2025年7月4日(金)、ゲーム開発を支えるツールとミドルウェアの祭典「GTMF 2025」が開催されました。数あるセッションの中でも、ハイエンドタイトルの開発で世界をリードするデベロッパー、サイバーコネクトツーと、開発プロセス高速化の旗手であるインクレディビルドによる共同講演は、多くの開発者の注目を集めました。
Unreal Engine 5(UE5)への移行に伴い、爆発的に増加するシェーダーコンパイルやビルド時間という課題に対し、両社はいかに立ち向かったのか。本レポートでは、導入の決め手となった具体的な数値や、現場のエンジニアが実感した劇的な変化について詳しく紐解きます。


右肩上がりの世界市場
セッションの冒頭、松山氏はメディアによるネガティブな報道に触れつつも、客観的なデータに基づいた業界の現状を解説しました。ファミ通のデータを引用し、日本国内のゲーム市場が約2兆4,000億円であるのに対し、世界市場は約31兆円に達していることを指摘。世界市場も前年の30兆円弱から拡大を続けており、将来的には100兆円規模を目指せると予測しました。

「日本の比率は世界市場の約7%に過ぎない。40年以上少子化が続いているこの国では、物理的に顧客となる子供が減っているのは当然のことだ」と松山氏は述べました。こうした状況下で、サイバーコネクトツーは早い段階から海外シフトを進めており、現在は売上の約9割を海外が占めているといいます。

特に同社の代表作である『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズや『ドラゴンボールZ KAKAROT』は大ヒットを記録しています。これらの成功の要因として、松山氏は「最新のプラットフォームが出るたびに対応し、売り場を増やし続けるデベロッパー側の執念」が不可欠であると強調しました。

自社IP『戦場のフーガ』にみる、持続的な販売戦略
受託開発で強固な基盤を築く同社ですが、現在は自社パブリッシングタイトル『戦場のフーガ』シリーズにも注力しています。2025年5月29日には完結作『戦場のフーガ3』をリリースしており、シリーズの世界累計は53万本を突破しています。

松山氏は、自社タイトルを埋もれさせないための戦略として「継続的なアップデート」の重要性を説きました。「最新作の開発と並行して、過去作のアップデートを十数回実施している。これにより、Steamなどのプラットフォームで常に情報が更新され、アクティブなタイトルとして認識され続ける」と、運用面での工夫を明かしました。
また、ゲーム単体に留まらず、漫画連載、電子書籍販売、リーディング公演といったメディアミックスを自社主導で展開。受託開発で得た利益を自社IPに投資し、誰にも左右されない収益の柱を構築する姿勢を示しました。

業界全体への提言:若手を「人として扱う」教育の欠如
松山氏が最も熱弁を振るったのが、業界の若手採用と教育に関する問題です。サイバーコネクトツーでは新卒採用を戦略の軸に置いており、2026年4月入社では51名を採用予定ですが、その合格率はわずか5%前後だといいます。
松山氏は、多くのゲームメーカーが「即戦力」ばかりを求め、新卒を育てる努力を怠っている現状を厳しく批判しました。「不合格の理由も、合格ラインも明確に示さない。これでは学生が育つわけがない。有名大手メーカーも含め、業界全体が反省すべき点だ」と述べました。
松山氏自身、年間100回におよぶ学校講演を通じて、合格レベルに達するための具体的な指導をしているといいます。「若手を引っ張り上げ、教育するのは先輩の役目。自分の手作業だけをしていたいという姿勢は、主人公にはなれない」と、後進育成への強い使命感を露わにしました。

ホワイトな開発環境とツール活用の重要性
強烈な個性を放つ松山氏ですが、社内の労働環境については「超ホワイト」であると自負します。同社では1日8時間の定時を基本とし、残業や休日出勤を厳しく制限。その限られた時間の中で最高のクオリティを実現するために、「効率化」を徹底していると説明しました。
ここで、セッションの共催であるインクレディビルドのソリューションが活きてきます。「バカにいいものは作れない。効率よく、賢く作るためにツールを使いこなすことが、これからの開発者に求められる資質である」と、開発の最前線に立つビジネスパーソンに向けてメッセージを送りました。
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まとめ
「それでもゲーム業界の未来は明るい」というタイトルの通り、セッションは終始、松山氏のポジティブなエネルギーに満ちていました。少子化やレイオフといった課題は存在するものの、世界を見据えたIP戦略、執念に近い販売努力、そして次世代を担う若手への投資。これらを徹底することで、成長し続ける市場の恩恵を受けられるという、明確な生存戦略が示された1時間でした。






