「JFPS」の担い手たちに迫る!国内インディーFPSクリエイター座談会―“DOOM直系”だけじゃない、バラバラな原体験から生まれる日本のFPS | GameBusiness.jp

「JFPS」の担い手たちに迫る!国内インディーFPSクリエイター座談会―“DOOM直系”だけじゃない、バラバラな原体験から生まれる日本のFPS

「JFPS」のクリエイターは意外と若手?

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「JFPS」の担い手たちに迫る!国内インディーFPSクリエイター座談会―“DOOM直系”だけじゃない、バラバラな原体験から生まれる日本のFPS
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2025年9月に国内インディーFPSを一挙に3作まとめてパブリッシングすると発表した国内インディゲームパブリッシャーのわくわくゲームズ。すでにリリースされている、パブリッシングを発表している作品を合わせると、5作と充実のラインナップです。ですが、国内のシングルプレイFPSの需要を考えればこれはかなり挑戦的な施策でもあります。



先日の記事ではわくわくゲームズ代表大柳竜児氏にインタビューを行い、この施策の狙いを語っていただきました。「JFPS」を名乗るその気概、自分の好きなものを届けたいという熱意が強く感じられるインタビューとなりました。

そこから続く後編のこの記事では、FPSへの愛と思いを語った大柳氏が「うちで出さなければいけない」とまで言わしめたJFPS、その作り手たち5人を集め、大柳氏を含めての座談会を行いました。今、FPSを個人で作ろうとするクリエイターとはどんな人々なのでしょう。やはり古き良きFPSをこよなく愛する方ばかりなのでしょうか?国内インディーFPSの最前線に迫りました。


JFPSたちは、どのようにしてパブリッシャーわくわくゲームズと出会ったのか?

ーーまず初めに、お一人ずつみなさんの自己紹介をお願いします。

Bhaskara氏。代表作:『カルトに厳しいギャル』(2024年) ※ニンテンドースイッチ版がわくわくゲームズより配信中。

Bhaskara氏:Bhaskaraと申します。ゲームを作っています。2016~17年くらいからゲームを作りはじめて、今はゲームに全く関係ない仕事をしながら開発を進めています。

我慢氏。開発中作品:『MISHA』

我慢氏:我慢と申します。僕はゲーム制作は実は1年生でして……。それまではCGの学校でティーチングアシスタントをしていたり、その前は自衛隊に所属していたりしていました。うちの子(オリジナルキャラクター)を使ったものをいろいろ作ってきたんですけど、今年のはじめぐらいにいい加減作品としてなにかを世に出したいなと思い立ちました。

それで、どんな形態の作品が作りやすくて自分のやりたいことに近いかなと考えていたところ、ちょうど当時発売した『Beyond Citadel』を遊んで、その手触りが良く自分にあっていると感じて「じゃあ、FPS作るか!」と『MISHA』の制作をスタートしました。

サンフィッシュくまの氏。開発中作品:『最終回収SQUAD』

サンフィッシュくまの氏:サンフィッシュくまのです。小さなミニゲームみたいなものを除けば今作っている『最終回収SQUAD』が恐らくはじめての作品になります。いろいろなゲームエンジンを触っている経験自体は長いんですけれど、商業作品を完成させるという意味では私も1年生となります。

普段の仕事はゲームとは関係ないのですが、CGのモデリング関係に携わっています。

胡籙ユギ氏。開発中作品:『ダイバデストラクタ』

胡籙ユギ氏:普段はイラストを描いている絵描きマンみたいな感じで、二次創作とかいろいろしています。自分の絵を使ってなにか作品を作ろうと思い立ったのが2年くらい前、今使っているツールを見つけたことがきっかけで。Easy FPS Editorっていうロシア製のへんなやつなんですけど、それを今こねくり回してやっています。

ひるこTIMe氏。開発中作品:『魔法少女バリスティック響』

ひるこTIMe氏:ひるこです。よろしくお願いします。普段はゲームとは全く関係ない仕事をしています。ゲームの製作歴自体は結構長く、昔はC++でDXライブラリを使い、今はUnityを使っています。いろいろ作ってきたのですが、FPSは作ったことがなかったので今挑戦し始めた感じです。

ーーみなさんは個人でゲームを作っている中で、パブリッシャーであるわくわくゲームズから声をかけられました。やはり驚きはありましたか?当時の印象や、パブリッシング契約へと進んだその理由をお教えいただけますか?

Bhaskara氏:集英社が行っているピッチプラットフォームの「Game Pitch Base」というのがあるんですが、それが始まったときに『ロボット少女は夢を見る-RobotBattleChampionship-』を作っている上顎さんと、

「一番乗りですごい雑なやつ載せてやろうぜ!」

と示し合わせて「金いらないです」みたいなすごく適当なピッチを出したんですよ。そしたら「わくわくゲームズ」から連絡が来ましたって通知があって。うわ、どう断ろうかなって思ったのが最初でした。でも、連絡を返してみるとどうやら本当に連絡を取りたいらしいぞ?ということが分かって。それで実際に話をしてみたら、すごくちゃんとした人で……。

ただそのときはピッチを出したもののパブリッシングには興味がなくて、お断りをしたんです。それからSteam版の『カルトに厳しいギャル』を発売したころにも一度お声掛けいただいたのですが、そのときもお断りをしました。

でもその後、仕事のほうで大変なことがあって1ヶ月ぐらい束縛されてイヤになったんです。それで、よし!こうなったらニンテンドースイッチ版出すか!と思い立ってこちらから改めてご連絡しました。

ーー仕事のストレス発散で、パブリッシング契約に至ったと。

Bhaskara氏:そうですね。ただ、実は他のところからも声はかけられていました。でも大柳さんはその中でもちゃんとした対応をしてくれた方で、あと、この人は自分が出したいゲームを集めているんだなという信頼がありましたので。普通は『カルトに厳しいギャル』ってそんなに声かけしないとは思いますんで……。

大柳氏:ありがたいですね。

ーーほかの皆さんはどうでしたでしょうか?先のインタビューでは、大柳さんは胡籙さんのXアカウントをずっとチェックされていて、FPSを作るからには声掛けしなくては!と連絡したとのことでしたが……。

胡籙ユギ氏:わくわくゲームズに関してはパブリッシングを予定されている『METRO PENGUIN EUTOPIA』のビジュアルがすごくかっこよくて、お声掛け頂く前から「なんかいい感じのパブリッシャーだな」みたいな漠然とした印象は持っていました。

それで実際にお話させていただいたとき、大柳さんの熱意というか、今まで遊んでこられたゲームのお話も聞いて、あ!ちゃんとした人なんだなと感じました。

ーーお二人とも感想が被っているのが面白いですね。

胡籙ユギ氏:そうですね。上げてくれるタイトルが、全部自分と被っているというところもあって……。いいじゃん!という気持ちになって、契約に至った形です。

Bhaskara氏:FPSを一緒に出そうとなったときに例として『Apex Legends』を作りましょう!とか大柳さんは言ってこないんですよね。

胡籙ユギ氏:ちゃんと『DOOM』とか『Wolfenstein』とかの名前を出してくれる感じですね。

ーー残りの方もどうですか?ちゃんとした方から連絡が来たという印象を持ちましたか?

サンフィッシュくまの氏:はい。ただ、ちゃんとした印象の方とのビジネスに関するちゃんとした話の中で、そういう人の口から「Bhaskaraさん」とか『カルトに厳しいギャル』という単語が出てきたのがとても印象的で……。それを聞いて、これは信頼できるなって思いました。……人間が発音してるのを初めて聞きましたね。

もちろん、わくわくゲームズのラインナップを見ればわかるところではあるんですが、実際に話で出てくると、それが目で見えたというか、安心したというか。

ーー大柳さん、今みなさんからべた褒めされていますよ。

大柳氏:いやあ、本当にありがたいですね。本心はわからないですけれど。

サンフィッシュくまの氏:本当に様子がおかしかったら怖いというか。いきなりBhaskaraさんの作品に出てくるような濃い人が出てきたらびっくりしちゃうじゃないですか?だから選んだんだ!って。

でも、そうじゃなくちゃんとしてた。でも、ラインナップには『カルトに厳しいギャル』が入っていて、その口からも単語が出てきて……。

ちゃんとしたところで安心しつつも、ラインナップのチョイスのセンスに「このノリならいい感じになりそうだな」と感じて、契約に進みましたね。

ーーゲームを作り始めたばかりという方も多いですが、パブリッシング契約を結んで商業作品を作ることになり、なにかご苦労というか、変化を感じる部分はありますか?

胡籙ユギ氏:翻訳の部分ですね。ゲーム1人で作って公開するだけなら、翻訳してくれと要望があってもまあいいじゃないかと対応しない選択も取れます。ですが、パブリッシング契約して売るとなると、英語を入れようとか、中国語を入れようとか、そういう話はしっかりでてくる。そこは新鮮だなと感じましたね。

ーーなるほど。インタビューで大柳さんが『MISHA』の動画がバズっちゃったからなにか用意してよ!とお願いしたとも聞いたのですが、我慢さんは今まさに商業作品を手掛ける苦労に直面しているところではないでしょうか?

我慢氏:システムもまだ完成してないのに用意しろなんて無茶なんですよ!まあ、ウィッシュリストがさらに増えたら、コンセプトアートのようなものを作ってSteamストアページに掲載しようかなとは考えてはいるんですが……。なんにせよ頭を悩ませています。

ーーいざ売るとなると、ワッと注目が集まってしまうこともありえますからね。

我慢氏:胸ごときでこんなに注目されてしまって本当に申し訳ないという気持ちと、1mmくらいの期待感と、あとは背中にのしかかってくる重圧があります。元々、『MISHA』は成人向けにするつもりで個人で作っていたものですから。



制作初めの動画を、作ってるやつがFPSっぽくなってきた!見て見て!とSNSに動画を投稿したら、大柳さんからお声がけいただいたんですよ。なんでこんなFPSの形にすらなってないものに?騙されてるんじゃ?と最初は思って、その場では一旦お茶を濁した返答をしたんです。

でも、わくわくゲームズのこれまで配給してきた作品を見て「これは!」と思い、改めてお話をさせていただいて現在に至った感じです。

ーーみなさんが作品を預けるにあたって、わくわくゲームズの世界観がみなさんの背中を押したことが伝わってきますね。

Bhaskara氏:ひるこさんからは「わくわくゲームズから声がかかったんだけど、どうすればいい?」って相談はありましたけどね。

ひるこTIMe氏:そうですね。声がかかるなんて思ってもいなかったので……。ラインナップを見たらBhaskaraさんとくまのさんの名前があったので、一応相談しておこうかなと……。

Bhaskara氏:そのときは普通のところですよと回答しましたけどね。ただ、パブリッシャーの方がちゃんとしているって開発者の身からすればかなり大事なことだとは感じてます。

大柳氏:なにか変なこととかあったの?

Bhaskara氏:スイッチ版をすでに出してるのにスイッチで出しましょう!って言われたとか……。

ーーそれは個人開発者からするとかなり怖いですね。

胡籙ユギ氏:やっぱり変なものを作っているという自覚は少なからずありますから、そこに普通の人が来てくれてよかったなというのは感じていますね。

2.5DFPSを手掛けているなら『DOOM』は絶対通っている……わけではない?意外なFPS歴と開発のきっかけ。

ーー続いて、みなさんは個人でFPSを作っていらっしゃるわけですけれども、やはり気になるのはなぜFPSを作るに至ったかです。そのきっかけや、FPSのプレイ歴をお伺いしたいです。

Bhaskara氏:中学生ぐらいの頃に、大昔のPCを家のどっかから拾ってきて、それでDOS版の『Duke Nukem 3D』を無理やり起動した記憶がありますね。なんかそういうゲームがあるらしいとどこかから聞きつけて。でも、訳が分かんなくてすぐに閉じたっていう。ほら、確かあれってマウス操作ではないじゃないですか?当時すでに『Halo』とかもでていましたし、当時の自分としてはよくわからなかった。

その後、Xboxがあったんで『Half-Life 2』もやってみたのですが、こちらもよくわからなくてやめて……。で、そこからさらに時間が過ぎた大学時代に、10年ぐらい遅れて『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズを遊んだって感じですかね。

初代『DOOM』なんかはゲームを作り始めてから改めて触りまして、MODを入れてみたりしてやってみたら面白いじゃん!と。

ーーいわゆるレトロなFPSには後になって触れられたと。

Bhaskara氏:そうです。いわゆるプレステ世代ですので。

大柳氏:そうなんですよ。本当にあの辺りのゲームをリアルタイムで遊んだ人って、もう俺ぐらいの年齢にはなっているはずだから。リアルタイム世代はもう2~3世代ぐらい前じゃないですか?

Bhaskara氏:そうなるでしょうね。たぶんですけど、親の世代ぐらいになるんじゃないかな……。

ーーレトロなFPSを作っている方はレトロなFPSに直に触れてきているはず……と勝手に想像していましたから、それを聞くと少し驚いてしまいますね。他の方はどうでしょうか?

我慢氏:僕は中学校のときにオンラインFPSの『サドンアタック』からはじめましたね。それまではFPS・TPSっていうジャンルをそもそも知りませんでした。そこから、高校生くらいまでは『コール オブ デューティ』シリーズをやって、そこで一旦熱が冷めてゲームから離れました。

で、自衛隊に入ったころくらいですかね?部屋にパソコンが持ち込めるようになったのをきっかけにゲームをまた遊ぶようになって。FPSだと『PAYDAY』とか、ちょっと古いですが『Dead Island』なんかをプレイしましたね。あとは、『サイバーパンク2077』も。今思い返すと、イマーシブシム寄りのゲームが好みだったみたいです。

実はブーマーシューターっていうジャンルや2.5DのFPSを知ったのはここ最近の話で、『Citadel』シリーズを遊んでこれは面白いなと思って……。特に2.5Dのグラフィックにグッとくるものがあったんですよ。自分のイラストを活かせるのもこの表現の強みだなと。

それで、今まさに3D RealmsやNew Blood Interactiveなんかが配給しているゲームを掘っているところですね。

サンフィッシュくまの氏:自分は初めてちゃんとやったFPSとなると、『Portal』を抜きにするとおそらく高校生ぐらいのときに『HAWKEN』っていうメカ物のFPSが出て。あれがすごく好きで、グラフィックを最低にしてしょぼいPCでやってました。多分、FPSをすごく楽しんだ原体験というとここになるかなと。

あと、TPSにはなりますけど同時期ぐらいにPCで出ていた『地球防衛軍』シリーズの外伝の『Earth Defense Force: Insect Armageddon』はずっとやっていました。その後ちょっと期間が開いて、『バトルフィールド1』とか『オーバーウォッチ』なんかをやっていたって感じですね。実は、あんまりシングルプレイのFPSはあんまりやってこなかったかも。

ーーいわゆる2.5DのFPSに触れられたのはここ最近なんですか?

サンフィッシュくまの氏:FPSとして触れたのは最近かもしれないですね。

ただ、自分はもともと昔のアーケードゲームにすごく憧れを持って育ってきまして。ああいう2.5Dな表現はどちらかと言うと、そっちのイメージが自分の中では強くて。

で、最近『Citadel』シリーズとか、あの表現のFPSがガッと盛り上がっているわけじゃないですか?そうした作品を見ると、自分の憧れていたアーケードゲームみたいでかっこいい!と感じたんですよね。自分の憧れを表現できるならコレをやりたいなと思ったんです。

ーー我慢さんもくまのさんもレトロな表現のFPSにあとあとになってから触れられているんですね。本当に意外です。

大柳氏:まあ、ここにいるみなさんは若いからね。やっぱりそうだろうなと個人的には思っているんですよ、逆に。

ーーむしろ、年齢層を考えればそうなっていなければおかしいですからね。

胡籙ユギ氏:自分の原体験と言うと、やっぱり2003年のチームMITEIが出した『X operations』ですね。それが一番最初に遊んで、インパクトがあるというか、心にずっとそれが残っているんで。多分そうだったんじゃないかなと。

その後『Freedoom』にハマって……。WAD、改造データをいろいろ突っ込んで『Action DOOM』ですとか、『Brutal DOOM』とか、あとはもうよくわからないものとかを、よくわからないサイトから拾ってきて遊ぶなんてことをやってきました。

ーー胡籙さんは逆に、ユーザーが想像する、まさに2.5DFPSの作り手というプレイ歴ですね。

胡籙ユギ氏:自分の中には「FPSってこれでいいんだ」っていう若干の敷居の低さみたいなものがあるんですが、この時期の体験が元になっているようには感じますね。『Action DOOM』なんかはやっぱりすごくいいんですけれど、別の誰かがそのデータをパクって作ったひどいのとかがあったりして……。それが自由でいいなって思っていて、自分もそういうのを作ってみたいなと。

ーーなるほど。ひるこさんはいかがですか?

ひるこTIMe氏:多分自分が一番異端だと思うんですけれど、FPSにはあまり興味がないんです。初めてやったのが友だちの家にあったプレステの洋物のやつで、タイトルも覚えてない。多少遊んだかなというのが、NINTENDO 64の『ゴールデンアイ』くらい。本当に、それ以外FPSというものにまったく触れてこなくて。

で、今の作品を作り始めたきっかけがBhaskaraさんがやっていた「FPSを作ろうジャム」っていうゲームジャムなんです。ゲームジャムのお題がFPSだったので手を出しただけなんで、自分にはFPSへの思い入れがあんまりない。いたたまれない。なんで自分がこの場にいるのか……。

ーーいえ。むしろそういう新しい方が入ってきていることのほうがよいことだと思います。ちなみに、まったくなにもないところから『魔法少女バリスティック響』を作っていらっしゃるとは考えづらいので、なにか参考にされている作品はあるのではと感じます。どんな作品に触れられて作品に活かされていますか?

ひるこTIMe氏:これもBhaskaraさんの影響なんですけど、『Post Void』とBhaskaraさんの『HAZAMA_QUEEN』ですね。

ーーなるほど。だから『魔法少女バリスティック響』はローグライト要素があるんですね。

ひるこTIMe氏:あと他の理由で言うと、ローグライクがけっこう好きなんですよ。『トルネコの冒険』とか『風来のシレン』とか。ローグライトとはちょっと毛色は違うかもしれませんが……。

開発者が自作に込めるこだわり、そして市場を見据えての考えとは?

ーーみなさんが今作っている、あるいはこれまでの作品でこだわっている部分はどこでしょう?

Bhaskara氏:ゲームの内容としてはリアクションというか、なにかをしたら反応が返ってくるみたいなところはすごく意識して作っていますね。あと、本当に時間がかかっているのは曲作りです。

我慢氏:グラフィックはがんばっているところです。また、今いろいろゲームを掘っているとお話しましたが、2.5DのFPSに触れる中で「こうだったら気持ちいいのにな」と感じる部分を反映して、操作のしやすさとか、気持ちよさに落とし込めればなと考えています。

サンフィッシュくまの氏:敵が気持ち悪くあってほしいな、というのがあって。なんかこう気持ち悪いのが一歩一歩踏みしめながら迫ってくる感じを出したいな……というのは開発の初期、最初からずっとあるんです。『最終回収SQUAD』の敵は、全てその考えを統一して制作していますね。ホラーゲームではないんですけど。敵のおぞましさとか、ヤバい雰囲気を感じ取って、嫌だなと思ってほしい。

我慢氏:『最終回収SQUAD』のスプライトはいつもどうやっているのかなあと、常々気になっていますね。最近だと目玉が最近連なって足の長いイモムシみたいになっている敵は驚きました。あれは骨みたいなものを入れて制御しているんですか?

サンフィッシュくまの氏:あれは骨ではないんですけど、見えないやつがあってそれに割り当てている感じですね。プラス、背骨に当たる部分にゆっくり追従させて、それに対して横に入る肩に相当する部分があるイメージでしょうか。それで向きが変わったら、違ってみえるように作っています。あとヘビのように動かしているので、ぐにょりと曲がりながらターンできる作りにもなっています。ああいう見た目ですが、実質は3Dに近いです。

で、こういうおどろおどろしい雰囲気の敵を倒したときにバーンと死ぬので、気持ちよくなってほしいなと。ゲーム画面はちょっと地味なので、そういう部分を体験してほしいなと思っています。

胡籙ユギ氏:自分はやっぱり2Dならではというか、ジャパンならではの表現を目指しています。例えば『新・光神話 パルテナの鏡』というゲームでは、ゲームを普通に遊んでいるとキャラクターがコミカルに掛け合いをするんですよね。ゲームも面白いし、会話まで楽しい。そういうキャラクターを活かした物語の挿入の仕方がすごく良くて、できるならばあんなものを作ってみたいなと。

あと、『Action DOOM 2』っていうゲームがあって、これがアメコミ風のグラフィックなんですよ。しかも2.5Dだから絵面は全然怖くないんですけど、演出が非常に凝っていて、ドキッとするものがある。そういうインパクトというか、意外性みたいなものも表現したいなと考えています。

ひるこTIMeさん:自分はFPSをやってこなかったんで、できる限りFPSの文脈は外さないようしつつ、自分がプレイしやすいように作っているつもりです。

それと、ローグライト要素があるのでステージはランダム生成なのですが、敵の生成タイミングやアルゴリズムは、リズム感を持てるように作っています。

ーーインタビューで大柳さんは、わくわくゲームズは海外のFPSに向けてみなさんの作品をアピールしていきたいとおっしゃっていました。開発者として海外FPS市場や海外のFPSユーザーを見据えて考えていることはありますか?

Bhaskara氏:実際私のゲームは半分ぐらい海外の方が遊んでくれているんですけれど、それで感じたのは「君たち思ってたほど迷路好きじゃなかったんだね」ってところですね。

ーー古いFPSにありがちな迷路構造をファンも好きだろうと思っていたが、実際はそうでもなかったと。

Bhaskara氏:そうですね。別に難しくなくても、迷路じゃなくてもいいんだって気づきはありました。ただ、セールになるたびに簡単すぎる!ってレビューはついちゃうんですけどね。

胡籙ユギ氏:逆にあまり海外市場を意識しないほうがいいんですかね?

Bhaskara氏:海外受けを狙ってゲームを難しくしようみたいなことは考えないほうがいいのかもしれないですね。セクシーな描写を入れるとかそういうのは置いておきますが、レベルデザインとかはまともにやったほうがどうやらいいらしいという感触はあります。ただ、『Selaco』のようなゲームもかなり人気があるんで、実際のところはわからないんですよね……。

我慢氏:あの人を突き放す迷路っぷりでめっちゃ売れてますからね。プレイしましたが、緑色のあの表示に気づくまでどれだけかかったか……。

Bhaskara氏:まあ、あれはあれでだいぶマシな方だとは思いますよ。

大柳氏:Bhaskaraさんもおっしゃるとおり、海外向けを考えてゲームを作ったら多分駄目なんでしょうね。作りたいものを作ってみました!というのが多分一番いいと思うんですよ。

海外に認知されやすいジャンルだから受ける要素を入れようと思っても、本場のファンが認めてくれるかなんてわからないんで。それだったら、自分たちの一芸で引っ張ってくる要素や内容を盛り込んだほうが強くなるんじゃないかとは、客観的には感じていますね。

サンフィッシュくまの氏:ゲームジャム版『最終回収SQUAD』をitch.ioにアップしているんですが、海外の方から来たコメントに「なんで犬を撃てないんだ!」というのがありましたね。「犬を撃つなんてできるわけないだろう!」と返したかったんですが、やめておきました。

Bhaskara氏:でも『POSTAL』だと撃てますからね。

サンフィッシュくまの氏:そういうノリで来たコメントだと思うんですけど。まあ、そういうのには乗っていかなくてもいいな。っていうのはありますね。

ー逆に日本のインディーゲームファンに向けての工夫はありますか?

Bhaskara氏:超簡単モードだとか、新作ですと道案内ガイド機能とかがそうなりますかね。これがけっこう評判がいいんですよ。それこそ普段はゲームを遊ばない人も、それで遊んでくれているみたいで。

サンフィッシュくまの氏:あ、うちのゲームにはさっき話題に出た柴犬がいますね。柴犬の生声が当てられています。

ーー確か、ペットのワンの声を使っているんでしたっけ。ワンちゃん好きへのアピール、いいですね。

サンフィッシュくまの氏:この要素はことあるごとにこすってしていこうかなと思っていて……。Bhaskaraさんの『ととのいシュミレーター』にも写真で出演してますからね。

Bhaskara氏:実は私もうちのペットの爬虫類をちょっと出そうかなと思ったんですけど、かなり珍しい品種なので、身バレしそうなのでやめました。

ーーペットからの身バレを警戒するなんてこと、あるんですね。

JFPSの担い手たちがおすすめするゲーム

ーー話を変えまして、FPS開発者、そして大柳さんはインディーゲームパブリッシャーとして、他の参加者のみなさんにぜひ遊んで、参考にしてほしいと思うゲームはありますか?読者の方におすすめしたい作品でも結構です。

Bhaskara氏:まず、コレを読んでいる人は『Citadel』シリーズをやれ。これですね。

大柳氏:ああ。『Beyond Citadel』は日本の国産FPSという意味で、代表する一作になっていますから。やっぱり外せません。

ーー今日お話をお伺いした中でも、その影響は感じられましたからね。

サンフィッシュくまの氏:私のゲームの的に倒されたら武器を落としちゃって、次の人が拾いに行くところなんかは『Beyond Citadel』のボス戦を真似してますからね。

我慢氏:うちの下向いたらおっぱい見えるのも『びよした』に影響された部分です。

ーー本当に影響がすごい。他のゲームはなにかございますか?

大柳氏:最近は『バトルフィールド 6』をやっているんですがすごく出来が良くて、もはやコレを遊んでおけばという気持ちはありますけれど……。あ、もしインディーゲームクリエイターという方でFPSというジャンルに興味があるよ!という方がおられるのならば、『サルファー』はオススメできるんじゃないですかね?

一時期アホみたいに遊んでたんですよね。めちゃくちゃ軽くて、どんな環境でも動きますし。いわゆるローグライトFPSなんですが、けっこうびっくりする驚きの要素もあって、オススメですね。

Bhaskara氏:ああ最近だと『PIGFACE』っていうFPSを遊んだんですが、なんというか、いい意味でふんわりしててよかったですね。

サンフィッシュくまの氏:自分、Steamで売ってるFPSだと『High Hell』っていうゲームがすごく好きですね。蹴りがめちゃくちゃ気持ちよくて、ドアを蹴りで開けるのがいいんですよ。蹴りでドアを開けるゲームはいっぱいあると思いますが、一番好きですね。

あと、同じ作者の方々がウォーキングシミュレーターの『SLUDGE LIFE』っていうシリーズもよくて。犬がお互いの尻をかぎあってウロボロスみたいになってるオブジェがあって、オススメです。

サンフィッシュくまの氏:あと2024年のゲームなんですが『BRUTAL KATANA』っていうゲームも好きで、走って刀でオブジェクトを壊してタイムアタックをするゲームなんですけど、爽快感があっていいです。

我慢氏:『Fallen Aces』はぜひともやってほしいですね。Bhaskaraさんからイマーシブ系、ステルスゲームが好きならと『Gloomwood』を勧められて遊んだんですけど、主人公が貧弱すぎたんですよ。僕はもう、集中力が切れたら敵に殴りかかって暴れても大丈夫なくらいのゲームが大好きで……。そういう意味では『Fallen ACES』はとても刺さりましたね。アイテムを3つしか持てないのはちょっと不便ですけど……そこもゲーム性というか。

ひるこTIMe氏:うーん。ずっと遊んでいるゲームで言うと、『Noita』でしょうか。ローグライトやローグライクがやっぱりけっこう好きなので……。あと、最近気になっているのは『Ratatan』です。

胡籙ユギ氏:『Outlaws』っていうゲームのリマスターが今度出たので、それを推しておきたいですね。すごいゲームですし、『Beyond Citadel』にも受け継がれている要素はあるし、遊んでおいて損はないかなと。

Bhaskara氏:今から遊ぼうと思うとすげぇ面倒な作品ですからね。

胡籙ユギ氏:LucasArtsのゲームはいろいろとリマスターされて出ているんですが、いまいち宣伝が良くないというか……もうちょっとがんばってほしい。

ーー最後に、告知や作品のアピールをお願いします。

Bhaskara氏:『カルトに厳しいギャル』発売中です。ぜひ買ってください。あと、新作も作っているので、ウィッシュリストへ入れてください。こっちの新作もぜひわくわくゲームズからニンテンドースイッチ版を出したいと思っているので、応援も含めてよろしくお願いします。

我慢氏:『MISHA』は来年3月のゲームパビリオンに出展予定です。そこに遊べるものを出せるよう今、がんばっています。暖かく見守ってください!よろしくお願いします!

サンフィッシュくまの氏:犬の話が入りましたが、『最終回収SQUAD』は可愛いロボットの少女が主人公のゲームです。そういうのが好きな方、ぜひよろしくお願いします。

胡籙ユギ氏:制作ツールの兼ね合いでいろいろ大変なところではあるんですが、『ダイバデストラクタ』をがんばって作っています。アニメガールのコミカルさと、時折見える不条理な世界観、シュールな雰囲気を楽しめるものを作っていますので、ウィッシュリストに登録してもらえるとうれしいです。

ひるこTIMe氏:『魔法少女バリスティック響』は勢いで作り始めちゃったゲームなんですけど、できればFPSファンの方には優しい評価をいただきたいなと思っています。

ーー今回は貴重なお時間をいただきありがとうございました。


今回の座談会で一番の驚きは、レトロ調のFPSを作っているクリエイターならばきっと昔のFPSが大好きに違いない……という印象は完全な決めつけだったということでしょう。

実は座談会の前、筆者は2.5DのレトロっぽいFPSの開発者が集まるのだから、FPSプレイ歴とオススメFPSの話をしてもらえば話題には事欠かないだろう……と恥ずかしながら安易に考えていました。ですがお読みいただいた通り、それぞれのクリエイターがそれぞれまったく違ったゲーム体験を経ておられました。お陰でイマイチ話が盛り上がらない場面もあり、参加していただいた皆さまにはご苦労をかけてしまったほどです。色眼鏡で考えていた筆者の落ち度であります。

ただ、これだけクリエイターのプレイ歴に差があるということは、クリエイターが2.5DのFPSを手掛けているのは懐かしさやあの頃への愛だけではないという証左でもあります。ビルボードでキャラクターを3D空間に配置するあのFPSのスタイルを、1つの表現手法としてクリエイターたちは捉えているのです。

近年、ドット絵が表現手法として評価され色数をわざわざ絞る理由がなくなった今も新しい描き手が生まれています。これと同じように2.5D表現にも、FPSにも、新しい作り手が誕生しているということなのでしょう。これは、すばらしいことだと感じます。

今後こうした表現に続く作り手が増えていくのかどうか?それは今回お話を聞かせていただいたクリエイターの手掛ける作品と、それをユーザーへと届けるパブリッシャーの活躍が鍵を握っているでしょう。

新しい世代が作り出す「JFPS」の今後にみなさんもぜひ注目してください。

《洋ナシ/男鹿梨衣子@Game*Spark》

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