
2025年6月4日(水)に開催された「GAME FUTURE SUMMIT 2025」にて、「ゲームビジネスとテクノロジーの未来について」と題したセッションが行われました。
登壇したのは、スクウェア・エニックス リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏。AI技術の進化とゲーム産業への応用、さらに非ゲーム分野への広がりまで、多角的なテーマについて語られました。
本記事では、本セッションの模様をもとに、ゲームAIの未来像と社会への波及について詳しくレポートします。
イベント概要
近年、生成AIやキャラクターAIといった技術の発展により、ゲームの作り方・遊び方は大きな転換期を迎えています。従来の「一律な体験の提供」から、「プレイヤーごとに異なる体験を届ける個別最適化」へと進化する中で、AIの役割はますます重要性を増しています。
本セッションのスピーカーは、スクウェア・エニックスのリードAIリサーチャーとして国内外で注目を集める三宅陽一郎氏。ゲーム業界におけるAI活用の現状と未来、さらには都市空間やスマートシティといった非ゲーム分野への応用可能性についても考察が展開されました。
忙しい人向けに2つのポイントで整理
登壇者や内容の詳しい紹介の前に、本セッションで語られた重要なポイントを整理してお届けします。
ゲームAIの進化が他産業にも波及している

三宅氏は、ゲームAIの進化がゲーム内にとどまらず、都市空間の管理やスマートシティなど非ゲーム分野にも応用されはじめている現状を紹介。
従来はゲームの中だけで使われていたAI技術が、今やシミュレーションや構造解析、環境理解など、さまざまな現実の課題解決に展開されつつあります。
セッションでは、「キャラクターAI」「生成AI」「空間AI」といった3分類を軸に、それぞれの役割と可能性がわかりやすく解説されました。
AIがつくる“個別最適化されたゲーム体験”の未来

従来のゲームは「すべてのプレイヤーに同じ体験を提供する」ものでしたが、AIの進化により「プレイヤーごとに異なる体験」を生成する方向へと進化しています。
三宅氏は、プレイヤーのスキルや嗜好に応じて、難易度やストーリー展開、マップ構造などをAIが動的に変化させる「パーソナライズドゲーム体験」の可能性に言及。「一人ひとりに最適化されたゲーム」が、今後の主流になると予測しています。
登壇者紹介|三宅陽一郎氏(スクウェア・エニックス)

本セッションに登壇したのは、スクウェア・エニックスでリードAIリサーチャーを務める三宅陽一郎氏。
京都大学で数学を専攻後、大阪大学にて物理学修士、さらに東京大学大学院工学系研究科博士課程を経て博士(工学)を取得。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事し、現在も最前線で活躍しています。
人工知能学会理事・編集委員長、日本デジタルゲーム学会理事、IGDA日本ゲームAI専門部会チェアといった複数の要職を兼任し、産学両方の分野をまたぐ知見を有するキーパーソンでもあります。
著書に「数学がゲームを動かす!」「人工知能の作り方―「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか」「ゲームAI技術入門」、共著に「FINAL FANTASY XVの人工知能」「スクウェア・エニックスのAI」などがあり、2020年度には『ファイナルファンタジーXV』のAI研究で人工知能学会論文賞を受賞。理論と実践をつなぐ第一人者として、国内外から注目を集めています。
注目の議題を3つピックアップ
この講演では、ゲームAIの技術的な進化に加え、その社会的な応用例について具体的な事例が語られました。
ゲームAIは「キャラクターAI・生成AI・空間AI」の3つに進化・分化

三宅氏は現在のゲームAIを、機能別に「キャラクターAI」「生成AI(ジェネレーティブAI)」「空間AI(スパーシャルAI)」の3つに大別して紹介しました。
キャラクターAI:プレイヤーと対話するNPCや、行動を学習して進化するエージェントの設計
生成AI:物語やマップ、アイテム、セリフなどを動的に生み出すAI
空間AI:ゲーム内の地形や構造を解析し、最適な行動経路や視点、配置を決定するAI
これらの技術は、単なるゲーム演出の域を超え、プレイヤーごとに異なる体験を提供するパーソナライズドなゲーム体験の実現や、リアル空間への応用(スマートシティなど)にもつながる可能性があるといいます。
プレイヤーごとに“異なるゲーム世界”が生まれる時代へ

三宅氏が強調したもう一つの大きな潮流は、「すべてのプレイヤーに同じ体験を提供するゲーム」から、「一人ひとりに最適化された体験を提供するゲーム」への移行です。
従来のゲーム設計では、マップやストーリー、敵の配置などはすべてのプレイヤーに共通であり、同一の体験が前提となっていました。しかし、AIの進化によって、ユーザーのプレイスタイルやスキル、過去の行動履歴に応じて、ゲームの展開そのものを動的に変化させることが可能になっています。
例えば、初心者には敵の数を減らしてプレイしやすくし、上級者にはAIが自動で難易度を引き上げる。あるいは、選んだルートや取得したアイテムの傾向によって、ストーリーやマップの構造が変化するといった個別最適化が実現しつつあります。
三宅氏はこれを「ユーザーそれぞれに向けたコンテンツを作るという可能性が広がる」と表現し、“共通体験”ではなく“唯一無二のゲーム体験”が当たり前になる未来を示唆しました。
都市空間の管理にも応用される「ゲームAI技術」

三宅氏は、ゲーム産業の中で発展してきたAI技術が、非ゲーム領域にも拡張しつつある現状についても言及しました。中でも特に注目されたのが、「都市空間」への応用です。
ゲーム内で用いられてきた空間AI(スパーシャルAI)は、マップ上の地形や構造を解析し、キャラクターの最適な移動経路や行動を導き出す技術です。これを現実世界に応用することで、スマートシティにおける交通・人流管理などに活用できるといいます。
さらに、キャラクターAIや生成AIを組み合わせることで、都市における多様なシナリオの予測やシミュレーションも可能になると説明。「これまで我々ゲーム産業が作ってきた技術というのは、ゲームだけではなく、都市空間全体に応用することができる」と語り、ゲーム業界で培われた知見が社会のインフラに貢献する可能性を示唆しました。