――吉田さんは2015年のBitSummitの基調講演にて、日本のインディーシーンを発展させる戦略のひとつに「日本の著名クリエイターを海外市場に送り込む」ことを語られていました。現在のインディーゲームにおいて、クリエイターの名前をブランドとして価値を上げていくための戦略について、詳しくお聞かせください。

吉田氏特に資金集めの時に重要だったりしますよね。「あの人の新作を遊びたい!」と思わせる、と言ったような。やっぱり稲船敬二さんや五十嵐孝司さん、鈴木裕さんなど過去にヒット作を継続して出されていたような方は、昔からのファンが付いている感覚ですよね。なのでパブリッシャーも付きますし、Kickstarterのような資金集めも成功する確率は高いと思うんです。

私が掲げた目標は、まず彼らがインディーゲームに流れたら、成功するチャンスが高いと考えたんです。

――まだ無名のクリエイターが、作家としてのブランドを確立していくにはどうすればよいでしょうか。

吉田氏それはやっぱりタイトルしかないですね。ゲームを作ること、そして作り続けることができるかどうか、ですね。

資金面や生活面で難しい場合は、ゲーム会社に就職して経験を積む、修行するということが大事だと思います。あるいはプラットフォームによっては、少人数で発表できるようのものであれば、場合によっては『Downwell』のもっぴんさんのような活躍も見込めるでしょう。


最近では『Baba is you』がありますよね。あれは本当に学生が作れるゲームだし、でもこんなゲームは見たことがなかったという、画期的なゲームですよね。このようなゲームが開発できる場合は、タイトルの強さでいけますよね。

もっぴんさんも『Dawnwell』が成功したので、「今度、新作を出す!」と言うとすごく期待されると思うんですよね。まずはひとつ、成功作を出すということがすごく大事だと思います。

――『Downwell』はIGFの学生部門で、初めて日本人としてノミネートされたことが注目されるきっかけになり、ユーザーの期待感も高まりましたね。

吉田氏もっぴんさんはソーシャルメディアで開発途中のゲーム画面などを紹介していましたよね。それをDevolver Digitalが見つけて、「それってどんなゲーム?」とコンタクトを取ったんです。もっぴんさんもDevolver Digitalが取り扱うゲームをすごく評価していたので、「ぜひ扱ってください!」という、いい関係が生まれたみたいですね。

ですので、これは非常にラッキーな例ですね。もちろん、もっぴんさんの才能もあるし、ゲームがすごく良かったのもありますが、パブリッシャーとの出会いは幸運だったと思います。

――無名のクリエイターが名前を上げていくロールモデルとして、もっぴんさんの事例が大きいと感じているのですね。

吉田氏成功例としては素晴らしいと思います。もっぴんさんは昔オーストラリアに住んでいて、英語でのコミュニケーションができたのです。海外のインディーゲームシーンに詳しく、自分でコンタクトをとって友達を増やしていたりと、そういう機会を作れたことが、彼ならではの面もあったと思います。

日本国内に拠点を構えていて、日本のゲームを世界に広げたいと考えているパブリッシャーは何社もいらっしゃいます。そこの門を叩くというのが、英語の不得意なクリエイターにとっては、自分のゲームを広める第一歩になるのではないでしょうか。サポートをされる会社さんもいらっしゃいます。

――ありがとうございます。最後に、今後のインディーゲームシーンの展望についてお聞かせください。

吉田氏多くのパブリッシャーさんも出展され、発掘されるゲームのタイトルも増えてきています。これをいい機会と捉えて、ぜひ日本のデベロッパーさんも、これまで自社発売されていないところや、自社でやってみようか!と考えるきっかけになるといいなと思っています。

もちろんインディーゲームシーンは、若い人が新しい発想で新しいものを生み出す土壌でもあるんですけど、先ほど話したような、いろんなタイトルを手掛け、経験のあるゲームクリエイターの層が、日本ではものすごく厚いので、その人たちがインディーゲームの規模で、自分たちの本当に作りたいものを世に送り出せるきっかけもあると思います。 

その環境は、毎年良くなってきていると思いますので、そういった動きを考えるところが増えることで、インディーゲームシーンはますます盛り上がるのではないでしょうか。
《葛西 祝@Game*Spark》

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