己を知り、ゲームと社会とユーザーをつなぐ―小規模デベロッパーに向けたマーケティング12の知見【CEDEC2021】 | GameBusiness.jp

己を知り、ゲームと社会とユーザーをつなぐ―小規模デベロッパーに向けたマーケティング12の知見【CEDEC2021】

小規模な開発環境では軽視されてしまいがちなマーケティング。しかし、そうした環境こそがマーケティングを重視すべきであると説いたCEDEC2021のセッションレポートをお届けします。

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己を知り、ゲームと社会とユーザーをつなぐ―小規模デベロッパーに向けたマーケティング12の知見【CEDEC2021】
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2021年8月24日から26日にかけて、国内最大のゲームカンファレンス「CEDEC2021」がオンラインで開催されました。本稿では、インディーゲームの開発者や小規模なチームを対象に、海外のカンファレンスで指摘されてきた知見をまとめたセッション「ゲームを作り始める前の「マーケティング」開発者が知っておきたい12の知見」のレポートをお届けします。

登壇したのは、アトリエサード所属のゲームジャーナリスト・徳岡正肇氏です。徳岡氏は、「なぜ開発者がマーケティングをする必要があるのか…と思ってしまう方は、マーケティングを広告、宣伝などといったユーザー調査的な一面だけを限定的にとらえてしまっている」と口火を切ります。

昔、それこそファミコンが一世を風靡していた頃ですら、当時のゲーム少年たちは人気のゲームを買うために行列に並んだり、学校の教室でクラスメイトたちとゲームの進捗や攻略情報を話し合ったり、遊びすぎて親に怒られたりしていました。

徳岡氏はそうした例を挙げながら「ゲーム体験は昔からゲームの内側だけで完結するものではなかったが、今日はSNSや動画配信サイトなどの登場で、それが飛躍的に加速している」と言及。ゲーム体験はゲームプレイだけには留まらないからこそ、ゲームとユーザー、そして社会をつなぐマーケティングをあらかじめ行うことがより重要になっていると強調しました。

さらに、自分が作ったゲームを一番最初に遊んでくれるのは誰であるかを考えると、それはどんな熱心なユーザーでもなく開発者である自分自身なのだと指摘。それをもって、ゲーム開発者はまず自分自身にマーケティングを行うべきだと続けます。

なぜ、どうやって、どんな風におもしろいゲームを作ろうとしているのかを自身に問いかける。複数人のチームであれば、メンバーにもその話をする。それを怠ると、企画の方向性が迷走したり、ひどいときには完成すらせずに終わってしまいます」。

徳岡氏はそう前置きを終えると、「本講演で挙げられる12の知見はすべて海外カンファレンス取材などを通じて得たもので、なんらかの電子媒体で発表済みです。しかし、それをまとめることにも意義はあると思います」と続け、具体的な解説に入りました。

1. 「ゲームを作る目標」を短い言葉にする

ゲームを作り始める前に、「なぜこれを作るのか」というスローガンを立てて意思統一を図ります。人は忘れっぽい生き物なので、自分1人で開発するときもこれはしておくべきであると徳岡氏は補足しました。

ゲーム開発者であれば誰もが持っているものだからという理由で「情熱は差別化要因にはならない」とも指摘します。そこで終わるのではく、その情熱を目標、理由、哲学などにして短い言葉で表現するのが重要だとしました。

例として、11 bit studiosのスローガン「MAKE YOUR MARK!(訳例:お前の心に痕跡を残すぜ)」が挙げられました。

2. マーケティングはゲームの一部

ゲーム発売/配信に先駆けて出すPVやスクリーンショットを見ることも、ユーザーにとってはそのゲームから得られる体験のひとつ。であればこそ、そこにもゲームの世界観がしかと乗っている必要性があります。

11 bit studiosが宣伝用素材としてメディアに向けて配布している『THIS WAR OF MINE』のスクリーンショットを見ると、いわゆるインベントリが「BACKPACK」と表現されています。たとえ制作中のものでも、グラフィックだけでなく、言葉や用語にもこだわるのが大切です。

3. 目標を実現するために必要な取捨選択をし、戦場を選ぶ

ゲームはリアルさを追求すればするほど面白くなるかというと、必ずしもそうではありません。当初の目標を達成するために「やるべきこと」と「できること」をしっかり切り分け、取捨選択をする必要があります。

ここで忘れてはならないのが、取捨選択はあくまで目標達成のための手段であって、取捨選択そのものが目的となってしまってはいけないということです。

戦場(≒配信するプラットフォームやゲームのジャンルなど)を選択する重要性については、徳岡氏は自身の知己であるという、amazonの「二次元ドリーム文庫」売れ筋ランキングで1位を取った作家を例に挙げました。

大きな市場とはいえないでしょうが、それでも"トップを取る"というのは実績としては大きいです。そこを評価するパブリッシャー候補もいるでしょうし、何より自分の自信にもつながります」。

さらに、"日本ボードゲーム界の父"といわれる故・鈴木銀一郎氏の「ゲームに勝つコツは、まず勝つことです」という言葉を引用し、「思い悩むより前に、まず勝負をしかける。最初は負けてもいいんです。敗因を分析し、勝てるフィールドを見定めてそこで次の勝負をしかけましょう」とまとめました。

4. セルフブランディングは原始的な方法も有効

PVやスクリーンショットをユーザーに向けて露出するのもゲーム体験の一部だというのは前述の通り。開発中のゲームのさらなる魅力を、自身のトーク力やテキストでも紹介できればさらによいですが、それもちょっとやそっとでできることではありません。

そこで例に挙げられたのが、ポーランドのインディーデベロッパー・Robot Gentlemanです。同デベロッパーのメンバーは、GDCなどのイベント、カンファレンスなどに出席するときのみ、「スチームパンク風のメガネトンセットになったハット」をおそろいで身に付けます。

こうしたプリミティブな手法も、時には自身のブランドを印象付けるうえでは有効な手段であるとしました。

5. 自分で自分のゲームを発見できるかを考える

Steamで配信されてる自分のゲームを、(タイトルを直接入力することなく)検索して見つけられるか? 徳岡氏は自身のゲームが埋もれてしまいやすいディスカバラビリティの問題を「今もっとも熱い問題のひとつ」と強調します。

一番確実なのは、タグで見つけてもらいやすいようSteamタグを研究することですが、タグの研究はゲームの企画段階においても有効であるとしました。

例に挙げられたのは、3つのローグライク系アクション『Deadcells』『Hades』『Noita』です。それぞれのタグを並べてみると、ユーザーがそれぞれのゲームにどういう要素を期待しているのか、どういったところに楽しみを見出しているかが見えてきます。

ときには、自分が作ろうとしてるジャンルのタグを見て、自分のゲームに足せる要素はあるかというアプローチが有効に働くでしょう。

6. 「いつでもリリース可能」なロードマップを考える

発売までに少しでも露出を増やすことを考えると、ゲーム系イベントへの出展機会は最大化するに越したことはありません。そのためには、開発が終盤に差しかからないと満足に遊べない作り方をするよりは、未完成でも未完成なりに遊べる作り方にするのが望ましいということになります。

後者の作り方に向いているのがサンドボックスで、だからこそインディーゲームでも人気のあるジャンルのひとつなのだと徳岡氏は指摘しました。もっとも、じっくり遊んで自分なりの遊び方を見つけていくサンドボックスが、プレイ時間にかぎりがあるイベント出展に向いているかというと、必ずしもそうとはかぎりません。企画の段階から、しっかりロードマップを描いておく必要があります。

7. クリエイティブなリスクは積極的に負う

ここでいうリスクとは、主に開発コストを意味します。インディーゲームは大手メーカーのゲームに比べれば、当然人員にも予算にも限りがあります。

だからこそ『Call of Duty』や『原神』に匹敵するようなグラフィック表現を追い求めるのは(そのためにコストをかける)のは割に合いません。自分のゲームならではの独自性はどこにあり、何なのか。それをしっかり見定めて、そこにコストをかけるのが重要です。

また、見定めるときは上記知見1にもある「自分はなぜこのゲームを作るのか」とリンクしている必要があります。いくらおもしろいアイデアを思いついても、当初思い描いていたものからかけ離れていては、それは迷走にしかなりません。

8. 「何を作らないか」を見定める

ノルウェーのインディーズゲームデベロッパー・Sarepta studioによる『My Child Lebensborn』は、現実をベースに第二次世界大戦直後の同国で過酷な人生を歩む子供たちを描いたゲームです。

子供たちの養親となったプレイヤーは、あるとき子供たちが憔悴しているのに気が付きます。彼らに何があったのかは具体的には描かれませんが、男の子が描く絵から、その身に起きたことが推測できる作りになっています。

徳岡氏はさらに、スライドの右側にある「白い丸が重なっている黄色い三角形」を指し、次のように語りました。「これを見ると「三角形の中に白い丸がある」と感じますよね。しかし、ゲームの実装としては"黄色い矢印のような三角形が三つある"だけなんです。白い丸を実装しているわけではありません。この感覚が大事なんです。人には"意図的に作られた空白(や行間)"を想像する能力があり、それに気が付くと語らずにはいられなくなる。作っていないものをうまく浮かび上がらせることができれば、強烈なバイラル効果(口コミ効果)を生み出せます」。

ただし、過信しすぎは禁物であると釘も差しました。「人の想像力は、現実を超えられない場合も多々あります。たとえば、実際の戦場で何が起きていたか、政治犯にはどのような尋問が行われていたか……それは想像では補いきれません。想像させることに執着しすぎると、想像が現実に届かないときにケアが足りなくなります」。

9. 「シェアしやすい絵」を作る

ゲームを宣伝するにしても、SNSによって高評価を得やすい見せ方は変わります。それを前もって研究しておくのも大切です。

Twitterであれば、短尺のgif動画が"強い"ですね。『Noita』では、gif動画で(プレイヤーキャラである魔女の)さまざまな死に様を共有していましたが、これは本当にキャッチ―でした。また、Twitterはひとつのツイートに画像を4枚までしか添付できません。広報効果までを考えるなら、複数のスクリーンショットでドラマを見せたいときは4枚分に収まるように設計するのもいいでしょう」。

10. 「独自性」をハードウェアに依存させすぎない

Steamですでに配信されているゲームが他のプラットフォームに移植されると、Steam版の販売数も伸びることが多々見られます。これは、ゲームの公式SNSアカウントやゲームメディアなどが移植版のリリースをアナウンスしたことがSteam版にとっても呼び水――格好の宣伝になるためです。

このような、"関連する特徴に引っ張られてスポットが当たる”効果を海外ではヘイロー効果、日本ではハロー効果などと言いますが、ゲームの設計が特定のプラットフォームに依存しすぎたものになっているとそもそもの話としてマルチプラットフォーム展開をしづらくなってしまいます。

何度もチャレンジできればそれだけで生存確率は大幅に上がるので、特定のプラットフォームならではの独自性に特化した作りにしてしまうのはリスクが高いとしました。

11. 「自分は変人だから、理解してもらえない」と考えない

開発チーム内のコミュニケーションに重きを置いたトピックです。「自分は考え方がズレているから、きっと人には理解してもらえない」と考えてしまうことは、程度の差はあれ多くの人が経験したことがあるかもしれません。

しかし徳岡氏は、"数字のトリックのようでもあるが"と冗談めかしつつ、仮に自分が10万人に1人の変人だとしても、日本国内だけで1000人もいると否定します。

自分が作ろうとしているゲームを仲間にも説明し、分かってもらえるよう努力する。何をおもしろいと感じ、何を作りたいと思っているのか分からない相手とゲームを作り続けるのは、ただただ苦痛でしかありません。自分から手を伸ばしましょう」。

12. Steamが提供する「マーケティングの基本」を読む

Steamのフッターにある「Steam配信」をクリックして「Steamworks」にジャンプ。ここで上部のメニューにある「ドキュメント」を選択すると、Steamで配信したい開発者が目を通しておくべき大量のドキュメンテーションを無料で閲覧できます。徳岡氏は「非常に価値のある資料ですが、ちょっと場所が分かりづらいとも思うので紹介しました」と補足しました。


徳岡氏は最後に、「開発者の多くがマーケティングという言葉を忌避するのは全世界共通です」と語りました。氏は、アメリカやヨーロッパのパブリッシャーからも「デベロッパーと話しているときにマーケティングという言葉を出すと、すごくイヤそうな顔をされる」という話をよく耳にするそうです。

しかしながら、本講演の内容をなぞり「ゲーム体験はゲーム内では完結していませんので、それでもゲームとユーザーと社会をつなぐマーケティングを企画段階で一切考えずに作るのはリスクが高いです」とも指摘。本講演以外にも有益な知見は多数あり、同時に、その中には現代ではすでにそぐわない過去のものもあるので今の自分に有益な知見を見定めるのが大切であるとし、講演をまとめました。

マーケティングは、チェックシートを全部埋めればいいというものではありません。これはゲーム開発も同じであるはずです。数々の知見の中から、自分の目的にもっともフィットしたものを見出してください」。

《蚩尤》

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