『テトリス エフェクト』の感動的なサウンド演出はいかにして生み出されたか?共感覚体験の創出を目指すエンハンスを支えるWwiseの技術 | GameBusiness.jp

『テトリス エフェクト』の感動的なサウンド演出はいかにして生み出されたか?共感覚体験の創出を目指すエンハンスを支えるWwiseの技術

『テトリス エフェクト』のサウンド演出を題材としながら、制作コンセプトやWwiseによる実装手法について、CEDEC 2019基調講演も務める水口哲也氏とサウンドディレクター武藤昇氏にそのこだわりと制作の裏側をお聞きしました。

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「シナスタジア」ー共感覚的な体験を生み出し続けるエンハンス。2018年にはPS4/PS VR版『テトリス エフェクト』をリリースし、CEDEC Awards 2019のサウンド部門にノミネート、米国ワシントンポスト紙や欧州Eurogamer誌でも数々のゲームオブザイヤーを受賞するなど、非常に注目の高いクリエイティブ・カンパニーです。今回は『テトリス エフェクト』のサウンド演出を題材としながら、制作コンセプトやWwiseによる実装手法について、代表でありCEDEC 2019基調講演も務める水口哲也氏とサウンドディレクター武藤昇氏にお伺いしました。



――本日は宜しくお願いいたします。はじめに、自己紹介を頂けますでしょうか。

水口哲也氏(以下、敬称略)エンハンス代表の水口哲也です。これまでにない新しい体験-シナスタジア(共感覚)体験の創作を続けていて、2001年に映像と音を融合させたゲーム作品『Rez』を発表して以降、『ルミネス(2004)』や『Child of Eden(2010)』で音や光の共感覚体験を模索して来ました。近作では『Rez Infinite(2016)』や、ゲームプレイと触覚がシンクロする「シナスタジア・スーツ」の開発なども行っています。

武藤昇氏(以下、敬称略)サウンドディレクターの武藤と申します。『Rez Infinite(2016)』ではじめてゲーム開発に参加し、今作『テトリス エフェクト』ではサウンドディレクターとして楽曲制作のほか、実装まで含めたサウンド開発全体を担当しています。

――エンハンスという会社について教えて下さい。

水口エンハンスは、僕が2014年にアメリカで設立したクリエイティブ・カンパニーです。2014年は何があったかと言うと、ちょうどVR流行の兆候が見え始めた時期なんですね。その先にはARやMR、あらゆる要素を含めた拡張現実技術が到来するだろうという予測がありました。ジャンルにとらわれず、新しい共感覚的な体験をxR(Extended Reality)技術で拡張していくという目的で、このエンハンスを立ち上げました。

――なぜアメリカで法人化を行ったのでしょうか。

水口答えはシンプルで、アメリカはxR技術がいち早く動く場所だからです。情報のスピードや人脈、我々が行っているパブリッシング事業などを考える中心が日本ではなくアメリカでした。東京には研究開発の現場を置いているという形です。エンハンスで仕事をしているコアなスタッフは30名程度で、特にコンセプトデザイン、アート、サウンドに強いメンバーが揃っています。


――これまでお話いただいたxR技術や共感覚という話題の延長線上かと思いますが、全体に共通するプロダクトポリシーのようなものはあるのでしょうか。また、ゲーム以外のさまざまなコンテンツも手掛けるのは、どういった理由からでしょうか。

水口我々は共感覚的な体験をxR技術で拡張するという命題を持っています。いまは技術の進歩によって全体的な解像度が上がってきているので、これまで出来なかったもの、頭の中にイメージとしてしか存在しなかったものをプロダクトとして落とし込めるような状況になってきました。ここで言う「解像度」というのは、例えば映像にしても4K8K化の背景がありますし、VRやARで言えば視野角やピクセル数も日進月歩で向上していますし、音声も2ch Speakerからある程度まで空間を感じられるような音響設計も可能になっている、ということを指します。これらを複合した体験は、まだ一般的な日常には降りてきていませんが、もうすぐ日常生活レベルで体験する機会も生まれてくるはずです。ゲームだけでなく、アートや体験、今まで世の中に存在しなかったサービス、メディアや装置、施設なども、エンハンスが手掛けたい対象です。

――ゲームやアート、サービスなど多様なコンテンツが挙げられましたが、エンハンスとしてどれかに比重を置いているという考え方なのでしょうか。

水口いえ、なにが中心とか、なにが特別大事というのはまったくないです。基本的には内部で実験や検証を繰り返していて、それをいつ世の中に提案していくのか?という考え方ですね。

――武藤さんはもともと「metalmouse」など音楽活動をメインに行われていたかと思いますが、エンハンスのタイトルに開発として参加することとなった経緯を教えて頂けますか?

武藤2008年頃、元気ロケッツの「Heavenly Star」のRemixがきっかけで水口さんと知り合いました。その後はライブ音源を一緒に制作したり、Remixも何曲かやらせて頂いていたのですが、ちょうどRez Infiniteの開発をしている時に再会して、「今VRでRezを作っているんだけど、見に来ない?」とお誘い頂いて…それが本当に感動的だったので、そのままゲーム開発にも関わらせて頂くようになりました。インタラクティブに音を変えていく、そこに普通の音楽だけではない新しい楽しさ、可能性を見出しましたね。


◆『テトリス エフェクト』で目指したサウンド演出と、それを支えたWwise


――ここからは実際のタイトルに紐づけてお話をお伺いできればと思います。2018年に発売された『テトリス エフェクト』ですが、まずは簡単にタイトルのご説明をお願いします。

水口一言で言えば「共感覚的なテトリス」です。テトリスは非常に歴史が古く、世界中誰でもが知っている、一度は遊んだことがあるゲームだと思います。ゲーム的にも非常に良く出来ていて、「これ以上手を加える必要がない」と言われるゲームのひとつだとも思います。このように完成されたゲームのひとつであるテトリスを進化させるとすれば、我々はどういったことができるのか?テトリスで感動して泣けるのか?そういった証明というか、問いかけをするタイトルですね。

『TETRIS EFFECT』:https://www.tetriseffect.game/ja/

――そもそも、エンハンスとして「共感覚的なテトリス」を作ろうとした経緯を教えて下さい。

水口もともと2004年頃から「テトリスとRezの融合をやりたい」と考えていたんですよね。ただ、ライセンス的な部分で当時まだ難しい部分もあって、それで「ルミネス」という音と光のパズルゲームを自分で作ったりもして。そこから随分と期間が空いて、2015年頃にようやく現実的になってきて、我々が主体となって本作を開発することになりました。テトリスはしばらくプレイするとゾーンやフローと呼ばれる状態になり、極度に集中していると同時にリラックスもしている状態になります。そういう集中とリラックスが共存する状態を共感覚的な体験として創出するため、Audio、Visual、Hapticsも含めた融合の実験を始めました。

――ということは、構想期間はものすごく長いという…。

水口そうなんです、というか何事も構想はすごく長いんですよ!2年や3年はザラで、それを1つ2つではなく、複数やり続けるんです。頭の中にあるものの中から、タイミング的に「今の時期なら良いかな」とか、あとは新しい技術やハードがリリースされたタイミングで「今かな」というチョイスをして、プロダクトアウトしています。社内にも新しい技術には真っ先に飛び込んでいくような人も多くて…新しい技術から新しい体験が生まれるので、技術的に可能になったものから取り組んでいるような感覚です。


――テトリス エフェクトのサウンドについては、どういったコンセプトで開発されたのでしょうか。

水口今回のディレクターの石原、サウンドディレクターの武藤と、石田貴子の3名が開発を担当しています。実は、僕からは細かいオーダーは出していないんですよ。最初に大きなコンセプトとして「世界中、地球上を旅するようなジャーニーである」ということ、「人間の意識そのものもジャーニーである」ということを提示して、あとは彼ら自身で細かく議論を続けていって出来上がったものです。

武藤加えて、“禅”というイメージももらっていたので、サウンドのテーマは「テトリスの持つ独自の没入感をより高める、あるいは落ち着かせるもの」と設定しました。ゲームによる集中力とサウンドを結びつけて、人の意識になにかしらの効果を与えようと考えたんです。また、「音楽だけでなく、全体のゲームプレイを通しての設計」を心がけていました。

――より具体的には、どういったサウンドを制作・実装したのでしょうか。

武藤音ひとつで心に突き刺さるようなサウンド、例えば人の声であるとか、そういった特徴的なものを楽曲の中にちりばめています。ゲームに集中していると、そういった音が入ってきても「うるさい」とは感じず、むしろ心を揺さぶられる、精神を高める感覚が得られる。制作段階では何度も試行錯誤をして、当初はアンビエント系でやっていたり、「テトリスに集中できるように」と緩やかな展開の少ない楽曲なども試してみたのですが、抑揚がないとプレイ中に眠くなってしまって。それは目指すべき方向ではなかったので、アンビエントに寄らないように曲の調整を行いました。

水口ひとつ強く言っていたのは「タイムレス」というキーワードです。今風の流行りとか、俗っぽい感じを出した瞬間にタイムレスでなくなるんです。3年後、5年後に飽きてしまうようなものを作るのではなく、何十年も残り続けるもの、長く人の心に残り続ける本質的なものを作ろうというのは、全員で心がけていました。

武藤僕自身も同じ感覚でいたので、今のコンセプトで作りたいものを、今感じたとおりに作るという方が人の心に響くのではないかな、と思っています。流行り物を追うのはあまり好きではないので、その辺りはフラットに見ていますね。


――サウンドの実装面についてお伺いします。今回はWwiseをお使いになられていますが、そもそもWwiseを導入しようとした理由をお話頂けますでしょうか。

武藤サウンド側で音の調整や実験、試行錯誤をすべき状況になったことと、Wwiseは他のツールと比較しても「調整の自由度がものすごく高い」ことが理由として挙げられます。『テトリス エフェクト』では開発初期から活用していますね。ゲームエンジン側だけではやり辛かったリアルタイムミックス(Real-Time Mixing)も非常に重宝していますし、本作ではSEもクオンタイズのために全てミュージックとして扱っていて、SEを含めた音楽設計もすごくやり易いです。

――サウンド側で調整を全てやるべき、というのはプログラマーの負担も含めたお話でしょうか?

武藤そうです。良くある話だとは思いますが、前作Rez InfiniteはUE4でのみサウンドを調整していたため、プログラマーの負荷が非常に高いという問題がありました。「フェードアウトを3秒にして下さい」「やっぱり2秒に」「ごめんなさい、2.5秒にできますか?」といった細かい調整のときに、デザイナーさんも横に並んでいたりして、そうすると本当に頼みづらくて…。Wwise導入以降は、すべての調整をこちらで行えるようになったので、すごくスムーズになりましたね。プログラマーの負荷は7、8割減っているかと思いますし、功績はかなり大きいと感じています。

――なるほど。特に本作は効果音を含めた音楽づくりという意味合いでは、自分たちで実験が出来る状況が必要だったということですね。

武藤そうですね。あとは大量のオブジェクトに対してSEを付けるといった場合にはMIDIベースの制御も行っていますし、状況に応じてRTPC(Real-Time Parameter Control)によるBGM制御もしています。詳しい実装はCEDEC 2019でお話をする予定ですが、Wwiseがなければ実装出来なかった要素も多いですね。

水口僕は結構無理難題を言う方だと思うんですけど、武藤は何にも言わずに聞いて、しばらくしたら出来てるんですよね。イメージも大体合ってましたね。

Real-Time Mixing
リアルタイムでWwiseをゲームに接続し、ミキシングや様々なパラメーターをリアルタイムに調整することができる。この場合、WwiseとUE4を接続し、UE4でプレイ中にWwiseの方でlogの確認、またリアルタイムでボリューム等パラメーターの調整をしている。

RTPC(Real-Time Parameter Control)
ゲームからパラメーターを受けとり、サウンドの様々な演出に生かす。この場合、0~1のbgmchangeの値をUE4から受け取り、BGMのボリューム変化に紐ずけている。

――お二人の今後の展望について教えて下さい。

水口これからは様々な要素が統合していって、総合的な体験になっていきます。2Dから開放されて、四角い画面からも開放されて、どんどん共感覚的な体験の解像度が上がることですべての表現が空間的で3次元のものになると思います。だから、我々がいま体験しているゲームを始めとするコンテンツは、これからどんどん様変わりするようになる。作り手としては、3年後5年後の未来を作っているわけですから、マインドも未来志向であるべきです。そのためには、音をつくる人は音だけではだめで、アートや映像も、それ単体ではなく複合的な分野を理解しているべきです。多くの分野に精通しているクリエイターでないと「新たな体験」を作り出すのは難しい。エンハンスの展望、目標としては、こうしたシナスタジアな感覚を持つスタッフを集めて、自然と高いレベルの体験を生み出せるような集団であり続けるということです。

武藤音ひとつ取って意味のあるもの、それが感情に結びつく演出になっているもの、そういった空間を作っていきたいと思っています。例えば手をパン!と叩いた音も、広い空間か狭い空間かで響き方が異なりますし、そこに更に情景的に、例えば雨や霧が掛かってきて、響き方も湿度の高い響きになっていくと、単なる拍手もなにか神聖なものに感じられるんです。聴覚以外の要素との組み合わせをインタラクティブに制御・調整しながら、空間としてのサウンド表現を広げて行きたいと考えています。

――ありがとうございました。最後に、Wwise導入を検討している方々にメッセージをお願いします。

武藤僕自身はこれまでDAWでの楽曲制作がメインでしたが、Wwiseは非常に扱いが容易く、ゲーム開発歴が短い状態でもすぐに慣れることができました。インタラクティブな制作、マスターの調整、あとは音の管理面も優れていますので、はじめてのゲームサウンド開発には最適ではないかと感じています。

水口かつては、音や映像、触覚までを含めた様々な要素を統合するツールがなかった。でも今は、それこそWwiseのように、複数の要素を結ぶようなミドルウェアが存在するようになってきました。こういったミドルウェアの存在は非常に重要だと感じています。そういう意味では、音だけではなく、複合的な要素を統合できるようなツールに進化することを個人的には期待していますね。

――ありがとうございました

●Audiokineticについて

Audiokineticは最先端の総合インタラクティブオーディオソリューションや革新的なワークフローを提供し、インタラクティブオーディオ制作の統合されたアプローチを提案します。「Wwise」は、革新的なインタラクティブ体験の制作を実現する、コスト効率の高い包括的なオーサリングツールおよびオーディオエンジンをサウンドクリエイターやオーディオプログラマーに提供します。

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https://www.audiokinetic.com/ja/about/careers/A1AEDAA346/

●エンハンス社について

エンハンス(エンハンス/本社:米カリフォルニア州/代表:水口哲也)は、2014年に設立された、独立系スタジオ兼パブリッシャーです。これまで『Rez Infinite(2016)』、『ルミネス リマスター(2018)』、『テトリス エフェクト(2018)』などを世に送り出し、米国The Game Award最優秀VR賞(2016)、SXSW 2019 Gaming Awards Excellence in Musical Score(2018)をはじめとするアワードを受賞しています。エンハンスのチームメンバーは、XR分野のテクノロジーの進化とともに、今までにない共感覚的な体験や新しいエンターテイメントを創造することに情熱を注ぎ続けています。

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《神山大輝》

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