コレジャナイ感を出さないためには?『FF ピクセルリマスター』で語る名作の楽曲アレンジ舞台裏【CEDEC2021】 | GameBusiness.jp

コレジャナイ感を出さないためには?『FF ピクセルリマスター』で語る名作の楽曲アレンジ舞台裏【CEDEC2021】

名作と名高い原作のファンに満足してもらうには?『FF ピクセルリマスター』における楽曲アレンジの知見が披露されたCEDEC2021のセッションレポートをお届けします。

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コレジャナイ感を出さないためには?『FF ピクセルリマスター』で語る名作の楽曲アレンジ舞台裏【CEDEC2021】
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2021年8月24日から26日にかけて、国内最大のゲームカンファレンス「CEDEC2021」がオンラインで開催されました。本稿では、Steamで配信中の『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』(以下、FF ピクセルリマスター)制作にあたっての楽曲アレンジのノウハウや心構え、制作過程を紹介するセッション「新しいのに懐かしい -FINAL FANTASY PIXEL REMASTER- ~「思い出」を色鮮やかに蘇らせる楽曲アレンジ術~」のレポートをお届けします。

登壇したのは、スクウェア・エニックス 大阪サウンド部 サウンドディレクター・サウンドデザイナーの宮永英典氏と、同社サウンド部 プロジェクトマネージャーの小林征夢氏、そしてオクタヴィア・レコード 音楽制作事業本部 部長 サウンド・エンジニアの村松健氏です。『FF ピクセルリマスター』は、シリーズの始まりとなる1作目から『VI』までの6作を世界中のファンや未経験の方に末永く楽しんでもらうべくゲーム性やクオリティを統一したリマスター版です。2021年8月末現在は1作目から『III』までが配信中で、『IV』が9月9日に配信開始となります。

宮永氏はワンダースワン版『ファイナルファンタジー』や初代PlayStationへの移植版のアレンジも担当した経歴がありますが、それでも「FF初期6作品の楽曲をアレンジするのは並々ならぬプレッシャーがあった」と語ります。

制作にあたって楽曲面で掲げられたミッションは「6作品の曲を全曲アレンジ」。曲数は全部で300曲超、制作が始まったころにコロナ禍に突入……と難題もありましたが、オリジナルの作曲者である植松伸夫氏が全曲を監修してくれるという好材料もありました。

原作者とファンの思いを大切に

FF』の初期6作品は今も深い思い入れを持つファンも大勢いるだけに、"コレジャナイ感"をできるかぎり払拭するにはアレンジとどう向き合えばいいかが重要なポイントになります。それに関し、宮永氏は2つのコンセプトを紹介しました。

ひとつめは、オリジナルの作曲者である「植松氏の思いを大切にする」こと。氏がファミコン、スーパーファミコン用に書いた曲は、ハード上の制約で頭に思い描いていた曲をそのまま表現できなかったものも多かったということで、植松氏が当時からやりたかった姿を今の技術で表現することに勤めました。宮永氏はこれを写真に例え、モノクロでしか撮影できなかった写真の情景に色を付けて再現するようなものでもあると語りました。

ふたつめのコンセプトは「ファンの思い出を大切にする」こと。目指すのは王道といえる正統進化系のアレンジ。原曲の音を一切崩さず、かつ思い出を色鮮やかに蘇らせるアプローチが求められました。

これは『ピクセルリマスター』6作品がセットになったバンドル版の購入特典であるスペシャルサウンドトラックに収録されている、サウンドが原曲からアレンジ版へとシームレスに移行していく「タイムラプス・リミックス」を聞くとより実感できます。

次に、アレンジ楽曲の制作フローが紹介されました。最初にするのは徹底的な耳コピー。このとき、音程だけでなくレガートやスタッカートなどのアーティキュレーションもくまなくチェックします。宮永氏は、アーティキュレーションは書道でいうとめや払いのようなもので、原曲らしさの表現には必須であるとしました。ニュアンスを拾い終えたら、アレンジャーに配るためのデモ音源を作成します。

次に、楽曲1曲1曲についてどういう方針でアレンジしてほしいかを文章化します。どういうシチュエーションで使われる曲なのか、曲の前後のつながりはどうなっているのか(たとえば、フィールドの曲の前にプレイヤーが耳にするのは町や城の曲である、など)までを含めて説明し、詳細な"設計図"を作ります。

前述したデモ音源と設計図をアレンジャーに渡し、アレンジが上がったら必要に応じてレコーディング~Mixを経て完成です。植松氏は一連の流れの中で、設計図の作成、デモ音源の作成、レコーディング~Mixを監修されたとのことです。

FFII』の「反乱軍のテーマ」を例に、設計図の内容も紹介されました。同作における反乱軍は、強大なパラメキア帝国の侵略を止められず王都フィンを陥落させられたヒルダ王女が率いるレジスタンスです。

そうしたバックグラウンドを考慮して、アレンジは物悲しさを強調し、勇ましさやハデさが感じられるものはNG事項であると設定。2コーラス目以降は主旋律をフルートに変えたり、ハープを使用したりすることで女性らしさも込めました。

また、植松氏は当時を振り返り「昔の曲は今振り返るとテンポが速すぎたかなと思うものもある。若気の至りだったのかも」と語ったとのことで、『ピクセルリマスター』全体のコンセプトとして「アレンジは少し落ち着きをもたせる」ことに決まりました。

参加したアレンジャーは、総勢14名。初期『FF』への愛が強い人たちがアサインされ、誰がどの曲を担当するかは、各人の得意分野や、アレンジャー側からの自薦などで柔軟に決めていきました。

そのままミックスまでを各人に任せると音源が統一されていないこともあり不揃いになってしまうので、ミックスは村松氏が一括で担当。トータルバランスを考えながら、どの曲のどのパートを生演奏にするかを割り振っていきました。

プレイの最初と最後を飾るOP/EDは生演奏のパートを多めにしつつ、一作目であればコーネリア城は宮廷音楽風の弦楽四重奏に、町は庶民的な雰囲気を出したいのでフルートではなくリコーダーに、町の曲の直後に聞くメインテーマ(フィールドで流れる曲)は、音を厚めにして壮大に……と割り振りを決めていきます。

また、音源を音楽編集ソフト「Pro Tools」にインポートしたあとに各パートを管理しやすくするためにパート名の頭に数字を付けておいたり、生演奏を合わせやすいように、打ち込みの部分のテンポをクリックにしっかり合わせておく…などの調整も村松氏が担当したそうです。

楽曲を手がける作曲者やアレンジャーに向けて、「CubaseやNuendoを使っている人はiXMLチャンクを絶対に入れないでほしい」とのお願いも寄せられました。これが挿入されている音源をPro Toolsにインポートするとステレオの音源がLとRに分割してしまい、エンジニアの(本来ならなくてもいい)手間が増大してしまうとのことです。

オーケストラ収録は東京と大阪の二カ所で実施

収録は東京のスタジオでミュージシャンたちに演奏してもらう従来の方式に加え、大阪のオーケストラ楽団に練習場で演奏してもらう方式も採用しました。

大阪での収録に臨んだ理由は、当時東京に初の緊急事態宣言が出て、東京以外でも収録できる体勢を整えておきたかったというのが主な理由で、宮永氏自身が大阪オフィスに勤めており、地元の名プレイヤー(演奏者)を発掘したかったという思いもあってのことでした。

大阪収録での演奏を担当してくれたのは、日本センチュリー交響楽団。クラシックのコンサートを軸足としつつ、ゲーム愛にもあふれた若い演奏家が多い楽団で、チャレンジにも前向きだったので受けてくれたとのことです。

東京のスタジオではソリッドな音が録れるのに対し、大阪の練習場では空間の広さを感じさせる柔らかく温かみのある音が録れるとのことで、バトル曲は東京で、クラシカルで伸びやかな音がほしいときは大阪で……と明確な意図のもとに使い分けをしました。

スタジオミュージシャンへの依頼との違いで注意すべきことは、楽団に依頼する際はスケジュールを管理する組合に打診する必要があり、場合によっては3か月前までに予定を押さえなければならないこともあるということ。楽団の活動の軸となるものはあくまでも演奏活動で、レコーディングはあくまでサブ活動であるからです。

譜面はレコーディング日の一か月前までには用意し、バイオリンならボウイング(弓の弾き方)にいたるまで入念に書き込んでおきます。また、レコーディング時の演奏家たちとの打ち合わせは指揮者にお任せできるため、指揮者を立てておくのも重要になるとのことです。収録当日のタイムテーブルも、何時間も通して演奏してもらうのではなくコンサート開催当日にリハ~ゲネプロ~本番をするかのように、細かく休憩を挟みます。コロナ禍に見舞われている今は、この時に十分な換気対策も重要だと振り返ります。

楽団に依頼するコストについても言及されました。「ケースバイケースで単純比較はできませんが」と前置きしながらも、今回に関してはミュージシャンたちに依頼してのスタジオ収録とほぼ変わらなかったそうです。

宮永氏は「オーケストラ演奏は海外で収録されることも多いですが、今回のことで国内にもまだまだいいオーケストラがたくさんいるのではないかと思った」とまとめました。

レコーディングまで終われば残すはミックス作業のみ。前述した通り村松氏に一任されましたが、今回のミックスはリモートで行われたのだそう。音源の受け渡しには、Pro Toolsに対応した音楽制作者用の音源送受信プラグイン「Listento」を使用し、口頭でのコミュニケーションが必要な場合はZoomで行いました。

「ディレクターとエンジニアそれぞれに安定した通信環境が必要となる」、「自宅で音出しできる環境を構築するのが難しい人には不向き」というデメリットもあるものの、総じてメリットの方が大きかったと宮永氏は強調しました。

エンジニア側からディレクターへと挙げられた要望も紹介しつつ、宮永氏は最後に「リメイク案件は原作者と原作ファン、双方へのリスペクトを忘れないこと」、「音楽が一人歩きしてしまわないよう、ゲームとセットで考えること」が重要と念押ししつつ、「コロナ禍の今だからこそ、スタジオワークにはパラダイムシフトが求められています」とリモートワークの有用性も説き、講演をまとめました。

《蚩尤》

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