小規模制作のインディーゲームを中心にキュレーションした展覧会「Under commons / アンダーコモンズ」が、横浜は新高島駅B1FのアートギャラリーArt Center NEWにて、10月25日(土)~11月16日(日)まで開催中。なお、入館料は一般1000円、大学生800円、高校生以下無料。一部無料スペースにおいても展示を展開しています。
本展覧会ではインディーゲームの中でも、特に「クィア(※)」を主なモチーフとして描いている作品をピックアップ。ゲームをテーマとした展覧会の中でも、他にない特色が全面に表れています。
※ クィアとは、LGBTQカテゴリーの「Q」にも位置する、多様な性的マイノリティを広く指す言葉。日本語圏で言うところの「オカマ」と似た、強い侮蔑のニュアンスがあった言葉ですが、当事者がクィアを名乗り直すことによって、そのニュアンスをポジティブなものに変化させてきた歴史があります。

本記事では、セレクトされた各ゲームの展示レポートをお届けします。なお、本展示会のプロデューサーおよびキュレーターへのインタビューも掲載しているので、ぜひあわせてご覧ください。
大画面であの名作を遊べる!無料スペースでは『Caper in the Castro』の試遊ブースも展示
本展覧会では無料スペースと有料スペースが分かれており、無料スペースでは世界初のLGBTQゲーム『Caper in the Castro』の試遊ブースが展開。そのほか高評価サイバーパンクADV『VA-11 Hall-A:Cyberpunk Bartender Action』(以下、VA-11 Hall-A)、台湾発の三人称視点プラットフォームゲーム『Sephonie』、放置系RPG『A HERO AND A GARDEN』のラフスケッチやアートワークを展示しており、ここだけでも非常に見応えがあります。

そのほか、本展覧会でのグラウンドルールも掲示されています。展示自体も車椅子を使用される方向けに視点を少し下げており、非常に見やすく、またギャラリー内の移動もしやすくなっています。さらに、展示内のキャプションは全てテキストリーダーに対応予定。全ての人が安全に展示を観覧できるセーファースペースにするため、アクセシビリティも意識されているのです。
世界初のLGBTQゲーム『Caper in the Castro』ブース

先述した『Caper in the Castro』は、歴史上初めてLGBTQがテーマとなったポイント&クリック型のADVです。アメリカ・サンフランシスコのゲイタウン「カストロ地区」を舞台に、プレイヤーは探偵となり、失踪したドラァグクイーン(誇張した異性装を行うパフォーマー)の行方を追います。
『Caper in the Castro』はそのシステムが特徴的。基本的には街中を歩き、人々から情報を収集していくのですが、その方法は様々なものがあります。プレイヤー自身によるテキスト入力によってNPCに話しかけるだけでなく、銃を撃つ、ピッキングなどのコマンドが存在。これによって鍵のかかった場所を鍵ごと壊したり、相手からの攻撃に対応することができるのです。

また、本作のテキストも魅力的です。ゲイ・レズビアンコミュニティを舞台としたゲームなこともあり、そうしたクィアな内輪ネタやちょっとした下世話な冗談がテキストのそこかしこに埋め込まれています。例えば、カフェにいるレズビアンを見た探偵は、「Sheeesh, what a dyke!(わあ、なんてクールなダイクなんだ)」と独りごちたりします。
ダイクとは、レズビアンの中でもマニッシュな印象を持たせるクールな人、を指します(日本語圏で言えば「ボイ」と同じニュアンスですね)。当時は差別語のニュアンスも多分に含まれていましたが、LGBTQコミュニティにおいては積極的に差別語を「自分たちの言葉」に使い直す試みが行われてきました。マジョリティによって嫌厭されてきた自分たちを誇るため、そうした差別語を開き直って使ってきた歴史があるのです。
クィアという言葉や、ダイクという言葉も同じ。そうしたLGBTQコミュニティ独自の言葉遣いを、本作では感じることができます。本作は英語表示にのみ対応しているため、全てのプレイヤーにはおすすめできないのが惜しいところですが、ぜひ一度プレイしてみてほしいところです。

『Caper in the Castro』のブースは、作者の意向により無料スペースにて展示。また、本作の制作背景にはLGBTQへのHIV啓発活動があります。本作が制作された1980年代にはHIVウイルスの流行で多くの性的マイノリティが亡くなり、また迫害や差別を受けてきた歴史があります。そのことから、新宿二丁目にてHIVをはじめとしたセクシュアルヘルス(性の健康)を啓発する活動を行っている「新宿akta」とのコラボレーションが行われています。
出自もセクシュアリティも違う3人が冒険する、『Sephonie』ブース
有料スペースでは、『Sephonie』、『ファミレスを享受せよ』、『Milky Way Prince - The Vampire Star』、『VA-11 Hall-A』、『A HERO AND A GARDEN』のブース展示が行われています。それぞれの世界観やストーリーをイメージしたデザインが施されており、各ゲームのファンにはたまらないものとなっています。

まず有料スペースに入ると、『Sephonie』の展示ブースがお出迎え。アーティストである森山泰地氏が制作した、本作をイメージしたジオラマと、試遊ブースの大きなプロジェクター画面が目を惹きます。
『Sephonie』は、無人島であるセフォニー島を探索する、3Dプラットフォームゲーム。民族性もセクシュアリティも違う3人の探索者が、島の謎を追っていきます。試遊ブースでは取材時点ではキーボード・マウス操作しかできないため、やや操作難易度は高めですが、後日コントローラー操作にも対応するとのこと。

また、台湾を含む東アジアのクィア政治が専門の福永玄弥氏による選書エッセイも掲載されており、非常に見応えがあります。
「まちがいさがし」も楽しめる!『ファミレスを享受せよ』ブース

続いて目を惹くのは、『ファミレスを享受せよ』のブース。こちらは本作の舞台であるファミレス「ムーンパレス」を意識した少し閉鎖的なブースになっており、とてもいい雰囲気です。

『ファミレスを享受せよ』は、選択進行型のADV。ムーンパレスを舞台に、ファミレスに取り残された様々な人々と交流していきます。試遊ブースには本イベントオリジナルのコラボ「まちがいさがし」が置かれているほか、小説家の蒜山目賀田氏による、文庫本サイズの選書エッセイ「基地をめぐって」も。本作のゆったりとした雰囲気に任せて、ゲームやエッセイに目を通してみるのも楽しそうです。
ファン垂涎ものの“身長設定”も!『VA-11 Hall-A』ブース


ギャラリーの奥には『VA-11 Hall-A』のブースが展示。本作を大画面でプレイすることができます。

『VA-11 Hall-A』は、荒廃したディストピアを舞台としたバーテンダーADV。レトロフューチャーなサイバーパンク的世界観と、そこに生きる人々の息遣いが確かに感じられる作品です。展示では本作のメインビジュアルを描いた巨大なバナーや、各キャラの身長設定が展示されており、ファンにはたまりません。

そのほか、バーカウンターのブースも展示されています。こちらではキャラクターを背景に写真が撮れ、まさに本作の世界観を自分の身体で感じることのできるブースとなっています。
開発者npckc氏へのインタビューも!『A HERO AND A GARDEN』ブース

『VA-11 Hall-A』の隣では、『A HERO AND A GARDEN』のブースが展示されています。こちらも大画面でプレイ可能です。
『A HERO AND A GARDEN』は、箱庭クリッカー×テキストADV。囚われの姫を救うことに失敗した引きこもりの勇者が、庭の手入れと自分で壊してしまった町を修理する、というストーリーです。ブースでは各キャラの可愛らしいイラストが全面に貼られており、本作の愛らしい雰囲気を引き立てています。

そのほかブースでは、本作の開発者であるnpckc氏へのインタビューもあわせて掲示されています。こちらも読み応えのあるものとなっており、必読です。
破滅的な恋愛を楽しもう。『Milky Way Prince - The Vampire Star』ブース

少し離れたブースでは、『Milky Way Prince - The Vampire Star』が展示されています。なお、本作は一部に性描写を含むゲームのため、18歳未満の観覧はできません。また、本作では精神疾患における描写やトラウマ描写などが多分に含まれます。ご観覧の際はご注意ください。
『Milky Way Prince - The Vampire Star』は、ゲイカップルの破滅的な恋愛模様を描いた選択進行型のADV。開発者であるLorenzo Redaelliさんの半自伝的作品となっており、恋愛対象への理想化、依存関係、境界性パーソナリティ障がいなどの苦しみが克明に描かれています。

ブースでは本作の世界観や、主人公の部屋をイメージした展示が行われており、本作の雰囲気を引き立ててくれます。また、高島鈴氏の選書エッセイも掲示されています。
本展示は11月16日まで開催されており、入場者は自由にゲームをプレイできます。クィアゲームやLGBTQ表現に興味のある方も、インディーゲームが好きな方も、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
会場の「Art Center NEW」は、みなとみらい線新高島駅の地下1階。入館料は一般1000円、大学生800円、高校生以下無料です。









