現代の運営型ゲームが生き抜くためにー売り上げを伸ばすデータ分析とデータ基盤を作る方法とは【CEDEC 2023】 | GameBusiness.jp

現代の運営型ゲームが生き抜くためにー売り上げを伸ばすデータ分析とデータ基盤を作る方法とは【CEDEC 2023】

運営タイトルは売り上げを出すためにさまざまな要因を探ることが重要になります。そこで現代の進歩したデータ分析によって、いかに要因を探るかの方法がCEDEC 2023で語られました。

市場 調査
現代の運営型ゲームが生き抜くためにー売り上げを伸ばすデータ分析とデータ基盤を作る方法とは【CEDEC 2023】
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基本無料で運営されるモバイルゲームや、MMOタイトルなどをはじめとした運営型タイトルは、ユーザーにサービスを継続して遊んでもらい、課金してもらうというビジネスモデルです。しかし簡単にはいかないものであり、どうやって売り上げを伸ばすかの要因を探ることはどの企業も頭を悩ませていることでしょう。

そこで最近では、運営中のサービスを分析し、どの要因を調整すれば売り上げを伸ばすことに繋がるか? などを推測できるデータ分析が盛んに行われています。CEDEC 2023にて講演「ゲームの売上を伸ばす:データ分析や機械学習の活用事例とデータ基盤構築方法の紹介」では、そんなデータ分析がどのように行われ、運営タイトルに活用されるかが解説されました。

シンキングデータのデータアナリスト白石陸氏と、澪標アナリティクス代表の井原渉氏が登壇し、実際にさまざまな企業のゲームの分析を行ってきた実績をもとに、売り上げを伸ばすためのデータの見つけ方についてが語られています。

日本はデータ分析と活用が遅れている

まず本題に入る前に、現在の運営型タイトルを取り巻く状況について紹介されました。本講演ではモバイルゲームに絞っていましたが、かつてビデオゲーム産業で一世を風靡したこのジャンルも近年では売り上げやダウンロード数ともども低下しており、厳しい市場環境となっています。

さらに中国やアメリカの企業によるタイトルも日本市場に進出しており、グローバルでの競争を強いられています。ストアランキングも中国からのタイトルが上位に位置することが多くなっています。

IMDによるデジタルの競争力の調査ではよりシビアな結果が出ています。グローバルでの競争に巻き込まれているにもかかわらず、競合である中国が飛躍的に伸びているのに対し、日本企業は低下しつつある状況が露にされています。

IMDはさらに先のデジタル競争力がどのように構成されているかも要素別のランキングとして明らかにしています。日本では「世界のロボット分布」や「モバイルブロードバンド加入数」などは世界トップにありますが、「国際経験」や「企業の俊敏性」などは下位に甘んじています。

特に本講演が注目したのは「ビッグデータの分析と活用」のランクです。こちらも下位に位置しており、「日本はデータの分析と活用が世界に対して遅れを取っている」と指摘しました。

そうしたデータ分析にはさまざまなレベルがあります。まず数値に置き換えるデータの可視化、そしてデータの集計と解析、それらを元にしたAIによる機械学習というものです。

これらの分析のレベルには、データを可視化することで状況を理解したり説明したりしやすくするほか、データを集計することで今後のサービスをどうするかの施策を考えることなどに役立つわけです。

具体的なデータ分析によって、売り上げを伸ばす要因を探る

具体的なデータ分析に関しては、それを主な業務とする澪標アナリティクスの井原氏が解説を務めています。

まず「ある運営タイトルがサービス1周年を迎えたとき、新規ユーザーについた継続と離脱のデータ分析」をした事例を紹介。ここで同社がよく使う分析手法に「決定木分析」と呼ばれるツリーによってデータを分析する手法が挙げられました。この手法は機械学習や統計、マーケティングなどで用いられている手法です。

井原氏はこの手法で運営タイトルのデータ分析をするとき、「この行動が継続率などに影響しているのではないか」という仮説を100~200個ほど立てるそうです。そうした膨大な仮説を、ここでは継続率に影響を与える変数として考えていきます。

それらの変数をまとめて決定木分析に使うことで、「何の要因が一番ユーザーの継続率に影響したか?」が統計的に明らかになるのです。これによって、開発側はガチャやイベント、総クエスト回数などさまざまな要素のどこで継続率が上がるかがわかるため、調整をかけるポイントを知ることができます。上記のスライドでは、ユーザーの総クエスト回数が10回以上かどうか継続率にもっとも影響したとまとめています。

一方で大事なのは「一度、あたりまえの分析結果も出すようにすること」だと井原氏は述べています。「クエストを遊べば遊ぶほど継続している」とか、「課金すればするほど課金が多い」という当然の結果ではあるのですが、もしその結果が分析結果に表れなかったならば何らかの問題が潜んでいるためです。

先の総クエスト回数が継続率に影響するのでは? という例で言えば、そもそも総クエスト回数自体がゲームの継続を左右するとは考えにくい。そこで総クエスト回数に関係する変数を省いた上で、もう一度同じ分析を行います。

その結果「回数限定イベントを24時間以内に3回以上プレイ回数していると継続率が上がる」ことが見え、ユーザーのこうしたイベントへの反応がゲームを継続してもらうポイントが明らかになるのです。

他の運営タイトルの分析事例では、各国別にデータ集計を行ったところ「某国だけ売り上げがすごく悪かったのはなぜか? その国ではサービスを終了すべきかどうか?」の理由を探っています。

実際にさまざまな変数を使い分析した結果、特定の行動を取ったユーザーの離脱率が高いことがわかりました。それはキャラを進化させたときでした。

キャラがレベルアップしきった際に、次の形態に進化したときレベルがリセットされる仕様は日本ではおなじみでしょう。ですが某国のユーザーは「せっかく上げたレベルが1からに戻ってしまった」と感じてしまい、やる気がなくなりゲームから離脱してしまったのです。当時の某国においてはそうした進化によるレベルリセットがあるゲームはなかったため、日本からは予想外の反応が起きたわけです。

この原因を突き止めた開発は、某国ではキャラが進化時にレベルリセットしない仕様に切り替えます。結果、見事に売り上げが1位になったとのことです。

ここでのポイントは、「最初に各国別の売り上げデータ集計を取った結果、某国だけ悪い」という事実において、その某国にだけ責任があるわけではないということです。「責任はゲームの仕様にあって、それが某国の売り上げに出てきているだけである」とみるべきと井原氏は指摘します。

またデータ分析は、依頼する人間の勘と経験による違和感を否定するものでもないと井原氏は語ります。井原氏が「そもそもなぜうちにデータ分析を頼んだのか?」とゲームのプロデューサーに伺ったところ、「有名IPを使ったゲームでもあり、それが某国でこれほど売り上げが悪いのはおかしい」という違和感が理由でした。

そうした勘と経験とデータ分析は対立するものではなく、仲良くやっていくものだといいます。ただし、企画側にちゃんと仮説があり、それに従って行動する場合はデータ分析の出番はないとも井原氏は語っています。

公園ではもうひとつ、運営タイトルの売り上げ低下の要因を特定したケースも紹介。こちらはモバゲーやGREE時代のソーシャルゲームの事例です。

当時それらのタイトルは所持できるカード枠というものがあり、一人100枚までと決まっていてそれ以上はガチャを引けなくなるものでした。しかし余ったカードを売ってもゲーム内通貨にしかならず、すでにカード枠を埋めるほどやり込んでるユーザーはそんな通貨も大量に持っています。するとカードも売らなくなってしまい、カード枠がうまったままという現象が生まれるのです。

そこで開発側はカードをアイテムにできる仕様を追加。そうすることでカード枠を開けてもらい、ガチャによって課金してもらう狙いでした。ところがユーザーに好評だったのに売り上げが下がったのです。

そこで井原氏に「なぜ売り上げが下がったのか分析してほしい」という依頼が来たのです。まず課金されたアイテム別にデータ集計した結果、カードを何のアイテムと交換するかで課金率が違ったことがわかりました。

何のアイテムかというとそれはガチャチケットで、カード枠を開けた分をそちらに回すために課金率が低下していたのです。ここで分析した側が原因を突き止めても、依頼した企業側に「この機能はやめましょう」とは言えません。

そこで何をしたかというと行動経済学の考えを使い、ユーザーの分類を行いました。「アイテムをもらうと課金が下がる人」、「アイテムをもらっても課金する人」、「絶対課金しない人」らのタイプに分け、ゲーム側がなんらかのアクションをしたときユーザーらがどのように行動を変えるのか、機械学習も利用して予想を立てます。そうしてそれぞれのタイプのユーザーに合わせ配布内容や、配布対象者の見直しを行いました。当時はAppleやGoogleの規制も緩かったため、ユーザーのメールアドレスを回収しておりそこから各プレイヤーのプレイ傾向に合わせて直接、限定アイテム配布などを行っていたのだそうです。 

また井原氏は最近増えてきたものに「さまざまな非ゲームなデータとマージした分析をしていきたい」というものがあるといいます。

最近のビデオゲーム業界では、ゲームのみで完結して運営しているケースは減っており、リアルイベントとセットだったり、グッズの物販やメーカーのコラボが増えています。井原氏はそれらと運営ゲームがマージしたデータ分析の基盤作りも行っています。

これまではコンテンツホルダーやイベント会社が提供するイベントやアプリごとにデータ分析をする状況でした。ところが、別々に分析していると仮説が立てられない問題が出てきます。たとえばゲーム開発会社は当然ゲームのことが専門のため、ユーザーがリアルイベントでどういう行動をするかの仮説が立てづらいのです。

それらを一か所に統合した環境にすることで、ゲーム会社もイベント会社のリアルイベントでどんなデータがあるかを見やすくする環境にしているとのことです。

ここまでは統計学的に対応したケースですが、機械学習を利用したケースもいくつかあります。

ひとつは動画配信のサブスクリプションと一緒に分析したケースです。サブスクリプションの多くは「一週間や一か月の間だけ無料で利用でき、その後に課金が発生する」という形を取っています。そこで、無料期間中に退会するユーザーも数多いです。

ここで井原氏が分析したのは「ではどういうユーザーが無料期間中に退会しそうなのか?」でした。ここで機械学習を使い、退会しそうなユーザーを特定。退会しそうなユーザーに対してクーポンを出す施策を取ったとのことです。

ここでなぜ統計学ではなく機械学習かというと、先の事例のように仮説と実証で原因を求めるのではなく、リアルタイムで対応できることを優先し、ブラックボックス性を高めたいためとのこと。つまり「そもそもなぜ退会しそうな人なのか詳しい理由はわからない」で構わず。「わからないけど退会しそうなユーザー」が見つかればよいという考えから、機械学習が利用されているケースです。 

続いての機械学習系のケースに、モブキャストと共同で行ったデータ分析が挙げられました。かつてGoogleアプリキャンペーンがありました。これは課金したユーザーのIDをGoogleに送ると似たような傾向を持つユーザーにWEB広告で送ってくれるサービスです。

井原氏はそんなサービスに分析をかけました。まず最初にやったことは課金したユーザーのIDを送り返すことでした。

3か月のLTV(顧客生涯価値)だと、3か月経たないと広告に効果があったのかがわからない問題がありました。その間を待っていると、さまざまなキャンペーンも含まれてしまうために結局、広告の効果もわからなくなる結果になってしまってました。

そのため、課金したユーザーがアプリをインストールした初期の7日間をデータを元に、機械学習を使って90日後のLTVを予測することをしていました。そしてそのLTVが高かったユーザーのデータをGoogleに送り返すことで、売り上げの増加があったとのことです。

機械学習ではカスタマージャーニーの分析にも利用されています。カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知り、実際に購入し、利用するまでを表す言葉です。

井原氏は「これも難しい分析手法」になったといいます。そもそものカスタマーの「ジャーニー」を定義するのが難しく、顧客は自由にさまざまな行動をするため説明変数を決めることが困難なのです。そこで機械学習を挟み、分析できるようにしました。

そこでまず「優良顧客」とは何かを定義。およそ1000円以上使う客として定義し、それくらいお金を払うのはどういう行動をしてきたのかを機械学習にかけていきます。その結果、どの行動が重要であるかを見出し、その行動の前後関係をカスタマージャーニーとして落とし込む、という形で分析していきました。   

その他に「重みづけアンケート」というアプローチもあります。よくゲームについてのアンケートを取り、集計にかけた結果、票が集まった不満な点が明らかになるわけです。しかし井原氏は「その結果に違和感がある」といいます。

なぜかというと、アンケートで不満と語るひとほど課金率が高く、継続率が高かったからです。そもそも離脱している人はアンケートを答えることはないので、むしろゲームを愛している人ほど辛辣な解答を残しているわけです。しかしそんなユーザーに合わせた調整をすると、ヘビーユーザーに合わせた調整のため偏ってしまう問題も。

そのため、井原氏はアンケートに “重み付け”を行っていきます。これはユーザーがアンケートに答えてくれるだろう確率を予測し、掛け合わせる手法です。この手法により「1%の確率でしかアンケートに答えてくれない人でも、その裏に同じ意見の人は100人はいる」ということが推測できるのです。

さらにグラフィカルモデルも利用し、ゲームの満足度に関係する項目の因果関係や影響を可視化し、間接的に影響しているものを解き明かしていくことも行っています。いずれにせよ、普通にアンケートの結果を見るだけではなく、その背景も含めて解釈するための手法とのことです。

また「1周年記念」の時に行うようなキャンペーン動画配信の効果の分析も。配信の結果、売り上げが上がったかどうかを分析すると、シンプルに配信を見た人と見なかった人とで課金率が違っていたといいます。これも当たり前の話で、そのゲームが好きな人が配信を見ているのだから課金しているわけです。

こちらも先にアンケートの問題と似ており、ユーザーが配信を見てくれる確率を予想し、実際にどれくらいのユーザーが裏に同様のユーザーがいるという “重みづけ”を掛けることで分析します。

その結果、ガチャの回転数が配信を見たユーザーと見なかったユーザーとでどれくらいポイントが違うか具体的になりました。そのため、配信の効果でどれくらいの売り上げが出たかの詳しい情報も明らかになったのです。このように、ゲームのデータ分析はさまざまな分野の課題解決に役立っているわけです。

安定した分析を実現するためのデータ基盤の作り方

ここまで井原氏によって解説されたデータ分析のための基盤をどのように作るかについて、シンキングデータの白石陸氏が解説します。同社では主にThinkingEngineというデータ分析サービスを提供しており、その運用経験から具体的な機械学習の方法について白石氏は説明しています。


《葛西 祝》

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