
電気通信大学は2026年9月29日、「エンタテインメント創造研究教育センター(CEREC)」のオープニングセレモニーを開催しました。本セレモニーには同大学の卒業生で特別客員教授を務め、プレイステーションの生みの親として知られる久夛良木健氏も登壇。ゲーム産業の歩みと、AI時代に求められる人材について語りました。
GameBusiness.jpでは、講演後の久夛良木氏に個別インタビューを実施。かつて先見の明をもってゲーム業界を牽引した同氏に、大規模化するゲーム制作の課題、日本のゲーム産業が持つ強み、そしてプラットフォームやキャラクターの未来について聞きました。
ゲームは次の転換期へ。講演で語られた技術と人材
CERECのオープニングセレモニーでは、久夛良木氏がプレイステーションの開発を振り返りながらゲーム業界が新たな技術や体験を生み出してきた過程を語りました。

初代プレイステーションで挑んだのは、当時、高価なワークステーションなどで扱われていた3DCGを家庭用ゲーム機で動かすことでした。そこで重視したのは、映像の表現力に加え、プレイヤーの操作に即座に応答することです。
ゲームで実現したい体験があり、そのために必要な技術を自ら作る。久夛良木氏は、ゲーム業界が最先端技術を追いかけるだけでなく、その進化を牽引してきたと語りました。そして現在のゲームについても「これからがティッピングポイント」と述べ、さらなるブレイクスルーが起こるとの見方を示しています。
その先を担う作り手について語るなかで、話題となったのがAIとの関係です。久夛良木氏が重視するのは、AIの出力をそのまま受け取るのではなく、人間が教え、鍛えながら、ともに成長していくこと。そうした人材を「スーパーヒューマン」と表現し、初代プレイステーションを生んだ小さなチームの試行錯誤にも触れながら、失敗を通じて進化することの重要性を語りました。
では、今のゲーム業界で、久夛良木氏自身なら何に取り組むのか。実際にお会いした久夛良木氏は、御年76歳にして非常に若々しく、その佇まいと言葉には力強さがありました。本インタビューでは、そんな同氏が見据えるゲームのこれからを伺いました。
妄想が実現できる時代へ。久夛良木氏が見据えるゲーム業界のこれから

AIで変わるゲーム制作の体制
――昨今のゲーム業界を見ていて、久夛良木さんなら「自分だったらこれをやるのに」と思うことはありますか。
久夛良木氏: ありますね。徹底的にAIを使いたいです。AIというのは、一緒に進化する相棒なんです。
僕は、自分の仕事は自分で作りたい人間です。しかしその一方で、チームで仕事をしていると、共通のアジェンダがあって、そこにものすごい人数と予算、時間をかけるという形になる。
人が増えると管理職も増えるでしょう。そうなるとアジャイルで開発するのが難しくなる。過去に決めた筋書きで動くしかなくなってしまうんです。
昔のように10人で作っていれば、「ここはこうしよう」「ああしよう」と柔軟に変えられる。でも、今は100人どころか、何百人、何千人という規模になっている。それでは柔軟な対応はできません。
そこから抜け出すには、リアルタイムで一緒に仕事をしてくれて、十人前どころか百人前ぐらいの仕事をしてくれる相棒が必要になる。その相棒が、AIなんです。そういう制作の仕方をしている人が、海外ではすでに増えています。
――AIを使えば、少人数でも柔軟に制作を進められるということですね。

久夛良木氏: ゲームとしてのテーマからは逸れるけど、たとえば映画館で観るボックスオフィス映画のあとに、ハリウッドはシリーズ物のドラマをシーズン制で作り始めたじゃないですか。そして、その後にはNetflixなどが出てきてドラマの一挙配信でブームとなった。
そして今、何が最新であるかというと、中国・浙江省でAIを用いて制作されているショートドラマ(AIマイクロドラマ)。これはキャラクターや背景など、すべてAIで作られているんですよ。
見る側にとってはゲームのインタラクティブなレスポンスほどではないけど、制作の過程はAIとやり取りしながら行うのでインタラクティブ。さまざまなものを生成できる。
そしていろいろなシナリオを作って流してみると、見ている人が「次を見たい」と思うかどうかがわかるでしょう。それを見て、もう一度イテレーションを回す。AIを使って、その繰り返しを進めているんです。
今の世の中はとても速く進んでる。今はまだリアルタイムに生成されているわけではありません。でもあと2年で変わると見ています。
そうなったら、今のような大規模なゲームの作り方も変わるでしょう。AAAタイトルの続編を長年かけて作る必要はなく、いずれ10人や20人で作れるようになる。
――大いにあり得ますね。
久夛良木氏: 僕は“あり得る”というだけではなく、そういう形になっていくだろうと考えています。
日本のIPの強みと、「ネットに溶けていく」プラットフォーム
――日本のゲーム業界は、これから何を強みにしていくべきだと思いますか。
久夛良木氏: 得意なことで考えれば、IPを作る力があります。ゲームだけに限りませんが、国全体で見ていったとき、一見してIPを作れそうでなかなか作れていない国もあります。そういう意味で日本には強みがありますよね。モチーフやテーマも多い。
ただ、今世間はPCゲームに流れている。PCゲームは、必ずしも日本のゲームが中心ではありません。この流れは日本の強みが弱くなっているという点でもあると思います。
プラットフォームの変化で言えば、例えば『Roblox』では、表現の面ではまだいろいろありますが、自由にさまざまなことができますよね。これからのプラットフォームは、次のプレイステーションや、Steamの次という形だけではなく、完全にネットに溶けていくと思うんです。
そのうえでクライアント側にもAIがある。さまざまなインターフェースがある。今はAIとプロンプトで話していますが、リアルタイム、自然言語でいろいろなAIが反応するようになったら、それはもうSFの世界でしょう。
ですがそうなっている。妄想できるものが実現できる世界になっていくんです。
――AIが進化した先に、どのような体験を想像されていますか。
久夛良木氏: 妄想できるものはいろいろありますよね。ドラえもんの道具のようなものもそうですし、タイムマシンだって実現可能です。昔の写真を渡したら全部動画になるでしょう。そして、ARもあるしVRもある。
NPCという概念がなくなりますよね。みんな知能を持つようになるので。知能と、個性と、嫌味を持つんです。
AIを鍛え、ともに進化する人間へ

――講演でお話しされていた「スーパーヒューマン」についても伺います。AIと人間は、どのような関係になっていくのでしょうか。
久夛良木氏: 僕が鍛えているようなAIは、すでにスーパーヒューマンです。
何かを頼んで返ってきたものに対して、「ここはこうだよね」と指示を返す。すると、10秒や20秒、場合によっては1時間くらいかけて「できました」と返してくる。そうやって、相手は賢くなっていく。メンターである自分と会話しているわけですから。
だけどそれがAIの中で汎化して共有知になると、またそこで進化が止まります。今後大事となってくるのは、一人ひとりがいろいろなAIを強化していくことです。AIを使う立場であり、AIに教えてあげる立場になる。
今のAIがわかるのは、今までのことだけです。近未来についても人間が共有できている程度のことしかわからない。なので1年後、2年後のことを聞くと、夢みたいなことを言ってしまう。
だからこそ、AIは鍛え上げる相手なんですよ。それができる人は、今後スーパーヒューマンたりえます。
――人間自身にも、AIを育てる力が求められるということですね。
久夛良木氏: AIになにかを聞いて、その答えを信じる人は多い。でも重要なのは学校の先生のようにAIを育ててあげることです。
エンタテインメントというのは人を楽しませることです。こういった「学習」の結果、AIが人を楽しませる術を覚えられたら、いくらでもバリエーションを作れるようになるじゃないですか。
実際に中国の動画を見ていると、ものすごい勢いで進化し、作品を作っている。この変化は、もう起きているんです。
――教育への関わりについても伺います。新しいものを生み出すうえで、大学という場所をどのように捉えていますか。
久夛良木氏: 新しいものを作ることは、必ずしも教育の枠組みでやる必要はありません。世界中の英知を集めることは、昔から今まで、どこでもずっとやってきています。学校に縛られる必要はないんです。
その人が今どこにいて何をやっているのかがわかっているなら、どこの大学にいるかということは、それほど重要ではありません。
一方で、過去のことばかり教えていては駄目だという意識をもって新しいことに取り組む大学もある。
――最後に、今のゲーム開発者へメッセージをお願いします。

久夛良木氏: みんなで一緒に、未来を作っていきましょう。
――今回は、ありがとうございました。







