
「ゲームをおもしろいものにする」とひとことで表現しても、その要素は無限に存在します。ストーリーの巧みさなのか、キャラクターの魅力なのか、それとも攻略難易度なのか?
本講演で解説する「演出」とは、まさにその“おもしろさ”のいち要素であり、ストーリーやシステムなど柱の要素の“うま味”を引き出す調味料のようなものです。とくに『ドラゴンクエスト』シリーズで有名な「かいしんのいちげき」は、プレイヤーに“気持ちよさ”を与える重要な要素としてファミコン時代の初期から親しまれてきました。
2026年8月30日に東京・TOC有明で開催された講演イベント「ゲームメーカーズスクランブル2026」では、そのセッションのひとつで「なぜ会心の一撃は気持ちいいのか? ~快感を設計するゲーム演出~」が実施されました。
「演出とは何か?」からはじまり、演出時の考え方の一例として「かいしんのいちげき」を掘り下げるなど、ゲームのおもしろさを引き立てるゲーム演出について語られました。
登壇するのは個人クリエイターのLee氏。普段の業務では、企業所属のクリエイターとしておもにアニメーションの分野で活躍し、コンシューマーゲームのモーション、リグ、演出などを担当しています。しかし日々の業務では立場上、なかなか自由に現場制作に関われないということで、プライベートの時間を活用しインディーゲーム開発にも打ち込んできました。
本講演では個人クリエイターとしてのLee氏が考える「演出論」について解説してくれました。

◆「かいしんのいちげき」は、なぜ気持ちいい?
『ドラゴンクエスト』における「かいしんのいちげき」とは、現在で言うところのクリティカル攻撃にあたる要素です。一定確率で発動し、敵の守備力を一旦無視して通常よりも大きなダメージを与えるなどの効果が得られます。そのためプレイヤーは、普段のプレイでも苦戦するような相手を一撃で倒してしまうなど、より強い成功体験が得られて「気持ちいい」と感じるわけです。

Lee氏が思うこのシステムの良さは、すでにゲームデザインの時点で「気持ちいい」が担保されているということ。一般的な演出とは、見栄えを整えたり手触りを調整したりするなど、後付けで印象を変える調味料のような役割を担うことがほとんどです。しかしこの「かいしんのいちげき」は、すでに設計の段階で組み込まれているということで当時のクリエイターの才能に驚嘆したといいます。

演出とは、見え方を変えることでプレイヤーの興味を引くテクニックのことを指します。たとえば「敵が登場する」というシチュエーションにおいて、ただモンスターを出現させても仕様を満たすことはできます。しかし一見、宝箱のように見えて実はミミックだった……!と変化球を投げれば普段の探索にも緊張感が生まれますし、敵の登場シーンひとつ取っても意外性が生まれ、プレイヤーにおもしろいと思ってもらえるでしょう。
しかしいざ「演出をするぞ!」と思っても、手を加えるポイントが分からなければ十分な効果は得られません。それではどのようなポイントを基準に考えたら良いのか? それがこれから解説する「期待」「時間」「コントラスト」の3つの要素です。
まず「期待」についてですが、プレイヤーはゲームをプレイしている最中、つねに先の展開を考えて期待をします。光っているポイントがあれば「アイテムかな?」と期待し、ジャンプアクションがあれば「あの場所に行けそう」と期待し、違和感のあるオブジェクトには「壊せば何か得られるかも」と期待します。
Lee氏の分野であるアニメーションでも同じことが言えます。例えば攻撃モーションでも、攻撃の発生、途中のモーション、攻撃の完了まで、予測可能なポーズを適切なタイミングで見せることが大きな説得力を生みます。

またLee氏は実体験として、「破壊可能な壁」を作業した際に得た学びについても教えてくれました。
Lee氏はとあるプロジェクトにおいて、ゲームの仕様上、破壊できる壁が必要だったことから、壁にヒビ割れのテクスチャを貼ったそうです。しかし「壊せそう」という期待をプレイヤーに持たせることには成功したものの、何度叩いても壁の表現が変化しなかったために「それではプレイヤーが途中で諦めてしまうのではないか」とチームに指摘されました。つまり殴るたびに壁のひび割れが増えるなど、期待感を持続させるための表現が必要だったのです。
演出する上で大切なのは、期待は裏切らない、しかし予想は裏切るという、同じようで異なる認識の違いを理解することです。期待を裏切ると失望へと繋がりますが、予想を裏切ると意外性が生まれてそこにプレイヤーは「おもしろい!」と感じます。これらを見極め、適切に報酬なりストレスを与え、プレイヤーの求めに応えるゲームデザインをすることが大切であるとLee氏は結論付けました。
◆「時間」と「コントラスト」はどうなのか?
続く視点は「時間」について。時間には体感時間と実時間があり、プレイヤーはおもに体感時間によって各ゲーム作品の良し悪しを判断します。これをうまく利用したのがシリーズ1作目の『バイオハザード』でした。
1作目の『バイオハザード』では部屋から部屋への移動時にロード時間が発生していたのですが、この「待ち時間」を解消するため、ロード時間中に扉が開くアニメーションを挿入することでプレイヤーのストレスを軽減しました。これにより緊張感を保ったまま次の部屋へと移行できただけでなく、「ギイッ……」と不気味に開くドアのアニメーションを見て「次の部屋にはどんなゾンビがいるのか!?」と期待させる効果も得たのです。
そのほかテンポをよくするための演出として、ただ尺を削るのではなく、反対に各アニメーションをオーバーラップさせたり、各アニメーションの間に短い予兆演出を挿入したりするなど、見せ方を変えることでプレイヤーの体感時間を操作するテクニックも紹介されました。




最後の視点は「コントラスト」です。
「コントラスト」とは要素のギャップを利用したもので、たとえば面白いストーリーは一回落としてから上げるなど、その振り幅の差で感動を演出してきました。そのほか、ゆったりしていたものが急にグッとスピードを上げたり、弱かったものが強くなったりするなど、緩急をつけることでプレイヤーの関心を引くことができます。
実例として、Lee氏が参加したとあるゲームタイトルにおいてこのような事例がありました。
RPGテイストのゲームを開発した際、パラメーターの成長に紐づけてアクションのモーションを細かく変化させたところ、成長がはっきりと分かるような大胆な変化ほど気付く傾向にあり、地味だと認識してもらえなかったことがありました。やはり落差を設けてメリハリをつけたほうが、より大きな効果が得られるようです。
◆「かいしんのいちげき」を分解する
それでは「かいしんのいちげき」はどうだったのでしょうか?
『ドラゴンクエスト4』ではまず、「(プレイヤー名)のこうげき!」というテキストが表示されると同時に攻撃SEが流れます。続いて「かいしんのいちげき!」というテキストと「かいしんのいちげき」用のSEが流れ、ここで通常攻撃から「かいしんのいちげき」に分岐。そして最後に「(モンスター名)に80のダメージ!」といったテキストとともにモンスターのグラフィックがスプライト点滅します。


ファミコンが登場した当時は、もともとデータの容量的に細密なグラフィックが実装できない背景がありました。それでもグラフィックの表現に苦心する開発チームが多くいる中で、『ドラゴンクエスト』の開発スタッフは、無理にグラフィック表現の向上を模索するのではなく、プレイヤーの想像力に託す形でテキスト中心のRPGを開発したといいます。そのような状況もあって、「かいしんのいちげき」発生時の演出は、テキスト中心というとても簡素なものに落ち着きました。
Lee氏の見立てによると、「かいしんのいちげき」は、比較的ゲーム内でよく見られるものであることから、「過剰に演出を盛らず、繰り返し見ても気にならない程度に収まっている」とのこと。つまりゲームでの立ち位置に即した、主張しすぎず、しかし印象に残るくらいの特別な演出になっているのがポイントでした。
作り手としてはどうしても気持ちが走って過剰にしたがるものですが、そこはゲーム内の立ち位置に即した形で力加減することが求められます。感情曲線などのメリハリの説明にもあったように、振り幅があるからこそ演出の効果が浮き彫りになるというもの。
それは現在のゲームでも同じことが言えます。現在はクリティカル演出に重なるようにしてスキル効果や装備依存の演出などが表示されることが多く、同時発生しても問題がないよう、表現を変えるルール作りも必要です。バランスを見極め、適度な演出にすることで、より高い効果を得られるよう演出することが求められるわけです。

最後にLee氏は、「マンガ ドラゴンクエストへの道」を引用する形で堀井雄二氏の葛藤を紹介しました。
堀井氏は当時、ファミコンのオリジナルタイトルとしては初の本格RPGを開発するにあたり、プレイヤーの想像力を刺激するような、テキスト中心のシステムで作業を進めていました。しかしある時、そこに不安が生まれます。
「ここまできてなんですけど、アクション無しのメッセージだけの戦いって……受け入れてもらえますよね? ダメージを受けたとき、ほんとうに“いたい!!”って思ってくれますよね?」
それに対してプロデューサーの千田幸信氏は、スタッフが皆、不安に思ってることを伝えた上で、これが世界一のゲームソフトを作るための未知の冒険であることを伝えたそうです。
「冒険に100%の安全などありえない」
それは千田氏の言葉であり、「マンガ ドラゴンクエストへの道」で言及されていた言葉でした。
Lee氏はこの言葉を引用し、国民的な作品を生み出した偉大な先人も迷いながら模索し続けていたことを解説したうえで、演出は最後の仕上げや特別な役職の人間がやるものではないと説明します。そして、すべてのセクションの人間がつねに頭の片隅に置きながらそれぞれの作業をすることで良いゲームが生まれるのではないかと訴えて講演を終えました。
なお引用元の「マンガ ドラゴンクエストへの道」は電子書籍にて購入可能です。







