「アダルト=ポルノではない」―成人向けゲーム削除の流れを受けた、LGBTQのゲーム開発者たちの考え | GameBusiness.jp

「アダルト=ポルノではない」―成人向けゲーム削除の流れを受けた、LGBTQのゲーム開発者たちの考え

「検閲は既に、今まさに行われているのです」

文化 その他
Steamから削除された『村祀り桃色紀行 さかざ村の淫祀り』
  • Steamから削除された『村祀り桃色紀行 さかざ村の淫祀り』
  • ゲーム業界が決して規制も禁止もしないモノに置き換えたという『The Tearoom』
Steamから削除された『村祀り桃色紀行 さかざ村の淫祀り』

LGBTQであることを公表し自らの体験や内面を探る経験を、ゲームを通じて表現しようとする開発者たちが、ゲーム配信プラットフォームのitch.ioとSteamにおける成人向けコンテンツの規制に対し、批判と懸念の声をあげています。

◆保守系団体の圧力で一夜にして消えた成人向けコンテンツ

Game*Sparkでも何度かお伝えしてきたとおり、2025年7月~8月にかけてゲーム配信プラットフォームのitch.ioとSteamにて、成人向けコンテンツの大量削除や検索への非表示が実施されました。





本件を簡単におさらいすると、一夜にしてitch.ioはNSFWタグが付けられたゲームのインデックスを無差別に削除、あるいは検索しても非表示という状況に。SteamはValveが開発者向けガイドラインを「“特定の成人向けコンテンツ”を規制する」と突如更新し、実際に一部コンテンツは削除となり、アダルトゲーム開発者たちに大混乱を起こしました。

両社はMastercardやVisaの要請によるものとしましたが、その背景にはオーストラリアの保守系団体「Collective Shout」が、決済代行業者にitch.ioおよびSteamに関する苦情を殺到させたことが原因だと判明しています。



itch.ioはその後、突然の対応について公式ブログで「事業を継続するために緊急の対応を迫られ、変更を行う前にクリエイターの皆様に事前にお知らせすることは現実的ではありませんでした」と説明とお詫びを投稿しました。

結果として「Collective Shout」が当初挙げていたような性的に“非常に過激”で“問題のある”ゲームだけではなく、はるかに拡大解釈した「成人向けテーマを扱う」ゲームとその開発者たちにまで多大な影響を与えています。

◆これは“文化戦争”だ―消されゆく開発シーン

海外メディアEurogamerはこれらの経緯を受け、複数のLGBTQであることを公表しているゲーム開発者に取材を実施。

Itch Queer Games Bundleの共同創設者兼開発者のTaylor McCue氏は、「アダルト=ポルノではない。この数年ゲーム業界ではクィア(※)による、性的トラウマについて触れるような小規模作品も生まれつつある。まだ小さく、発展途上のまま今回の一件で文字通りネット上から消えてしまうかもしれない」と危惧しています。(※クィア:セクシュアリティやジェンダーのあり方が既存の枠組みに当てはまらない人々)

また、「今のところ、人を残酷に殺害するゲームを作ることは許容されているが、性的な虐待・暴力・トラウマの体験を題材にしたゲームは許されない。人々は性的暴力という脅威を持ち出して、他人が自分の人生について語ることを禁じようとしている」と述べています。

そしてこういった“ゲーム警察”による監視と抑圧への対抗として、トイレシミュレーター『The Tearoom』などを開発したRobert Yang氏は「すでにSNSでは特定の単語を使うとタイムライン上に表示されにくくなるため、ユーザーがその言葉を使わなくなっています。私たち(LGBTQ)の文化がいち私企業によって規定されることは、政府が規定するのと同じぐらい有害で、直接的な悪影響を及ぼします」としています。

ゲーム業界が決して規制も禁止もしないモノに置き換えたという『The Tearoom』

このほかにも多くのゲーム開発者たちがEurogamerに対し、「ゲームを理解していない人々から、ゲームが下品で侮辱的なものとして見られることに私たちはうんざりしている。他メディアと同様、年齢でコンテンツ制限をかけることは必要だが、セックスをテーマに扱うゲームが悪者扱いされるべきではない」や、「長年、インディーゲーム開発者たちは市場と闘いながら、ビデオゲームを単なる子供のおもちゃとしないために創作活動に励んできた。こういった規制がゲームに“失われた時代”を生み出す恐れがある」と回答しました。

人によってはプラットフォームからのゲーム削除が収入に大きな打撃を与えているにもかかわらず、多くの開発者たちがitch.ioとValveの対応については「それほど責めません」とし、むしろ担当者にはわずかばかりの同情を示したとのこと。

しかし、 Yang氏は今回の一件を保守系団体「Collective Shout」が始めた“文化戦争”と評し、「将来の戦いに備えて組織化し、抵抗していくのが重要だ」とコメントしています。


《稲川ゆき@Game*Spark》

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