
ゲームには欠かせない文字表示を支える「フォント」。フォントがなければ文字も表示できず、またゲームにそぐわないフォントが使われてしまえばゲーム自体を支える雰囲気も台無しです。そんなフォントを支えてきたのが商用フォントサービスの大手「フォントワークス LETS」です。Monotype社が提供し、『Fate/Grand Order』をはじめ、大きな運営系タイトルからインディーの買い切りタイトルまで日本の多くのゲームで用いられてきた同サービスをめぐり、大きな波乱がゲーマーたちの気づかない水面下で起きています。
ゲーム組み込み向けライセンス終了も…後継は1人で使うなら年間費用「53倍」!?
今回の問題の発端は「フォントワークス LETS」において、法人/個人を問わず提供されていた「ゲーム組込オプション」の新規契約および更新が終了したことによるものです。現代のゲームでは、ゲーム内のメッセージやUIの各種文字の表示など、多くの部分において、こういった商用フォントサービスが提供する高品質なフォントファイルをもとにゲーム(エンジン)側が使用できる形式に変換・組み込みされたフォントを使用しています。
文字表示などの量が極端に少なかったり、表示内容が完全に固定されていたり、あるいはわずかにでもゲームを高速化したりする場合には、文字部分それ自体を含めてUI全体を画像化することでフォントを組み込まずに済みますが、そのような利用が行えるのは今日ではほぼレトロゲームやそれに類する作りのタイトルに限られることでしょう。
この発表自体は9月頭に行われていましたが、実際にサービスの新規契約と更新が終了となり、SNSなどを中心に再び問題へと脚光があたった形です。では、その何が問題なのかと言われれば、ユーザーの問い合わせなどの結果わかってきた、商用においては一部大手タイトル以外では到底賄いきれないその継続費用です。
非常に高額になったうえにゲーム用途では使いづらい新ライセンス
旧「フォントワークス LETS」+「ゲーム組込オプション」では年間計6万円/1ライセンスほどで商用フォントの利用ができましたが、今回移行先としてアナウンスされている「Monotype Fonts」では、公的には日本向けの費用がアナウンスされていません。一方で、海外向けに公開されたプラン内容や、実際にSNSで問い合わせたとする人々によれば、ゲーム組込が可能なプランのその額は年間20,500ドル/5ライセンス、日本円にして約320万円以上です。また、組み込みしたアプリケーションのユーザー数は25,000人までとする旨が記載されており、文字通りであれば現代のゲームの販売においては現実的でない上限です。
公平を期すために記載しておくと、「Monotype Fonts」にも商用可能な個人向けのプランは年間199ドルほどで用意されていますが、個人契約に限られる内容で、ゲーム組み込みについては触れられていません。また、いずれの場合も実際に商用製品で使えるフォント数に(旧「フォントワークス LETS」ではなかった)非常に厳しい制限があるのにはご注意ください。
このような商用フォントおよび組み込みライセンスはもちろん他社も(安価に)提供していますが、個々のフォントに「似たようなもの」はあったとしても、「そのもの」はそれぞれの会社が独占的に権利を持っており純粋に代替えが効くものではありません。これが英語圏であったなら最初から商用フォントに頼る以外の選択肢も数多くあったのでしょうが、フォント製作が非常に困難である日本語圏の特有の事情が問題をより大きくしてしまった形です。
なお、もともと「フォントワークス LETS」とその保有フォントは日本のフォントワークスにより長年提供されていましたが、2023年にアメリカMonotype社に買収され、今回のサービス移行もその影響があるものとみられます。
果たして何が起きる?
この変化がゲーム業界に与える影響は多岐に及ぶでしょうが、わかりやすいところでは下記のような可能性が懸念されます。
やむをえないゲームの更新終了、サービス終了
すくなくとも旧「フォントワークス LETS」において、これらライセンスが必要となるのはゲームの更新時です。これ以上のゲームの更新を一切行わない限りライセンス問題に発展することはありません。言い換えれば、ゲームの売り上げ規模に新たにかかる膨大な費用を負担できないのであれば、そのゲームは寿命を強制的に終えることになるでしょう。
買い切りであれば、(たとえそれがサンドボックスやオープンワールドのような、定期的な更新が望まれるジャンルであっても)ゲームの開発停止だけで済みますが、運営型サービスの場合、そこに待つのはサービスそのものの早期終了です。セキュリティ問題の放置、あるいは「まだ遊べる」ゲームの販売終了
上記と関連した問題ですが、先日多くのゲーマーの間でも話題になっただろうUnityのセキュリティ問題など、なんらかの重篤なセキュリティ問題に際しても更新費用が支払えないのであれば考えられるシナリオは少なくありません。見えているセキュリティ問題は放置され、そのことについて、ユーザーからの問い合わせが善意か悪意か無知かはともかく行われた結果、あっさりと「販売終了」の決断が下される……。その判断の中ではゲームが現在の環境で「まだ遊べる」か否かはそう大きな影響力を持たないでしょう。ゲームの雰囲気の大きな変化、UI表示の刷新/作りなおし
たとえ今回懸念されているサービスからの離脱を選んだとしてもノーコストとはいきません。むしろ直接の金銭的なもの以外の負担が開発者らにのしかかることになります。
前述のとおり、フォントというものは似たようなものはあっても同じものはありません。そのため、フォントを変えた結果、今までゲーム内で作られていた、あるいはユーザーが感じていた雰囲気が大きく変わってしまうことは避けられません。また、そもそもフォント自体が持つ字間などの違いにより、UI表示の再調整や刷新・その確認などですべてのUIに対しての変更コストが生じることになるでしょう。
なお、もともと旧「フォントワークス LETS」は日本国外のパブリッシャー・デベロッパーの契約ができなかったため、今問題を理由として日本語サポートを断念せざるを得なくなる、といった海外タイトルが出る可能性が非常に少ないのは救いでしょう。
「mojimo-game」は救いとなるのか
ここまで旧「フォントワークス LETS」のゲーム組み込み向けの提供終了とその影響についてを紹介しましたが、実はMonotype社は日本向けのインディーゲーム用サービスをひとつ展開しています。それが「mojimo-game」です。これは年額5,280円で「フォントワークス LETS」のごく一部のフォントが最低限の制限だけで、商用はもちろんゲームへの組み込みなどを含めて使えるというものです。
このサービスで提供されるフォントが十分な種類であるかはおいておいて、ここにもひとつの落とし穴があります。この「mojimo-game」は規模を問わず法人契約不可となっており、何からの理由により法人としてしまえばもはや使うことができません。何かの拍子に年額5,280円が年額数百万円へと不可逆なステップアップ、となるのが見えているのであれば、商用で使うための選択肢に入れるのはリスクを考慮に入れなくてはいけません。
また、記事執筆時点で同サービスの終了などの告知はありませんが、「Monotype Fonts」との兼ね合いで同サービスが今後早期に終了となる可能性も否定できないのが実情でしょう。
旧「フォントワークス LETS」の更新期間を踏まえても、2026年内には影響が次々現れるだろう本問題。編集部ではMonotype社に対し、本問題についての問い合わせを行っています。その返答を待って、実際に影響を受ける開発者らの反応も含めて続報をお届けする予定です。







