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プレイ時間に大きな変化…新型コロナがゲームユーザーに与えた影響をデータから読み解く

ゲームのマーケティングリサーチとコンサルティングを手掛けるゲームエイジ総研のコンサルタントに「新型コロナウイルス感染症」がどのようにゲーム市場に影響を与えたか、貴重なデータを元に分析してもらいました。

市場 調査
(Photo by Carl Court/Getty Images)
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モバイルゲームの分析データから見えた傾向…自宅待機はユーザーのプレイ時間に影響していた



――では、モバイルゲームについて詳しくお話を伺えればと思います。まずはデータをまとめている「iGage」について詳しく教えてください。

現在「iGage」では135万ユーザーのアプリ起動ログを取得しています。7月に予定しているマイナーアップデートではこのパネル数を大幅に増加させ利用者数の少ないアプリユーザー動向までフォローできるようになる予定です。非常に巨大なデータベースを持っていると理解いただければと。


詳細はお伝えできないのですが、ログ取得はユーザーの許諾を得ており、同様のサービスだと特定のアプリをインストールしているユーザーの起動ログを吸い出して、まとめているようなものもありますが、我々はそのような方法はとっていません。

また、一次データに近いユーザー情報も同時に取得しているので、日本の人口統計にあわせた分布のデータを抽出して分析するようなことも可能で、ここまで精緻なデータを保有しているのは「iGage」くらいだと思います。

――貴重なデータベースを元にしているということですが、具体的にはどのように活用されているのでしょうか。

各アプリのユーザーデータ(住所/年齢/性別)やアクティブユーザー数、起動の傾向などをデータとして持っているので、単純にそうした数値を分析することはもちろん、特定のユーザーに「なぜそのゲームを辞めたのか?」といったリサーチを直接かけることもできます。また、クライアントにはダッシュボードとして各種数値を閲覧できるようにしているので、プロモーションの効果を測っていただいたり、競合の分析にも活用いただいています。

先ほどお話した7月のアップデートでは、ゲーム以外のアプリともクロスで集計ができるようになるんですね。例えば『ドラクエウォーク』をプレイしているユーザーがどのSNSをどれくらい使っているかとか、どのような通販アプリを利用しているかといった情報までクロスでまとめることができるようになります。各アプリの起動を時系列で追うことができるので、カスタマージャーニーの遷移も精緻に分析できますし、ここにテレビCMやデジタル広告の出稿データを紐付けることができれば、これまでにない広告効果測定も可能になるはずです。

――「iGage」を利用すれば、単にリサーチだけではなく、マーケティング施策考えたりとか、ゆくゆくは広告の効果測定もできると。地域別のユーザー数や動向も追えるようなので、例えばこの地方でリアルイベントやったらいいとか、広告以外の施策を検討する際にも使えそうですね。

さらにいうと、ある地域でイベントをやると何人がそのアプリを使ってくれるのか、予測したり効果測定したりということも可能になると思います。

――現在も非ゲームアプリのデータは取得しているんですか?

実はバックグラウンドには全アプリのログが溜まっています。

――例えば、自社のユーザーが意外とタクシー乗ってるユーザーが多いというデータがあれば、リテンションにタクシーのディスプレイにCM打ってみるとかいうところまで広げられるわけですね。

そうですね。まだまだこのデータはいかようにも活用できると思います。

――それでは、コロナの話も交えつつ、まず全体の話から先に伺います。特にモバイルゲームで影響が大きいのは、学校の休校措置タイミングだったかと思うのですが、どのような変化があったか具体的に教えてください。

先程木戸も少しお話しましたが、先に結論からご説明すると、モバイルゲームにおいてもアクティブユーザー数はやや伸びたものの目立った変化はなく、一方でプレイ時間は伸びるという結果になりました。


上のグラフの縦軸は全ユーザーのゲーム起動時間を足し上げたものなのですが、大体2月の平日平均は5,098万時間で、3月以降は5,335万時間と約4~5%増加しています。ちなみにご想像のとおり、土日祝日の方がプレイ時間は増えるのですが、こちらも同じく2月よりも3月の方が全体的に伸びています。

――やはりプレイ時間の伸びは顕著ですね。しかし、4~5%程度の伸びというのはやや少ない印象をうけます。

確かにそうした見方もできますが、この数値は全ユーザーの合計値なので、一日何時間もゲームをプレイする人もいれば、ログインボーナスをもらうだけに起動するというユーザーも十把一絡げに集計しています。後者のようなユーザーは、あまり3月に入っても動きは変わらず、しかも数が多いので全体としてはそこまでインパクトのある数字にはなっていません。分布の考え方でいくと、元々コアにゲームを遊んでいたユーザーの変化を追えばもっとプレイ時間の変化に差が現れると思います。

これはデータからの推測ですが、スマートフォンというのは既に多くの国民が持っていて、余暇時間が増えたから新しくゲームをやろうということには直結しないんじゃないかなと。だからユーザー数には変化がないけれど、プレイ時間に差が出てきているんだと考えています。

――個別で注目すべきタイトルをいくつかご紹介いただけますか。

3月2日に全国の小中高校に一斉休校の指示が出たわけですが、一番分かりやすい動きをしたのは『荒野行動』ですね。下のグラフを見てもらえば分かるように、3月に入った瞬間にプレイ時間がバンと増え、DAUも2割くらい増加しています。


――ユーザー層から考えても、分かりやすい結果になっています。

そうですね。若年層が多いタイトルではあるのですが、下のユーザーデモグラフィックを見てもらえれば、何故3月にここまで数値に変化があったかは一目瞭然だと思います。


ご覧の通り、10代の男性が半数近くを占めています。我々のデータから、彼らは結構色々なゲームをつまみ食いする層だと考えています。なので『荒野行動』の2月のDAUを見てもらえば分かるように、非常になだらかではありますが、右肩下がりだったんです。ところが
3月に入った途端に、プレイ時間もDAUも大きく伸ばしている。つまり新規のユーザーが増えたというよりは、今まで以上にプレイ時間が長くなった人たちと、休眠ユーザーが復帰したのだといえます。

――なるほど。非常に分かりやすいデータだと思います。3月中旬からはリモートワークに切り替わる社会人も出てきたと思いますが、そうしたユーザーの影響を大きく受けたタイトルはありますか?

ずばり『グランブルーファンタジー』ですね。


――これも分かりやすいですね。

ユーザー層を考えるとグラブルに関しては、自宅待機になり始めた社会人がプレイ時間を増やし、また復帰するユーザーも増えたのだと考えられます。

――一方で外出が制限されるということで、位置情報系のゲームはネガティブな影響を受けたのではないでしょうか。

確かにそういうように考えがちですが、実際のデータを見るとそこまで深刻な影響がないことが分かります。


上のグラフは『ドラゴンクエストウォーク』のデータですが、元々2月からダウントレンドで、3月に入って皆が外出しなくなったからとはいえ、大幅にDAUやプレイ時間を減らしたということはありません。ダウントレンドは変わらずですが、影響が少ないタイトルといってもいいでしょう。

ちなみに本作では、4月15日から「どこでもメガモンスター」という、自宅にいながらイベント戦に参加できる機能が追加されました。こうした施策がどのようにトレンドに変化を与えるかは引き続き追いかけたいと思います。

――なるほど。他に特徴的な動きをしているタイトルはありますか。

次が最後ですが、現在アプリのダウンロードランキングでも上位に入る『ホームスケープ』ですね。


DAUについてはほぼ横ばい、ただ、やはり余暇時間の増加でプレイ時間は増えてるということが分かります。やはりこれも自宅待機の良い影響を受けたタイトルといっていいでしょう。

いくつか具体的なタイトルの動向を紹介してきましたが、冒頭にもお伝えした通り、アクティブユーザー数が劇的に変化するタイトルは多くないにせよ、プレイ時間に関しては増加している傾向が分かると思います。

――“DAUもプレイ時間も伸びたタイトル”、“全く前後でトレンドが変わらないタイトル”、“DAUには変化がないが、余暇時間の影響でプレイ時間が伸びたタイトル”、この3種類に大別されそうですね。ただ、業界の方に話を聞くと、そこまで売上にインパクトはないという声も漏れ伝わってきます。

「iGage」でも売上のデータまでは補足していないのですが、プレイ時間が増加することが売上に直結するかと言われれば、そうとも言い切れないのかもしれませんね。

――ありがとうございました。4月の緊急事態宣言以降のトレンドもぜひ分析してただいて、詳しくお話をうかがいたいなと思います。最後になりますが、マーケットを分析されているお二人はコロナ禍をどのように捉えていますか?また、今後ゲーム業界はどのように変化すると考えているでしょうか。

今も情報を分析しているところですが、ゲーム業界に関しては、大きな打撃を受けている産業に比べると遥かにダメージは少ないと思います。データを見る限り、滅茶苦茶ユーザーが増えているわけではないけれども、プレイ時間は明らかに増えていてユーザーとの接点が増えていることが分かりました。

予断を許さない状況ではありますが、これまでゲームに一定金額支出してきたユーザーが、全くお金を使えなくなるような経済状況にでも追い込まれない限りは、そこまでネガティブなインパクトはないだろうと考えています。

むしろ木戸も話していた『あつまれ どうぶつの森』のように、新しいコミュニケーションツールとして再びコンシューマーゲームにユーザーが戻ってくる可能性すらあるのではないかなと。現にデータとしてもスイッチのアクティブユーザー数は大幅に伸びているわけです。これまでのように肩を並べて隣でプレイすることはできなくなっても、ゲームを通じてSNSにはないコミュニケーションの体験を提供できれば、他のエンタメコンテンツと比べてもこれまでと同じプレゼンスを維持できると思います。おおきく業態を変えなくてはいけない産業も少なくないなかで、ポストコロナの時代もそこまでゲームとユーザーの関係性に変化はないんじゃないかなと。

もちろんアミューズメント施設など、ゲーム業界でも深刻な影響を受けている分野もありますし、プロモーションや開発のスタイルも変化を迫られるでしょう。ただ、マクロな視点で広く業界を見渡すとそこまでネガティブになる必要はないですし、短期的にはユーザーがゲームのプレイ時間を増やしている現状はポジティブに捉えていいと思います。

木戸この数十年では経験したことのない事態が世界中で同時に発生していて、色々な業界で先行きが見えなくなり、社会全体がネガティブな状況になっています。一方でゲーム業界はというと、そこまでユーザーが増えもしないし、減ってもいないという特異な状態です。

数ヶ月前と比べて劇的に何かが悪くなっていることもありませんが、このままの状況が続き、事態が悪化していった時にこの特異な状態が続くかどうかは注視していきたいと思います。
《宮崎紘輔》

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