「150点のゲームを毎回作る」「人がプレイしてなんぼ」―“カプコン流”のアートや仕事の秘訣とは?「大カプコン展」会場で実施!クリエイター対談イベントをレポート | GameBusiness.jp

「150点のゲームを毎回作る」「人がプレイしてなんぼ」―“カプコン流”のアートや仕事の秘訣とは?「大カプコン展」会場で実施!クリエイター対談イベントをレポート

大阪中之島美術館にて開催中の「大カプコン展」にて実施されたクリエイター対談イベントの模様をレポート

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2025年5月25日、大阪中之島美術館にて、クリエイターとデザインの専門家がゲームのアートとデザインを語るトークイベント「クリエイター対談:ゲーム制作をめぐるアートとデザイン」が開催されました。

同美術館では、歴代カプコン作品のゲームクリエイションの背景や、企画に関する貴重な資料や技術が展示されている「大カプコン展 ―世界を魅了するゲームクリエイション」が開催中。クリエイターならずとも、ゲームファンなら必見の展示が行われています。

本稿では、“カプコンらしさ”を実現してきたクリエイター目線でのアートやデザインへの捉え方が語られた、「大カプコン展」がより一層楽しめるようになるトークイベントの模様をレポートします。

ハイレベルな“塗スタンダード”は牧野氏の中にも

本イベントには、カプコンよりアートディレクター・キャラクターデザイナーの塗和也氏と、「大カプコン展」のプロデュースも手掛けている同プロデューサーの牧野泰之氏が登壇。そして、聞き手と進行を大阪中之島美術館の学芸課長である植木啓子氏が務めました。

『逆転裁判 蘇る逆転』以降の『逆転裁判』シリーズで、アートディレクターとキャラクターデザイナーを務めるなど活躍中の塗和也氏(写真中央)

最初の話題は、一度は銀行員としての就職が決まりかけ「スーツを何着も買っていた」にも関わらず、幼少期から好きだった“絵を描くこと”への想いから独学でアートの世界へと急転換し、ゲームクリエイターへの道を歩んできたという塗氏の異色の経歴についてです。

まだ商業イラストレーターという職業が今ほど確立されていない時代でありながらの決断を、塗氏は「就職氷河期なので就職するだけでも大変で、好きなことを仕事にしようとすることに対して、贅沢感のような空気もあった」と当時を振り返ります。

それでも「諦めなくて良かった。もし皆さんの中にも何かやりたいと思っていることがあればチャレンジしてほしい」とコメントしました。

多彩な分野における企画・プロデュースを担当し、カプコン40周年記念WEBサイト「カプコンタウン」や「大カプコン展」など、全社横断型プロジェクトを主導する牧野泰之氏(写真右)

牧野氏はそんな塗氏を“カプコン一の才能”と表現しており、企画プロデュースにおけるアートディレクションでは「塗さんが教えてくれたことを僕なりに咀嚼してやっている」とのこと。

ときには「塗和也ならこれに絶対NGを出すはずや!」と、塗氏の目線をイメージしたクオリティラインを設定することもあるそうです。植木氏はこの高い基準を「塗スタンダード」と表現し、会場の笑いを誘いました。

「ユーザーのため」で磨かれたデザインへの向き合い方

そして話題は、イベントタイトルにもなっている「ゲームにおけるアートとデザイン」について。

これについて塗氏は、ゲームタイトルによっては“アートっぽい作風”をコンセプトに据えた作品であっても、そのゲームも結局は、音楽やキャラクターなどさまざまな要素における“デザインの集合体”であると表現しました。

それぞれに機能や目的があってオーダーされ生み出されているからこそゲームとしてまとまるのであり、その落とし込みがしっかり行われないとユーザーに伝わらないため、どれだけアートらしい作風であってもゲームにおいては「分かりやすさ」が必要になると述べました。

トークイベント中は歴代作品のアートがスライドで放映

特にゲームにおいてはデザインという側面が強いものこそが、UIのような機能や目的がはっきりした部分です。反対に、プロモーションのためのイメージビジュアルなどはターゲットとするユーザーを想定してはいるものの、ある程度はクリエイターの思考が反映されるため、アートの要素が強いものになっているとの見方を示しました。

そんな塗氏のコメントを受け、植木氏からは自己表現でもあるアートにデザインという側面が加わることの難しさについて質問も。「ゲーム制作においてデザインに適した絵を描く表現方法や、自分の中のアートを目的に合わせてコントロールしていく能力はどのような訓練で培われていくのか」と尋ねました。

これに対して牧野氏は、大カプコン展の最後のエリアで展示されているさまざまな分野のクリエイターインタビュー映像を取り上げて回答。そこでは「共通して『ゲームはユーザーの方が手に取って遊ぶことで初めて作品になる』という発言があるんですよ」と紹介しました。

この「人がプレイしてなんぼ」という考えがあるからこそ、ユーザーがより楽しむため、プレイヤーをより驚かせるためにという視点でゲーム作りが進められていることがポイントになっているのでは、とコメント。

さらに「特にカプコンはユーザーを驚かせたい、面白がらせたいという気持ちが強い人たちの集合という気がする」とし、そんな環境だからこそ新たに参加したクリエイターも自ずとそういう視点を持って作品作りに向き合うようになったと分析します。結果的にゲームらしい、カプコンらしいデザイン制作の能力が培われたのではないかと話しました。

「ユーザーのため」という精神に、塗氏のような芸術性の高いクリエイターが上手く交わることでカプコンらしさに繋がっている

デザインの引き出しを増やす努力

1枚の絵に対しての見方でも、アートでは「良い絵」「悪い絵」という考え方がありますが、ゲームにおけるデザインとしての見方では「使える」「使えない」という、また違った判断基準が存在します。

これについて塗氏はデザイナーを例に挙げ、「やっぱりオーダーに応えていない、発注されたものに応えられないと使えない」と言及。

オーダーに応える能力は自分が好きな絵を描いている学生時代ではなかなか培われるものではないため、仕事としてデザインを描く難しさにも繋がります。「画力だけではなく、芯になるコンセプトが宿っていないと人に伝わらない。人物画としてすごく魅力的なキャラクターの絵であっても、イメージとしての特徴がないと使えない」と、塗氏もその難しさを表現しました。

ただ、最初は「使えない」状態の絵からもオーダーに沿った内容やコンセプトの片鱗が見えるように調整していくことはあるそうで、「最初は意識していなくても、経験を重ねていくと成長して自覚的になっていく」とクリエイターの成長についても語られました。

そしてテーマは、そんな「画力」と「背景に対する表現の引き出し」の双方が求められるゲームのキャラクター設定において、後者を広げていくための手法へと変わります。

これについて、塗氏は自身の経験を「やっているうちに知らない分野に気付いていく」と表現。得意なジャンルには取り組みやすいものの、依頼されて引き出しが足りないと感じた分野は、とにかく情報を集め、引き出しを増やす努力を繰り返していたそうです。

同時に「来てからやり出すのでは遅い」と、キャリアを重ねるうちに「日頃から引き出しを意識的に広げていく必要性を感じていた」ともコメント。時には本屋を訪れ、自分が全く関心のないジャンルの雑誌や専門書を購入して読んでみることもあったそうです。

「これを好きで専門にしている人がいるんだと思うと、知らない世界を知るのが面白くて」と、知識を広げるだけでなく未知の分野に触れることによる新鮮さや、初心に立ち返る気持ちも得られる体験だったと振り返りました。

牧野氏には植木氏からアートとはまた違った視野で「ゲーム作りのために学生の頃から取り組んでおいた方が良いこと」についての質問も寄せられました。

牧野氏は「職種によりけり」と前置きしたうえで、日頃から面白いものの情報を仕入れることが重要であるとアドバイス。自身はプロデューサーという立場上「薄く広く」知見を広げていくことが多いながらも、深堀りしていく努力も意識しているとのことでした。

両氏の知見を広げる努力に思わず植木氏も「かっこいい」との感想が漏れます。牧野氏は「新しいことを知るのは純粋に楽しいんですよ」と、その動機を自己分析してみせます。

さまざまな業界を経験してからカプコンへ入社し、現在もプロデューサーとして歩む同氏。多彩な業界とのコラボによって異なる世界を垣間見ることで、知らない領域を知る楽しみを味わっているそうです。

美術館で“本物を見る”価値

見知らぬ世界といえば、「大カプコン展」で初めて美術館を訪れたというゲームファンも少なくないのではないでしょうか。今回は展示内容に携わることで当事者となった塗氏や牧野氏ですが、続いては両氏にとっての美術館と言うスポットについての話題に。

塗氏は以前から「散歩がてら」の気軽さで、知らない展示に訪れることもあるそう。特にデジタルや本で見るよりも“美術館で見た”リアルな記憶こそ、本物のサイズ感や色使いまで自分の中に最も深く刷り込まれる体験と考えており、作品を思い返すときには「どんな場所で見たか」という空間・ライティングまでセットで思い返すこともあると語りました。

また、牧野氏は浪人生時代に美術館で本物のゴッホの「星降る夜」を観て、動けなくなるほどの衝撃を受けた経験が「クリエイティブに携わりたい」と考えるきっかけとなった強烈な思い出になっているとのこと。

今回の「大カプコン展」もクリエイターを志すような人の何かのきっかけになればと、とにかく“本物を見せる”ことに重きを置いたことも明かします。植木氏も美術館が“本物を見る価値がある”ことを強く信じていると、その考えをサポートしました。

来場者が10年、20年後に「そういえば大カプコン展でこういうものを見たな」と何かに活かせる経験になっていれば嬉しいと思いながら、展示の制作にあたったという牧野氏

続いて植木氏から「これからチャレンジしてみたいこと」という話題になると、牧野氏は「半分冗談半分本気でよく言うんですけど」との前置きから「市長になりたいんですよね」と驚きの宣言。

これまでの「ものづくり」「ことづくり」の経験から次は「街づくり」に興味があると話し、現在の居住地である宝塚市の市長になって、まだまだ活かしきれていないと感じるポテンシャルを活用したいとの展望を明かしました。

一方で「市長に興味はない」と笑った塗氏がチャレンジしたいことは、「自分自身が考えた世界観で、ゲームという媒体にとらわれず作品にしていきたい」というもの。分野は違ってもまだまだクリエイティブへ挑戦したい心境がある両氏ですが、話題はその年齢と共に失われる可能性もある“挑戦する心がけ”へ。

塗氏は、どんな仕事でも次があると考えると妥協が生まれてしまうことから「これが最後かもしれない」と自分に言い聞かせ、毎回最高のものを出せるように奮い立たせているとのこと。

常に「自分がこれを受け取って喜ぶかどうか」と相手の立場になって真摯に向き合うことを心がけており、小さなことの積み重ねがクオリティに繋がるという想い、そして人生においてもその積み重ねによって「自分がやりたいことに近づく」と考え、マインドとして大事にしているそうです。

牧野氏も仕事に向き合う姿勢については、再び展示内のクリエイターインタビューに触れ、その中で登場する「やりすぎくらいじゃないとお客さんには伝わらない」という考えを紹介。

100点を取るためには120点、150点を取るつもりでやらなければならず、特にゲームは娯楽という絶対に必要なものではない以上「もう良いな」と思われてしまうと、次回作は手に取ってもらえなくなると述べます。そのため、毎作品100点以上を狙わなければ「次はない」という気持ちが挑戦し続ける姿勢を支えていると話しました。

「玄人受け」でもクオリティに純粋に向き合い成長したカプコン

そして対談の最後のトークテーマは、「玄人受け」と「一般受け」です。

植木氏によれば、美術館でも業界的に高い評価があってもあまり来場者が伸びない展示もあるとのことで、クリエイターの目線から見る“ウケ”への質問となりました。

これを受けて牧野氏は、層によるウケの差は「もちろんある」どころか、「カプコンはむしろニッチな方面のゲームを出して評価されている会社だった」と自身が幼少期の印象を回顧。

今では全世界的に受け入れられている『バイオハザード』も、振り返れば“ゾンビ”という決して万人受けしない題材のコンテンツでした。しかしターゲットをしっかりと捉えて、純粋にクオリティを上げていったことで、口コミから信頼を勝ち取り成長してきたという背景を振り返りました。

また、塗氏もクリエイターとして業界からの評価は嬉しいものの、社内的に評価されず次に繋がらないことから「幸せにはならないんですよ」とコメント。「伝わる人には伝わる」と言えるような要素は付加価値としては良いものの、そこだけを目指すのは「よろしくない」作り方になってしまうと、“こだわり”と“自己満足”とのバランスにも言及しました。

ただ、現代はゲーム業界も非常にさまざまなゲームが作られるようになっており、売れている流れを汲むものでないと企画が通りづらくなりつつあるという現状にも触れていきます。当時の『バイオハザード』のような、「将来化けるかもしれない」というタイトルの芽を育てていくことは難しくなってきているとも述べました。

イベントの最後には質疑応答の時間が設けられ、会場に詰め掛けたゲームファンやクリエイター志望者から質問が殺到。

「ゲームを作るためにはどんな勉強や体験をした方が良いか」「プランナーとデザイナーでの意見のすり合わせ方」というクリエイティブに関する内容から、「塗さんの絵のルーツとなった作家は誰ですか」というパーソナルなものまで、多岐に及ぶ内容にひとつひとつ丁寧に回答が寄せられました。

牧野氏は自分が「好きだ」「楽しい」と思ったことに対して「それはなぜなのか?」を深掘っていくトレーニングがクリエイティブに活用できるとアドバイス

質疑応答の話題は、クリエイターへのアドバイスや締め切りへの向き合い方などにも及びます。

「大阪中之島美術館での展示ならではの工夫」については、「最適な環境で体験していただけるよう究極の形を取った」と振り返る牧野氏。植木氏も「それを話すとあと5時間あっても足りない」と笑いを誘いつつ、大阪中之島美術館では全国初だろうゲーム作りに注目した展示に、カプコン社と本気で向き合って実現できたことを「本当に光栄に思います」とのコメントには、来場者から大きな拍手が巻き起こりました。

複数の案からキャラクターデザインを絞り込んでいく際には「自分の中で『決まった』と感じるほど手応えがあるものが作れると、オーダーからも賛同が得られることが多い」と経験談を語った塗氏

最後には牧野氏、塗氏よりトークイベントの結びとして以下のようなコメントが送られ、規定時間を超えるほどに大盛況となったイベントは幕を閉じました。

牧野氏「大カプコン展」は結構苦労したので、まだ見てないよって方がもしいらっしゃったらぜひぜひ見ていただきたいなと思いますし、末永くカプコンのファンでいてほしいです。この展示で初めて美術館に来たよって方もいらっしゃると思いますが、美術館って面白いでしょ。だから皆さん、これからも美術館に通ってほしいなと思っています。

塗氏本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございました。これからもちょっと無理をしていいものを作りたいなと思いますので、色々と楽しみにお待ちいただければと思います。


40年以上にも及ぶ、カプコン社内のゲーム開発に関する歴史的な資料などが展示されている「大カプコン展 ―世界を魅了するゲームクリエイション」は、大阪中之島美術館 5階展示室にて6月22日まで開催中。

歴史あるゲーム会社だからこそ実現した最新作と過去の名作における技術の比較や、当時の企画書などの貴重な資料。そして開発技術を実際に体験できるブースなど、カプコン作品のファンならずとも、ゲーム好きなら楽しめる内容が詰まった展覧会となっています。

大阪での会期終了後は名古屋、鳥取、東京、新潟への巡回も予定。本トークイベントのようなスペシャルイベントが開催される場合もあるので、詳細は公式サイトをご確認ください。

©CAPCOM


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《ハル飯田@Game*Spark》

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