2025年11月、ゲーム・アプリ業界向け開発&運営ソリューション総合イベント「Game Tools & Middleware Forum(GTMF) 2025」が東京と大阪で開催されました。
会場ではゲーム開発に役立つさまざまなサービスや技術が展示された他、出展社がそのサービスやノウハウを紹介する講演も開催されました。本稿ではその講演より、シリコンスタジオによって7月に正式リリースされたばかりのポストエフェクトミドルウェア「YEBIS4」と、Unreal Engine対応の揺れもの物理演算プラグイン『Silicon Studio Bone Dynamics』が紹介されたセッション「最新ソフトウェア一挙解説!光学ポストエフェクト&揺れもの物理演算プラグイン」の模様をレポートします。

ポストエフェクトミドルウェア「YEBIS4」
セッションはシリコンスタジオの会社概要からスタートしました。ハードウェアを扱う「シリコングラフィックス」からスピンアウトし1999年に設立された会社であり、現在は東証グロースに上場し(2025年12月2日に東証スタンダードへ市場区分変更)、3DCG関連の技術提供だけでなく人材紹介・派遣も行っていることが紹介されました。
今回のテーマとなっているミドルウェア以外にも、グローバルイルミネーションミドルウェア「Enlighten(エンライトゥン)」などのソリューションを展開。そして非エンタメ業界向けにゲームエンジンを活用したデジタルツインの構築なども手がけています。


ここからはシリコンスタジオの川瀬氏が約10年ぶりに満を持してメジャーバージョンアップした「YEBIS4(エビス4)」の特徴と機能を紹介しました。まず川瀬氏は「『YEBIS4』を一言で表現するなら、CGや実写映像に対してポストプロセスによりさまざまなエフェクトを適用できるミドルウェア」であると述べ、画像への後付けの処理だけで映像を魅力的にできると解説しました。


特に得意としているのが「レンズエフェクト」で、被写界深度(ピンボケ)やモーションブラーと、レンズフレアといった実際の映像らしい効果に強みを持ち、ディストーション、倍率色収差、軸上色収差など、さまざまなレンズで起こる収差をサポートしています。
トーンマップやカラーグレーディング、SSAO、TAAなどポストプロセス機能の充実も特徴で、UIブレンディングもサポートしており、映像だけでなくゲーム開発において活躍するミドルウェアであることが分かります。

「YEBIS4」はC++ヘッダとライブラリ構成のミドルウェアで、基本的にはポストプロセスに特化したシンプルな仕組みのため、エンジン側への干渉が非常に少ないこともポイント。ほとんどのエンジンに組み込み可能なほか、現在はSwitchとSwitch2、PS5にXbox Series X|Sと、コンシューマ機を幅広くサポートしています。WindowsでもDirect3Dの11と12に対応しており、この「組み込みやすさ」と「マルチプラットフォーム対応」も魅力として紹介されました。


川瀬氏は大きな特徴として「パフォーマンスと品質の非常に幅広いバランスを取れる」点を強調。非常に幅広い品質設定が可能であり、共通のパラメーターで互換性を保った設定もできるようになっているため、モバイル向けとハイエンド向けなど品質ごとに個別で調整する必要性が少ないとのことです。
また、レンダリング解像度を重視してエフェクト品質を下げるケースや、逆にアップサンプル等の技術を活用してエフェクトをリッチにするなど、目的とエフェクトの重要度に合わせた細かな調整も可能です。「フォトモード用に高解像度で非常に高品質なエフェクトを適用する」「広報向けの高品質なスクリーンショットを同じエンジンでそのまま撮影する」といった具体的な活用例も示されました。

多彩なレンズエフェクト
続いては「YEBIS4」のエフェクトについて。「YEBIS4」の被写界深度処理では写実的で多彩なカスタマイズが可能になっており、レンズを通った光が綺麗に1点に集中しないことで起こる「収差」も簡単にシミュレーションできるとのことです。


セッションでは実際に「YEBIS4」のリアルタイムシミュレーションを使った画像も紹介され、ボケ方がさまざまに調整できることも紹介されました。




シミュレーション可能なボケ方はまだまだあり、続いてはレンズに向かって斜めから入ってくる光が鏡筒によって遮蔽されることで起こる「キャッツアイ」や「レモンボケ」と言われるエフェクトについて。こちらも「YEBIS4」を使った画像が紹介され、レンズを絞っていくことでボケの形が変化していく表現がサポートされているとのことです。


非常に巨大なボケや実写に近いようなボケ表現も可能であり、実写との比較も提示されました。シンプルな見た目の再現だけでなく、アップにしてみることで波長による回折模様などのディティールもシミュレーションできていることが分かります。


次に紹介されたのは明るい光源やピクセルから光が漏れ出してくるレンズフレア現象。「YEBIS4」ではブルームやゴーストなどさまざまな要素を組み合わせて写実性の高いレンズフレア表現が可能で、明るい部分から自動的に光が溢れ出してくる「イメージベース」と、クラシカルな「スプライトベース」の2種類をサポート。スプライトベースでは、光源の位置と明るさ・大きさを明示することで高品質なレンズフレアを表現できます。



レンズに関しては「アナモルフィックレンズエフェクト」もサポート。これは横方向に圧縮して撮影した映像を伸長して放映する、映画などで使われる映像技術です。
通常のフォーマットで非常にワイドな映像を撮影するためのシステムですが、特殊なレンズを使うため「横方向に伸びる青白いレンズフレア」などの現象が生じることでも知られています。「YEBIS4」ではアナモルフィックレンズもサポートしており、写実性の高い表現が可能です。


ここで川瀬氏は「特徴のあるレンズでは実際にはさまざまな固有の効果が生じているので、典型的な効果だけを表現しても雰囲気の再現には十分とは言えません」と指摘。そこでセッションではシンプルなアナモルフィックレンズのみの表現と、特殊なブラーなど他の効果も加えてより雰囲気を追求した2枚の画像が比較され、あらゆる特徴的な効果をサポートしていることで独特な雰囲気を持つ映像作りを可能にしていることが解説されました。



輝度を問わない出力対応
ここからは色空間の変換について。「YEBIS4」はHDR出力をサポートしており、モニターの最大輝度や白の明るさも自在に設定が可能です。あらゆる出力輝度のデバイスに対して一貫したビジュアルを生成できる機能となっています。
従来のSDR出力についてもほぼ区別なく対応し、任意の最大輝度に対するトーンマップが可能。出力輝度ごとで絵が変わらないよう調整する必要がなく、一貫したパラメーターによってすべての輝度において共通した設定のまま互換性を保てる点も大きなポイントになっています。

加えて、1000-nit近い出力が可能で、明るいSDRモニターに対して仮想的なHDR出力にも対応。SDRの最大輝度が白よりも明るいかのように設定するだけで実質的なHDRとして出力することが可能なため、非常にシンプルな作業で実現できるようになっているとのこと。


HDRに関連しては「UIブレンディング機能」のサポートも「YEBIS4」のポイントです。まぶしい光源にαブレンドを行うと、正しい計算であっても明るい背景でUIが白飛びしてしまうような“副作用”が発生しがちです。



「YEBIS4」では、この現象を防ぐためにディスプレイごとの最大輝度に合わせたトーンマップ後のブレンドで、色空間を問わずに自然なブレンドができるようサポートします。UIの明るさから背景の明るさが逸脱しないよう圧縮(トーンアップ)する機能で、αブレンドのブレンド値が高くなるほどブレンド前の明るすぎる背景を圧縮していくため、極端に明るい光源の背景にUIが重なっても白飛びを防げるという仕組みになっています。


デバッグ描画と解像度フロー
続いてのトピックは「YEBIS4」のデバッグ描画機能について。出力画面では色々な情報が表示可能で、カラースコープ表示、ヒストグラムやベクトルスコープ、各チャンネルがどのぐらいの輝度になっているかが視覚的に分かりやすく表示されていることが分かります。

明るさによるヒートマップ表示にも対応。同じヒートマップ表示で4000-nit用の仮想的な出力をした例も合わせて紹介され、比較してみると「明るい部分だけ色が変化し、暗い部分は変化していない」ことが見て取れます。これは「絵作りが全く変わっておらず、白飛びだけに影響している」ことを示しており、出力が変化しても互換性を保てていることを分かりやすく示しています。


そしてGPUの「メモリリソースビュー」機能も搭載しています。様々な品質の設定ができる「YEBIS4」は、初期化時のエフェクトのフラグや最大品質設定に応じてメモリ使用量も変化しますが、その使用量をリアルタイムに表示することができ、プラットフォームごとの調整に役立ちます。
セッションでは一例として「内部フル解像度で全エフェクト使用可能」な状態での初期化時と、そこから解像度やエフェクトを落とした場合の比較画像も紹介されました。画像上部に示された緑色部のテクスチャと青色部のバッファが大きく削減できていることが分かります。



最後のトピックは「解像度フローの戦略」についてです。「YEBIS4」では、さまざまな解像度を柔軟に選択でき、DLSSなどの外部機能も内部で適用可能。さらに、その解像度フローのカスタマイズすることも。
ネイティブ解像度ですべて描画するだけでなく、アップスケーリングでバイキュービックやFSR1を使う選択肢、同様にTAAアップスケーリングやDLSSを利用するといった選択肢も取れるとのことです。

さらにDLSSを利用する場合でも、その適用タイミングをポストプロセスの前段か後段かで選択できるだけでなく「どの解像度までアップスケーリングするか」も自由に設定可能。最終解像度まで一気にアップスケーリングする、アップスケーリング無し、あるいは「中間解像度までアップスケーリングした後に、バイキュービックやFSR1で最終解像度まで2回目のアップスケーリングを行う」というオプションも設定できるとのこと。
DLSSの出力解像度を下げることでそれよりも先のエフェクトの負荷を下げつつ、かつDLSSの効果を得ることが可能になるため、品質とパフォーマンスを自由に調整することができます。川瀬氏は「実際の状態を見ながら、どのぐらいがバランスが良いか調整することが可能」と、「YEBIS4」のメリットを紹介しました。

そして、その「解像度のフローをどのように流していくか」もカスタマイズできるとのこと。この際にはエフェクトの処理順やGPU負荷などの概要を表示する「イプラインビュー」機能が活躍し、これを見ながらフローを変更していくことも可能です。

実際に「すべてをネイティブ解像度でレンダリング」した場合と比較して、「シーンを3分の2の解像度でレンダリング、ポストエフェクトも3分2のまま適用し、最後にDLSSで100パーセントまで拡大する」場合、そして「最後のDLSS出力で一度80パーセントまで上げ、最後にバイキュービックで100パーセントに上げる」場合が紹介されました。
解像度戦略によってパフォーマンスアップに繋がることはもちろん、後半2つの画像は見比べても差を感じられないほどの違いしかなく、実際の映像を確認しながら調整することで、解像度とパフォーマンスのバランスを目指すラインに近づけられる機能となっています。



揺れもの用UEプラグイン「Silicon Studio Bone Dynamics」
ここでスピーカーは曹氏に交代し、続いて自然な表現を支援する物理プラグイン「Silicon Studio Bone Dynamics」について、開発過程を振り返りながらその機能と特徴の解説が行われました。



「Bone Dynamics」はマントのような衣装や髪の毛、旗などの“揺れもの”の動きを計算するプラグインです。曹氏によれば、このプラグインは“揺れもの”のシミュレーションにおいて課題となりやすい3つのポイントにフォーカスして開発されたとのこと。
そのひとつ目となるのが「物理破綻」で、スカートを足が突き抜けて出てしまうケースや早い動きになるとバタついてしまうような状況は珍しくありません。

そして物理パラメーターの分かりづらさに起因する「設定や調整の難しさ」が2番目の課題として挙げられました。よく採用される手法としてメッシュベース上に物理の仕様を設定・調整していくやり方が挙げられますが、曹氏は「作業が多いわりに良い結果にならない」「物理的には正しくても求めている表現になっていない」というハードルがあるとし、良い結果になったとしても動作負荷から軽量なものへ考え直す必要に迫られる可能性も指摘。ではボーンベースでの調整はと言うと、パフォーマンスは出るものの調整しても破綻しやすく、動きが硬いという難点を抱えています。

そして3つ目の課題は「モデルを変更するとやり直し」になる点が挙げられました。アニメーションの制作プロセスではDCCツールでボーン設定やスキニングを行い、ボーン強度の設定や、リグを入れてモーションを作るなど多段階に渡ります。
そこからゲームエンジンやツールに移行してコリジョンや物理パラメーターを設定、そして動作確認へと進みます。ただ、キャラクターが多いと設定と動作確認を何度も繰り返さなければならないため作業量が多く、もしモデルを変更するとなってDCCツールでの設定にまで戻るとかなりの手間になってしまいます。

「Bone Dynamics」の開発にあたっては、この3つの課題に対して、以下のように全体条件と方針が設定されていたとのこと。
計算量の多いメッシュベースではなく負荷が軽いボーンベースに
ボーンベースでも突き抜けや破綻・はみ出しを少なく
細部まで手付けするキャラクターではなく、大勢必要なモブキャラの設定の手間を減らす
設定項目は極力増やさない(大まかに設定してから詳細を調整する)
DCCツールのワークフローを崩さない
曹氏はこの方針を守りつつ、加えて「物理破綻しにくく」「自然な動きで」「使いやすく」「パフォーマンスが出る」ものを目指すというチャレンジングな目標が立てられていたと明かしました。

なお、「Bone Dynamics」開発に当たっては「SPCR Joint Dynamics」がベースになっており、株式会社スパークの広本氏への謝辞も述べられました

物理破綻の抑止法
まずは物理破綻の抑止について。揺れものが暴れてめり込む現象を防止するため、ボーンの間に縦・横・斜めに伸び縮みして“ねじれ”などを制限する「バネ拘束」を使用。これにコリジョン判定を持たせることで突き抜けが減りますが、同時にバネを強くすると動きが硬くなるという影響も説明されました。

ボーンベースでは、当たり判定を持ったボーンをあまり多く入れない場合にはその間で“すり抜け”が起こりやすくなり、走るモーションとスカートの関係など速い動きにも課題がありました。そこでコリジョン判定ポイントを増やし、時間軸も細かくする計算を追加。この時間・空間分割によってすり抜けの発生が抑えられており、最新版ではこの判定の置き方を自動で調整できる機能が追加されたとのことでした。

しかし、これらの対策を含めてもまだ大きく足を上げるような激しいアクションではすり抜けが発生してしまい、その後戻らなくなってしまうことも。ボーンを足に連動させるよう修正することで回避可能ではあるものの、より手軽な設定として「ボーン間で連動した動きになる」仕組みで対処されています。

これらの組み合わせにより、多くの場合ではすり抜けが回避できるようになりましたが、それでも発生してしまった場合の対策も改善されています。多くの場合は再起動によって初期状態に戻さなければなりませんが、「Bone Dynamics」ではすりぬけの状態を自動検出&自動修正機能を搭載。コンピューターシェーダーを利用した高速の検出によって自然と復元が可能になっており、これで「破綻しにくい」仕組みが生まれています。

物理的に正しくなくとも「自然な動き」を
続いては「自然な動き」について。突き抜けないだけでなく、揺れものが自然な動きになるよう独自の計算方法によって“ふんわり感”が追求されています。曹氏によればデザイナーと密にコミュニケーションを取りながら試行錯誤の末に生み出されたものとのことで、マントがはためく際には「移動するときに強制的に揺れを追加」することで、上下に波打つような動きを実現しています。これは物理的には正しい挙動ではないものの、求める自然さに繋がったと曹氏は振り返りました。

3つ目のポイント「使いやすさ」については、パラメーター調整がしやすいよう用意された15種類のプリセットが紹介されました。ゲーム用に動きをやや大げさにしたものも収録されているため、これらをベースにわずかな調整だけですぐに使用できる仕組みに。また、プリセットのセーブとロード機能も実装されているため、自分で修正、あるいは設定したパラメーターを独自のプリセットとして保存し、他のキャラクターに流用可能です。読み込むだけでチーム間での共有もしやすく、手間を大きく省略する工夫が盛り込まれています。
実装と調整を容易にする使いやすさ

コリジョン設定についてはUnreal Engineの「Physics Assets」とエディターを連携。パラメーターやコライダーの調整、プリセットの変更も即座に反映でき、プレビューで動作を確認しながら調整できるようになっています。

さらに、「Bone Dynamics」の細かな機能についても紹介されました。キャラクターが座る、倒れるといった動作がある場合は平面コリジョンが追加可能で、地面の傾きと高さによる自動調整にも対応。また、風の影響を受ける“揺れもの”についてはランダム性を加えることで自然な揺れを実現しており、UEの環境設定と連動し、独自の設定もできるようデザインされています。


最後は「パフォーマンス」について。コリジョンを厳密にするとどうしても計算の負荷が上がりゲームが重たくなってしまうものの、「Bone Dynamics」では最適化によって最大で5倍の高速化に成功しているとのことです。負荷が高い条件で設定しても1つのアニメーションブループリントで約0.5msほどになっており、PCの場合は30体並べても60fpsが確保できるパフォーマンスを実現しています。
5倍の最適化に成功

これらの要素を組み合わせることで、当初掲げた目標を達成した「Bone Dynamics」が完成。セッションでは最後に派手なコンボアクションをしてもスカートを貫通しないことが確認できるムービーも紹介され、物理的にはスカートが敗れてしまったり足が開かなかったりするほど派手なアクションにも対応できることが示されました。
物理破綻しにくく、自然な動きで使いやすい。そしてパフォーマンスも出る「Silicon Studio Bone Dynamics」は、現在UEプラグイン形式にて提供中。対応プラットフォームはWindows、Androidに加え、最新版ではiOSへの対応も追加されました。

シリコンスタジオのこだわりが詰まった2つの最新技術が紹介された本セッション。曹氏は最後に「今後は現場のフィードバックを受けながら改善を継続し、もっと楽にアニメーションが制作できる未来を作りたい」と抱負を述べ、結びとしました。






