日本刀ガチ勢のモーションアクターが愛をこめて語る「日本刀が最強武器の理由」と「ゲーム内アクションの応用術」【CEDEC2026】 | GameBusiness.jp

日本刀ガチ勢のモーションアクターが愛をこめて語る「日本刀が最強武器の理由」と「ゲーム内アクションの応用術」【CEDEC2026】

“本物”が培った土台があるからこそ、荒唐無稽な剣術アクションにも説得力が生まれます。

ゲーム開発 ビジュアル
日本刀ガチ勢のモーションアクターが愛をこめて語る「日本刀が最強武器の理由」と「ゲーム内アクションの応用術」【CEDEC2026】
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「説得力ある日本刀アクションを表現するにはどうしたら良いのか?」

それを解説するのは、株式会社モーションアクターの代表取締役で、現役のモーションアクター・アクション俳優の杉口秀樹氏。剣の師匠に師事したばかりか、会社設立の際には、気合を入れるべく日本刀を注文打ちしてもらったほどの、いわゆる「日本刀ガチ勢」です。

モーションアクター歴は28年。『仮面ライダーウィザード』のスーツアクターのほか、ディレクションやキャスティング・コーディネーターとしても活躍してきました。

2026年7月22日から24日までパシフィコ横浜ノースで開催された、ゲーム開発者向けの国内最大級のカンファレンス「CEDEC2026」。本イベントに登壇した杉口氏は、同社のアクターでダンス事業部部長のMao氏、アクターでアクション事業部部長の金子起也氏とともにセッションを実施。

「モーションアクターによるゲームクリエイター向け日本刀(剣)の基礎知識の共有」のセッションタイトルで、日本刀を鍛える過程と、居合・抜刀のコツ、さらにはゲーム内演出に即した荒唐無稽なアクションまで幅広く解説してくれました。

株式会社モーションアクターのPV

◆意外と条件が細かい「日本刀」の定義

日本刀を注文打ちしてもらった日本刀のオーナーであり、居合の有段者でもあるという本格的な視点で杉口氏が展開した本セッション。

テーマを決めた理由を「ゲームでは剣を登場させる機会が多い反面、刀を鍛えるところから基礎的な扱いまで学ぶのは非常に困難であり、この機会に知識の共有ができれば」と語ります。それによって新たなモーションの開発やゲームデザインにつなげられればと展望を語りつつ、本心の部分では「趣味全開なテーマで申し訳ない」と楽しさを隠し切れない様子でセッションをスタートしました。

株式会社モーションアクターの代表取締役で、現役のモーションアクターの杉口秀樹氏。

セッションを補佐する金子氏とMao氏も現役のアクション俳優。金子氏は『仮面ライダー鎧武』のシグルドのスーツアクターほか、アクション監督やアクションコーディネーターとして活躍中。Mao氏はダンスの分野からアクションの道へと進み、現在はモーションアクターのみならず、メディア・CM・映画など活躍の幅を広げています。

アクション事業部部長の金子起也氏。
ダンス事業部部長のMao氏。

「日本刀とは?」

そんな疑問から始まった本セッションでは、まず日本刀が数ある武器の中でも唯一、神事に関わって来た特別な存在であり、装飾の豪華さなどでステータスを示すツールでもあったことを解説します。

なにしろ刀身を打った後は、研師の元で刀を研ぎ、握りの部分を含む各部のパーツの制作、漆塗り加工、装飾など、全国の職人の手を経てようやく完成へと至ります。それらひとつひとつの工程で多くの技術が投入されるということを考えると、刀がステータスになっていた状況も、現在では美術品として親しまれている点も頷けます。

なお現代で実際に刀を打ってもらうと高級車が一台買えるほどの出費になるとか。杉口氏は会社設立時の祝品の意味も込めていたため特別価格になったそうですが、武器だからと言って雑な扱いはできません。

刀身を打った後も、各部パーツの制作や加工など、それぞれの職人の手で丁寧に行われます。

◆“最強の武器”日本刀ができるまで

杉口氏が刀を打ってもらったのは、刀匠の川崎晶平氏(崎は“たつさき”)。文化庁長官賞や経済産業大臣賞など多くの賞を受賞する名匠であり、「ヱヴァンゲリヲンと日本刀展」ではカウンターソードを出品した、エンタメ業界でもおなじみの重鎮です。

その刀匠の元で刀を打ってもらった杉口氏は、受け取った日本刀に「獅龍杉王」と名付けて大切にしました。以下、作刀時の工程を紹介します。

日本刀は決められた素材を用い、決められた工程を経ないと日本刀だと認められません。その工程ではまず金属素材を「焼き入れ」した後、炭素量の違いを見極めたうえで各部位を分割します。炭素量の違いにより刀のどの部分に使用するか異なるため、打った金属素材を分割して下準備を整えるわけです。

続いてその素材のひとつを「折り返し鍛錬」と呼ばれる技法で叩いて硬度を上げていきます。杉口氏が例えたのは小麦粉をこねるイメージ。熱して叩いたものを折り曲げ、再び熱して叩いて……と繰り返すうちに不純物を除外し、鉄組織を均一化させることで硬度を上げるわけです。日本では上質な金属が採取されなかったことから、こういった方法で日本刀にふさわしい素材を錬成しました。

その後は、炭素量が多く柔らかめの金属素材を鍛錬して、ブレンド用の素材を鍛えます。高硬度の物質は衝撃に弱くなるため、柔らかさの残る素材を混ぜ合わせることで衝撃を吸収する構造を作ります。

そして最後は「焼き入れ」で鉄の性質自体を変えて完成。「マルテンサイト」と呼ばれる、高温から急冷させることで硬度を上げる技法なのですが、科学的に証明される以前から、長年の技術として継承しているところに刀鍛冶師たちの凄さを感じます。

もちろんこれらがすべての工程ではなく、実際はもっと細かな作業を経て刀身ができあがります。杉口氏によれば3時間は喋れるほど。伝統の技術や細かな計算の上に成り立った技術です。

こうして鍛錬に鍛錬を重ねた刀身は、一見、一本の金属ですが、実は3万層にも及ぶミルフィーユ状の構造になっています。西洋の刀剣は素材となる金属がもともとよく、ここまで手塩にかける鍛錬をする必要がありませんでしたが、日本では良質の素材がなかったことから独自の鍛錬方法を編み出し、結果として西洋剣よりも強度のある“最強の武器”を誕生させたのでした。

作刀工程の一覧。刀身を打つ工程のみとなり、柄や鞘などの制作工程は含みません。
折り返し鍛錬のようす。
刀鍛冶師は、科学的根拠がしっかりしていなかった時代から、長年の経験と継承によって、武器としても美術品としても成立するものを生み出してきました。

◆正しい居合と、フィクションの荒唐無稽アクション

それでは実際の居合はいかがでしょうか?

居合とは抜刀術のひとつで、鞘から抜く際のスピードでたちまち目標を切り伏せる、いわば日本刀における「早撃ち」です。刀の握り方ひとつにも流派があるため「正解」と言うよりは一般論なのですが、基本的に柄を絞るような気持ちで握ります。こうすることでうまく力が伝わり、振り下ろした際のエネルギーを損なうことなく目標に叩き込みます。

なお「直角握り」と呼ばれるポージングは、見た目は良いものの実際は力が伝わらない「クソ握り」と呼ばれます。

基本的な刀の持ち方。実践中の「直角握り」は“あり得ない”握り方です。

ここから実際に居合をした動画を元に講演するのですが、居合で斬ることになる「巻藁(まきわら)」は、女性の場合は畳半畳を巻いたものを使用します。なお畳半畳は、人間の腕一本分を切るのと同等の抵抗力です。男性なら首と同程度の抵抗力を持つ畳一畳分。高段者なら胴体の抵抗力に相当する3畳から6畳分です。

「巻藁(まきわら)」の目安。Mao氏の胴回りが畳3つ分です。

巻藁を斬る際は、入射角度が35度から45度がもっとも効果があります。傾きが甘いと巻藁に突き刺さって抜けなくなったり、断面が荒くなったりします。また刀身の接触角度も15度が目安に。刀身が湾曲しているのは、その“ベストな角度”に対応したものであり、この湾曲を作るため、作刀ではわざわざ湾曲を考慮した「焼き入れ」をします。

なお横一閃するような90度の胴切りは、もっとも難しい斬り方だと言われています。袈裟斬りと違って切断する繊維の数が多く斬り辛いうえ、体重をかけることができず、うまく力が伝わりません。

適切な入射角度の解説。
失敗例。力がうまく伝わらず、藁が反ったり刺さったりします。
セッションでも使用された居合の動画

片手握りと両腕握りもそれぞれ特色があり、片手だと入射角度をうまく調節できるもののパワーが出ず、両手ではパワーは出るもののブレやすく力がうまく伝わりません。もちろん達人は別。両手握りでパワーを出しつつ、正しい力の伝え方をして効果的に切り伏せます。

居合は、握り方も入射角もすべて力を効果的に伝えることが条件となっており、それを踏まえてモーションを作ると「それらしいポージング」となるでしょう。

片手握りと両手握りの違い。

そんな杉口さんが師事したのが、俳優であり一般社団法人 国際総合武志道教会の理事長でもある松浦健城氏。腕が未熟だと、巻藁を斬る際に「ドン」と音がするのに対し、松浦氏の場合は澄んだ音がするという達人の技も動画で紹介されました。

その一方、エンタメの世界では、実際の居合ではやらないようなことをあえて実践して見栄えを整えます。その喜ばれる“嘘”の代表的なものは8つ。「刃筋の嘘」「音の嘘」「長さの嘘」「強度の嘘」「すり抜けの嘘」「回転数の嘘」「血振るいの嘘」「空中の嘘」です。

まず「刃筋の嘘」は刀の持ち方の嘘。本来は刃筋を正面に向けますが、それでは見映えが悪くなるので、あえて剣の全貌が見えるような構えをします。

「音の嘘」は納刀などで「……キン」と収めたり、「シャキン!」と抜刀したりする演出のこと。本来は丁寧に扱うべき日本刀ではご法度ですが、効果音をつけることで臨場感が増すので嘘をつきます。

「長さの嘘」は、切っ先が地面をこする等の物理的な制約を回避するもの。あえて刀を持たずにアクションをした後、合成等の映像処理を施します。「すり抜けの嘘」も同様。本来は刀をすり抜けないと成立しない斬り合いを、刀を持たずに演技をしてから後処理します。

「ドスン!」と技を繰り出す「強度の嘘」も、刀の強度を一切考慮しないアクションながら、見栄えのためにあえて実践します。「血振るいの嘘」も、本来は振っただけでは血が拭えませんが、見栄えが良いため重宝します。

そのほか「回転数の嘘」や「空中の嘘」も、剣を必要以上に振り回す、空中で姿勢を変えるなど、ありえないアクションであることを承知したうえで「いかに見栄えのいいカットを作るか」を前提に演出していきます。

このように、実際の居合を熟知した上でエンタメ用のアクションをすれば、荒唐無稽ながら「本当にありそう」という剣術アクションが可能になります。土台がしっかりあればこそ生まれる「真実味のあるアクション」がエンタメをさらに面白くさせることを教えてくれました。

杉口氏が実演した剣術アクションの一例
《気賀沢 昌志》

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