生成AIは“割と雑なシステム”?―ゲームメーカー大手4社の専門家によるディスカッションをレポート【TGS2023】 | GameBusiness.jp

生成AIは“割と雑なシステム”?―ゲームメーカー大手4社の専門家によるディスカッションをレポート【TGS2023】

各社のAI活用事例や海外の最新論文の紹介をまじえながら、今をときめく生成AIの新たな可能性が論じられました。

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2023年9月21日から24日かけて千葉・幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2023」。本稿では、9月21日に国際会議場で行われたセミナー「生成AIはゲーム開発をどう変えるのか」のレポートをお届けします。

自然言語生成の研究を続けているスクウェア・エニックス

2023年は画像生成AIやChatGPTなど、さまざまな生成AIが大きく注目される年になりました。こうしたAIは一般消費者の間で話題になる前から企業でも研究が進められており、すでにゲーム開発に導入・活用されている例も少なくありません。

セッションでは、スクウェア・エニックス AI部 ジェネラル・マネジャーの三宅陽一郎氏、バンダイナムコスタジオ AIテックユニット テクニカルディレクターの長谷洋平氏、ゲームフリーク 研究開発部 AIセクションディレクターの伊藤淳氏、Cygames 技術顧問/Cygames Research所長の倉林修一氏が登壇し、ゲーム開発における生成AIの最新事情や知見をディスカッションしました。

まずは各登壇者から、それぞれの企業で活用・研究されている分野が発表されました。三宅氏が紹介したのは、スクウェア・エニックスが研究を続けている次世代のキャラクターAIを模索するための実験用プログラム「Wonder」です。

スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏

「Wonder」の画面にはAIキャラクターとその心の機微が視覚化された情報が映し出されるようになっており、機嫌がよいと絵を描き始めたり、楽器を演奏し始めたりします。絵のモチーフや演奏のメロディは毎回異なるものが生成されるようになっており、コンテンツを無限に変化させる生成AIのおもしろさが前面に出たものになっています。

ゲーム業界は何十年も前からさまざまな数学や規則、ルールを組み合わせてさまざまなものを生成させるPCG(Procedural Content Generation)を行ってしましたが、生成AIはDNN(Deep Neural Network/深層学習)によって生成するところが異なります。

さらに近年はPCGとDNNを組み合わせたPCGRL(Procedural Content Generation via Reinforcement Learning)という概念もあります。これはダンジョンの自動生成であれば、作り手であるデザイナーのことを学習させてダンジョンを作らせるというもので、「ダンジョンの作り方が少しずつ上達していくAI」ができあがるとのこと。

スクウェア・エニックスはNLG(Natural Language Generation/自然言語生成)に関しても研究を続けており、三宅氏からは『ポートピア殺人事件』とAIを組み合わせた技術デモ「THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE」も紹介されました。

同デモは、AIが非倫理的な発言をしてしまう可能性を考慮してNLG機能を削除した状態でユーザーへの無料デモをリリースした経緯を持っています。

三宅氏は「何が出てくるのが分からないのが生成AIのおもしろいところですが、(作り手が)完全にコントロールできないのがちょっと困ったところです」とまとめました。

バンダイナムコスタジオはAIが起こしかねないリスクを慎重に検討

バンダイナムコスタジオの長谷氏は『ブループロトコル』のAIチームでリーダーを務めた実績を持っています。同作のAIは、行動による状態の変化を考慮しながら一連の行動を事前に計画できるプランニング技術HTN Planningなどが採用されており、生物らしい振る舞いをさせることが可能になっているといいます。

バンダイナムコスタジオの長谷洋平氏

また、『ブループロトコル』のようなオンラインゲームはプレイヤーキャラクターが世界のいたるところにいるため、同作ではAIがプレイヤーの集団を分析する階層的クラスタリングなども活用されています。

生成AIに関しては、著作権侵害やハルシネーション(チャットAIなどが、しばしばもっともらしいウソを出力してしまうこと)などが社会的に問題視・議論されていることに鑑みて、慎重に研究開発を進めているそうで、社内で実際に展開しているものは誤字脱字チェック、Q&Aボットなどであるとのこと。

前者は社内用シナリオ制作ツールのチェック機能などに、後者は製品の仕様書や自社エンジンのドキュメントなどに組み込うことで、どちらも開発現場で活用されているそうです。

2020年にAI研究開発部が設立されたゲームフリーク

2000年にゲーム業界へ入ったという伊藤氏は、さまざまなタイトルを手がけたのち2020年にゲームフリークへ入社。『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』で野生ポケモンのAIのリードプログラマーを務め、社内で研究開発部を立ち上げてディレクターに就任しました。月日が浅いためまだ具体的に発表できることが少ないものの、さまざまな研究が進められていると語りました。

ゲームフリークの伊藤淳氏

Cygamesの倉林氏は2010年に慶応義塾大学で博士号を取得して環境情報学部専任講師、2016年に同大学 政策・メディア研究科 特任准教授を務めるなど、アカデミックな経歴を持っています。

Cygamesの倉林修一氏

倉林氏からはCygamesでAIの活用事例が3つ、研究中の事例が1つ、そして生成AIの重要課題が4つ言及されました。

CygamesのAI活用事例と研究事例

同社ではゲームを仮想化して大規模に並列起動し、AIエージェントがテストプレイを行う自動デバッグAIシステムが採用されています。AIはChatGPTでも採用されている深層学習モデルTransformerが採用されており、プレイを繰り返すうちに学習してよりよいアプローチを取れるようになります。

倉林氏はこれを以下のように例えました。

「カードゲームはAさんがカードを出し、Bさんもそれに応じたカードを出すことで勝負が進行します。言い換えるなら、AさんとBさんはカードを出すことで対話しているようなもので、ゲームプレイは時に会話のようでもあります。会話なら、ChatGPTのようなAIの出番だと思いませんか?」

Cygamesは自動デバッグAIシステムで約3,000人分の作業に相当するデバッグ作業を24時間365日行えるようになり、ゲームの開発効率が大幅に向上したそうです。

その他の事例としては、疑似乱数生成器の挙動を生成AIという形で再現した世界初の乱数生成AIモデル「学習型乱数生成器」や、手描きのスケッチ画像をほぼリアルタイムで3D地形アセットに変換する「Sketch2Map」が紹介されました。

また、研究事例としては、キャラクターに状況に応じた自然なモーションを再生させる技術「動的モーションマッチング」に生成AIを適用することで、より複雑な環境、キャラから少し離れた環境をも認識・意識させたモーションを生成させられないか、という研究が進んでいるそうです。

倉林氏が提言する生成AIの重要課題

生産性向上にはAIの「全社導入」が必要不可欠か

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX白書2023」によれば、AIを全社導入している企業は日本が2.4%であるのに対し、アメリカは19.7%であるとのこと。倉林氏は、日本とアメリカの生産性の違いの一つはここにあるのではないかと分析しました。

学習データ枯渇問題

ChatGPTなどに活用されている高品質の言語データのストックは2026年までに枯渇する可能性が指摘されています。そうなってしまった場合、今後のゲーム業界はLLM(Large Language Models/大規模言語モデル)を活用する際に独自のデータセットを用意する必要に迫られます。

大規模言語モデルのゲームへの適用

ゲームへ大規模言語モデルを適用する際は、ゲームマスター(進行役)をさせる、ゲームプレイをさせる、NPCを制御させるなど、さまざまな応用が考えられます。そうしたさまざまな可能性を今後も一層追求・研究していく必要があるとしました。

人は自らが生み出したコンテンツを網羅的に把握できない

AIに関する論文は1年で数万件、ゲームも1年で数えきれないほどのタイトルがリリースされています。そして、それをすべて把握できる人はいません。生成AIは「何かを生成するために“学習できる”」ことが重要なので、人が生み出したコンテンツを俯瞰的に把握するのにも役立つ可能性があると指摘しました。


倉林氏が発表を終えたあとはパネルティスカッションに移行。各登壇者が注目しているAI関連の論文を紹介しつつ、それに対してコメントをするという流れで行われました。


《蚩尤》

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