先日2025年11月末より、多くのゲーム関係者の大きな悩みとなっている、Monotypeが運営する商用フォントサービスの大手「フォントワークス LETS」のゲーム向けフォント組み込みサービスの終了および、個人クリエイターであっても最大50倍以上・年額で数百万円の値上げとなるプランの強制をめぐる問題。そんななか、ある個人開発者の嘆きが話題となりました。
「憧れのフォント、使えなくなっちゃったっていうことが本当に残念でならない」
「計6万円だったのが300万円になった告知を受けた時点で、個人制作者としてはLETSとの契約を終えてすべてをフリーフォントに差し替えたので、Monotypeでの条件が戻らない限り再契約はないです」
そう語るのは『ワールドフリッパー』のサウンドディレクターや、様々なゲーム作品の楽曲を手掛け、2025年12月現在ではインディーゲーム製作者として、開発中の新作ハードコアダンジョン探索RPG『毒姫カンタレラ - Dominion of Qualia -』の正式発表を間近に控える、坂本昌一郎氏です。

パブリッシャーは付いているものの、出資などは受けずに自己資金のもと個人でゲーム制作を進める氏は、少ない予算の中、「憧れ」のフォントを用いるために毎年6万円もの費用をフォントのベースライセンスと組み込みサービスへと支払っていたといいます。
なお、「フォントワークス LETS」のフォント組み込みサービスの規定としては、アプリの更新作業時に、必要なライセンスを有している必要があります。そのため、ゲームであれば開発期間中はライセンスの契約の必要は常にあり、リリース後もパッチ作業などのタイミングでは契約が必要です。
今回、弊誌では坂本氏に連絡を取り、詳しい状況を伺いました。
――今回のプラン終了の発表については大きくゲーム制作のスケジュールにも影響があったようですが。
坂本昌一郎氏(以下、坂本氏):そうですね。9月に発表があったので当日にはMonotypeへと問い合わせました。その結果が催促もしてようやく1週間後に帰ってきたのですが、今話題になっているような額の見積もりと説明を受けてしまって、「これはもう無理だ」と。
そのあとは仕方がないので、協力いただいているデザイナーさんなどとも相談して、新たなフォントを選定して入れ替えるぞ、という形になったのですが、そちらでも問題がありました。
――といいますと?
坂本氏:すでにUIを特定のフォント、今回でいえば「フォントワークス LETS」のものにすると決めてデザインしてしまったので、すべてのUI・画面デザインに影響が生じてしまったんです。開発にはUnityを使っているのですが、必要になったのは使っている文字部分ひとつひとつの個々の文字を、何百個も何千個も全て入れ替えていって、デザイン的な破綻が生じたら調整を繰り返す作業です。
数ピクセルでもズレてしまえばデザインって簡単に破綻してしまうので、もう何もかもがおかしくなってしまって、本当に残念でした。結局、選定とは別に2週間以上をその置き換え作業だけに費やすことになってしまいました。
――もともとフォントワークスを選んだ理由は何だったのでしょうか?
坂本氏:『ペルソナ』シリーズとかに憧れて、それらのUIのメインフォントである「スキップ」が本当に使いたかったんです。最初からそれだけを目当てに加入しました。最初は安価な個人製作インディーゲーム向けプランのmojimoを数年使っていたのですが、どうしてもmojimoでは必要なウェイト(文字の太さ)が提供されておらず、通常のプランに切り替えて、そこから3年ぐらい契約していましたね。

――長いですね、『毒姫カンタレラ』自体の開発はいつ頃からされていたのでしょうか。
坂本氏:今のバージョンという意味では2020年ごろですね。なのでフォント契約は最初からです。それと、『毒姫カンタレラ』の前に『箱庭セレナータ』というフリーゲームを作っていて、その発展的なものとして今作を作り出したので、実はプロジェクト自体は2015年あたりからありました。ただ、3年ほどで資金が尽きてしまって……。
そこから色々なところで働きつつ、再び資金を蓄えてようやく再始動して5年、というのが、まもなく発表される『毒姫カンタレラ』です。
――本当に大変だったのですね……そこに来て今回のこととあれば心中もお察しします。
坂本氏:なにより、もうあの憧れの「スキップ」が使えなくなっちゃったっていうことが本当に残念でならないです。
実際に来た見積もりは確かに年間数百万円以上
本問題についてはGame*Spark運営であるイードにおいても、Steam/スイッチにて好評発売中の『ウィザードリィ外伝 五つの試練』において「フォントワークス LETS」のフォントを利用しているため(Steam版の当初から使われているフォントだけでなく、スイッチ版以降では、ちょうど今回話題に出た「スキップ」などが使われています)、すでに同社への見積もりも行っています。
結果としては、従前からの報道と違わず、今回の坂本氏のケース同様、毎年6万円が、毎年数百万円にもなるという内容でした。さらにMonotypeのプランではいわゆる「インストールフィー(ダウンロード数に応じて費用が増える仕組み)」が含まれており、タイトルを問わずその潜在的な負担は計り知れないものです。
フォント組み込みサービス終了の一時撤回や、さらなる「新プラン」アナウンスされるも…
多くの業界関係者からの反発を受け、Monotypeでは「日本向けの新たなプラン」の発表をするとして、既存のゲーム向けフォント組み込みサービスプランの延長を発表しました。しかし、昨今のゲームの殆どが継続してアップデートされるものである以上、同社サービスへの継続性・信頼性への大きな懸念が生じてしまった状況を今後発表される新プランが覆せるかは未知数です。
今回は個人クリエイターからの声を取り上げましたが、本件について弊誌では今後も、状況の変化などを踏まえながら続報をお伝えする予定です。









