意外にも語られてこなかった『パワプロ』シリーズの音楽―そこに込められた“パワプロらしさ”をサウンドクリエイター・渡邊紀如に訊く | GameBusiness.jp

意外にも語られてこなかった『パワプロ』シリーズの音楽―そこに込められた“パワプロらしさ”をサウンドクリエイター・渡邊紀如に訊く

シリーズ25周年を記念したオーケストラコンサートを目前に、「パワプロ」シリーズでサウンドクリエイターを務める渡邊紀如氏にお話を伺いました。

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意外にも語られてこなかった『パワプロ』シリーズの音楽―そこに込められた“パワプロらしさ”をサウンドクリエイター・渡邊紀如に訊く
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コナミデジタルエンタテインメントが手がける野球ゲームの定番、「パワプロ」こと「実況パワフルプロ野球」シリーズは今年で発売25周年。この節目を記念して、12月にはウインドオーケストラ+バンドの特別編成で、シリーズ初となるコンサートが開催されます。

そこで、今回は「パワプロ」シリーズにて10年にも渡りサウンドクリエイターを務める渡邊紀如(わたなべのりゆき)氏にインタビューを実施。これまで意外にも見逃し、いや聴き逃しがちだった「パワプロ」シリーズの主題歌やBGMについて、聴きどころや制作秘話、さらには開催が迫るコンサートについても詳しくお聞きしました。

話題はコンシューマ版の「パワプロ」からアプリ版、そして「パワポケ」から実際の高校野球まで。幅広い年代に愛され続けている野球コンテンツのサウンドに迫ります。

◆生粋のドラマーからサウンドクリエイターへ


――まずは渡邊さんご自身について、音楽遍歴から「パワプロ」に携わるようになった経緯を教えて頂けますか?

渡邊コンポ―ザーとしては珍しいのかもしれませんが、僕のメインとなる楽器はずっとドラムでした。というのも、地元の大きなお祭りで太鼓を叩いているのを見ていたからか、幼いころから「太鼓叩きたい衝動」が凄かったんですよね。なので小学生の頃からドラムの真似事を始めて、中学生になってからは本格的に叩いていました。

「幼い頃の写真も太鼓を持ったものばかりです」と笑う渡邊氏

あと、僕には5つ離れた兄が居て、その兄がバンドでドラムをやっていた影響もありますね。兄が高校の頃に作曲をするようになると、小学生だった僕も追いかけるように作曲を始めました。父親がピアノの調律師をしていたので家にグランドピアノがあって、しかも兄が作曲できるシンセサイザーなどの機材を買ってくるので、楽器には困りませんでした(笑)。

学生の頃はずっとバンドをやっていて、その時から将来は「バンドで食べていくか、子供のころから大好きなゲームの音楽を作るか」の2択だと考えていました。本当に、好きなタイトルは挙げきれないくらいゲームを遊んでいましたね。ドラムでのお仕事も頂いていたんですが、就職のタイミングを迎えてKONAMIに入社しました。

――それからずっと「パワプロ」に?

渡邊そうですね、入社後すぐにパワプロ担当になりました。その時はPSPの『実況パワフルプロ野球ポータブル4(パワポタ4)』を制作している段階で、いきなり曲を作りました。

――いきなりですね。

渡邊そうなんです。ただ、実は『パワポタ4』のスタッフロールに名前が載ってないんですよ!でもちゃんとこれがデビュー作です(笑)。

それが2009年だったので、ちょうど10年前。それ以降は「パワプロ」や「プロ野球スピリッツ」シリーズに関連するタイトルは、ほぼ全て関わっていますね。最近はアプリ版の曲も作っています。

――野球ゲームに携わられていますが、野球歴はあったんですか?

渡邊いえ、やっていたのはバスケですね(笑)。でも、野球は親がかなり好きで、その影響で僕も子供の頃からプロ野球観戦は大好きです。多分サウンドチーム内では自他ともに認めるレベルの野球好きですよ。


◆何度も壁に当たって見つけだした「パワプロらしさ」


――今年で25周年を迎えた「パワプロ」シリーズに途中から参加することになった訳ですが、そういった面では楽曲作りで難しい部分もあったのではないでしょうか。

渡邊「パワプロ」は今年で25周年なので、僕が入った時点で既に15年の歴史がありましたからね。「パワプロの音楽はキャッチーであるべき」というのがサウンドチームの合言葉になっていました。

ただ、キャッチーっていうのは個人の感覚にもよるじゃないですか。じゃあどういう音楽が誰にとってもキャッチーなのかを考えましたね。最終的に「誰でも口ずさめるような、覚えやすいメロディーを」という所に辿り着きました。

あと「シリアスに作り過ぎない」というのは心がけていますね。「パワプロ」ってキャラのデザインやゲームの色味を見ても、凄くポップで明るいじゃないですか。だから暗い・後ろ向きな雰囲気は、ピンポイントで必要な場合を除いてフィットしないんです。仮にそういう曲でもどこか遊びのある曲の方が「パワプロらしい」かなと。

――渡邊さんが参加された作品のリストも拝見しましたが、それ以前の楽曲に比べてコーラスや楽器による音の重なりが印象的に感じるのですが。

渡邊どうでしょう。正直、最初は「一石を投じてやろう」という気持ちはあって、ちょっと自分なりの引き出しというかテイストを入れてみたこともあったんですが、たくさんリテイクになりましたね(笑)。でも確かに今になってみると、自分でもリテイクを出すだろうなと思う内容でした。

今は自分なりに攻めた楽曲でもしっかり「パワプロ」の雰囲気におとしこめているような感覚がありますが、それまではやっぱり難しさも感じました。作る曲は作品のコンセプトにもよるんですが、今までやっていないことにも挑戦していけたらとは思っているので、違いを感じて頂けているなら嬉しいです。

――『パワプロ2016』のパワフェスモードに登場する熱盛宗厚戦のBGMは「ア~ツ~モ~リ~」というコーラスが入っており、ユーザーの間でも「耳に残る」と話題を呼びました。

渡邊実は『パワプロ2016』にはサウンドだけでなく、熱盛宗厚というキャラを作る段階から参加していたんです。なのでかなり思い入れのあるキャラで、パワフェスモードのボスで登場すると知った時に「この試合のBGMは壮大にしたいな」と考えました。これまで試合用のBGMでコーラスや歌が入ったものは無かったので、思い切ってやっちゃえ!という感じでしたね。

これも先ほどの「シリアス過ぎない」というポイントにも繋がります。熱盛戦の曲はかなり激しい曲ではありますが、あのアツモリコールが入っていることで「パワプロっぽい」真面目にふざけているような雰囲気になっています。割と自分の中ではネタ要素として作った曲でチームからの評判も良かったですし、遊んでいて「何だこれ!?」と思って頂けたのならよかったです(笑)。

響乃こころと熱盛宗厚は今やコンサートにもMCで参加する看板キャラに

――「パワポケ」こと「パワプロクンポケット」シリーズにも携わられていますよね?

渡邊「パワポケ」は「野球バラエティー」と言われるくらい、本家とは世界観が違います。サクセスはRPG形式になっているものもあり、戦闘シーンはあるし、キャラクターが死んでしまったりもするゲームなので、もの凄く世界観が広いです。

僕が担当した当時のハードはニンテンドーDSだったので、音の表現の部分では制限はありましたが、作れる曲の間口は広いというか「面白ければOK」という空気があったので、僕は「パワポケ」の曲を作るのは好きでした。

今度のコンサートではウインドオーケストラアレンジでの「パワポケ」メドレーも演奏されますので、「パワポケ」ファンの方も是非!僕も楽しみです。

ーーアプリ版でも非常に多様な楽曲を作られていますよね。

渡邊アプリでは高校ごとに設定が異なるので、そのカラーを如何に出すかというポイントを重視していますね。「パワプロ」ではサウンドのコンセプトについてはサウンドチームに任せてもらえているので、シナリオのチームから降りてきたテイストを僕らの方で料理して、話し合いの場に「こんなのでどうでしょう」と提案し、イメージを合わせていく感じです。こうした部分であまり指定がなく自由度が高いというのは、ゲーム音楽の制作では珍しいかもしれません。

――ちなみに、渡邊さんの中でお気に入りの楽曲や作品ってありますか?

渡邊最近ではやはり『パワプロ2016』はOP主題歌「Never-Ending tale」も含めて思い入れがあります。熱盛も出てきていますし(笑)。パワフェスモードにかなり力を入れていて、トーナメントの決勝戦ではOP主題歌が流れて、その後隠しボスで「ア~ツ~モ~リ~」という流れが、反響もあって嬉しかったです。

あと作るのが好きだったのは「パワポケ」のアルバムモードのBGMですね。サクセスモードのおまけ要素で、サクセスの登場人物が「その後どうなったか」というのが一枚絵と短いシナリオで書かれているんですが、そのBGMは本当に作るのが好きで、ずっと「全部作らせてください」と頼んで書いてました。

「パワポケ」のキャラの思い出を語る渡邊氏

一枚絵が降りて来るので、それを見て「あっ、この人はこうなっちゃうんだ……」と思いながら書くんです(笑)。「パワポケ」は最後の3作しか携われなかったんですが、思い出深いです。

――テイストの違う楽曲と言えば「パワプロチャンピオンシップス2017」の主題歌『Flying high』も作曲されていますが、これも「e-Sports大会の」主題歌というこれまでにない挑戦だったのではないでしょうか。

渡邊「パワプロ」は今「eBASEBALL」としてe-Sportsにも力を入れていますが、その指揮をとっている谷渕(eBASEBALL統括プロデューサー・谷渕弘氏)から「テーマソングを作ってほしい」と言われて書いた曲ですね。アツいイベントにしたいから激しいものを、それこそ格闘技のようなというオーダーでした。

それで「これパワプロか?と思われるような楽曲を作っても良いんですか?」と確認したのを覚えています(笑)。ただ、とは言え最後までパワプロらしさを感じないのはダメだと思って、テイストを残すよう努力しました。

――渡邊さんは入社までバンド活動をされていたとのことですが、それまでの音楽からゲーム音楽作りに変わったことで感じる難しさもあったのではないでしょうか。

渡邊そうですね、バンドで作る曲と違ってゲーム音楽は演出とかゲームありきなので、単純に「良い曲」を作るだけじゃダメだというのは難しかったですね。普通の音楽を作ってきた身としては、最初にぶつかった壁でした。

◆野球場の雰囲気をどこまで再現できるかという永遠の課題


――せっかくの機会なので効果音などについてもお聞きしたいと思うのですが、「パワプロ」ではバッドイベントが起こった時のメロディーや、良いことがあった時のメロディーは長らく不変ですよね。やはりここは敢えて変えていないんですか?

渡邊そうですね、伝統芸というか「こうなったらこうなるよね」っていうお約束も必要だと思うんです。だからそこは変えないで良いかな、という判断だと思います。

――球場音や打球の音など、野球サウンドも非常にこだわっているように感じます。

渡邊の点についてはハードウェアがPS4になって性能が上がったというのも大きいですね。サウンドエンジンも従来とは違ったものを使用するようになって、音の響き方や「どこから鳴っている音なのか」という制御がかなりリアルになったと思います。

あと、DLCではあるんですが実際に使用されている応援歌やブラスバンドの曲をライセンスをお借りしてリリースしていますので、とてもリアルに球場音をお楽しみいただけるようにはなっていると思います。

――「パワプロ」ではバットで打った時の打球音も複数から選べますよね。

渡邊打球音も実は「パワプロ」と「プロスピ」では違っていて、リアルを求める「プロスピ」と、気持ちよさを追求した「パワプロ」のような作りになっています。ただ皆さんの好みで一番気持ちよい音でプレイして頂けるようにと、オプション化しています。


――サウンド面で「今後こうしていきたい」というビジョンのようなものはありますか?

渡邊サウンド全体で言うと、とにかく野球の臨場感については行けるところまで突き詰めていきたいです。

他のデザインやプログラムももちろんそう考えているとは思いますが、野球場の気持ちよさを再現して、リアルなものにしていきたいというのは「永遠の課題」かなと思います。例えば、「プロスピ」シリーズ最新作の『プロ野球スピリッツ2019』では球場で使用されているファール警告音など、様々な音のライセンスをお借りして、SEとして使っています。ユーザーの方からも「これ球場で鳴ってる音だ!」ってリアクションを頂きました。

BGMでは皆さんに「この場面でこのBGMが流れるの最高!」と思って頂けるようなスキルを磨いていきたいです。心に残るようなBGMを作っていきたいですね。

◆甲子園の定番になりつつある「パワプロ」楽曲


――近年は高校野球の応援向けに「パワプロ」楽曲の譜面を無料で配布しているとのことですが、これはどういった経緯で始まった取り組みなのでしょうか。

渡邊やはり「パワプロ」は野球ゲームとして本当に定番になっているので、野球関係者の中にも遊んでくれている方が多いんです。

以前から「試合でパワプロの曲が演奏されたら面白いのに」という声も頂いており、アプリの配信で認知度が高まったこともあって親和性の高い「高校野球」で使って頂いたら面白いのでは、と考えてこの取り組みが始まりました。

――今では確認されているだけで80校以上に使用されていて、2017年以降の甲子園優勝校はすべて応援に取り入れているそうですね。

渡邊これはもう使ってくださっているチームの力なんですけど、ゲン担ぎの曲として定着すると嬉しいのでずっと勝って欲しいですね。

――「かっせー!パワプロ」は大阪桐蔭高校から中日に入団した根尾選手の応援歌として、現在もプロ野球で使用されています。他の楽曲も含めて、大きな反響があると思いますが

渡邊始めたころは反響があるかどうか不安な部分もあったので、チーム一同本当に喜んでいます。「パワプロ」楽曲はリアルの野球とも親和性が高いということも再確認できましたし、一歩踏み出してこういう取り組みを行って良かったです。

今度のコンサートでも高校の吹奏楽部の皆さんにご出演いただく予定です。部員数も多く、かなり近距離で応援を聞くことができるので、高校野球ファンの方にとっても面白いと思います。

◆25年の歴史を感じられるコンサートに


――そのコンサートですが、間近に迫っています。今は準備中だと思いますが手応えはいかがですか?

渡邊手応えはありますね!(笑)。

パワプロ音楽はポップスやロックの編成が多いので、今回はウインドオーケストラ+バンドによる豪華なアレンジを生で聴いていただけます。しかも会場では映像も流れるので、過去作の主題歌などで一緒に懐かしんだり振り返ったりして、思い出に浸っていただけたらと思っています。

コンサートのオリジナルグッズとパンフレット

――やはり楽曲はそれぞれ特別バージョンに?

渡邊そうですね、やはりゲームに収録されている音源と比べても色々な楽器が入ってくるので、印象はかなり違いますね。今まで何度も聴いた曲でも新鮮に聞いていただけると思います。

あとメドレー形式になっている部分もあって、これは短い時間でもたくさんの曲を聴いていただきたけるので良いかなと思っています。セットリストやメドレーの順番も、流れを感じて貰えるように考えて決めています。

――とても楽しみです。それではコンサートを楽しみにされている方にメッセージをお願いいたします。

渡邊「パワプロ」シリーズ初のコンサートなので、僕自身もとてもワクワクしています。皆様にとって素敵な思い出となるコンサートを目指して準備を進めていますので、是非会場に足を運んで頂けたらと思います。「パワプロ」「パワポケ」好きの方は一緒に笑ったり泣いたり、楽しみましょう。

――最後に、「パワプロ」シリーズファンの皆様にもコメントを頂けますか。

渡邊シリーズをプレイしてくださっている皆さんからの反響は、僕たちの所まで届いていますし、その声が本当に励みになっています。本当にありがとうございます、これからも進化していけるよう頑張ります!


――本日は、ありがとうございました。



今回インタビューに応じていただいた渡邊氏も太鼓判の、「パワプロ」シリーズ初となるコンサートは12月15日(日)に大阪公演、12月21日(土)に東京昼夜公演が予定されています。既にチケットは発売中ですので、本記事を読んで興味を持たれた方は、ウインドオーケストラとブラスバンドによって奏でられる「パワプロ」サウンドの歴史を会場で味わってみてはいかがでしょうか。

また、公演に先駆けて12月11日には、『実況パワフルプロ野球2018』の主題歌「Brand New Sky」を含む歴代ボーカル曲すべてと、アプリ版から47の楽曲が収録された2枚組CD「実況パワフルプロ野球 VOCAL TRACKS -パワプロ 25th Anniversary Edition-」も発売予定。オーケストラの予習にもうってつけの内容になっていますので、こちらも要チェックです。

「『実況パワフルプロ野球』25周年記念コンサート」公式サイト
《ハル飯田@インサイド》

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