『ウマ娘』から学ぶ、“創造的翻訳術”ー英語版はなぜキャラの個性が伝わる?関西弁は「南部訛り」に訳さない【CEDEC2026】 | GameBusiness.jp

『ウマ娘』から学ぶ、“創造的翻訳術”ー英語版はなぜキャラの個性が伝わる?関西弁は「南部訛り」に訳さない【CEDEC2026】

CEDEC2026にて、英語版『ウマ娘』の創造的な翻訳術が解説されました。方言直訳を避け、キャラクター性と一貫性を両立する独自手法と運用体制が紹介されています。

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2026年7月22日から24日にかけて、パシフィコ横浜 ノースにてゲーム技術者やコンピュータエンターテインメントのエンジニアらを対象とした、国内最大級のカンファレンス『CEDEC 2026』が開催されました。

12会場に分かれて数多くの講演者がさまざまな講演を行なうなか、24日には株式会社Cygames ローカライゼーション部で活躍するカトレル アリソン氏と森田竜平氏の2名が登壇し、ショートセッション「『ウマ娘 プリティーダービー』 英語版のキャラクターの方言や口調をローカライズするための創造的アプローチ」が催されました。

『ウマ娘 プリティーダービー(以下『ウマ娘』)』の魅力は、なんといっても生い立ちや性格がそれぞれに異なるウマ娘たち1人1人です。そのウマ娘たちの魅力を際立たせているのは、ビジュアルや声だけでなく、その特徴的な口調や言葉遣いです。

そんなウマ娘たちを海外ユーザーにもしっかりと伝えるために、Cygamesのスタッフ陣はどのような工夫を凝らしているのでしょうか。ショートセッションということで短い時間での講演となりましたが、その内容は多くの示唆を含んだものとなりました。

◆テキストだけでウマ娘たちの魅力を伝える挑戦

まず2人は、ローカライゼーションと翻訳の違いについて指摘しました。

翻訳は、原文の情報を別言語へ移す行為であり、ローカライゼーションは各キャラクターの口調、性格、バックグラウンドや空気感までを伝えることを指し、Cygamesのローカライゼーション部では後者の狙いをもって海外プレイヤーに魅力を伝えていくことに努めていると話しました。

ここで画面に2つのスライドを示し、キャラクターにはひと目で分かるシルエットやビジュアルがあるように、そのキャラクターらしいしゃべり方があり、イメージやメッセージの届け方・伝え方に違いが生まれることを明らかにしました。

つまり、単なる翻訳で終わらせるのではなく、各キャラクターの口調を海外のプレイヤーに伝えることで、そのキャラクターが発している魅力を届けようというのが狙いになるといいます。

このショートセッションでは

  1. ゲーム内テキストの方言や口調を英語に置き換えることではなく、創造的に英語化する技法

  2. 一目でキャラクターだとわかること(Recognizability)とそのキャラクターが本当にいそうだと思わせること(Authenticity)を両立させる

  3. 口調/スタイルの統一・定着のための取り組み

について説かれました。

アニメ作品や日本版の成功もあり、グローバル版への期待はとても多く、それに応えなければならないと考えていたなかで、キャラクターの話し方やどんなキャラクターが話しているかが一目で分かるように、つまりRecognizabilityを担保する必要があったとカトレル氏は言います。

多くのキャラクターが登場する一方で、英語版では英語音声がなく、テキストのみで喋りかたの違いを伝える必要があったと森田氏が振り返ります。(※『ウマ娘』のグローバル版(英語版)には2025年のリリース時、英語の音声が付いていませんでした。)

ここからはそれぞれのウマ娘を例に挙げながら説明が進みました。

まず、タマモクロスです。関西弁で話すキャラクターで、日本語版ではその話し方そのものが強い個性になっているので、英語版でもできるだけ独特な話し方にしたいと考えたそうです。

通常であれば、関西弁は英語でいうアメリカ南部の話し方に寄せるそうですが、『ウマ娘』にはすでにアメリカ南部育ちのタイキシャトルがいるので、このままだと話し方が被ってしまって個性が出ません。ほかにも海外出身のウマ娘がいるので、既存の英語方言をそのまま当てるだけでは対応できないパターンがありました。

ここで、日本語の方言をそのまま英語の方言に置き換えるのではなく、日本語での音の印象と言葉遣いを、英語の文字表現で視覚的に再現するという独自手法を確立しようと試みたといいます。

タマモクロスの場合、関西弁の速いテンポの口調によって音が崩れていくような感じがあります。「違う」が「ちゃう」に関西弁でなまるように、youがya、thisがdisと記すことで、英語を早く話したときに実際に聞こえる音を文字として表現したといいます。

使っているワードは同じなのに、綴りを変えることで喋り方が変わったように感じさせる、話し声の印象を文字で見せています。音声がなくてもテキストを読むだけで、喋り方のテンポや勢いが見えてくる、そのように2人は説明しました。

またユキノビジンを例に挙げ、現代ではあまり使わないような1930年代から60年代頃に使われていた古風な英語表現やスラングを意図的に採用することで、田舎娘で都会に憧れをもち、純朴で流行に染まっていないユキノビジンのバックグラウンドやイメージを、言葉遣い・言葉選びで補強し、自然に伝わるように設計したといいます。

このアプローチにより、キャラクターの背景や文化を英語でも感じさせることに成功したといいます。

また方言にクセがなくても、各ウマ娘に関わる文化やコミュニティをリサーチし、その人が実際に口にしそうな言い回しを意識してローカライゼーションをしたといいます。

例えば、アグネスデジタルです。彼女といえば熱烈な愛情をウマ娘に注ぐオタクなウマ娘としてファンの間で知られていますが、海外ユーザーにしっかりと伝わるように、推し活的なテンションや同人用語を使うのをうまく伝えるため、単にテンション高く表現するだけでなく、英語圏のオタクコミュニティで実際に見かける表現に寄せたといいます。

ネット上での興奮をあらわす文章表現をつかうなど、英語圏のOTAKUたちが共感できるような口調に仕上がっています。

加えて、ダイタクヘリオスです。ギャルマインド全開で言葉遣いからもギャル味のするダイタクヘリオスですが、彼女もまたテンションが高いだけでは済まないような表現・変換がなされています。

海外では日本のギャル文化が広まっておらず、しっかりと伝わるとは限りません。そこで「もしも彼女が現実世界で英語ネイティブだったら、どんなコミュニティで、どんな言葉を使うか?」と想像し、いまのSNSを普段からかなり使っていることをとっかかりにし、いまの若者(Z世代)のスラングやノリを自然に使うだろうと結論づけました。

Z世代が実際に使っている言葉遣いや言い回しを参考にしながら翻訳を進め、彼女の騒がしい雰囲気が表現されています。

4人のウマ娘を挙げて実際の翻訳方法について説明し終えると、次はチームでどのような翻訳を進めているかを森田氏が紹介しました。

現場ではチームで翻訳を進めており、創造性とともに一貫性も必要となるため、その両立が求められます。

具体的な取り組みの1つ目として、できるかぎりそのウマ娘の文脈や文化に詳しい人を担当させることで、創造性と一貫性を両立できるように進めました。

ダイタクヘリオスであればZ世代のメンバーに、アグネスデジタルの場合はチーム内で一番英語のオタク用語に詳しいメンバーにと、それぞれに訳を担当させました。最初の下訳(訳文章を制作する際の大まかな訳のこと)の時点から、そのウマ娘らしい説得力ある訳を作ることを目標にしたとのことです。

2つ目の取り組みとして、チーム内にコミュニケーションスペースを設けたことを挙げました。翻訳方針について担当業務やトピックを問わず話すことができるSlackチャンネルを設け、ウマ娘に関連していれば翻訳業務に関係のない、雑談レベルの投稿もオッケーにしてコミュニケーションを図ったといいます。

このおかげでより自由な発想を生み出せる空気感がチームに生まれ、創造性ある翻訳のためのアイディアが生まれたと森田氏は振り返ります。

3つ目は、キャラクターごとの口調ガイドラインを作成したことです。そのキャラクターの概要や翻訳するうえでの注意点をまとめた資料を作成し、Slackチャンネルでのアイディアも盛り込み、運用したと説明しました。

そこにIPに詳しい社内の言語品質管理チームによる管理も継続的におこない、翻訳された口調を守りすぎていないか、逆に緩みすぎて薄くなっていないかも確認し、担当者が変わっても口調の一貫性を保ちやすい体制が整ったといいます。

当該のウマ娘の文脈や文化に詳しいスタッフを起用すること、ウマ娘にまつわる雑談ができるコミュニケーションをSlack上で進めること、ガイドラインと管理を徹底すること。これらにより途中からプロジェクトに参加しても翻訳の方向性がかなり掴みやすくなる、そのようにカトレル氏は付け加えました。

最後に、「関西弁はアメリカ南部訛りに訳す」といった業界的な定石をそのまま適用するのではなく、キャラクターごとの口調を一から作り上げてきたこと、それを翻訳スタッフの個人技で終わらせず、チーム内の蓄積として残しつつ、検証と共有を続けることで、一目でキャラクターだとわかること(Recognizability)とそのキャラクターが本当にいそうだと思わせること(Authenticity)を両立させることができた、このように話をまとめ、ショートセッションを終えました。

『ウマ娘』のグローバル版(英語版)には海外声優を起用せず、吹き替えナシ、日本の声優の音声をそのまま使って制作しているため、文章を通じての表現がとても重要になるのは自明です。しかも人気作品ゆえの期待もありました。

そのため、ここでは単なる翻訳業務としてではなく、登場するウマ娘のバックグラウンドや雰囲気などにあわせ、"創造的"な翻訳が行われることになりました。同作は海外でも大きな人気・注目を集め、昨年開催された『The Game Awards』のベストモバイルゲーム賞を受賞しました。その裏には、こういった誠実かつ真摯で、自由なアプローチが行われていたと知れる講演でした。


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¥29,745
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
《草野虹@インサイド》

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