『エースコンバット7』本編/VRのサウンド開発を語るCEDECセッションレポート【CEDEC 2019】 | GameBusiness.jp

『エースコンバット7』本編/VRのサウンド開発を語るCEDECセッションレポート【CEDEC 2019】

「CEDEC 2019」にて開催された「「空」と「物語」を演出するためのインタラクティブサウンドデザイン ~エースコンバット7における楽曲と効果音実装/VRについて~」をレポート。「音が籠もるシステム」やBGM、サウンド開発の内部が語られた。

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中西哲一氏

バンダイナムコエンターテインメントは、9月4日から9月6日まで開催された「CEDEC 2019」にてフライトシューティングゲーム『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』のサウンド分野に関するセッション「「空」と「物語」を演出するためのインタラクティブサウンドデザイン ~エースコンバット7における楽曲と効果音実装/VRについて~」を開催しました。

渡辺量氏


今回のセッションでは、バンダイナムコスタジオのサウンド&モーション部サウンド3課 課長 渡辺量氏とサウンド&モーション部部長中西哲一氏の両名が登壇。『エースコンバット7』におけるBGMやサウンドエフェクトなど音に関する全般が語られたセッションの模様をお届けします。



■『エースコンバット7』のVRと通常のゲームプレイが存在するサウンドの考え方


『エースコンバット7』は、ゲームエンジンにUnreal Enginge 4.18とミドルウェアにWwise2017.1.4を採用しています。常駐サウンドメモリは155MB、音声数は20,000(日英)、BGMは全体で5時間超あります。BGMは長時間あるためにサウンドトラックに収録されるCDが6枚組になってしまったようです(サウンドトラックは12月1日に一般発売が予定されていたが、収録曲追加のため12月30日に延期された)。


渡辺量氏が語る初めのトピックはVRモードのサウンドです。VRモードでは「音楽は必須ではない」ことから、開発初期においてリアルな没入感を得るためにサウンドをシミュレーター寄りにしていたため楽曲を入れていなかったと述べます。これは、音楽が時に没入感を阻害することもあるからのようです。


VRモードの各ミッション冒頭では、あえて音楽を使わないことでその場にいる体験や迫り来る危機感を演出しています。そのため、緊迫感のある状況のなか音楽を入れてしまうと予定調和なニュアンスになってしまうため、音楽無しに効果で演出していくことになりました。


VRの仮想世界の中で登場人物が聴きうる音をDiegeticサウンドと呼んでおり、ゲーム世界に存在するラジオやスピーカーから鳴る音を指しています。それ以外の現実のスピーカーから鳴るサウンドはnon-diegeticと呼ぶそうです。VRのエアショーモードの周囲に設置されたスピーカーから鳴っている音がDiegetic musicに該当します。この甲板に響く音楽はWwiseのエフェクトをチェインして使用しているようです。



Non-diegetic musicは没入が目的でない時のメニューやシステム画面を表示した時に、スピーカーから直接出力されるサウンドです。ゲーム中の演出としても該当しており、VRモードではdiegeticを貫く為にコックピットのスピーカーからBGMが流れるという案もあり本当に検討されていました。しかしながら、BGMを抜くとシナリオの演出が弱くなるので最終的には楽曲の力を借りることになったと語ります。


本編のNon-diegetic musicではインタラクティブ音楽として、メニュー画面の階層で音楽がじわじわと縦方向で変化させています。本編ではプレイヤーのゲームプレイ時間に影響されずに重要な演出シーンで最高のテーマフレーズ流れるようにHorizontal Resequencingを用いたインタラクティブ音楽が使われています(ミッション19「灯台」のDaredevilが筆頭)。またメニューシーンは奥行きがあるため、プレイヤーが今現在いる階層を知らせるためにシンプルなステート変化をさせています。


Horizontal Resequencingでは、振れ幅の大きいプレイ時間に対して盛り上げのタイミングただ1つ絞っています。盛り上がる場面で、タイミングが大きくずれないように多くの移行出来る場所を設定すると共に、ループを駆使して曲の1シーンを繰り返せる踊り場を楽曲に仕込んでいます。


演出家の判断する「ここぞのタイミングでサビにジャンプする」機能を仕込んだことで、演出の幅が広がりましたが手間がとてもかかるようです。そのためこの方法を知った企画/演出セクションからのリクエストが大変だったとも振り返ります。また、音楽には生オケで収録したものもあることからループを多く収録したとも語ります。


『エースコンバット7』はサウンド関連の新機能として、自機が雲の中に入ると閉塞感を表現するためBGMを籠もらせる表現を組みこんでいます。アイデアとしては当初否定されていましたが、コンポーザーから応援賛成があったことが嬉しかったと振り返ります。さらに実際に試してみると孤独感の強調や開放感が大きく貢献できるということで採用しました。


効果音実装について「すれ違い音」がどんなものかを、中西氏が実演し会場を沸かせました。すれ違いは、音のピークが遅れてやってくるため予測して鳴らし始めています。細かく鳴らし別けしているため多くのアセットが存在し、距離や相対速度、交差状態、オブジェクトのタイプを見て選ばれた波形が再生されています。


これは中西氏が『エースコンバット3』でやっていた仕組みをアップデートして使っていますが、最近では特許が切れたそうで多く扱って欲しいとも加えました。図は前後左右の4方向の入射エリアと距離判定を持っている状態を指しています。


『エースコンバット』のベースノイズに関してはBGMやエンジン音など毎回意見がぶつかり合う事があるという。本作のリアルなグラフィックに感動し環境音にこだわったようですが、中西氏のエンジン音でなかなか聞こえないようです。また、サウンド全般は戦闘機の挙動や機動で変化するように作っているとのこと。


あらゆるインタラクションや状況などに対してサウンドで補強することで操作感が増すと信じており、地表が近いと反響音を響かせて墜落防止音にもなっています。こういった音声のレイヤーを9種類以上重ね合わせているもののエンジン音で聞こえないとのこと。

爆発音の距離による遅延は、現実的に音の伝播が遅く爆発音を現実に即して表現してみると混戦のなか「自分が撃墜したものかわからない」や「爽快感がない」などという結果になったようです。さらに本作は、フライトシムでなくフライトシューティングであるため、爽快感を得られるようにしつつ空間の広さを感じられるような遅延調整に落ち着いたと語ります。


ドップラーサウンドは、使用していたWwiseのバージョンだとドップラー機能が無かったため社内で実装しています。『エースコンバット』は通常のゲームプレイでも頻繁に音速を超えてしまう世界のため(相対速度最大マッハ6.4)、マッハを超えるとドップラーも何もかもなくなってしまいますが期待する音としてリミッターを噛ませてあります。


Mixingの工夫について、無線音声は重要ですが爆発音など迫力ある大きな音に埋もれがちです。しかしながら近年ではラウドネス導入によるダイナミクスレンジが広くなっているため、ヘッドルームに余裕がないとき主役以外をコンプレッションするアプローチを今まで取っていましたが、埋もれそうになったら音量を持ち上げています。


また戦闘機の燃焼音は指向性が設定されており、一定のコーン内は燃焼音が目立つようになっています。ゲームプレイに関してもいい位置を知らせるサウンド演出になったと考えているようです。Wwiseのビルトインパラメータのエミッター角度を拾うことで簡単に設定できることが特徴でもあります。


最後に渡辺量氏は、バージョン管理ソフトとWwiseを使って実装をワークシェアし、これまで紹介したサウンド仕様はバーティカルスライスで検証・テストすることでスムーズに量産を進める事が出来たとまとめました。


■中西氏が語るエンジン音とプラグイン開発


続いて中西氏による解説が始まりました。主にプラグイン開発などの解説です。『エースコンバット7』の特に、エンジン音についてはBOOM LibraryのTurbineプラグインを活用しており、発売前からコンタクトしていてプリセット制作に集中しています。


効果音の録音については何度も行っていますが、特にエンジンの出力調整は何度も簡単にリクエストできないため、実際に録音できたものとシンセサイズしたものをミックスして使用しています。この縁があったことからBOOM LibraryのTurbineだけでなくゲーム内のカットシーンのMAやゲーム中の効果音の一部をお願いしたそうです。


プラグインであるためゲーム内にそのまま搭載されているわけでなく、Wwiseの内で8枚ほどの音のレイヤーを組み合わせています。1機体は、8レイヤーでエンジン出力と連動する構成であるとのこと。ここでユーロファイタータイフーンのエンジン音を紹介し、迫力ある音を実装したことを披露しました。



無線エフェクトは、in-houseのRadio FX VST plug-inで実装。リアルタイムに実装されているので、ジャミングによる音声表現にも対応出来ます。最初にVSTのプラグインを作成し次にWwise版を作成。Wwiseでは沢山のパラメーターを弄っているわけでなく、プリセットのパラメーターを切り替えるだけで済むようにしたとのこと。



ミュージックプレイヤーは『エースコンバット7』のシーズンパス特典として付属しています。背景の映像は、BGMから取得したスペクトラムの情報を背景に映像と連動して描画。サウンドチームからの提案でプログラマーを巻き込み実現した描写です。他にもダイナミクスレンジを圧縮するためにDynamics Range Control Pluginを開発し、音レベルの小さいところを上げています。



VRモードにおけるサウンドでは、コンセプトとして常にコックピットのみとなるキャンペーンとの対比がありました。コックピットに座るパイロットの孤独・恐怖を強調しています。

ここでBGMを抜いたのトレイラーを紹介。開発途中に制作されたトレイラーですがVRモードのプロデューサーから「ありのままを伝えるためにMAしない」と言われ、ゲームプレイ時に切り取った映像だけを使う縛りで構成されたそうです。そのため開発が進んでいない部分もあったため、慌てて制作を進めた部分もあったと振り返ります。



VRモードはヘッドフォンに特化したサウンドデザインとなっており、チャンネルベース、オブジェクトベース、シーンベースで構成されています。基本的にはオブジェクトベースで成り立っており、Auro 3D Headphone Plug-insを使用。7.1ch + 6chの13.1chのスピーカーシミュレーションを搭載し、VRモードの時だけ有効になります。



VRは視界の外をごまかせないため、音が鳴ると思ったのに鳴らなかった時の絶望感が大きいと振り返ります。さらに、狙ってイベントを起こしているところに必ず視線を合わせているわけで無いのがVRの特徴とも加えます。上下左右に視線を向けられるため、「ああこの音が鳴るな」と思う部分を全周囲で仕込むのが大変だったと振り返りました。


コックピットでの音響では、密閉感を強調するため外部の音を強く遮断していますが、削ったら削ったで地味になってしまいます。そのため、ただ音を籠もらせるだけでなくゲームの体験として、迫力があるものはスポイルせずにブーストさせてあげるなど様々な施策を行っているようです。また近距離のイベントはちゃんとフォーカスを上げているとのこと。



コックピット内部から鳴る音。生々しい音。外側の対比として、生々しいアラート音やスイッチ音、すれ違い時の機体の軋み音など鳴らすと効果的でした。キャンペーンと異なるミックスバランスをとっており、コックピットに座るパイロットの孤独・恐怖の強調ということで、キャンペーンよりアラート無線音量と無線の低域を大幅に増しています。またAmbisonicsはハンガー外の環境音で使用。方向が曖昧になる感じが良いとのこと。



VR (Air Show) Sound Designでは、本物の「航空ショー」を見学していると錯覚させるため遠距離から近距離までのダイナミックな変化を実現しています。自由な視線移動や場所移動にも対応できる仕様にしており、遠くは2Dサウンドだけど近づいた時は3Dサウンドとして表現しています。


「Air Show JET SOUND」の構造としては、「 遠方用の空気のうなり」と「 JET SOUND (パワー変化にも対応)」、そして「接近時のパス音」の3つです。またダイナミックな距離変化を工夫するため近づけば近づくほど音源の位置が明瞭となるように調整されています。



最後にセッションのまとめとして「どこにこだわるべきかをよく考えて設計しよう!」と「失敗を恐れず、いろいろアイデアを試そう!」とまとめます。また、現時点でプロジェクトに取り組んでいる受講者に向けて様々なアイデアを試してみてはと提案し、セッションを終了しました。


《G.Suzuki》

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