
生成AIがさまざまな現場でトピックスとなっています。特にゲーム業界では開発の効率化に役立つと目される一方、アートやテキストのような人間のクリエイティブに関しての利用はセンシティブな扱いが続いています。
実際に現場の効率化などを考え、生成AIを導入する場合はどのような開発環境にできるのでしょうか。Tencent Japan合同会社の李玥江氏による講演「AIはゲーム制作をどこまで変えられるのか ――デザイン・開発・制作現場における最新活用事例」では、Tencent社内での実践をもとに、デザインから開発、QA、業務効率化まで、生成AIを制作パイプライン全体に組み込むための具体的な取り組みが紹介されました。
本質的な創造に集中できるよう、煩雑な作業を支える生成AI

今年のアメリカで開催されたGDCによる業界レポートによれば、すでに36%の開発者が生成AIを活用しているといいます。その一方で、52%の業界関係者はその影響をネガティブに捉えていることが明らかにされています。

この背景にあるのがクリエイティビティの境界という考え方です。つまり業界が求めているのは創造性を置き換えるAIではなく、本質的な創造と判断にチームが集中できるよう、反復的で煩雑な作業を支える生成AIだといいます。

Tencentではこの考え方のもと、生成AIを単なるツールとしてではなく、デザイン・プロダクション・開発・コラボレーション・QAといった各工程に組み込んで初めて価値が生まれる存在と位置づけています。またAI活用を組織全体に広げるためには、複数のAIモデルへの接続や利用状況のモニタリングを支える共通基盤も必要になるとされました。

デザイン工程では、クリエイティブ支援ツール「Miora」が紹介されました。自由に広げられるキャンバス上で、作りたいもののイメージやデザインの方向性を自然言語で伝えると、AIエージェントがその内容を細かいタスクに分解し、それぞれに適したモデルやツールを自律的に選択して画像を生成します。
生成された画像を確認したうえで実際のゲームに使用できる3Dモデルへと展開し、リギングやモーションを組み合わせてキャラクターに動きをつけ、最終的にカメラワークを構成した動画としても確認できるといいます。すべての工程をAIに任せきるのではなく、各段階で人が結果を比較・選択し、イメージと異なる部分はその場で修正を指示して作り直せる仕組みです。
この仕組みの特徴は2点あるといいます。1つは、画像・3Dモデル・動画など制作に必要な素材を1つのキャンバス上に集約できるため、キャラクターや世界観の一貫性を保ちながら制作を続けられる点です。
もう1つは、デザイナーの考え方やプロジェクトのルールをAIの「メモリー」として蓄積できる点で、新しいコンテンツを制作する際にもこれまでの方針を引き継ぎ、プロジェクト全体の統一感を保てるといいます。実例として、UIデザインの領域でも、自然言語による指示から実際に操作可能な形でUIを生成し、画面遷移を含めてその場で確認できる事例が紹介されました。
制作のボトルネックをAIで効率化

グローバルイルミネーション(GI)によるライティング工程は、空間の見え方を左右する重要な工程である一方、従来のベイク処理は計算負荷が高く、ライトマップの生成・調整が制作のボトルネックになりやすいという課題があります。
これに対し、クラウド上での並列処理とAIによる画質強化、AIによるアーティファクト除去を組み合わせたツール「Magic Dome」により、ベイク処理を最大40倍高速化し、生成データの容量も最大70%削減できるといいます。この技術は実際に、グローバル展開しているタイトル(『Arena Breakout』『鳴潮』など)で活用されているとのことです。

開発工程では、要件定義から設計・実装・デプロイまでを支援するAIコーディングエージェント「CodeBuddy」が紹介されました。Figmaの内容をMCP経由で直接読み込み、意図に沿った実装を進めることができ、社内では既に82%以上の開発者が利用し、コーディング時間を40%以上削減しているといいます。

反復的なデスクワークに向けては、Excel・PowerPoint・PDFなどのローカルファイルを直接操作し、ドキュメント処理やデータ分析、レポート生成を自律的に実行するAIエージェント「WorkBuddy」も紹介されました。マルチエージェントによる並列処理やリモート操作にも対応しており、メッセージングアプリ経由でローカルPC上の作業を実行させることも可能だといいます。

QA領域では、AIによる自動化テストプラットフォーム「WeTest」が紹介されました。ゲーム内のUIやオブジェクトの情報を収集して判断モデルを構築し、そのモデルをもとにAIエージェントが状況を判断しながら自律的にテストを実行する仕組みで、決められた手順を繰り返すだけの従来の自動化テストから、状況に応じて行動するテストへの進化だといいます。
特にリアルタイム性が求められるバトルテストでは、LLMの推論をそのまま操作に使うとキャラクターの反応が遅れてしまう課題があったといいます。この対策として、低頻度で移動ルートや行動方針を決定する「Sync」(0.2Hz程度)と、高頻度で移動・回避・射撃など瞬時の反応を担う「Act」(30Hz)を分離。一度決めた方針を複数の実行ユニットで共有することで、大規模な並列テストにも対応しつつ、トークン消費量を条件によっては最大50分の1まで抑えられるといいます。

これらの取り組みを組織全体に広げるうえでの課題として、プロダクトごとにモデル接続やAPIキー発行、利用状況・権限管理を個別に構築する非効率さが挙げられました。
Tencentではこれを解決するため、複数のAIモデル(自社モデルやDeepSeek、Kimiなど)を一つの基盤から利用できる「TokenHub」を運用しており、OpenAIのAPIとの互換性により既存のSDKやツールからも接続可能だといいます。トークン使用量の確認や、APIキーごとの利用モデル・権限設定にも対応し、チームやプロジェクト単位でAIを安全かつ継続的に運用できる仕組みだといいます。

最後に、AIを試験導入で終わらせず制作現場に定着させるための3原則が示されました。
第一に、AIありきではなく、待ち時間や手戻り、品質のばらつきといった課題の把握から始めること。第二に、世界観や面白さ、品質、リリースの判断は人が担い、人の判断を工程の中に残すこと。第三に、個人のプロンプトやチームの取り決めを共通のスキルやワークフローとして標準化し、再利用できる仕組みにすることです。モデルの性能だけでは現場での価値は決まらず、業務設計や責任分担まで含めて制作パイプラインに組み込むことで、初めて継続的な改善につながるとして、講演は締めくくられました。






