ポーランドの3本柱といえば、作曲家ショパン、科学者マリー・キュリー、そして『サイバーパンク2077』『ウィッチャー3 ワイルドハント』のCD PROJEKT RED。
そう語るのは、ポーランド・インディーゲーム財団(PIGF)で東アジアプロジェクトを担当するダミアン氏です。『This War of Mine』の11 bit studiosでも東アジア向けPRを務める同氏は、ポーランド外務省が招待した今回の取材プログラムの冒頭で「ゲームはポーランドのソフトパワーだ」と断言しました。

日本にアニメとマンガが、韓国にK-POPとKドラマがあるように、ポーランドにはゲームがある。『This War of Mine』は高校の副読本に採用され、美術館にも展示される。100万本を超えたヒット作は『ハウスフリッパー』『Layers of Fear』『Frostpunk』から、最新作『The Blood of Dawnwalker』まで続々と増えている。
ゲーム産業の収益の大部分を海外市場から得るポーランドが、官民一体でどのようにゲームを世界へ売り出しているのか。本稿では、そのプレゼンテーションの内容をお届けします。
ポーランドの国家事業としてのゲーム
今回筆者がポーランドで参加した取材プログラムは、ポズナンで開催されるGame Industry Conference(GIC)の主催者だけでなく、ポーランド外務省も招待元となっています。ダミアン氏は冒頭、「韓国や日本からのゲストの皆さんが今ここにいること自体が、ソフトパワーとしてのゲーム活用の一環。つまりある種の国家事業です」と説明しました。
ダミアン氏が会場に「ポーランドで最も世界的に認知されている企業ブランドは?」と問いかけると、即座に「CD PROJEKT RED!」という声が上がりました。実際に「ポーランド」と言って世界の人が思い浮かべるのは、マリー・キュリー、ショパン、そしてCD PROJEKT REDの3つだといいます。

ゲームがどれほど国に収益をもたらすのか、それを意外な比較で示しました。かつて北京のポーランド大使館文化部門で、ポーランド産リンゴの宣伝を担当していたという同氏。ポーランドはEU最大のリンゴ生産国(生産量は世界第4位)であり、プレゼンによればリンゴ産業全体で約15万人が従事し、そのうち直接輸出に関わるのは3~4割、約5万人。2023年の輸出額は18億ズウォティ超(当時は1ズウォティ30~40円を推移)だったそうです。
一方、『サイバーパンク2077』の収益は30億ズウォティ。当時のCD PROJEKT REDの従業員数はおよそ1,000人で、5万人が支える産業全体の約2倍の収益をたった1社が生み出したことになります。
ワルシャワがポーランドのゲーム産業の中心地であることについて詳しく数字が挙げられました。ワルシャワのゲーム産業従事者数は6,343人でロンドンよりも多い数値。ルーマニアと比較しても、ワルシャワ1都市のゲーム業界の労働力は同国全体を上回り、スタジオ数もルーマニアの200社に対しワルシャワだけで300社、収益もほぼ2倍とのこと。「ヨーロッパでゲームの話をするなら、来るべき場所はここです」と胸を張りました。

国別のゲーム産業の規模ランキングでは、1位がイギリス、2位がフランス、3位がポーランドでポーランドのゲーム関連の従事者は約14,000人。このデータはゲーム専業・ゲーム志向の企業の従業員を対象としており、ゲーム以外の事業も手がけるローカライズ会社などは含まれていないといいます。
さらに、2025年7月時点の「国別の期待されているゲーム」ランキングでは、1位アメリカ、カナダ、日本、スウェーデン、ドイツ、イギリスに続き、7位にポーランドが入ったと紹介されました。
重要なのがポーランドのビデオゲームスタジオの収益の97%が国外から得られているという点です。人口規模から見てポーランド国内市場は中国や日本ほど大きくないため、「ポーランド国内だけで売ろうとしても成り立たない」と話します。
主な市場はアメリカと中国。続いて日本、ドイツ、イギリス、フランス、韓国、さらにカナダ、ロシア、ブラジル、イタリアなどが挙がりました。ローカライズの有無や現地パートナーの有無によって左右されますが、同氏の担当するタイトルでは、ローカライズさえ整っていれば日本と韓国の収益はほぼ同水準になるといいます。
一方で、ヨーロッパ圏外の市場に関するノウハウはポーランド企業にとってまだ乏しく、「良いパートナーがいなければ機能しない」とも率直に語られました。
「1 million copies sold club(100万本売上クラブ)」には、『サイバーパンク2077』『ウィッチャー』シリーズに加え、『ハウスフリッパー』『ハウスフリッパー2』『Layers of Fear』『911 Operator』『Ancestors Legacy』『Frostpunk』などが名を連ねます。最新メンバーがRebel Wolvesの『The Blood of Dawnwalker』です。

1930年代のカートゥーン風の独特なビジュアルが特徴の『MOUSE: P.I. For Hire』も100万本を突破しました。インディー寄りの作品でも世界で結果を出せることを示す好例といえるでしょう。

公的機関も企業も、目指すのは“同じゴール”
ポーランドのゲームのプロモーションは、PIGFが調整役となり、資金面は文化・国家遺産省、クリエイティブ産業研究所、外務省、世界各地のポーランド広報文化センターや大使館といった政府機関が支える仕組みです。PIGF自体は資金を持たず組織面の調整を担います。
ポーランドのゲーム開発者はアメリカならPAX West/East、GDC、TwitchCon、Comic-Con、IGN Expo、中国ならWePlay、ChinaJoy、G-Fusion、Bilibili World、ヨーロッパならGamescom、Paris Games Week、日本なら東京ゲームショウに参加。直前にはポーランド企業開発庁とともに東京ゲームショウにも出展したばかりで、来年は韓国のG-Starへの出展も目指しているといいます。
展示は単独ではなく「ポーランドブース」として複数タイトルをまとめ、ジャーナリストやパートナーを招待。さらに各国で「ポーランドパーティー」を開き、ポーランドのビールとソーセージを手にゲーム開発者と語り合える場を設けているそうです。
ダミアン氏が強調したのは、官民の目標が実は同じだという点。企業が求めるのは売上、ブランド認知、持続的な成長。公的機関が求めるのは国のイメージ向上、国家ブランドの認知拡大、経済発展の支援。どちらも「ポーランドは良いゲームを作る」と世界に知ってもらうことに行き着きます。そのためには「まず良いゲームがなければ、どれだけプロモーションにお金をかけても機能しない」と話しました。
また、ポーランドのゲーム産業は人材不足であり、アメリカやイギリスからも人材を集めています。国家ブランドの向上は国外からの人材確保にもつながるそうです。

ゲームは文化——教育・社会・美術館へ
ポーランドでは、ゲームは本や映画と同じ「文化」として扱われています。海外展開と教育の面では、2025年にセルビア・ベオグラードで開催された「Play for the Win」に現地のポーランド広報文化センターと参加し、ゲームデザインを学べる大学同士の協力を後押し。
企業にとって短期的な利益に直結する取り組みではありませんが、現地の学生が「良いゲームを作りたければポーランドへ」と知るきっかけになり、学んだ知識を持ち帰り、自国でスタジオを立ち上げることにもつながり得る、双方にメリットのある取り組みだといいます。
ルーマニア・ブカレストのゲーム展では、11 bit studiosの作品を展示。企業単独では実現しなかったかもしれない試みが、公的機関と組むことで可能になった例として挙げられました。
学生向けでは、2026年10月8~9日にワルシャワの文化科学宮殿で決勝が行われた「Student Games Festival」があります。192作品の応募から22作品が決勝へ進出したこの大会は、11 bit studiosを含む企業に加え、政府や市からの助成金で運営されており、教育の側面が企業にとっても重要であることを示しています。
ゲームの社会的な役割を象徴するのが『This War of Mine』です。戦争を民間人の視点から描いた本作は、2020年に当時のモラヴィエツキ首相が学校の副読本リストへの採用を提案したことで話題となりました。教師が映画や本などから教材を選べるリストにゲームが加えられたもので、現在は複数のゲームが掲載されており、本作がその第1号だそう。ダミアン氏は11 bit studiosの一員として、「単なるゲーム以上の存在であることを誇りに思う」と語った。

ポーランドのゲーム産業は、多額の収益と税金を生み出す一方で、チャリティにも積極的。『This War of Mine』を通じてアムネスティ・インターナショナル、War Child、ウクライナ赤十字などを支援してきたほか、他のタイトルも反戦をテーマにした資金調達イベントなどに参加しているといいます。
さらに、ゲームを芸術として位置づける動きは、美術館での展示にも表れています。チューリッヒ・デザイン美術館の「Game Design Today」(2024年)、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ロンドンの帝国戦争博物館やデザイン・ミュージアム、クラクフ国立美術館のポーランド・デザイン・ギャラリー、ヴィリニュスのMO美術館(2025年)など、ポーランド発のゲームを展示する美術館は世界各地に広がっており、「エンターテインメント以上の存在であることの証明」だと語りました。
中国・韓国との取り組み、そして歴史展へ
最後にダミアン氏は、北京のポーランド広報文化センターに勤務していた頃を中心に、外務省と各国で展開してきた具体的な事例を紹介しました。
まず取り組んだのがSNSキャンペーン。中国語で「ポーランドのゲーム、クリエイティブなポーランド」を意味する共通ハッシュタグを掲げ、この数年間でおよそ2,000万回の閲覧を獲得したといいます。ゲームイベントへの参加や、現地のゲーム業界関係者を招いた「ポーランドパーティー」の開催、今回のようなカンファレンスでの講演にも力を入れています。
各国の関係者をポーランドへ招き、ゲーム産業を直接体験してもらうスタディツアーも今回の取材プログラムに通じる取り組みです。逆方向の取り組みもあり、11月に中国で開かれる「WePlay Expo」には、ポーランド企業が出展するだけでなく、現地の中国企業を訪問して提携の可能性を探るツアーも組み込まれています。
文化面の取り組みとしては、2019年に上海で開催した、ポーランドのゲーム音楽コンサートがあります。『ウィッチャー』だけでなく『Frostpunk』『My Brother Rabbit』『Ancestors Legacy』などの楽曲をコンサート会場で演奏。ゲーム会社単独では実現しにくい企画を、公的機関とビジネスが手を取り合って形にした好例だといいます。
そして現在力を入れているのが、ポーランドのビデオゲーム史を紹介する「Digital Dreamers」。1980年代(それ以前の萌芽も含む)から現在に至るまでの歩みをたどる巨大な展示で、会場に合わせて規模を調整できるそうです。
パネル展示に加え、「Digital Dreamers」というウェブサイトでも歴史を読むことができ、初期のクリエイターたちへのインタビュー映像も収録。現地では実際にゲームを遊ぶこともできます。

ポーランドのゲーム産業の強さは、ヒット作を生み出す開発力だけでなく、それを世界へ届ける仕組みにあるのだと今回のプレゼンから実感しました。97%が海外売上という構造を前提に、PIGFが調整役となり、政府機関が資金を出し、各国のイベントや美術館、教育の場へ「ポーランドのゲーム」を届けていく。『This War of Mine』の副読本採用や美術館展示のように、ゲームを文化として位置づける姿勢も印象的でした。
※UPDATE(2026/11/02 22:19):本文に重複した箇所があったため、修正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございます。







