「宮﨑知己の考えるラジオ《THINK RADIO》」というYouTube番組に呼んでいただき、筆者がこの夏ずっと作り続けている「無限音楽機関」について1時間近く話してきました。対談相手はライターで、Sunoで作った架空のプログレアルバムを配信した音楽レーベル主宰者の山崎潤一郎さん。バンド仲間でもあります。
・松尾公也さんゲスト/AIで作る音楽の未来がここに!/ビートルズ・ユーミン・バッハ・サティ...音楽を生成
無限音楽機関というのは、筆者が Claude(主に Claude Code)と一緒に作っている、音楽を無限に生成し続けるブラウザアプリ群の総称です。7月から書き続けてきた一連の記事が対談の下敷きになっているので、この機会に、これまでやってきたことと現在地をまとめておきます。
なぜ「無限」なのか
Sunoがあるのになぜ自分で音楽生成のプログラムを作るのか。生成AIで曲を作っても、その場でできたものをコントロールできません(Suno Studioとかはありますが)。長さは最長でも8分。どこで終わるかも分からない。BGMとしてずっと流しておくには使いづらいです。ラジオ機能とかはあるんですけど、Sunoは同じ曲を何度もリトライするからゴミのような曲が無数にできてしまう。
それなら、対位法やコード理論といった音楽理論をアルゴリズムとして組めば、曲そのものをローカルで無限に紡ぎ出せるのではないか。作るところにはAIを使いますが、できあがったアプリはAI推論を一切使いません。ブラウザの中で動く、純粋なジェネレーティブミュージックです。
これなら、SynthIDとか何やらのAIウォーターマークをこっそり入れられることもないし。
これまで作ってきたもの
7月から8月にかけて作った音楽装置を並べるとこうなります。
最近の音楽生成ツールまとめ
ビートルズ様式「Fab4楽曲ジェネレーター」(7月13日)
https://www.techno-edge.net/article/2026/07/13/5285.html初期ユーミン様式のバラード生成マシン(7月15日)
https://www.techno-edge.net/article/2026/07/15/5297.html歌謡曲の巨匠サウンドをアルゴリズムで(7月17日)
https://www.techno-edge.net/article/2026/07/17/5305.htmlキース・エマーソン風・無限シンセソロ(7月18日)
https://www.techno-edge.net/article/2026/07/18/5311.htmlブルースギター自動演奏「SLOWHAND ∞」(7月20日)
https://www.techno-edge.net/article/2026/07/20/5314.htmlバッハ手法の音楽を無限に紡ぎ出す装置(7月23日)
https://www.techno-edge.net/article/2026/07/23/5327.htmlエリック・サティ様式「無限サティ機関」(8月8日)
https://www.techno-edge.net/article/2026/08/08/5373.html聴き手シミュレータ内蔵テクノ「DEVIATION∞」(8月9日)
https://www.techno-edge.net/article/2026/08/09/5374.htmlサイコロで作曲する「DICE THE MOZART」(8月10日)
https://www.techno-edge.net/article/2026/08/10/5377.html
癖を言葉にすると、Claudeが理論で返してくる
最初に作ったのはビートルズでした。ポール・マッカートニー、ジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、それぞれの好きなコード展開やメロディラインの癖を、Claudeに考えさせたのです。
たとえばポールは、同じ高さの音を10個以上も続けるのに、その下でベースラインとコードがどんどん変わっていく曲が多い。「Love In Song」「Warm And Beautiful」「Silly Love Songs」の出だしはずっと同じ音なのに、いい曲です。その背景には半音下降のクリシェがあり、FからFmへ行ってまたFに戻る借用和音があり、オーグメントやディミニッシュがある。声域の広いポールはオクターブジャンプするメロディもよく使う。
こちらが気づいたことを投げると、Claudeが「確かにそうですね」と裏づけて、さらに新しい発見を返してくる。「Yesterday」は名曲だけれど1小節足りない7小節フレーズだとか、sus4の使い方だとか。それを「じゃあ実装しましょう」と組み込んでいく。この往復が、この夏いちばん面白かった作業です。

バッハは楽で、サティは困る
対談でも話しましたが、バッハは実は作りやすいのです。彼の音楽は後世の研究家によってほぼ完全に理論化されているので、その理論を実装すれば再現できてしまう。それが「無限バッハ機関」です。
トッカータとフーガ、コラール前奏曲(タルコフスキーの「惑星ソラリス」で使われたあれです)、パッサカリア、アリア、プレリュード、インベンション、組曲と、様式を選べるようにしました。転調も変奏も、バッハ自身が理論化してくれています。

音作りも楽しくて、倍音合成方式のパイプオルガンと大聖堂の音響シミュレーションがなかなか上手く行ったのに気を良くして、リュートの物理モデリングまで実装してしまいました。

困ったのはサティでした。何しろコード進行がない。ジムノペディは事実上、2つのコードを行き来しているだけです。Claudeからも「これは困りました」と文句を言われまして、「なんとかやってくれよ」とお願いした結果、装飾音の入り方や不協和音の密度といった「サティらしさ」を指標化して、サティ度の高いものを選ぶアルゴリズムに落ち着きました。

公開したら「ちょっとサティっぽくない」「音の濁りが足りない」というフィードバックが来たので Claude に調べさせたところ、「われわれの生成するサティ風音楽は、本物のサティより濁り度は高いですよ」と反論してきました。曲調によっても違っていて、ジムノペディはわりとクリーンな方なのだそうです。
モーツァルトはサイコロを振る
8月10日に公開した「DICE THE MOZART」は、モーツァルトが作ったとされる「音楽のサイコロ遊び」の再現です。
番号を振った1小節ぶんの楽譜の断片を、2個のサイコロの出目で組み合わせていくと曲になる。まさに生成音楽です。元の楽譜断片はそのまま使っているので、ここは忠実な再現になっています(もっとも、この曲自体がモーツァルトの真作かどうかは疑問符つきなのですが)。
ただし組み合わせは有限(4京5949兆7298億6357万2161曲)で、1曲は16小節、25秒で終わってしまう。ちょっと寂しいので、モーツァルト得意の変奏曲をつなげることにしました。「きらきら星変奏曲」でモーツァルト自身がやった変奏パターン——右手を16分音符に崩す、左手を変奏する、3連にする——をそのまま適用すると、長さが9倍、5分ほどになります。終わったらまたサイコロを振ればいい。

その後、これをビートルズ「In My Life」の間奏でジョージ・マーティンが弾いているバロック風ピアノソロのコード進行や技法と組み合わせるようなバリエーションも作りました。サウンドもそれっぽくするために、わざわざ半分の速度で弾いたものを倍速で再生するような工夫も入れて。
現在地:ジェネレーターが歌い始めた
対談のあとの話も少し。単体のブラウザアプリだった各ジェネレーターは、現在は統合が進んでいて、ユーミン様式・ビートルズ様式・筒美京平様式の3つは、自作の歌声合成環境(DiffSinger)とつながって、実際に日本語で歌うところまで来ています。ビートルズ様式はポールが主旋律を取り、ジョンとジョージが下でハモる三声コーラスになりました。ジョンとジョージのパートは筆者が、ポールのパートは音域的に妻の歌声「妻音源とりちゃん」のDiffSinger版が歌います。
VOCALOID Editorのようにピアノロールで歌声を流しながら編集できるVox Scoreでは、妻が描いた猫耳キャラクターが口パクしながら歌ってくれます。

伴奏の弦楽四重奏は、サンプル音源ではなく弓の摩擦の物理計算で鳴っています。これは、無限ヴィヴァルディ機関のために開発した音源です。

対談で触れた「歌手の声域制限」も筒美京平様式に入っている仕掛けで、アイドル型は狭く、尾崎紀世彦型は広く。声域が変わるとメロディラインそのものが変わります。制限があった方が曲は作りやすい、というのは人間の作曲と同じです。
作曲家の分身を作る
「作曲家がいらなくなる話ではないですよね」と番組で聞かれましたが、これはむしろ作曲家の助けになると思っています。自分の作曲の黄金パターンがあるなら、それをアルゴリズムとしてAIに組み込ませて、バリエーションを膨らませればいい。Sunoに自分の曲をアップロードしてバリエーションを作らせることは今でもできますが、あれはブラックボックスです。アルゴリズムなら、「ここはグローヴァー・ワシントン・Jr.の『クリスタルの恋人たち』進行で」(丸サ進行とは言いたくないのです)と細かく指定して、要素ごとにオン・オフできます。
もうひとつの収穫は、自分の勉強になることです。生成中には「いまDドリアンで弾いています」といった解説と鍵盤の動きが表示されるので、キース・エマーソンのフレージングがどうなっているのか、自分では弾けなくても構造として分かる。人間がやることをどんどん自分の手で狭めている感じはありますが、理論的なことは逆にどんどん分かってくるのです。
最終的に「いいものはどれか」を判断するのは、いまのところ人間です。ただ、そこをAIに任せる実験も始めていて、聴き手の期待値をモデル化して飽きない曲を選ぶ「DEVIATION∞」はその第一歩でした。Claudeにいまの音楽リスナーの傾向を調べさせると、リズムパターンは単純化し、メロディは減り、装飾的リズムだけが細かくなっているという結果が返ってきます。Rick Beatoが最近のビルボードトップ10に怒っているのも、たぶん同じところです。筆者は1960~80年代の音楽、もしくはもっと古めの音楽を再現できる機関を、もうしばらく作り続けます。
最近では作詞家のアルゴリズムを取り入れた歌詞エディタを作りました。最近、ソニーミュージックなどからAnthropicが提訴されましたが、アルゴリズムベースであれば、訴訟の対象となることもありません。
ボカロPのちょむさんが最近公開された「作詞支援エディタ」にインスパイアされ、Vox Score向けに作っていた歌詞エディタを改良。ひらがなでの入力をしやすくしたものです。

対談の本編は54分。ここに書ききれなかった話もありますので、ぜひ動画でどうぞ。







