祖堅正慶氏に聞く、『FF14』ゲーム体験重視のサウンド制作の秘密 | GameBusiness.jp

祖堅正慶氏に聞く、『FF14』ゲーム体験重視のサウンド制作の秘密

『ファイナルファンタジーXIV』のサウンド制作を担う祖堅正慶氏に、『FF14』サウンドが放つ魅力の秘密をインタビュー。

ゲーム開発 サウンド
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祖堅正慶氏に聞く、『FF14』ゲーム体験重視のサウンド制作の秘密
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スクウェア・エニックスが開発・運営するMMORPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、FF14)。単なるMMORPGに止まらない幅広いゲーム性や奥深いストーリーなど、未だ世界中でユーザーを増やし続ける本作ですが、その大きな魅力の一つが祖堅正慶氏の手掛ける音楽といえるでしょう。

今回は本作の開発現場でリファレンスモデル(スタッフ共通の基準)として採用されている、オーディオテクニカの「ATH-R70x」についてたっぷりとお話を伺うというインタビュー企画を敢行……という予定でしたが、やはり祖堅氏のサウンドクリエイティブや『FF14』のサウンドの話もたっぷり聞きたい!ということで、本稿では祖堅氏に楽曲制作の裏側について伺ったインタビューをお届けします。開発者はもちろん、『FF14』ファンも気になる祖堅氏のサウンドクリエイティブへのこだわりや開発環境、『暁月のフィナーレ』のお話まで盛りだくさんな内容になりました。

その楽曲制作を支えるオーディオテクニカの「ATH-R70x」についてお話いただいた内容とあわせてご覧いただくことでより深く『FF14』のサウンド制作、機材の重要性などが理解できるはずです。ぜひあわせてご覧ください。

※The English version of this article is here.
後編:『FF14』祖堅正慶氏、ATH-R70x商品企画者の鈴木弘益氏と現役作曲家が重要と考える、リモート制作の機材の要とは

楽曲制作では“空気を通して体で聴く”ことが大事

――自己紹介をお願いします。

祖堅氏(以下、敬称略):スクウェア・エニックスのサウンド部の祖堅正慶です。これまでも様々なタイトルのサウンドに携わってきましたが、最近は『FF14』をメインで制作しています。ゲームサウンド制作というのは、効果音の制作だったり、ボイスを収録・編集したり、様々なサウンドをゲーム機に実装したり、サウンドエンジンを開発したり、BGMを作ったり……と多岐にわたっていますが、全てを満遍なくやっています。あとTHE PRIMALSという『FF14』の公式バンド活動もありまして、ワールドワイドでツアーもおこないました。

――ありがとうございます。僕の個人的な感情もありますが、祖堅さんが表舞台に戻ってこられたことを『FF』シリーズと祖堅さんのいちファンとしてとても嬉しく思います。改めて振り返ってみて、漆黒のヴィランズの制作はどうでしたか?

祖堅:ありがとうございます。そうですね、全般的に漆黒のヴィランズは僕の好きな、というか得意な制作フィールドだったというのもあって、自分のサウンドが表現できと思います。また、世界がパンデミックになってしまったり、自身の病気のこともあったりするのですが、ここ1年~1年半は非常にドラマティックで、貴重な人生経験になりました。内面的な変化に加え、制作環境自体も、今まで外のスタジオだったり、自分の社内制作ブースだったりと、自宅外で行っていくスタイルだったのが、病室や自宅での作業が増えて劇的に変わったなという印象がありますね。

――祖堅さんは元々自宅に作業環境をお持ちだったんでしょうか?

祖堅:全然なかったです。家は帰った時に寝るだけでした(笑)

――基本的には社内で制作していたのでしょうか?

祖堅:たまに事務仕事だけ持って帰ることはありますが、制作を持って帰るということはほとんどなかったですね。例えば作曲するときのメロディのメモとかは家でもやることはあったのですが、ガッツリと楽曲の2mixなり5.1chの環境音を家で作るという機会はなかったですね。

――では新しく自宅に環境を作ったということでしょうか?

祖堅:新しく環境を作りました。物置みたいに放置していたスペースがあったので(笑)。そこをちょっと片付けて制作スペースにしました。

――本当に自宅の片隅っていう感じですね。

祖堅:ですね。本当に片隅ですね。

――自宅の機材環境はどのようになっているのでしょうか。

祖堅:楽曲制作用と効果音用で使う機材が全然違いますね。楽曲制作用ではWindowsのデスクトップPCとRMEのオーディオインターフェイス、88鍵のキーボードと、モニターが3枚という環境です。

――ニアフィールドモニターは置かれていますか?

祖堅:GENELECを使ってます。本当は社内の制作スペースにあったムジーク(musikelectronic geithain、ドイツの高級スピーカーメーカー)を持って帰りたかったのですが、自宅でムジークを鳴らすと近所迷惑な鳴らし方になってしまうので持って帰れませんでした(笑)

――もはや騒音レベルですよね(笑)

祖堅:本当に騒音です(笑)

――ちなみにスピーカーは併用して制作するのでしょうか?

祖堅:まぁ……自宅って……リラックスして制作できる環境としてはマキシマムなわけじゃないですか。トイレも近いし、音出していても文句言われないし。会社だと他のサウンドスタッフの席も近いので、もちろん常時出しているわけにはいきません。隣の人が「ちょっと俺もミックスしたいから、スピーカーの音を控えてくれない?」という話がでることもあるくらいですしね。

――そういうこともあるんですね。

祖堅:全然ありますよ!会社の制作ブースだとそういう問題はやっぱり起きちゃうので、そうなると家で周りを気にせず音を出せるという環境は最高です。ただ、効果音制作と楽曲制作で結構考え方が違って、例えば効果音ですと定位、見えている物体に対してどこに音が存在するかを明らかにしないといけない。なので効果音を作り込む時には5.1chで鳴らしたりステレオヘッドホンで作業することが多いです。

一方で、楽曲はその名の通りバックグラウンドミュージックなので、その音の位置がハッキリしている効果音たちとケンカさせず、プレイヤーの心情をある程度コントロールしながら喜怒哀楽を揺さぶってあげるためには、1回空気に乗せて聴くという行為が意外と大事だったりするんですよ。細かな楽器個別の音の調整はもちろん解像度のよいヘッドホンでやった方が良いんですけど、最終的にステレオの楽曲をモニタリングするという時は、1回空気を通して空気の振動で耳も含め身体で音楽を聴く、つまり全体像を見るという方が重要になってくるので、あえてスピーカーで鳴らす方が楽曲制作では多いですね。

――ゲームと言えど、スピーカーをちゃんと通して聴いた方が仕上がりが良くなる?

祖堅:そうですね。楽曲に関しては下から上までちゃんと体で感じて聴くという行為がものさしとしては大事なんじゃないかなって。

――ゲームはヘッドホンでプレイされることが多いため、スピーカーはあまり重要視されないという話はよく聞きますね。

祖堅:確かに最近はゲーミングヘッドセットが普及しているので、ユーザーのプレイスタイル・環境に合わせて作るというのは、効果音とかボイスに関してはベストだと思います。ただ楽曲に関しては、繰り返しになりますが、確認する際に空気を通すのと通さないのでは、感情をコントロールするパワーの伝達力が違うと思っています。実際モニタリングする時にも、ヘッドホンだとちょっと伝わりづらいポイントがあって、スピーカーでチェックするというステップは欠かせません。これはどちらかに優劣があってスピーカーが優れていて、ヘッドホンは使わなくていいという話ではありません。左右バランスや低音・高音のバランス確認はヘッドホンを多用していますしね。ただ、会社外で制作するようになってからは、ほとんどスピーカーで作るようになりました。

――家ではほぼスピーカーで、ヘッドホンで細かな部分を確認するようになったと。

祖堅:そういうことが多くなりましたね。会社で作ることが多かった時期は、ヘッドホンベースで作っていって、最終的にスピーカーで確認はすると「うわー、なんかもう全然違ったわ」ってなって直すこともありました。

――モニタリングのスタイルは真逆になったっていう感じなんですね。

祖堅:そうですね。なんか入口と出口が逆になった感はありますね(笑)

『FF14』楽曲制作時に最も意識することとは―

――『FF14』のほとんどの楽曲を制作されていますが、作品に寄り添った楽曲を作るにあたって、これを強く意識している点というのはありますか?

祖堅:ゲームサウンド1つ1つを取り出して良い曲だ、悪い曲だねという判断もできると思いますが、自分としてはゲームサウンドはゲーム体験に強く紐づくものなので、ゲーム体験に合っているかどうか、コンテンツに合っているかどうかを強く意識しています。例えばゲームコンテンツがどのストーリーラインに紐付いていて、前後の関係性があった場合、どういう表現をすればそのストーリーラインにサウンドがマッチするかだとか、個別のバトルであればそのバトルが持つ背景とかタイミングとか、そういうところですね。

あとは印象的なゲーム体験の場面……例を挙げれば「タイムストップ」(RISE、機工城アレキサンダー天動編4層のBGM。時間停止ギミックがあるコンテンツで、THE PRIMALSのライブでも全員の時間が止まるパフォーマンスで有名)の時に、どう音楽で盛り上げられるかというのも非常に大事なポイントだと思います。良し悪しの最終的な解は音楽単体から導き出されるものではなく、どれだけゲーム体験とマッチしたサウンドになっているかが重要なポイントであり、そうしたサウンドを目指して制作を続けています。

――そういうところの表現がうまくできているからこそ、THE PRIMALSでも演奏されているボス曲が人気というところに繋がるわけですね。

祖堅:そうだとしたら嬉しいですね(照)。やっぱり背景とか歌詞も全てそのバトルコンテンツに対してフルスクラッチで作っているので、プレイヤーさんの思い入れがより深くなっていくような体験を提供できるというところを目標にしています。

――うなずきすぎて首がもげそうです(笑)

祖堅:そうですか(笑)。僕も音楽も大好きですけど、ゲームも大好きなので、そこが大事なんじゃないかなって常日頃から思っています。毎日ゲームも遊びますし。

――やっぱりゲームは欠かせないですか?

祖堅:欠かせないですね。

――『FF14』では吟遊詩人で楽器演奏ができますが、ご自身でぽろっと弾くことはありますか?

祖堅:やるんですけど、僕コントローラーで楽器を弾くのがめちゃくちゃ下手なんですよ。FCの友達とかはすごいうまく弾くので、どうやってんのかな?っていつも思うんですけど、僕がやれる限界はキーボードを鍵盤に見立てて弾くぐらいですね。それでもそんな上手ではない(笑)。

――先日の第7回14時間生放送の楽曲解説の際に「アレンジはカツカレーをほんのりカレー風味の野菜サラダにすること」と仰っていて、自分でも思い当たる節があって爆笑していました。最近の制作された楽曲は原曲やモチーフがある、アレンジやRemixに近いものがありますよね。新規曲の制作において、リードストーリーデザイナーの石川夏子氏や吉田直樹P/Dから、ガラっと変わるようなリテイクはあるのでしょうか?

祖堅:アレンジの方向の軌道修正はほとんどないですね。

――作ったままをそのままブラッシュアップしている?

祖堅:8~9割そんな感じなんです。ただ、クエストの進行によってストーリーラインに喜怒哀楽の変化がありますよね。その変化に対してあべこべなBGM配置になったり、どうしてもマッチしなかったりする場合は、石川だったり吉田だったりから直接、「ここはこういう手順を踏むから、これじゃ合わないからなんとかしてほしい」というフィードバックはあります。そういう場合は作り直しかやり直しですね。

――裏を返せばほとんどボツにはならず制作できているのでしょうか?

祖堅:あー、でもモックアップを出す段階で全然違うよってスベることはあります(笑)。ただ、モックアップで方向性を摺り合わせた後に大きく外すことはないですね。

――最近のでスベったモックアップを教えてもらえますか?

祖堅:スベったやつかぁ……。そうですね、今、『暁月のフィナーレ』に向けて鋭意制作していますが、先日、デジタルファンフェスティバルの時にPVをいくつか出したんですね。

フルスクラッチでBGMを新規作成したのですが、『暁月のフィナーレ』の大枠からはどハズレしてないだろうと思っている内容で作ったので、PV用に作ったBGMもどこかで使用できるだろうという甘い感覚でいました。それが蓋を空けてみたら、実際の発注リストに入っていなくて……。

――おぉ……。

祖堅:これは何……?じゃあいらねってことか?あれ……?みたいな(笑)。数曲稼げたんだなと思ったんですけど(笑)

――やっぱり苦労されてるじゃないですか(笑)

祖堅:そうですね。思ったより苦労してました(笑)

――摺り合わせも大変ですね。

祖堅:まぁそこが全てと言えば全てですからね。どうしてもゲーム体験と違うものは入れられないですし、ゲームに合わせて作るのは必須だと思うので、そこは仕方ないなと思ってやり直してます。

こねくり回すより電光石火で仕上げる祖堅流制作術

――曲制作のお話になったのでぜひ伺いたいことがあります。発注時に完成形が頭の中に鳴ると仰ってましたが、DAW(楽曲制作ソフト)に打ち込むまでにどの程度かかりますか?

祖堅:モックアップ制作はほぼ1日で終わりますね。下手すれば3~4時間で出来ちゃいます。僕の場合は完成までを10割までとすると、7~8割ぐらいまでばーっと作れちゃうんじゃないかな。

――かなり速いですね。

祖堅:んー、どうなんでしょう?僕の場合は思いついたら電光石火です。まぁ歳なんで、忘れないうちにやっちゃうことが多いのかな(笑)。あんまり長い時間をかけてこねくり回していい結果が出たことがありますか?っていうと打率が低いんですよ。

――あー、僕もこねくり回して失敗することは多いですね。

祖堅:そうなんですよ。机の上にかじりついてこねくり回していい曲できたっていう経験があんまりないんですよね。なので速く作る癖がついているのかもしれないですね。勢いというか。

――情熱が残ってるうち的な?

祖堅:そうそう。モチベーションが残っているうちに作っちゃう感じですね。

――『FF14』のサウンド面についてお聞きしたいんですが、『暁月のフィナーレ』以降のコンテンツで、起用したいボーカルの方はいらっしゃいますか?

祖堅:現段階で誰とは言えないですが、います(笑)。

――いずれ、もしかしたらどこかのトラックに入っているかもしれないと。

祖堅:そうですね。『暁月のフィナーレ』がリリースされた時に確認してもらえればと思いますが、まだ作ってもないので何とも言えないです(笑)。もちろんビジネスでもあるので、予算内に収まるかどうかも大事です(笑)。

――個人的に気になっているのですが、声優の南條愛乃さんといった、過去のストーリーを彩ってきたボーカルの方を再び起用する可能性は?

祖堅:マッチするゲームコンテンツがあるならば可能性はあるかもしれません。よくプレイヤーの方々から、過去の『FF』シリーズの曲を僕にアレンジしてほしいという要望をいただくことがあります。すごく嬉しいんですけど、曲ありきでゲームコンテンツに流れていくというのはあまり有効じゃないのかなと個人的には思うんですね。やっぱりゲームが最初にあって、それに一番合っている曲を用意するのがゲームコンテンツとしてベストだと考えるので。

――あくまでゲームそのものがメインであると。

祖堅:そうですね。僕は根がゲーマーだからかもしれませんが、ストーリーだったりゲームコンテンツ1つ1つの理由だったりが大事かなと。この曲やサウンド表現をしたいからストーリーやコンテンツを変えてくれっていうのはゲーム体験として違うんじゃないかなと思っています。

――ちなみに、『漆黒のヴィランズ』の中で一番好きな曲はなんでしょうか?

祖堅:Shadowbringers」かな。第一世界の世界観を作ったきっかけともなる曲ですからね。

――ではもう少し『漆黒のヴィランズ』の楽曲についてもお伺いします。ウォーリア・オブ・ライト戦のBGM、「To The Edge」では4/4のオーソドックスなロックテイストの楽曲ですよね。イントロでは気を抜くと拍を見失いそうな、GUNNさんのディレイフレーズを中心としたギターが印象的でありつつも、どっしりとした4つ打ちが共存しています。これはどういったところからアレンジが出来上がったのでしょうか?

祖堅:そうですね……。上手く表現できないのですが、頭の中で鳴っていたんですよね、あの感じが。それを落とし込んでいったというのが正直なところですね。なので、その過程を言語化するのは結構難しいなという感じです。

――出来ちゃったから出来ちゃったという?

祖堅:そうですね。あそこに至るまでのストーリーがあるじゃないですか。もちろん制作前に、プレイヤーがどういった状況に置かれるというのは事前に咀嚼できていましたし、それを踏まえた上で「アーモロート」のメロディを引用して、大団円を迎えるバトルに対してオケではないアプローチで曲を作ってほしい」といったオーダーがありました。であれば……という感じで頭の中でできた曲をトレースしてできたのが「To The Edge」です。さっきギターのディレイのお話が出ましたが、僕あまりギターが得意じゃないんですよ。だから、あんなフレーズを入れてたんですけど、弾けないからディレイをバンバン入れて適当にやってたら、それをきっちりGUNNさん(THE PRIMALSのリードギター・バンドマスター)がきっちり弾いてくれました。

――結局は弾けてたじゃないですか!(笑)

祖堅:僕のはヨレヨレで、あんまりカッコよくなくて……。それを「ちゃん弾いてください!」ってGUNNさんにお願いしたら完璧に弾いてくれたという。

――GUNNさんはパキッとしたギターを弾きますよね。

祖堅:そうなんです。あの人もちゃんとゲームをプレイしているので、どういうサウンドが『FF14』に対して必要かをしっかり理解しています。なので、ああいうギターサウンドが入れられるんじゃないかなって思います。

――ティターニア戦の楽曲「目覚めの御使い ~ティターニア討滅戦~」は、ティターニアの心情とピクシー族の遊びたい!という気持ちが反映されていて、曲自体にワクワク感と楽しさ、優雅さが詰め込まれていますが、ボーカル収録は大変だったのではないでしょうか?

祖堅:歌詞はコージ(Michael-Christopher Koji Fox、FFXIVのローカライズスーパーバイザーであり、THE PRIMALSのボーカル)がサラッと書き上げてくれました。ボーカルの裏話をすると、弊社のローカライズ部署に歌の上手い女性スタッフがいまして……実はラクシュミ(美の謀略 ~蛮神ラクシュミ討滅戦~)を歌ったのも彼女です。

――え、そうだったんですか!?

祖堅:彼女は多様な声色を使い分けられる器用なスタッフなんですよ。「目覚めの御使い ~ティターニア討滅戦~」も、ちょっとウィスパーボイス的な感じでファルセットで歌ってみてくれない?とオーダーしたら、一生懸命勉強してきてくれて。レコーディングはほぼ1テイクで録りきったので、ほとんど苦労はしなかったですね。

――すごい……。

祖堅:ただ、息が続かない、っていっていて大変でしたけど(笑)。もちろん色々と加工はしていますけどね。

――結構譜割りは速いですよね?

祖堅:速いです。僕は歌えないですけど……。あ、ライブでやったから歌えるか。

――(一同爆笑)

祖堅:でも原曲は3拍子だからぎゅっとなってるのでめちゃくちゃ速いですね。これも頭に浮かんで1日で作ったんじゃないかな……。メロディもぱっとすぐ出てきて、アレンジも頭の中でぼーんと鳴ってたので、それをCubaseに落としていったって感じですね。

――ファンにとって当たりの曲はばっと1日ぐらいでできているってことなんですね。

祖堅:まぁプレイヤーの皆さんにとっての当たり曲が僕にとってどうかはわからないですが、あまりこねくり回して作ってる曲はほとんど存在しないので、そういうことになるのかもしれないですね。

――最後に海外でもミームになった「A Long Fall」ですが、まずあそこまでミームになると予想されてましたか?

祖堅:いや全く(笑)。面白いもの作るなって見て笑っていました。

――最初から普通の『FF14』の一楽曲でしかなかったと?

祖堅:そうですね。あそこのダンジョンは色々なストーリー背景があって、こう組み合わさっていているんだよっていうのを石川(夏子氏)から聞いていました。であればこの辺で作ったメロディを引用すると、そのダンジョン固有の曲になるよね、みたいな話をして。あんな感じで色々なメロディを引用してまた別の曲を1つ作るみたいな感じになったんですよ。あれはストーリーラインとは別個のところにいるコンテンツじゃないですか。だから割とはっちゃけられたというか。

――なるほど。

祖堅:割と好きに作っていいよ枠というか、ストーリーと切り離されているわけではないですけど、別物というか。好きにやってみただけという感じですね。ただあれはミームもそうですけど、Fun to Fanだと思っているので、プレイヤーさんが楽しんで曲からインスパイアされて楽しいコンテンツを作りましたというので、僕らもFun、楽しんで、それを音楽ステージ上でプレイヤーの皆さんに返すというか、そういうものを作って凄いよね、僕らも凄いお返しをしようかと。開発者とプレイヤーとの良い距離感というか、『FF14』のコミュニティはすごいなと思っていて、お返しできたらいいなと思ってデジタルファンフェスでやってみたというところですね。

――あれはめちゃくちゃ良かったですよね。

祖堅:面白かったら良かったな、と思います。みんながわーって盛り上がってくれれば。

――THE PRIMALSの楽曲は基本盛り上がるセットリストで組まれていると思うので……。

祖堅:あれは『FF14』のゲームコンテンツが素晴らしいので、それに乗っかっていると言うか。

やはりゲーム体験が一番なので。

――ファン目線としてはゲームに寄り添った曲を作ってくれているからこその盛り上がりだと思います。

祖堅:ゲーマーってそういうところがあるじゃないですか。ゲームが楽しかったらそのグラフィックが好きになったり、音楽が好きになったりっていうことだと思うので、そこが大事だと思っています。

――先程Fun to Fanのお話がありましたが、それがあったからこそ、MVの制作やメイキングを制作したということでしょうか?

祖堅:そうですね。先にミーム動画があったので、面白いよねってことでMVで取り入れてみたところ、意外に行けたってなったので、良いテンポ感だったのでダンス入れてみたいなってなって。ダンス入れるんだったら、ミームっていう文化があるからインスパイアして、そのままじゃ踊れないので(笑)、A Long Fallに合うように振付師さんにアレンジしてもらって踊ってみたらいい感じになったっていう。

――やっぱりダンスは大変でした?

祖堅:そうですねー、ただMVは僕踊りましたけど、ファンフェスは踊ってないですから。実を言うと、MVの時は遅めに踊って早回ししているんですよ。なので、心の中では踊れないだろうなと思いつつも、原曲のスピードで踊ってください、できるでしょ?みたいな顔をして言って、実は僕らやってないけどね、みたいな(笑)

――(一同爆笑)

祖堅:したらすごく練習してくれてあの4人。

※デジタルファンフェスティバルで踊っていたのは、林洋介氏(リードアイテムデザイナー)、室内俊夫氏(グローバルコミュニティプロデューサー)、望月一善氏(リードコミュニティプランナー)、武田諒治氏(コミュニティプランナー)の4人。

――お互いにファンフェスをこういう状況だからこそ盛り上げようっていうのが伝わってきていました。

祖堅:素人だったとしても、やるんだったら中途半端にやるとかっこ悪いので、きっちりダンサーのレベルまで仕上げてほしいんだよね、っていう無茶振りをしたらわかってくれて。まぁ怒りも半分あったと思いますけど、最終的にはきっちりエンターテインメントとして仕上がったなと。あの4人のおかげですね。

――僕もあれをまた見たいな、と思って何度も見直しています。

祖堅:コロナ禍が終わったらどこかでやりたいですね。

――『漆黒のヴィランズ』のもう1つの核ともなるニーアシリーズとのクロスオーバーコンテンツ「YoRHa: Dark Apocalypse」ですが、『FF14』に収録されている楽曲は『FF14』向けのアレンジがされています。これは祖堅さんが制作されたんでしょうか?

祖堅:あれは全部岡部(啓一、『ニーア』シリーズの楽曲制作を担当)さんがやっています。

――祖堅さんは触れていない?

祖堅:触れてないですね。僕がやったのは音質調整とゲームへの調整というところしかやってないです。もうちょっとこうした方がいいけど、くらいは言ったかもしれないですけど(笑)、ほとんど何もしてないです。アレンジに関してはヨコオ(タロウ)さんが全部指示を出しています。

――曲は完全に『ニーア』の方でやったと。

祖堅:そう。『ニーア』チームが作って、それを納品してもらって、いい感じで実装するっていうニュアンスですかね。ただ『FF14』チームで言うと、アレンジはどの曲がいいのかね、みたいな相談があったので、その辺の相談をしつつ実装していきましたね。

――『暁月のフィナーレ』の楽曲について祖堅さんからお伝えいただけることはありますか?

祖堅:まだ作っている段階ではあるので、細かいことは言えないですが、今回も多分プレイヤーの皆さんに楽しんでもらえるサウンドになると思うので、是非最後まで楽しんで遊んでもらいたいです。あと、トレイラーが公開されていますが、フルスクラッチで制作しているのでじっくり聞いてもらえると嬉しいです!


次回は祖堅氏に加え、オーディオテクニカの開放型ヘッドホン「ATH-R70x」を開発した鈴木弘益氏、そして筆者を交えてその魅力を解き明かしていきます。

後編:『FF14』祖堅正慶氏、ATH-R70x商品企画者の鈴木弘益氏と現役作曲家が重要と考える、リモート制作の機材の要とは

「ATH-R70x」製品ページはこちら
《kuma》

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