ゲームを理解する“AIテスター”まで実戦投入されていた!今明かされる『モンスターハンターワイルズ』開発秘話 | GameBusiness.jp

ゲームを理解する“AIテスター”まで実戦投入されていた!今明かされる『モンスターハンターワイルズ』開発秘話

『モンスターハンターワイルズ』の開発者が語るクロスプレイ実現までの道のりと生成AIの活用エピソードをご紹介します。

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ゲームを理解する“AIテスター”まで実戦投入されていた!今明かされる『モンスターハンターワイルズ』開発秘話
  • ゲームを理解する“AIテスター”まで実戦投入されていた!今明かされる『モンスターハンターワイルズ』開発秘話
  • カプコン CS第二開発統括 システム基盤部 部長 井上真一氏
  • カプコン CS第二開発統括 システム基盤部 部長 井上真一氏
  • カプコン CS第二開発統括 システム基盤部 部長 井上真一氏

2025年2月28日にカプコンから発売されたハンティングアクションのシリーズ最新作『モンスターハンターワイルズ』。100万人以上の同時接続者数を達成し、瞬く間に全世界での販売本数が1,000万本を突破したのは記憶に新しいところです。

5月26日、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの主催で、カプコンの担当者が開発の舞台裏を明かす記者説明会が行われました。本稿では、全世界同時発売でクロスプレイを実現することの難しさから、クリエイティブな作業に集中するための生成AI活用法まで様々なエピソードが飛び出した説明会の概要をお届けします。





ギリギリまで面白いものを作り込みたい

カプコンを代表して登壇したのは、CS第二開発統括 システム基盤部 部長の井上真一氏(以下、井上氏)。主にネットワーク部分を担当しており、本作でクロスプレイを実現する上での課題をネットワークの観点から紹介しました。

カプコン CS第二開発統括 システム基盤部 部長 井上真一氏

『モンスターハンターワイルズ』は世界中のプレイヤーと一緒にオンラインで遊べるアクションゲームです。これまでオンラインプレイは単一プラットフォームの中だけで行われていましたが、本作ではその垣根を取り払い、クロスプレイを実現しています。

しかし、クロスプレイを実現しようとすると、これまでのように各プラットフォームが用意したネットワークを利用することはできません。どのプラットフォームのプレイヤーもカプコンが独自に用意したネットワークにアクセスする仕組みを構築する必要があります。井上氏によれば、それだけでも大変な課題なのですが、本作はすべてのプラットフォームで全世界同時に発売することが予定されていたため、大きな負荷に耐える必要がありました。

また、リアルタイム性のあるアクションゲームという性質から、ユーザー体験を損なう通信遅延は絶対に避けなければなりませんでした。井上氏は記者の質問に答え、「ゲームの仕様なので内部的な仕組みまでは説明できない」と前置きした上で、技術的には通信遅延の低いプレイヤー同士がマッチングされやすくなっていると説明しました。ただし、往々にして多少の通信遅延よりも最適な相手と一緒に遊べることの方が優先されるとも付け加えました。

このように大きな負荷や通信遅延といった課題があるにもかかわらず、本作はあえてクローズドベータテストによるネットワークの事前検証を行いませんでした。その理由は、発売直前まで開発を続けて面白いものを作り込みたかったからなのだそうです。しかし、その分テストには力を入れ、サービス開始後にトラブルが起きそうな部分は事前にすべて検証していました。井上氏は、「そのお陰でローンチはさして大きなトラブルが起きることもなく、ユーザーの皆さんに楽しんでいただけた」と胸を張りました。

驚いたことに、『モンスターハンターワイルズ』のネットワークはその規模にもかかわらず、若手を含むわずか7~8名のスタッフで開発・運用しているそうです。なお、この人数はピーク時の数字で、現在はさらにこの数から徐々に減っているとのこと。

皆さんが触れるものは生成AIで作りません

続けて、井上氏は本作における生成AI(以下、AI)の活用について紹介しました。AIを利用し始めたきっかけは、社内からの「もっと時間があればもっと面白くできるはずだ」という声だったそうです。開発中に手作業でしなければならないことをAIの力で解決すれば、開発効率が上がってクリエイティブな作業に集中できます。

井上氏は具体的なAIの活用事例として、テストの場面を取り上げました。カプコンのゲームはゲーム専用機以外にもPCで動作しますが、PCは様々な部品の組み合わせでできているため、障害の原因を突き止めるのが困難です。しかし、バラバラに記録されたエラーログをAIで整理することで、原因究明に役立てられるのだそうです。

その他にも、光過敏性発作の事故を防ぐためにエフェクトの危険性をAIで評価する事例や、地形データのテクスチャのずれを目視ではなくAIでチェックする事例が紹介されました。

さらに、井上氏が現在一番力を入れて取り組んでいると語ったのが“AIテスター”です。本来、デバッグは大勢の人間が時間をかけて行うものですが、人間のテスターに代わってデバッグを行う「ゲームをプレイできるAI」を作ってしまおうというのがAIテスターです。

このAIテスターがこれまでのテスト用AIと根本的に異なるのは、画面の外からセンサーでゲームの映像を見てオブジェクトを認識し、ゲームの文脈を理解した上で思考する点です。AIテスターは『モンスターハンターワイルズ』で実戦投入されました。普通の言葉で指示を出せば即座に大量のテストをこなしてくれるAIテスターも考案されており、実際に動き始めているそうです。

井上氏はAIの利点として、人間と違って夜中でも作業できること、100人必要ならば100台用意できることを挙げました。AIの活用によって開発速度は飛躍的に速くなっています。カプコンではAIをフル活用する方針ですが、生成AIで絵を描くようなことはせず、ユーザーが触れるゲームの製品をAIで作ることはないと井上氏は強調しました。そこはクリエイティブな領域としてのこだわりを持っているそうです。

最後に、カプコンでは現在エンジニアを募集していると述べ、井上氏は話を締めくくりました。


なお、『モンスターハンターワイルズ』のネットワークアーキテクチャ、テスト中に起きた事例などの詳細については、6月26日に幕張メッセで行われる「AWS Summit Japan」で発表予定です。


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