スマホ新法で“決済の民主化”が始まる―ゲーム企業がビジネスチャンスを掴む「3つの条件」とは 【Adyenインタビュー】 | GameBusiness.jp

スマホ新法で“決済の民主化”が始まる―ゲーム企業がビジネスチャンスを掴む「3つの条件」とは 【Adyenインタビュー】

スマホソフトウェア競争促進法の施行を前に、日本のゲーム企業はどう決済戦略を変えるべきか

マネタイズ マネタイズ
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スマホ新法で“決済の民主化”が始まる―ゲーム企業がビジネスチャンスを掴む「3つの条件」とは 【Adyenインタビュー】
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オランダ・アムステルダムに本社を構え、単一のプラットフォームで決済サービスを提供するグローバルフィンテック企業、Adyen(アディエン)。デジタル、リテール、ゲームなど多様な業界の世界的大手企業を顧客に持ち、決済の最適化を通じてビジネス成長を支援しています。

2025年末に施行が迫る「スマホソフトウェア競争促進法」や、加速するグローバル展開を背景に、今、日本のゲーム企業の決済戦略は大きな転換点を迎えています。この変化の時代において、ゲーム企業は決済とどう向き合うべきなのでしょうか。

GameBusiness.jpは、Adyen Japanで営業統括本部長を務める佐野匠氏にインタビューを実施。ゲーム業界が直面する課題と、Adyenが提供するソリューション、そして決済の未来について話を伺いました。

佐野 匠(さの・たくみ)

Adyen Japan 営業統括本部本部長。2023年4月にAdyenに入社。それ以前はSalesforceで12年間、CRMやデジタルマーケティング、コマース、データ分析を専門領域として営業畑を歩む。

SalesforceからAdyenへ―決済業界に飛び込んだ理由

――本日はお忙しい中ありがとうございます。まずは佐野さんご自身のことと、Adyenに参画された経緯からお聞かせください。

佐野氏(以下、佐野)私がAdyenにジョインしたのは2023年の4月です。実は決済業界は今回が初めてで、それまではSalesforceというアメリカのCRM会社に12年間在籍していました。CRMやデジタルマーケティング、コマース、データ分析といった領域が専門で、ずっと営業畑を歩んできました。

Adyenは決済の会社でありながら、Salesforceと非常に似ているところがあります。通常、決済というと「0.01%でも手数料が安いところを選べばいい」というコスト優先の発想をお持ちの方が多いのですが、我々は顧客体験をより良くしていく、海外展開を加速していく、売上を増やし承認率(コンバージョン)を向上させるといった、価値提案型のアプローチを大事にしています。

――Salesforceから決済業界へという転身は興味深いですね。Adyenの日本での事業展開はどのような状況なのでしょうか?

佐野Adyenの日本オフィスは2018年に立ち上がりましたが、私が入社するまでの5年間は、海外のお客様――例えばOnさんやLVMHさんといった大手企業が、元々アメリカやヨーロッパでAdyenを使っていて、日本の店舗やECでも同じサービスを使いたいという時の「ロールアウト」と呼ばれる現地展開支援がメインでした。

私が入社してからは、本格的に営業チームを組織し、マーケティングも大幅に増員して、日本本社の企業に対しての営業活動を本格化させています。つまり、この2年間はかなり立ち上げに近い段階で取り組んできているということになりますね。

40契約を1つに統合-Adyenが実現する「真のワンストップ」

――なるほど、まさに立ち上げフェーズなんですね。それでは、数ある決済サービスの中で、Adyenならではの強みはどこにあるのでしょうか?

佐野大きく2つの強みがあります。1つ目はグローバルでの決済統合です。決済業界は基本的に国単位で法律や規制が異なるため、国ごとに発展してきた業界なんです。例えばユニクロさんのように20カ国以上でビジネス展開する場合、従来であれば各国の決済会社と個別に契約する必要がありました。しかもオンラインとオフラインに分かれているため、20カ国×2で40契約が発生してしまいます。

これが、40通りの契約条件、40通りのサービスレベル、端末もデータもすべてバラバラになると、ガバナンスの観点でも良くないですし、コストの観点でもボリュームディスカウントが効かない。さらに、不正対策や売上向上のためのデータ活用もできません。Adyenなら40契約を1つに統合してワンストップで対応できるので、複数国でビジネス展開する企業には非常に相性が良いんです。

――40契約が1つに統合できるというのは確かに大きなメリットですね。先ほど「2つの強み」とおっしゃいましたが、もう1つはどのような点でしょうか?

佐野2つ目はオンラインとオフラインの統合、いわゆるユニファイドコマースへの対応です。オンライン決済はIT企業、店頭決済はPOS分野の企業が手がけており、そもそも生きている世界が違うんです。そのため、これまで両方を統合してサービス提供する会社は現実的にはほとんどありませんでした。

しかし今、多くの企業がOMO(Online Merges with Offline)やユニファイドコマースを目標にしている中で、CRMなどのシステムでは統合できても、決済の分野では実現が困難でした。我々が両方を繋げることで、例えばオンラインで購入したものを店舗で返品する、店頭で在庫がない時にその場でオンラインから取り寄せるといったことが簡単に実現できます。

2025年末の法改正で何が変わる? ゲーム業界の大転換点

――Adyenの強みがよく分かりました。ここからはゲーム業界の話に移らせていただきたいのですが、今まさに業界で話題になっているのが2025年末施行予定の「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(スマホソフトウェア競争促進法)」(※)です。佐野さんから見て、この法律はゲーム企業にどのような影響を与えるとお考えですか?

※編集部注:通称「スマホ新法」とも呼ばれ、AppleやGoogleといった巨大プラットフォーマーに対し、自社のアプリストア以外での決済、いわゆる「アプリ外決済」の利用を認めるよう義務付けるもの。これまでアプリ事業者は最大30%とされる決済手数料をプラットフォーマーに支払う必要があったが、この法律により、ゲーム企業が自社やサードパーティーの決済システムを導入し、手数料を削減したり、ユーザーと直接的な関係を構築したりする道が開かれる。

佐野これまで、特にスマホアプリゲームに関しては、決済部分が完全にプラットフォーマーに掌握されていました。そのため、ゲーム開発会社からするとエンドユーザーに対して直接課金や販売を行う接点が基本的にない状態だったのです。

これが直接の決済チャネルを持てるようになるということは、非常に大きな変化です。もちろん良い面もありますが、やらなければいけないことも大幅に増えます。例えばBtoBtoCでビジネスしていた企業がBtoC直接販売を始めるのと同様で、顧客からの直接サポートや問い合わせ対応など、これまでプラットフォーマーが担っていた業務を自社で行う必要があります。

――確かに大きな変化ですね。手数料面でのメリットがある一方で、やるべきことも増えると。特にゲーム業界ならではの課題というのはあるのでしょうか?

佐野ゲームの課金領域は不正リスクが非常に高い領域です。特にゲーム内で使えるポイントなどは換金性が高いと捉えられるため、不正のリスクにさらされる厳しい環境の中で、ゲーム開発会社として責任を持ってマネジメントしていく必要があります。これは、大きなチャレンジになるでしょう。

また、クロスボーダー取引においても、より信頼性の高いパートナーの選択が重要になります。マネーロンダリングやテロ資金、不正利用などを責任ある環境でマネジメント・監督していく必要があるため、すべてを自社で行うのは現実的ではありません。信頼できるパートナーとどう組んでいくかが今後の大きなポイントになるでしょう。

「各国バラバラの決済手段」-グローバル展開の現実

――不正リスクの話は確かに重要ですね。それでは実際の営業活動の中で、ゲーム業界の方々からは具体的にどのような課題をお聞きになることが多いですか?

佐野今まで自分たちでやってこなかった領域なので、まずノウハウがないというケースが非常に多いです。その中でも特によくお伺いするのが、グローバル展開時の決済手段多様化への対応です。

日本では「PayPay」のようなQR決済がありますが、日本のゲーム会社が狙っているアジア太平洋地域でも、各国にそれぞれ主要な決済手段があります。シンガポールにはシンガポール独自の決済手段、フィリピンにはフィリピン独自の決済手段があり、国境のないゲームコンテンツで課金を行う際に、どのように各国ユーザーのニーズに応えていくかという課題があります。

――各国で決済手段が異なるというのは想像以上に複雑ですね。ただ、決済手段の選択肢を増やすことは、本当にコンバージョンに影響するものなのでしょうか?

佐野各国の主要な決済手段を押さえることは非常に重要です。クレジットカードは全世界で使えますが、ゲームユーザーは比較的若年層が多く、クレジットカードを持っていないケースも一定数あります。日本で言えば、クレジットカードとPayPayで全体の9割をカバーできますが、このような状態を各国でも作っていく必要があります。

主要な決済手段を押さえていくのは重要ですが、アジア太平洋地域は国が非常に多いため、各国の銀行や決済事業者と個別契約していくとコストと運用負荷が膨らんでしまいます。

AIが学ぶ「カード会社の癖」-承認率を押し上げる技術

――なるほど、各国の主要決済手段を押さえることの重要性がよく分かりました。ところで、先ほどから「承認率(コンバージョン)」という言葉が出てきますが、これはどのような問題なのでしょうか?

佐野承認率と不正対策は必ずセットで考える必要があります。不正を減らそうと厳しくしすぎると承認率が下がり、逆に承認率を上げようとルールを緩くすると不正が増えてしまう。このバランスをどう取るかが各事業者にとって非常に難しいポイントです。

ちなみに、承認率が比較的高い日本でも、実は最後の段階でクレジットカード決済が承認されず、弾かれているというケースもあります。

我々が構造的に有利なのは、不正対策と承認率向上の両方を1つのプラットフォームで提供していることです。多くの企業は不正対策をサードパーティーにアウトソーシングしていますが、不正対策事業者は不正を極限まで減らすことがゴールなのでルールを厳しくする傾向にあり、売上を伸ばしたい事業者とは相反するKPIを持っているといえます。

――Adyenでは具体的にどのような技術で承認率を向上させているのですか?

佐野我々は年間200兆円超を処理するグローバルデータを活用し、AIが世界中のクレジットカード発行会社の「癖」を学習しています。例えば、クレジットカードの有効期限年の情報を「2025」で送るか「25」で送るかで承認率が変わることがあります。あるカードは「2025」を好み、他のあるカードは「25」を好むといった具合に、それぞれ異なる仕様や好みがあるんです。

こうした細かいパラメーター設定が何百とあり、これを積み上げることで、各カード会社が最も受け取りやすいフォーマットでデータを送信します。1つ1つの改善は0.0001%かもしれませんが、積み重ねることで2-3%の承認率向上を実現しています。また、1回目がダメでも少し変更して2回目を自動で実行しなおすリトライ機能も搭載しています。

――カード会社ごとの「癖」をAIが学習するというのは面白いですね。もう1つ、「ネットワークトークナイゼーション」という技術についても教えていただけますか?

佐野これはVISA、Mastercard、JCBなどの国際ブランドが提供する新しい技術で、クレジットカード情報をセキュアに取り扱うためのものです。16桁のカード番号を暗号化されたトークンに変換してやり取りを行います。

この技術の利点は2つあります。1つ目はセキュアなデータでやり取りできるため、クレジットカード発行会社の承認率が向上すること。2つ目は有効期限情報を自動でアップデートできることです。サブスクリプションサービスを使っている際、クレジットカードが更新されると、従来は再登録が必要でした。これがユーザーにとってはサービス解約のきっかけにもなっていましたが、ネットワークトークナイゼーションにより自動更新が可能になります。

承認率12%向上の衝撃 『インフィニティニキ』の成功事例

――技術的な話が続きましたが、実際のゲーム業界での導入事例があれば教えていただけますか?『インフィニティニキ』のInfold Games社の事例があると伺いましたが。

佐野Infold Games社は、まさに今までお話してきた課題を抱えていらっしゃいました。グローバル展開にあたって、各地域・各国での決済手段への対応、承認率の低下によるユーザー離脱、不正利用への対策という、大きく3つのポイントで課題を感じていらっしゃいました。

Adyen導入の結果、承認率が12ポイント向上しました。これは非常に大きなインパクトです。また、ネットワークトークナイゼーション技術の活用により、カード更新や紛失時の再登録が不要になり、シームレスな継続課金を実現できています。

――確かにインパクトが大きいですね。この事例を踏まえて、ゲーム会社は決済システムをどのように捉えるべきだとお考えですか?

佐野決済システムを単なるコストではなく「収益を最大化するための投資」として捉えることが重要です。データの一元化により、これまで見えなかったユーザー行動や売上機会が可視化されます。特にオンラインとオフラインのデータが繋がることで、例えばゲーム内で課金しているユーザーがイベントでグッズを購入した瞬間に、そのロイヤリティの高さを把握できるようになります。

これまで店頭での顧客情報取得は困難でしたが、我々のシステムでは同一のクレジットカード情報によって、オンラインユーザーと店頭購買者が同一人物だと自動で判別できます。これにより、より精密なマーケティングや顧客体験の向上が可能になります。

プラットフォーマー独占からの解放 「決済の民主化」が始まる

――今後のゲーム決済業界はどのように変化していくと予想されますか?

佐野ある意味で「民主化」されていく状態になると思っています。一部の大手プラットフォームが独占していた決済環境が、すべての様々なプレイヤーに開かれていく流れは、もう止まらないでしょう。また、様々なデバイスや接点への広がりも進んでいくと見ています。

PC、コンシューマー機、スマホに加えて、今後も新しいゲームデバイスが登場するでしょう。それはウェアラブルデバイスかもしれませんし、店舗という接点も含めて、新しいチャネルがどんどん増えていく中で、ユーザーが求めるのは統一された顧客体験です。自分のことを理解してほしい、ロイヤルに感じさせてほしいという期待は、他業界では当たり前に行われていることで、ゲーム業界でも同様のことが期待されるようになると思います。

――「決済の民主化」というのは印象的な表現ですね。それでは最後に、これからの変化に直面するゲーム企業の担当者の方々へメッセージをお願いできますでしょうか?

佐野特に海外展開を考えている企業にとって、質の高い顧客体験の提供は今後の発展において非常に重要なポイントになります。海外のユーザーはより進んだサービスに慣れているため、そうした「目の肥えた」ユーザーに対して、どれだけ質の高いサービスを提供できるかが勝負になります。

我々のターゲットは取扱高の規模が数十億円以上あるエンタープライズ企業になりますが、そのクラスの企業であれば、決済の統合により確実にメリットを感じていただけると確信しています。グローバル展開、ユニファイドコマース、そしてデータの一元化による新たなビジネス機会の創出――これらすべてを実現するパートナーとして、ぜひご相談いただければと思います。

Adyenの詳細はこちら

決済が切り拓くゲーム業界の新たな可能性

「スマホソフトウェア競争促進法」の施行は、ゲーム業界に「決済の民主化」という大きなパラダイムシフトをもたらします。それは単なる手数料削減に留まらず、事業者自らがユーザーと直接向き合い、グローバル市場で戦うための新たな武器を手に入れることを意味します。

しかし、そのビジネスチャンスを掴むためには、佐野氏が語った3つの条件をクリアすることが不可欠です。

  1. 多様な決済手段への対応力で、グローバルユーザーを取りこぼさないこと。

  2. 高まる不正リスクを管理し、ユーザーからの信頼を勝ち取ること。

  3. 承認率を最大化する技術で、売上機会と顧客体験を向上させること。

これらの課題は、もはやコストセンターとしての決済管理では対応しきれません。決済を「収益を最大化するための投資」と捉え、適切な技術と知見を持つパートナーを選ぶことこそが、これからのゲーム業界で競争優位を築くための鍵となるでしょう。ゲーム業界の新時代において、決済戦略の重要性は、これまでになく高まっているのです。

《多賀秀明》

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