
近年の日本政府はゲームやアニメ、漫画といったコンテンツ産業が輸出ビジネスとして高い成果を上げてきたことに着目しています。そして、さらに産業を活性化させるために、経済産業省や文化庁がゲームクリエイターを助成するプログラムを提供するようになりました。
ですが一方で、「国が支援するプログラムにどこまで効果があるのか」という疑問がある人も少なくはないでしょう。2010年代に実施されたクールジャパン戦略の結果、採算面での課題がたびたび指摘されてきたこともあり、政府による助成の実効性を警戒してしまう面は否めません。
それに関連して、現在の助成プログラムが若手クリエイターの才能をどう育てているかが気になる方も少なくはないのではないでしょうか。
CESAの人材育成部会による講演「若手クリエイターは2年でどう変わるのか? ―TGCA中間地点から見えた伴走型人材育成の設計―」では、次世代クリエイター育成事業「Top Game Creators Academy」(以下、TGCA)が実施されて1年が経過し、伴走支援の具体的な設計とその効果が共有されました。
「挑戦・実践・振り返り」を2年間繰り返す
TGCAとは、文化庁の補助金により独立行政法人日本芸術文化振興会に設置された「文化芸術活動基盤強化基金」を活用したクリエイター育成プログラムであり、まさに政府によるコンテンツ産業支援の一つです。
本プログラムは、世界に通用するオリジナルIPを生み出せるクリエイターの育成を目的とし、単発のコンテストで終わらせず、クリエイター自身の持続力を育むことを重視しています。そのため、プログラムは2年間という長期間で設計されています。
注目すべきは、プログラムの指導にゲーム産業のクリエイターたちが参加している点です。プログラムの監修には、レベルファイブ代表取締役社長の日野晃博氏が就任していることをはじめ、ゲーム産業でビジネスとクリエイティブの最前線で活躍してきたクリエイターによるメンタリングを特徴としており、具体的な指導が期待されています。
本講演に登壇したのは、CESA人材育成部会副部会長の山口邦雄氏と、専任メンターを務める株式会社バンダイナムコスタジオの加藤正隆氏。講演では、部会の活動全般の紹介に続き、育成クリエイター1名の実際の成長過程を通して、メンタリングやイベント出展、外部フィードバックがもたらす変化が語られました。

もともとCESAでは人材育成部会が存在しており、小・中・高校生向けにゲーム業界の魅力を伝える特設サイトの運営や、業界の給与水準や職種を分かりやすく解説するコンテンツの提供が行われています。CEDECで有名なゲーム企画書コンテスト「PERACON」も、次世代のスタッフを育成する取り組みの一環です。
さて、そんな人材育成のメインテーマとなったのが、2025年に立ち上げられたTGCAです。ゲームソフトのプラットフォームの垣根がなくなり、グローバルでのリリースが当たり前になった現在、日本のゲームクリエイターのあり方も大きく変化しています。

TGCAでは、仮説・アイデアをもとに作品のコンセプトを考え、それをプロトタイプとして形にし、イベント出展やプレイテストを通じて検証し、得られたフィードバックから学んで再びコンセプトを改善するという「挑戦・実践・振り返り」のサイクルを2年間かけて繰り返します。
ここで興味深いのは「作品を完成させること自体が目的ではなく、このサイクルを回し続けること自体が目的」という点でしょう。育成対象となるのは、仕事や学業と両立しながらゲーム開発に取り組む、日本在住30歳以下のクリエイターです。つまり、若手にゲーム開発の基本となる開発とフィードバックの繰り返しを習慣づけることも目的にあると思われ、実践的なプログラムと見ていいでしょう。

支援体制としては、月1回の定例ミーティングを軸に伴走する専任メンターに加え、専門分野を支援するスペシャリティアドバイザー、事業化やパブリッシングを支援するビジネスアドバイザー、事務局・人材育成部会が連携しています。専任メンターは3名体制で、育成クリエイターからの質問に対しそれぞれの視点で事前に回答を用意したうえで、当日のミーティングでさらに議論を深めるという形が取られており、単一の正解ではなく複数の視点を提示することに価値が置かれています。
正解のない中で自ら判断する「ディレクション」

本プログラムの育成クリエイターが開発する具体例として、ぽけそう氏が開発する『Weatherium』の育成プロセスが紹介されました。
採択当初のタイトルは「王立魔法気象省」で、魔法で気象を操作し厄災から国を守るという企画でした。気象シミュレーションとして面白さの核はすでに存在していたものの、「魔法」と「気象」という2つの軸のどちらが作品の本質なのかがまだ定まっておらず、何が楽しいのかが伝わりにくいという課題を抱えていたといいます。

4月から9月にかけては、「誰に届けたいのか」、「何を作りたいのか、どんな体験を届けたいのか」という問いを繰り返し投げかけ、実装よりもコンセプトの言語化に注力する期間となりました。
その後、東京ゲームショウ2025への出展を目標に準備が進められていましたが、コンセプトの整理に時間がかかり、開発の遅れも重なった結果、「出展すること自体が目的化しつつある」という課題が浮かび上がります。
ここでぽけそう氏の判断により、東京ゲームショウ2025への出展を見送り、作品の核を固めることを優先するという決断が下されました。10チームが出展準備を進める中で1人だけ出展を見送るという判断は容易ではなかったものの、後にこの決断が大きな転換点になったと振り返られています。

なお、出展は見送ったものの、TGCAの一員としてイベントには参加し、他の展示作品の観察やクリエイター同士の交流を通じた学びの機会として活用されました。
コンセプトが「気象をコントロールし天候を再現する」というアイデアと、「科学実験的な楽しさを味わえる」というベネフィットとして一本の線でつながったことで、タイトルは「ウェザリウム」へと生まれ変わり、作品としての輪郭を持ち始めます。
プロトタイプによる検証では、実際にこの科学実験的な楽しさが体験として成立していることが確認されました。ここから得られた気づきとして、どれほど美しい言葉でコンセプトを語っても、それが実際の体験として証明されなければ作品の魅力は伝わらないという点が強調されています。

11月に開催された育成クリエイター同士の合宿では、自分が何を聞きたいのかを自分の言葉で整理できるようになったという変化が見られたといいます。続く台北ゲームショーでは、初めて実際の来場者の反応と向き合う機会があり、チュートリアル後に何をすべきか分かりにくいといった具体的な反応から、作品の目的が「気象操作によって人々の暮らしを発展させる」という方向へさらに整理されていきました。
この頃からは、メンターそれぞれから異なる、しかしどれも一定の妥当性を持つ意見が返ってくる場面が増え、正解のない中で自ら判断し取捨選択する「ディレクション」が求められる段階に入ったといいます。その後、自らの判断でBitSummitへの出展を決定し、電輪劇オンライン賞の受賞にもつながりました。現在はゲーム全体のボリュームや進行、レベルデザインといったプロダクト全体の設計フェーズに移行しており、パブリッシャーへの売り込みも並行して進められています。

この事例を通じて、育成クリエイターに見られた変化は大きく3点に整理されました。想定する顧客を具体的にイメージできるようになったこと、自分の作品の良さを自分の言葉で説明できるようになったこと、そして何を採用し何を優先するかという自分なりの判断軸を持てるようになったことです。
最後に「伴走支援の設計として重要なのは、メンターが正解を教えることではなく、本人が問いを持ち、実践を通じて検証し、判断を重ねていく過程そのものを支えることだ」と総括されました。成長の速度は人それぞれであり、メンターはその歩調に合わせて促したり待ったりすることが求められるとして、講演は締めくくられました。
本講演は政府によるコンテンツ産業支援としてどれだけ具体的な活動がみられるかという意味で、ゲーム産業関係者がいかに若手に指導できているかという具体的な実績報告とも取れるでしょう。
国によるクリエイター育成という投資の成果がビジネスの数字にどう反映されてくるかはまだ先になるのでしょうが、まずは育成クリエイターが「お客様を想定し、自分のゲームを体験させるように開発していく」という基本的な目的を固めている点をもって、プログラムが前向きに進んでいることがうかがえるのではないでしょうか。






