今この時代に「次世代ゲーム機」は可能なのか?半導体進歩の状況から考える、新たなるゲームハードの誕生に立ちふさがる壁【CEDEC2026】 | GameBusiness.jp

今この時代に「次世代ゲーム機」は可能なのか?半導体進歩の状況から考える、新たなるゲームハードの誕生に立ちふさがる壁【CEDEC2026】

2020年代において次世代ゲーム機の登場のためにはいくつもの壁があると言います。半導体の進歩の鈍化をはじめとした、数々の壁がかつてのようなゲームハード進歩の夢を遠ざけているのです。

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今この時代に「次世代ゲーム機」は可能なのか?半導体進歩の状況から考える、新たなるゲームハードの誕生に立ちふさがる壁【CEDEC2026】
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PS5がリリースされて今年2026年で6年目になります。思い起こせばもともとPS5が発表されたのも、PS4が2013年にリリースされてから6年後の2019年あたりでしたし、さらに振り返ればそのPS4もPS3が2006年にリリースされてから7年後に発表されていました。

従来のハード世代交代に倣えば、そろそろPS5に続く次世代ハードの発表が期待されてもおかしくないはずです。ですが、どうもそんな期待が過去よりも弱く感じられるのではないでしょうか。

実際、筆者自身もいま次世代ゲーム機が登場するとしたら、まずグラフィック面でどんな期待があるかというと「もうグラフィックも頭打ちなところがあるし、残るは “いかにハイエンドなグラフィックを保ったままハイフレームレートを提供できるか”というところに集中するくらいだろうか」と、極めて淡白なものしかないのが実情です。

これまでゲーム機は、世代交代のたびに価格を据え置いたまま、性能が飛躍的に向上するのが当たり前でした。しかしこの前提が、2020年代の後半以降は成り立たなくなる可能性が高まっていると言われています。仮に価格を2倍、3倍に引き上げることで高性能化を狙ったとしても、今度は消費電力を下げにくいなどの技術的な壁が立ちはだかるためです。

テクニカルジャーナリストの西川善司氏による講演「次世代ゲーム機と次々世代ゲーム機が乗り越えなければならない3つの『谷』とは?」は、まさに今日における次世代機の難しさがまとめられています

本講演では半導体製造プロセスの技術的制約という観点から、この変化の背景と今後のゲーム機・ゲームプラットフォームのあり方が論じられました。半導体技術の進化の現状、ゲーム機が今後乗り越えなければならない3つの谷を考え、未来のゲーム機の姿が3部構成で語られます。

ゲーム機の進化を支えてきた「ムーアの法則」に異変

80年代から2000年代初頭までのゲームハードの進歩が、記号的な2Dから写実的な3Dまで劇的なものであったことと比較すると、ここ20年の間の進歩は目に見えるようなものではなくなったとは多くの人が感じていると思います。ゲームハードの進歩を端的に支えていたのが、いわゆる「ムーアの法則」と呼ばれる半導体進歩の法則でした。

「ムーアの法則」とは半導体では18ヶ月ごとに集積度が倍増するという技術の進歩を指摘するものでした。ところが、この進歩が近年、明らかに鈍化しています。ちなみに、この法則は本来「集積度が倍になる」ことを指すものですが、「性能が倍になる」という意味で広く誤用されてきたとのこと。とはいえ、誤用と言っても実際に「性能が倍になる」という理解でも、概ねその通りに推移してきたため、本講演でもこちらの視点も踏まえて論が進められました。

ゲーム機の性能向上率を振り返ると、かつては世代交代によって数十倍規模の性能向上が見られる例もありました。ところが、そんな性能向上は近年、一桁倍程度にまで鈍化しています。

さらに、「何ナノメートル」というプロセスノードの表記自体も、20ナノメートル世代より先はほぼ形骸化しています。実際のゲート長やチップ内配線ピッチを表していたはずの数値が、現在ではメーカーが独自に呼称する目安に過ぎなくなっているといいます。

たとえばPS5 Proに使われる台湾の半導体受託製造企業のTSMCによる「N4」プロセスも、実態は5ナノメートル世代の改良版でありながら「4ナノメートル」と呼ばれることがあるといった状況です。今後2ナノメートルより先の世代では、単位そのものも「ナノメートル」から10倍した「オングストローム(Å)」表記に切り替わっていくとされています。

各社の採用状況を見ると、2020年発売のPS5は7ナノメートル、2024年発売のPS5 Proは5ナノメートル相当のプロセスを採用しています。GeForce RTX 40シリーズは5ナノメートル、RTX 50シリーズは4ナノメートル相当である一方、2023年発売のAppleのM3プロセッサはいち早く3ナノメートルを採用しました。2020年代に入り、あえて最先端プロセスの採用を避けるメーカーが出てきた背景にこそ、次に説明される「3つの谷」が関わっています。

次世代機を待ち受ける、半導体製造の「3つの谷」

トランジスタの微細化は、2011年の22ナノメートル世代で平面構造の限界を迎え、縦方向に集積度を高める3D構造「FinFET」への転換が起きました。現在3~2ナノメートル世代で進行しているのが、次の転換となる「GAAFET(リボンFET)」への移行です。さらに2030年代には、P型・N型トランジスタを平面配置ではなく立体的に積み重ねる「CFET」への転換が見込まれています。

本講演で示された「3つの谷」とは、この3ナノメートル・2ナノメートル・1ナノメートル以降のそれぞれの世代で、製造コストが跳ね上がる技術的な節目を指します。

微細な配線パターンを形成するには、極端紫外線(EUV)を用いた露光装置が不可欠で、この装置を製造できるのは現在オランダのASML社のみです。1台あたりの価格はおよそ500億円、年間生産台数は50台程度とされています。

ちなみにこの露光の精度は、1メートル四方の加工物をドイツの国土サイズにまで拡大しても誤差が1ミリ程度に収まるほど高精度だといい、それだけの精度を実現する装置であるがゆえに高価だという背景も紹介されました。しかし1ナノメートル世代以降のCFET構造を作るには、さらに上位の「High-NA EUV露光装置」が必要になり、その価格は700億~1000億円、年間生産台数は10台程度に留まるといいます。

加えて、微細化が進むほど1つの配線層を1回の露光だけでは形成できず、位置をずらして同じ層を複数回露光する「ダブルパターニング」が必要になり、露光装置の使用回数自体も増加します。高価な装置をより多く使う必要が生じることで、同面積のチップを製造するコストは、3ナノメートル以降で4ナノメートル以前の2~3倍に達するとされ、この傾向は2035年時点でも、最先端プロセスが枯れたプロセスに対して3~4倍程度のコスト高になるとの見通しが示されました。

これらの制約を踏まえ、次世代機は3ナノメートルプロセスを採用すると仮定した性能予測が示されました。

ダイサイズの上限(据置機ではおおむね300平方ミリメートル以下)、消費電力の上限(歴代機の実績からおおむね250ワット以下)、空冷を前提としたトランジスタ密度や消費電力密度といった公開されているパラメータをもとに試算すると、次世代機の理論性能はおよそ30~40テラFLOPS程度、PS5からは3倍前後の向上に留まるという予測が示されています。価格については、SoCがハードウェア全体のコストの3割程度を占めるという想定から、640~760ドル程度になるという試算も紹介されました。

2030年代半ば、CFET世代のプロセスを想定した次々世代機の予測では、理論性能は100テラFLOPSを超えるものの、これは現行のハイエンドGPU1枚分の性能に相当する程度に留まるとされています。

性能を追えば価格と消費電力が立ちはだかる

ハイエンドGPUについても同様の試算が示され、2035年前後の最上位モデルは300テラFLOPS程度、価格はおよそ3000ドル(実売ではさらに高額)、消費電力はGPU単体で700~800ワット程度に達すると予測されました。

CPUと合わせるとシステム全体で1000ワットを超える水準になり、家庭のコンセント1回路あたりの上限(日本では1500ワット程度)に接近するため、電源ユニットの効率も考慮すると10年後のハイエンドゲーミングPCには2000ワット級の電源が必要になるとの見立ても示されました。ブレーカーの制約から、将来的にはエアコン用と同様の200ボルト電源が必要になる可能性にも言及されています。

なお、チップレットのような先進パッケージング技術は、量産数が年間数千万~億単位に達するPC向けGPUでは採用メリットが大きい一方、年間販売数が数百万~1000万台規模にとどまるゲーム機では、モノリシックなチップ設計が今後も合理的だとの見方が示されています。また、演算による性能向上が頭打ちに近づく中、AIによる推論でグラフィックス性能を補う「ニューラルレンダリング」の重要性が増していく背景にも、こうした半導体側の制約があると指摘されました。

こうした半導体側の制約を踏まえ、今後のゲーム機・ゲームプラットフォームが取りうる方向性として、大きく3つの選択肢が示されました。

1つ目は、価格や消費電力の上昇を許容してでも最新世代の半導体技術を積極活用し性能向上を追求する方向で、いわゆるPCゲーミング的な高性能志向を指しています。2つ目は、価格と性能のトレードオフのバランスを取りながら開発を続ける、現行の据置機に近い方向です。3つ目は、性能向上そのものを抑え、限られた性能の中で遊びを作り込む方向です。

この3つ目の路線を約20年にわたって取り続けてきた企業として紹介されたのが任天堂です。ゲームキューブからWiiでは性能向上率を約1.28倍に抑え、WiiUからニンテンドースイッチでも約6倍の向上に留めています。同様のパラメータで2030年代半ばのスイッチ後継機を試算すると、理論性能は18.6テラFLOPS程度、ダイサイズは180平方ミリメートル程度と小型に収まり、価格はニンテンドースイッチ2とほぼ同水準になるという予測が示されました。同時期のPS7級機の理論性能の5分の1程度に留まる計算ですが、ニンテンドースイッチ2からは大幅な向上となる水準です。

最後に、これらとは異なるアプローチの一例として、超低遅延を追求する新しいクラウド型のゲームプラットフォーム技術の開発が進んでいることにも触れられました。これはコロナ禍の時期に取材で明らかになった、セガによる「フォグゲーミング」と呼ばれる構想で、単純なクラウドゲーミングとは異なり、低遅延化のための技術開発が続けられているといいます。CEDEC 2025でも関連する発表が行われたことが紹介され、ハードウェア単体の性能向上以外の方向性が模索されている現状が共有されました。

あらためて、従来の半導体の進歩を中核とした、次世代ゲーム機の垂直的な進歩がいかに難しい時代かを思い知らされる講演となりました。


技術上昇による縦型の進歩が期待しにくいとなると、残るは「限られた性能の中で遊びを作り込む方向」のようなハード自体が提供する体験やサービスのほうにシフトするか、もしくはクラウドによるプラットフォームや、先述したフォグゲーミング構想によって物理的なゲーム機から解き放たれたかたちでゲームにアクセスする方向になるかといった、横方向の進歩へと広がっていくのでしょうか。

西川氏は本講演の文脈で任天堂の「次世代機の性能向上はあえて鈍化させることで価格上昇を抑え、遊びを提供する」方向でここ20年のハード戦略を評価していましたが、SIEやマイクロソフトは縦型の技術進歩を是としてきた企業文化や行動原理として、そんな横の進歩に踏み出せるのでしょうか。そうした面も今後は注目すべきポイントかもしれません。

近い未来の次世代ゲーム機とは、もしかしたらハードのスペック以外に別の体験や別の価値観をどれだけ提示できるかも問われるのでしょう。考えさせられる論点がいくつもある講演となりました。

《葛西 祝》

ジャンル複合ライティング 葛西 祝

ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や格闘技などなどを横断したテキストをさまざまなメディアで企画・執筆。Game*SparkやInsideでは、シリアスなインタビューからIQを捨てたようなバカ企画まで横断した記事を制作している。

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